• 著者: S. Gadgeel, S. Peters, T. Mok, A. T. Shaw, D. W. Kim, S. I. Ou, M. Pérol, A. Wrona, S. Novello, R. Rosell, A. Zeaiter, T. Liu, E. Nüesch, B. Balas, D. R. Camidge
  • Corresponding author: Shirish Gadgeel (University of Michigan, Ann Arbor, USA)
  • 雑誌: Annals of Oncology
  • 発行年: 2018
  • Epub日: N/A
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 30215676

背景

ALK (anaplastic lymphoma kinase) 陽性非小細胞肺癌 (NSCLC) は、中枢神経系 (CNS) への転移頻度が極めて高いことで知られている。先行研究において、ALK陽性進行NSCLC患者の約40%に診断時すでに脳転移が認められ、経過中にその割合はさらに増加することが報告されている (Johung et al. JClinOncol 2016Toyokawa et al. CancerMetastasisRev 2015)。一次治療の標準治療として確立されたcrizotinibは、化学療法と比較して優れた全身性効果を示したものの (Solomon et al. NEnglJMed 2014)、血液脳関門 (BBB: blood-brain barrier) におけるP-glycoprotein (P-gp) による能動的排出の基質となるため、脳脊髄液中への移行性が極めて低い (Costa et al. JClinOncol 2011)。このCNS移行性の低さと、獲得耐性変異の出現により、crizotinib治療開始後1年以内に多くの患者がCNS病変の進行により再発することが大きな課題であった (Katayama et al. SciTranslMed 2012)。

これに対し、第二世代ALK阻害薬であるalectinibは、高選択的かつ強力なALK阻害活性を持ち、P-gpの基質とならないため優れたCNS移行性を示す。crizotinib耐性例を対象とした第II相試験において、alectinibは良好な全身および頭蓋内効果を示していた (Shaw et al. LancetOncol 2016Ou et al. JClinOncol 2016)。未治療のALK陽性進行NSCLCを対象としたグローバル第III相試験であるALEX試験のプライマリ解析では、alectinibがcrizotinibに対して無増悪生存期間 (PFS) を有意に延長することが示され (Peters et al. NEnglJMed 2017)、一次治療の標準治療として承認された。しかしながら、ベースラインにおけるCNS転移の有無や、過去の脳放射線治療歴が、alectinibのCNSにおける長期的な有効性や新規CNS転移の予防効果に与える影響については詳細な解析が不足しており、その具体的な臨床データは未解明な部分が多く残されていた。特に、定期的な画像評価に基づくCNS進行までの時間や、RECIST v1.1およびRANO-BM (Response Assessment in Neuro-Oncology Brain Metastases) 基準を用いた詳細な頭蓋内奏効率の比較データは不十分であり、これらの詳細な検証が求められていた。

目的

本研究の目的は、未治療のALK陽性進行非小細胞肺癌 (NSCLC) 患者を対象とした第III相ALEX試験において、alectinibとcrizotinibのCNS (中枢神経系) に対する有効性を詳細に比較・検証することである。具体的には、ベースラインにおけるCNS転移の有無 (CNS転移あり群 vs なし群)、および過去の脳放射線治療 (radiotherapy) 歴の有無 (放射線治療歴あり群 vs なし群) によって患者をサブグループに分類し、それぞれの集団における無増悪生存期間 (PFS)、CNS進行までの時間 (time to CNS progression)、CNS客観的奏効率 (CNS ORR)、およびCNS奏効持続期間 (CNS DoR) を定量的に評価する。さらに、画像評価基準として一般的なRECIST v1.1に加えて、脳転移専用の評価基準であるRANO-BM (Response Assessment in Neuro-Oncology Brain Metastases) 基準を用いた解析も行い、alectinib of CNS病変に対する治療効果および新規CNS転移の発生抑制効果 (CNS保護効果) を包括的に明らかにすることを目指す。

結果

患者背景とベースラインにおけるCNS転移の分布: 対象となった303例 (alectinib群 n=152、crizotinib群 n=151) のうち、IRC (Independent Review Committee) 判定によりベースラインでCNS転移を有していた患者は122例 (40%) であった (alectinib群 64例、crizotinib群 58例) (Figure 1)。このうち、ベースラインで測定可能なCNS病変を有していたのは43例 (alectinib群 21例、crizotinib群 22例) であり、過去に脳放射線治療歴を有していたのは46例 (alectinib群 25例、crizotinib群 21例) であった (Figure 1)。脳放射線治療の内訳は、WBRT (whole-brain radiotherapy) が33例、SRS (stereotactic radiosurgery) が10例、脳外科手術と放射線療法の併用が4例であった (Figure 1)。ベースラインにおける患者背景は両群間で概ねバランスが保たれていたが、過去および現在の喫煙者の割合はalectinib群でやや高かった (alectinib群 36%および11% vs crizotinib群 24%および2%) (Table 1)。ベースラインのCNS病変数の中央値は、両群ともに2個 (範囲: alectinib群 1-10個、crizotinib群 1-6個) であった。

ベースラインCNS転移の有無および放射線治療歴別の無増悪生存期間: 治験医師判定によるPFSにおいて、alectinibはベースラインのCNS転移の有無にかかわらず、crizotinibと比較して有意な延長を示した (Figure 2)。ベースラインCNS転移あり群 (n=122) におけるPFSの中央値は、crizotinib群の7.4 months vs alectinib群の未到達 (NR) であり、alectinib群で有意に良好であった (HR 0.40, 95% CI 0.25-0.64, p<0.0001) (Figure 2A)。一方、ベースラインCNS転移なし群 (n=181) におけるPFSの中央値は、crizotinib群の14.8 months vs alectinib群の未到達 (NR) であり、こちらもalectinib群で有意な延長を認めた (HR 0.51, 95% CI 0.33-0.80, p=0.0024) (Figure 2B)。CNS転移の有無による治療効果の交互作用試験では有意差を認めず (交互作用 p=0.36)、alectinibの優越性は一貫していた。また、過去の脳放射線治療歴別解析においても、放射線治療歴あり群で HR 0.34 (95% CI 0.15-0.78, p=0.0078) (Figure 2C)、放射線治療歴なし群で HR 0.44 (95% CI 0.25-0.78, p=0.0041) (Figure 2D) と、いずれの集団でもalectinib群のPFSが有意に優れていた。

中枢神経系における病勢進行までの時間と累積発生率: CNS進行までの時間 (先行する非CNS進行または死亡がない場合) は、alectinib群においてcrizotinib群と比較して極めて有意に延長した (Figure 3)。ベースラインCNS転移あり群における原因特異的ハザード比は csHR 0.18 (95% CI 0.09-0.36, p<0.0001) であり、ベースラインCNS転移なし群におけるハザード比は csHR 0.14 (95% CI 0.06-0.33, p<0.0001) であった (Table 2)。12ヶ月時点におけるCNS進行のCIR (cumulative incidence rate) は、ベースラインCNS転移あり群で crizotinib群 58.3% (95% CI 43.4-70.5) vs alectinib群 16.0% (95% CI 8.2-26.2) であり、ベースラインCNS転移なし群では crizotinib群 31.5% (95% CI 22.1-41.3) vs alectinib群 4.6% (95% CI 1.5-10.6) であった (Figure 3A, 3B)。この結果は、alectinibが既存 of 脳転移の進行を抑制するだけでなく、新規のCNS転移発生を強力に予防することを示唆している。

RECIST基準に基づく中枢神経系客観的奏効率と奏効持続期間: ベースラインで測定可能病変を有していた患者 (n=43) におけるCNS ORR (objective response rate) は、過去の脳放射線治療歴あり群で alectinib群 85.7% (n=6/7) vs crizotinib群 71.4% (n=5/7) であり、放射線治療歴なし群では alectinib群 78.6% (n=11/14) vs crizotinib群 40.0% (n=6/15) であった (Figure 4A, 4B)。測定可能および測定不能病変を合わせた全CNS転移あり群 (n=122) におけるCNS ORRは、放射線治療歴あり群で alectinib群 36.0% (n=9/25) vs crizotinib群 28.6% (n=6/21) であり、放射線治療歴なし群では alectinib群 74.4% (n=29/39) vs crizotinib群 24.3% (n=9/37) であった (Figure 4C, 4D)。完全奏効 (CR) 率は、放射線治療歴あり群でalectinib群 61.5% vs crizotinib群 10.8%、放射線治療歴なし群でalectinib群 20.0% vs crizotinib群 4.8% と、いずれもalectinib群で著明に高かった。CNS DoR (duration of response) の中央値は、放射線治療歴あり群で crizotinib群 11.1 months (95% CI 3.7-18.1) vs alectinib群 未到達 (NR) であり、放射線治療歴なし群では crizotinib群 3.7 months (95% CI 2.3-5.5) vs alectinib群 未到達 (NR) と、alectinib群で長期にわたり効果が持続した (Figure 4C, 4D)。

RANO-BM基準を用いた探索的評価および非CNS進行のサブ解析: RANO-BM基準を用いたCNS病変の評価結果は、RECIST v1.1基準による結果と極めて一貫していた。ベースラインで測定可能病変を有していた32例 (alectinib群 15例、crizotinib群 17例) において、CNS完全奏効 (CR) を達成した割合はalectinib群で 33% (n=5/15) であったのに対し、crizotinib群では 0% (n=0/17) であった。RANO-BM基準におけるCNS DoR の中央値は、crizotinib群の 17.3 months vs alectinib群 未到達 (NR) であった。また、RANO-BM基準による測定可能/測定不能病変を有する患者におけるCNS進行までの時間も、alectinib群で有意に延長した (csHR 0.23, 95% CI 0.12-0.48)。12ヶ月時点におけるRANO-BM基準でのCNS進行のCIRは、crizotinib群 59.4% (95% CI 43.6-72.1) vs alectinib群 19.0% (95% CI 9.7-30.7) であった。一方、非CNS進行 (non-CNS progression) または死亡の累積発生率に関しては、ベースラインCNS転移あり群における非CNS進行のcsHRは 0.35 (95% CI 0.15-0.84, p=0.0154) であり、CNS転移なし群では csHR 1.16 (95% CI 0.64-2.11, p=0.63) であった。

考察/結論

先行研究との違い: 本研究におけるCNS有効性の詳細な解析は、過去の臨床試験デザインと大きく異なる特徴を有している。先行研究であるPROFILE 1014試験 (Solomon et al. NEnglJMed 2014) では、治療後に病勢が安定した脳転移患者のみが登録可能であり、定期的な脳画像評価はベースラインで脳転移が確認されていた患者のみに限定されていた。これと異なり、本ALEX試験では、ベースラインの脳転移の有無にかかわらず、全登録患者 (ITT集団) に対して8週ごとの定期的な脳CTまたはMRIによる画像評価を前向きに実施した。この厳格なプロトコルにより、脳転移の有無や過去の放射線治療歴にかかわらず、alectinibがcrizotinibに対して示す真のCNS保護効果および治療効果を偏りなく評価することが可能となった。また、第一世代ALK阻害薬であるcrizotinibや、他の第二世代ALK阻害薬であるceritinib (Soria et al. Lancet 2017) では、CNSが一般的な再発部位となることが知られていたが、alectinibは極めて高い頭蓋内制御能を示し、これらの先行治療薬とは対照的な優れた臨床成績を収めた。

新規性: 本研究は、未治療のALK陽性進行NSCLC患者において、alectinibがベースラインの脳転移の有無や過去の脳放射線治療歴の有無にかかわらず、crizotinibと比較して一貫して優れたCNS活性を示し、CNS進行リスクを有意に低下させることを本研究で初めて実証した。特に、ベースラインで脳転移を有しない患者における12ヶ月時点のCNS進行累積発生率 (CIR) が、crizotinib群の31.5%に対してalectinib群ではわずか4.6%に抑えられた事実は、alectinibが新規の脳転移発生を強力に予防する「de novo CNS転移予防効果」を有することを強く示唆する新規の知見である。さらに、RECIST v1.1基準だけでなく、脳転移専用のRANO-BM基準を用いても同様の極めて高い頭蓋内完全奏効率 (CR率 33%) と持続的な効果 (CNS DoR 未到達) が確認されたことも、これまで報告されていない重要な成果である。

臨床応用: これらの結果は、ALK陽性進行NSCLCの一次治療における治療戦略の決定において、極めて重要な臨床的意義を持つ。実臨床の臨床現場において、無症候性の脳転移を有する患者に対して、局所治療 (全脳照射や定位手術的照射などの脳放射線治療) を先行させるべきか、あるいは全身薬物療法を優先すべきかは議論が分かれるところであった。本研究のデータは、無症候性の脳転移であれば、放射線治療を保留してalectinib単剤による一次治療を開始しても、長期にわたる優れた頭蓋内制御が得られることを示しており、放射線治療に伴う認知機能低下などの晩期有害事象を回避・遅延させるための強力な臨床的根拠を提供する。このエビデンスに基づき、NCCNガイドライン等の主要な治療指針において、alectinibは脳転移の有無を問わず、一次治療におけるカテゴリー1の最優先推奨薬として位置づけられるに至った。

残された課題: 一方で、今後の検討課題としていくつかの重要な論点が残されている。第一に、本試験では無症候性の脳転移患者のみが対象となっており、有症候性の脳転移患者におけるalectinib単剤治療の有効性と安全性、および局所放射線治療との最適な併用・順序戦略については十分に検証されておらず、今後の課題である。第二に、alectinib治療後にCNS病変が進行した際の耐性メカニズムの解明と、それに対するlorlatinibなどの第三世代ALK阻害薬を用いた最適な後治療シーケンスの確立が求められる。第三に、本試験における長期フォローアップデータにおける生存期間 (OS) への影響や、患者報告アウトカム (PRO) によるQOL評価との相関についても、さらなる解析が望まれる。これらのlimitationを克服するための今後の方向性として、実臨床データベース (リアルワールドデータ) を用いた多施設共同前向きレジストリ研究や、耐性生検サンプルのゲノム解析による耐性機序の同定が進められるべきである。

方法

本研究は、未治療のStage III/IV ALK陽性進行NSCLC患者303例を対象とした、多施設共同オープンラベル無作為化第III相試験 (ALEX試験、ClinicalTrials.gov登録番号: NCT02075840) のサブグループ解析である。対象患者は、alectinib群 (600 mg、1日2回経口投与、n=152) またはcrizotinib群 (250 mg、1日2回経口投与、n=151) に1:1の割合で無作為に割り付けられた。無作為化の層別化因子には、ECOG (Eastern Cooperative Oncology Group) パフォーマンスステータス (0/1 vs 2)、人種 (アジア人 vs 非アジア人)、およびベースラインにおけるCNS転移の有無 (あり vs なし) が用いられた。無症候性の脳転移を有する患者 (過去の脳放射線治療歴の有無を問わない) の登録は許容され、放射線治療は登録の14日前までに完了していることが条件とされた。

腫瘍評価として、胸部、腹部、および脳部のコンピューター断層撮影 (CT) または磁気共鳴画像法 (MRI) による画像診断が、スクリーニング時 (ベースライン) および治療開始後は8週間ごとに疾患進行 (PD) または治療中止まで全例で定期的に実施された。CNS病変の評価は、独立中央判定委員会 (IRC: Independent Review Committee) によってRECIST v1.1基準に基づいて行われた。ベースラインで10 mm以上の大きさを有するCNS病変を測定可能病変 (measurable lesions) と定義した。また、探索的エンドポイントとして、脳転移専用の評価基準であるRANO-BM基準を用いたCNS有効性評価も実施された。

主要評価項目は治験医師判定によるPFSであり、副次評価項目にはIRC判定によるPFS、CNS進行までの時間、CNS客観的奏効率 (CNS ORR)、およびCNS奏効持続期間 (CNS DoR) が含まれた。統計解析において、PFSの治療群間比較には2側ログランク (log-rank) 検定が用いられ、生存曲線および生存期間中央値の推定にはカプラン・マイヤー (Kaplan-Meier) 法が適用された。ハザード比 (HR) およびその95%信頼区間 (CI) の算出にはコックス比例ハザード回帰 (Cox proportional-hazards regression) モデルが用いられた。CNS進行までの時間 (time to CNS progression) の解析には、非CNS進行および死亡を競合リスク (competing risk) として扱う競合リスクモデルが採用され、原因特異的ハザード比 (csHR: cause-specific hazard ratio) および累積発生率 (CIR: cumulative incidence rate) が算出された。