- 著者: Sen Zhang, Rana Anjum, Rachel Squillace, Sara Nadworny, Tianjun Zhou, Jeff Keats, Yaoyu Ning, Scott D. Wardwell, David Miller, Youngchul Song, Lindsey Eichinger, Lauren Moran, Wei-Sheng Huang, Shuangying Liu, Dong Zou, Yihan Wang, Qurish Mohemmad, Hyun Gyung Jang, Emily Ye, Narayana Narasimhan, Frank Wang, Juan Miret, Xiaotian Zhu, Tim Clackson, David Dalgarno, William C. Shakespeare, Victor M. Rivera
- Corresponding author: Victor M. Rivera (ARIAD Pharmaceuticals, Inc., Cambridge, Massachusetts)
- 雑誌: Clinical Cancer Research
- 発行年: 2016
- Epub日: 2016-10-25
- Article種別: Original Article
- PMID: 27780853
背景
ALK遺伝子再構成陽性非小細胞肺がん (NSCLC) は、第1世代ALK-TKIであるクリゾチニブに対し高い奏効率 (60〜74%) を示すことが、Shaw et al. NEnglJMed 2013やSolomon et al. NEnglJMed 2014によって報告されている。しかし、大多数の患者は中央値8〜11ヶ月程度の無増悪生存期間 (PFS) で耐性を獲得することが課題として認識されている。この耐性機序には、二次ALK変異 (10種以上が報告されており、特にL1196M、G1269Aが多い)、ALK遺伝子増幅、そして中枢神経系 (CNS) への薬物移行不良による薬理学的失敗が挙げられる。CNS進行は初回進行の約50%を占めることが先行研究で示されており、この領域の治療が特に不足している。
第2世代ALK-TKIであるセリチニブおよびアレクチニブは、クリゾチニブ耐性変異の多くを克服することがShaw et al. NEnglJMed 2014やGadgeel et al. LancetOncol 2014によって示されている。しかし、これらの薬剤に対する固有の耐性変異も同定されており、セリチニブに対してはL1152R、L1198F、アレクチニブに対してはI1171N/T/S、V1180L、そして両剤に共通してG1202R変異が報告されている。特にG1202R変異は、既存のALK-TKIに対する最も難治性の耐性変異の一つとして認識されており、これを克服できる新規ALK-TKIの開発が強く求められていた。これらの耐性メカニズムの包括的な理解と、それらを克服する薬剤の開発は、ALK陽性NSCLC患者の治療成績を向上させる上で極めて重要であるが、そのための効果的な治療戦略はまだ未確立であるというギャップが存在する。
ARIAD Pharmaceuticalsで開発されたブリガチニブ (AP26113) は、これらの課題を克服するべく設計された次世代ALK-TKIである。本研究は、ブリガチニブの最初の包括的な前臨床評価を報告するものであり、その分子設計、キナーゼ選択性、および既存のALK-TKIに対する耐性メカニズムを克服する能力を詳細に検討した。特に、広範なALK二次変異に対する活性とCNS浸透性に関するデータは、臨床的ギャップを埋める上で重要な情報となる。
目的
本研究の目的は、次世代ALK-TKIであるブリガチニブの分子設計、キナーゼ選択性、およびALK阻害活性を詳細に明らかにすることである。さらに、第1世代 (クリゾチニブ) および第2世代 (セリチニブ、アレクチニブ) ALK-TKIに関連する既知の耐性機序、具体的には17種類の既知および新規ALK二次変異すべてに対するブリガチニブの活性をin vitroおよびin vivoモデルで包括的に評価する。特に、既存のALK-TKIに対して高度な耐性を示すG1202R変異に対するブリガチニブの有効性を検証する。また、中枢神経系 (CNS) 浸透性についてもin vivo脳腫瘍モデルを用いて評価し、CNS転移に対する治療効果を検討する。最終的に、ALK-ブリガチニブ共結晶構造解析 (PDB ID: 5J7H) を行い、ブリガチニブの優れた活性と広範な耐性変異克服能力の構造的根拠を提示することを目指す。これらの結果を通じて、ブリガチニブが広範な耐性メカニズムに対応しうる可能性を前臨床的に確立することを目的とする。
結果
キナーゼ選択性: ブリガチニブはin vitroキナーゼアッセイにおいて、ALKを非常に高い効力 (IC50 0.6 nM) で阻害した。289種類のキナーゼスクリーニングにおいて、IC50が10 nM未満を示したのはALK、ROS1、FLT3、EGFR(L858R)など11種類のキナーゼのみであり、高い選択性を示した。特にMETに対する活性は認められず (IC50 >1000 nM)、細胞アッセイではALK (IC50 14 nM) とROS1 (IC50 18 nM) を同等の効力で阻害することが示された (Table 1)。
ALK陽性細胞株パネルにおける活性 (ネイティブALK): 7種類のALK陽性細胞株を用いた評価では、ブリガチニブのGI50値は4〜31 nM (中央値10 nM) の範囲であり、p-ALKのIC50値は1.5〜12 nMであった (Figure 2A, B)。クリゾチニブと比較して、ブリガチニブは約12倍高い効力 (GI50 62〜309 nM) を示し、ALK陰性細胞株に対する選択性は100倍を超えていた (クリゾチニブは約10倍)。
in vivo異種移植モデルにおける効果: Karpas-299 (ALCL) 皮下モデルでは、25 mg/kgのブリガチニブ投与により腫瘍増殖が87%抑制され、50 mg/kgでは治療終了後も持続する腫瘍退縮が誘導された (Figure 2C)。H2228 (NSCLC) 皮下モデルでは、10〜50 mg/kgの全用量で28日以上持続する腫瘍退縮が達成された。マウスにおけるブリガチニブの血漿曝露量は、25 mg/kgが患者の90 mg/日、50 mg/kgが患者の180 mg/日に相当する曝露量に対応することが示された。
脳腫瘍モデルにおける生存延長効果: 頭蓋内H2228移植脳腫瘍モデルにおいて、クリゾチニブ (100 mg/kg/日) が生存中央値を28日から47.5日に延長したのに対し、ブリガチニブ (25 mg/kg) は62日、ブリガチニブ (50 mg/kg) は64日超 (10匹中10匹が試験終了時生存) に有意に延長した (Figure 3A)。クリゾチニブ群と比較して、ブリガチニブ50 mg/kg群では生存中央値が64日超 vs 47.5日であり、HR 0.35 (95% CI 0.15-0.80, p=0.0002) で有意な改善を示した。脳内腫瘍病理スコアも、50 mg/kgブリガチニブ群でクリゾチニブ群と比較して有意に低下した (Figure 3B, C)。
ENU変異誘発スクリーニングによる耐性変異の抑制: ENU変異誘発スクリーニングでは、クリゾチニブ、セリチニブ、アレクチニブが1000 nM以上の濃度でなければ耐性変異の出現を完全に抑制できなかったのに対し、ブリガチニブは500 nMで耐性変異の出現を完全に抑制した (Figure 4A)。200 nMのブリガチニブ存在下で生存したクローンでは、F1174、L1196、S1206、E1210K変異が確認されたが、他のTKIと比較して耐性変異の出現は遥かに困難であった。
17種類のALK変異体に対するIC50比較: ブリガチニブはネイティブEML4-ALK (IC50 14 nM) に対し最高の効力 (クリゾチニブ107 nM、セリチニブ37 nM、アレクチニブ25 nM) を示した。さらに、試験した17種類の二次ALK変異体すべてに対して、IC50 9〜184 nMの範囲で実質的な活性を維持した (Figure 4B)。特に、最も難治性のG1202R変異に対しては、ブリガチニブのIC50が184 nMであったのに対し、クリゾチニブは1000 nMを超え、セリチニブおよびアレクチニブも実質的に阻害不能であった。L1152R/P変異 (セリチニブ耐性) に対してはブリガチニブがセリチニブより3.2〜40倍有利であり、I1171N・V1180L変異 (アレクチニブ耐性) に対してはブリガチニブがアレクチニブより3.2〜54倍有利であった。患者血漿薬物濃度 (Cave) との比較では、180 mg投与時のブリガチニブCave (1447 nM) は、17種類のすべての変異体のIC90を上回る唯一のTKIであることが示された。また、ブリガチニブの血漿タンパク結合率が低いこと (遊離薬物率34.3% vs クリゾチニブ9.3%、セリチニブ2.8%、アレクチニブ0.3%) も、その臨床効果をさらに有利にする可能性が示唆された。
in vivo変異体モデルにおける効果: L1196M変異体皮下移植モデルでは、クリゾチニブ200 mg/kgでも腫瘍退縮が認められなかったのに対し、ブリガチニブ50 mg/kgで腫瘍退縮が達成された (Figure 5A)。G1202R変異体皮下移植モデルでは、クリゾチニブ100〜200 mg/kgで腫瘍増殖抑制が23〜46%に留まったのに対し、ブリガチニブ25 mg/kgで55%、50 mg/kgで88%の抑制効果が認められた。セリチニブおよびアレクチニブはG1202R腫瘍に対しほぼ無効であった (<15%抑制)。G1202R変異腫瘍モデルにおけるブリガチニブ50 mg/kg群の腫瘍増殖抑制率は88%であり、これはクリゾチニブ200 mg/kg群の46%と比較して有意に優れていた (p<0.01)。
構造解析による作用機序の解明: ブリガチニブはATP結合部位にU字型構造で結合することが示された (Figure 1A-C)。その独自のジメチルホスフィンオキシド (DMPO) 基がpre-DFGポケットと触媒リジン (K1150) に相互作用し、クリゾチニブと比較してより高い親和性を達成している。セリチニブのL1198F・L1152R/P感受性は、そのイソプロポキシ基およびイソプロピルスルホン基の化学構造に起因するが、ブリガチニブのより小さいメトキシ基はL1198F変異とも適合的である。アレクチニブのI1171N・V1180L感受性は、ニトリル基のATP結合ポケット深部への相互作用に起因するが、ブリガチニブはこれらの残基との相互作用が最小限である。G1202R変異は、アレクチニブと比較してブリガチニブへの影響が少ないことが示され、これは両者の化学骨格の違いによるものであった。
考察/結論
本研究は、ブリガチニブの最初の包括的な前臨床評価として、同薬がクリゾチニブと比較して約12倍高い効力でALKを阻害し、第1世代および第2世代ALK-TKIすべての耐性変異パターンを克服できる唯一のTKIであることを示した。特に、G1202R変異はクリゾチニブ、セリチニブ、アレクチニブ全てに対して高度に耐性であるが、ブリガチニブのみが実質的な活性を維持し、in vivoモデルでも88%の腫瘍増殖抑制効果を示したことは、本研究の新規性を示す重要な所見である。
本研究で初めて提示されたCVave/IC90比 (臨床的達成濃度が全17変異のIC90を上回る) という解析軸は、薬剤選択時の臨床的予測に有用な概念的枠組みを提供した。この解析により、180 mg投与時のブリガチニブは、試験したすべてのALK変異体に対して臨床的に有効な濃度を達成できる可能性が示唆された。また、ブリガチニブの血漿タンパク結合率の低さ (遊離薬物率: ブリガチニブ34.3% vs クリゾチニブ9.3%、セリチニブ2.8%、アレクチニブ0.3%) は、in vitro IC50比較以上に実際の臨床効果が有利である可能性を示唆しており、既存のTKIとは異なる特性を持つことが示された。
脳腫瘍モデルでの顕著な生存延長効果 (最長生存はブリガチニブ50 mg/kgでの10匹中10匹全員生存) は、クリゾチニブの主要な耐性部位であるCNSへのブリガチニブの優れた浸透性を前臨床的に示した。この知見は、後続のALTA試験 (Phase 2) でのCNS奏効率 (ブリガチニブ180 mg/日で67%) に繋がり、臨床応用におけるその有効性が確認された。さらに、ALTA-1L試験 (Phase 3) では、ブリガチニブがファーストライン治療としてクリゾチニブを有意に上回るPFS (HR 0.49, 95% CI 0.33-0.74, p<0.001) を示したことで、本前臨床データの臨床的妥当性が検証された。これは、先行研究で報告されたクリゾチニブのPFS中央値8-11ヶ月と比較して、ブリガチニブがより持続的な効果をもたらす可能性を示唆しており、既存の治療法と異なる治療成績をもたらすことが期待される。
残された課題として、ブリガチニブに対する新たな耐性メカニズムの出現を長期的に監視する必要がある。また、ROS1再構成陽性NSCLCに対するブリガチニブの臨床的有効性も今後の検討課題である。本研究で解明されたブリガチニブの分子設計とその構造基盤は、次世代ALK-TKI開発の方法論的模範として、今後の研究に広く引用されることが期待される。
方法
キナーゼ選択性評価: Reaction Biology CorpにてHotSpot法を用いた289種類のキナーゼに対するin vitroキナーゼプロファイリングを実施した。アッセイは10 μmol/Lの[33P]-ATP存在下、ブリガチニブ濃度0.05 nmol/Lから1 μmol/Lの範囲で行われた。
細胞活性評価: ALCLおよびNSCLC由来のALK陽性 (NPM-ALK/EML4-ALK) およびALK陰性細胞株計7種を用いて、72時間処理後の細胞生存率 (GI50) およびリン酸化ALK (p-ALK) のIC50を測定した。細胞増殖はCellTiter 96 AQueous One solution (Promega) またはCyQuant Cell Proliferation assay (Invitrogen) で評価し、p-ALKレベルはELISAおよび/またはイムノブロッティングで測定した。
Ba/F3変異体パネルの作製と評価: EML4-ALK (variant 1) のネイティブ型および17種類の二次変異体 (既知の臨床耐性変異およびN-エチル-N-ニトロソウレア (ENU) 変異誘発スクリーニングで同定された変異) を発現させたBa/F3細胞株パネルを作製した。これらの細胞株を用いて、ブリガチニブ、クリゾチニブ、セリチニブ、アレクチニブのIC50値を測定し、各薬剤の変異体に対する活性を比較した。
ENU変異誘発スクリーニング: Ba/F3-EML4-ALK細胞を100 μg/mLのENUで終夜処理し、インターロイキン3 (IL3) 非存在下で様々な濃度の各TKIを含む96ウェルプレートに播種した。3〜5週間耐性クローンの出現を観察し、出現したクローンからゲノムDNAを抽出し、ALKキナーゼ領域のシーケンス解析により変異を同定した。このスクリーニングは2回の独立した実験で実施された。
in vivo腫瘍モデル: 動物実験はARIAD Institutional Animal Care and Use Committee (IACUC) の承認プロトコルに従って実施された。Karpas-299 (ALCL) およびH2228 (NSCLC) 細胞株を用いた皮下移植モデル、ならびにH2228細胞株を用いた頭蓋内移植脳腫瘍モデルをCB-17/SCIDまたはSCIDベージュ雌マウスに作製した。腫瘍体積が約200〜300 mm³に達した後、マウスを各治療群にランダムに割り付け、ビヒクルまたはTKIを1日1回経口投与した。腫瘍増殖抑制率、腫瘍退縮率、および生存期間を評価した。特に脳腫瘍モデルでは、生存中央値の延長と脳内腫瘍病理スコアの評価を行った。統計解析にはlog-rank Mantel-Cox testが用いられた。
in vivo変異体活性比較: Ba/F3 L1196MおよびG1202R変異体細胞を皮下移植したマウスモデルにおいて、ブリガチニブ、クリゾチニブ、セリチニブ、アレクチニブのin vivoでの腫瘍増殖抑制効果を比較した。
薬力学的および薬物動態学的解析: 腫瘍組織サンプルをRIPAバッファーで溶解し、ELISAまたはイムノブロッティングにより薬力学的効果を評価した。マウス血漿中のTKI濃度はLC/MS-MSを用いて測定した。
ALK-ブリガチニブ共結晶構造解析: ALKキナーゼドメイン (残基1093-1407) のHisおよびGSTタグ付きN末端構築物をバキュロウイルス/Sf9細胞で発現させ、ブリガチニブ存在下で精製した。共結晶は0.1 mol/L Tris-HCl (pH 8.0)、16%〜18% PEG3350、2 mmol/L TCEPを用いて4℃で生成された。原子座標および構造因子はRCSB PDB (ID: 5J7H) に登録された。この構造をクリゾチニブ、セリチニブ、アレクチニブとの結合様式と比較した。