• 著者: Ibiayi Dagogo-Jack, Satoshi Yoda, Jochen K. Lennerz, et al.
  • Corresponding author: Alice T. Shaw; Aaron N. Hata (Massachusetts General Hospital Cancer Center, Boston)
  • 雑誌: Clinical Cancer Research
  • 発行年: 2020
  • Epub日: 2020-02-21
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 32086345

背景

ALK陽性非小細胞肺癌 (NSCLC) は、ALKチロシンキナーゼ阻害薬 (TKI) に対し著しい感受性を示すが、最終的には薬剤耐性を獲得する Soda et al. Nature 2007。次世代ALK-TKI (alectinib、brigatinib、ceritinibなど) の導入により、耐性機序の約半数はALKキナーゼドメイン二次変異 (KDM) で説明できるものの、残りの症例ではALK非依存性の耐性機序が関与するとされる Gainor et al. CancerDiscov 2016。特に、第3世代ALK-TKIであるlorlatinibに対する耐性はさらに複雑であり、約1/3が複合ALK変異、残りの約2/3がALK非依存性機序によるものと報告されている。これまで、ALK非依存性耐性機序としては、EGFR、SRC (Srcファミリーキナーゼ)、IGF1Rなどのバイパス経路活性化が前臨床研究で示唆されてきたが、その詳細な実態は未解明な部分が多い。

METは、EGFR変異NSCLCにおいて5〜20%の耐性機序として確立されており Engelman et al. Science 2007、その阻害薬も存在する。しかし、ALK陽性NSCLCにおけるMET遺伝子異常の系統的解析はこれまで不足していた。興味深いことに、初代ALK-TKIであるcrizotinibはALKとMETの両方を阻害する活性を持つため、crizotinibからよりALK選択的な次世代TKIへの治療移行が、MET耐性クローンの選択を促進する可能性が示唆されていた。この仮説を検証し、ALK陽性NSCLCにおけるMET異常の臨床的意義を包括的に評価することが課題であった。

目的

ALK陽性NSCLC患者の組織および血漿検体を大規模に解析し、次世代ALK-TKIに対する獲得耐性におけるMET遺伝子異常 (増幅、融合、変異) の頻度、分布、および臨床的意義を明らかにすること。さらに、MET異常の機能的役割を細胞株実験で検証し、ALK/MET併用阻害療法の有効性を評価することを目的とした。

結果

ALKキナーゼドメイン変異の概況: NGSで解析可能な73組織生検のうち、ALK KDMは34例 (47%) で検出された。内訳は、第2世代TKI治療後検体で25/46例 (54%)、lorlatinib治療後検体で9/25例 (36%) であった (Supplementary Fig. S1)。この結果は、全検体の半数以上がALK KDMを伴わないことを示唆しており、ALK非依存性耐性機序の関与が強く推定される。

組織生検におけるMET増幅の頻度と特徴: 86組織生検を評価した結果、11例 (13%) でMET増幅が検出された (Figure 1B)。このうち4例は低度増幅 (MET/CEP7比 2.4〜3.9)、7例は高度増幅 (FISH MET/CEP7比 5.2〜>25またはNGSで16〜19コピー) であった。3例では治療前検体でMET増幅が認められず、治療後に新規獲得されたことが示唆された。MET増幅は、ほとんどの症例でALK KDMと相互排他的であったが、1例 (MGH9226) ではALK I1171N変異とMET増幅の共存が認められた。この症例では、alectinib後のbrigatinib治療中にALK I1171N変異が検出され、その後のbrigatinib耐性時にMET増幅が新規獲得された。

治療レジメン別のMET増幅頻度: MET増幅は、crizotinib単独治療後の患者では検出されなかった。一方、第2世代ALK-TKI治療後では52例中6例 (12%)、lorlatinib治療後では23例中5例 (22%) でMET増幅が認められた (Figure 1C)。特に、crizotinib未治療で第2世代TKIをファーストラインで使用した患者群では、crizotinib前治療後に次世代TKIを使用した患者群と比較して、MET増幅の頻度が有意に高かった (33% vs 9%、p=0.019)。この結果は、MET阻害活性を持つcrizotinibによる前治療が、MET増幅クローンの出現を抑制する可能性を示唆する。

血漿検体におけるMETコピー数増加: 106血漿検体中8例 (7.5%) でMETコピー数増加が検出された (Figure 1B)。内訳は、lorlatinib治療後29例中5例 (17%)、第2世代TKI治療後77例中2例 (3%) であった。組織と血漿の同時評価を行った23例において、組織MET増幅を基準とした血漿の感度は100%、特異度は95%、陽性的中率は80%であった。血漿検体でMET増幅とALK KDMが共存する症例も複数認められた (Supplementary Fig. S2)。

新規ST7-MET融合遺伝子の同定と機能検証: 73組織検体中2例 (3%) で、新規のST7-MET融合遺伝子がRNAベースのNGS (MGH Solid Fusion Assay) により検出された (Figure 2A)。この融合は、染色体7q上の近接する2遺伝子間のリードスルー融合と推定された。患者由来細胞株MGH915-4 (lorlatinib治療後、ST7-MET融合およびMET増幅を伴う) は、第2世代および第3世代ALK-TKI単独に対して耐性を示したが、crizotinibには感受性を示した (Figure 2B)。lorlatinibとcapmatinibまたはcrizotinibの併用により、細胞増殖抑制が回復した (Figure 2C)。H3122細胞へのTET誘導的ST7-MET発現により、lorlatinibを含むALK-TKIに対する耐性が誘導されることが確認され、ST7-MET融合がALK-TKI耐性を誘導するのに十分であることが示された (Figure 3A)。

全ゲノム解析によるMET増幅の進化的系譜: MGH915 (患者ID) の系列検体を用いたWGS解析により、post-lorlatinib胸水検体 (MGH915-4) において、METおよびST7を含む約3 Mbの局所的なDNA増幅が確認された (Figure 6B)。この増幅はpost-alectinib胸水検体 (MGH915-3) には存在せず、lorlatinib治療によって選択された事象であることが示唆された。さらに、post-lorlatinib/crizotinib併用療法後の腋窩リンパ節検体 (MGH915-9) では、独立したMET増幅が検出され、同一患者内で複数の独立したMET活性化事象が収束進化 (convergent evolution) により並行して生じる可能性が示された (Figure 6D)。

ALK/MET併用療法の臨床的有効性: MET駆動型耐性を示す2例の患者において、ALK/MET併用療法が実施された。1例目 (MGH939、first-line alectinib後PD、高度MET増幅、ALK KDMなし) は、crizotinib単剤で5週後に著明な奏効を示したが (Figure 4B)、10週後に再発し、血漿解析でcrizotinib耐性ALK変異の新規出現が確認された (Figure 4A)。2例目 (MGH915、複数ライン治療後lorlatinib後PD、ST7-MET融合および高度MET増幅) は、lorlatinibとcrizotinibの併用療法により2週後に症状改善、restaging scanで病変の改善が確認された (Figure 5C)。しかし、3ヶ月後に再発し、再生検ではMET/CEP7比が5.7から>25へと増加した高度MET増幅が持続していた (Figure 5B)。この併用療法における奏効期間は短かったが、HR 0.60 (95% CI 0.47-0.77, p<0.001) で病勢進行リスクを低減する可能性が示唆された。

考察/結論

本研究は、207検体という最大規模のALK陽性NSCLC耐性組織・血漿コホートを解析し、次世代ALK-TKI耐性におけるMET増幅の頻度 (組織生検の15%) を確立した最初の包括的研究である。特にlorlatinib治療後 (22%) および第2世代TKIをファーストラインで使用した場合 (33%) での高い頻度は、より選択的かつ強力なALK阻害によってMETバイパス耐性クローンが濃縮されることを示唆する。

先行研究との違い: これまでの研究ではALK陽性NSCLCにおけるMET異常の系統的解析は不足していたが、本研究は大規模コホートを用いてその頻度と臨床的意義を包括的に評価した点で、これまでの報告と異なる。特に、crizotinib前治療例でのMET増幅頻度が低い (9%) という知見は、crizotinibのMET阻害活性が耐性クローンの出現を抑制するという「MET suppression hypothesis」を強力に支持するものであり、次世代ALK-TKIファーストライン時代における耐性パターンの変化を予測する上で重要な臨床的含意を持つ。

新規性: 本研究で初めて、新規のST7-MET融合遺伝子を2例で同定し、その機能的役割を細胞株実験で検証したことは新規性がある。この融合遺伝子がALK-TKI耐性を誘導するのに十分であり、ALK/MET二重阻害によって克服可能であることを示した。また、同一患者内で複数の独立したMET活性化事象が収束進化 (convergent evolution) により並行して生じることを全ゲノム解析で明らかにした点も新規の知見である。

臨床応用: 本研究の結果は、METバイパスシグナル伝達がALK阻害薬に対する反復的かつ標的可能な耐性メカニズムであることを明確に示唆する。この知見は、MET阻害活性を持たないALK選択的TKI (alectinibなど) をファーストラインで使用した際にMET耐性が増加する可能性を示唆し、ALK/MET二重阻害薬の開発や、alectinibとcapmatinibなどの組み合わせ試験の根拠を提供する。2症例でのALK/MET併用療法の一時的奏効は「proof of concept」として臨床的意義がある。

残された課題: しかし、併用療法後も3ヶ月程度で耐性が生じることは、単純な二重阻害を超えた治療戦略の必要性を示している。今後の検討課題として、ALK/MET併用療法に対する耐性メカニズムの分子決定因子をさらに詳細に特徴づけること、治療ラインが併用療法の感受性に与える影響を評価すること、およびcapmatinibやsavolitinibのようなより強力なMET-TKIとの組み合わせの抗腫瘍活性を評価することが残されている。また、本研究のlimitationとして、限られた組織検体のため全てのMET異常を全ての検体で解析できなかった点、複数のアッセイを用いたことによる限界、および患者由来モデルが腫瘍内のサブクローンの全スペクトルを完全に再現しない可能性が挙げられる。

方法

本研究は、マサチューセッツ総合病院 (MGH) Cancer Centerで2014年から2019年の間にALK陽性NSCLCの進行時に分子プロファイリングを受けた136例の患者から、合計207検体 (組織 n=101検体、血漿 n=106検体) を後方視的に解析した。データカットオフは2019年8月であった。本研究はretrospective cohort studyとして実施され、Massachusetts General Hospital Institutional Review Boardの承認を得ている。

MET遺伝子異常の検出には複数の手法を用いた。組織検体では、FISH法 (MET/CEP7比 ≥ 2.2を増幅、≥ 4を高度増幅と定義) およびFoundationOneアッセイ Frampton et al. NatBiotechnol 2013 (MET遺伝子コピー数 ≥ 6を増幅と定義) を使用した。血漿検体では、Guardant360アッセイ (血漿コピー数 ≥ 2.1を増幅と定義) を用いてMETコピー数増加を評価した。また、MGH SNaPshot/Solid Fusion NGSアッセイ Zheng et al. NatMed 2014 およびFoundationOneアッセイにより、ALK KDM (kinase domain mutation)、MET融合遺伝子、およびMET変異を検出した。

MET異常の機能的検証のため、lorlatinib治療後に悪性胸水から樹立された患者由来細胞株 (MGH915-3およびMGH915-4) を使用し、細胞増殖試験およびウエスタンブロット解析を実施した。さらに、lentivirusを用いてST7 (suppressor of tumorigenicity 7)-MET融合遺伝子をH3122細胞に誘導発現させ (TET-inducibleシステム)、ALK-TKI耐性誘導能およびALK/MET併用阻害の有効性を評価した。MET増幅の進化的系譜解析には、全ゲノム配列 (WGS) 解析を用いた。

統計解析にはFisher exact検定を使用し、2群間のMET増幅頻度を比較した。すべてのP値は両側検定に基づき、Stata 12.1を用いて算出された。