- 著者: Zheng Z, Liebers M, Zhelyazkova B, Cao Y, Panditi D, Lynch KD, Iafrate AJ, Le LP, et al.
- Corresponding author: A. John Iafrate / Long Phi Le (Massachusetts General Hospital)
- 雑誌: Nature Medicine
- 発行年: 2014
- Epub日: 2014-11-10
- Article種別: Technical Report
- PMID: 25384085
背景
次世代シーケンシングは癌の臨床分子診断で不可欠な技術となっているが、ALK・RET・ROS1 などの遺伝子再構成検出には既存手法それぞれに限界があった。FISH (fluorescence in situ hybridization; 蛍光 in situ ハイブリダイゼーション) は多標的高量検査では非効率であり、RT-PCR は融合パートナーの事前知識を要する。特に ROS1 は 11 種以上の融合パートナーと可変スプライシングが存在するため、単一アッセイで網羅的に検出する方法が未確立であった (gap in knowledge)。また FFPE (formalin-fixed paraffin-embedded; ホルマリン固定パラフィン包埋) 検体の低品質・少量核酸に対応可能な迅速な NGS 標的エンリッチメント法も不十分で (insufficient existing methods)、臨床ルーチンへの実装が困難であった。先行研究 (Meyerson et al. NatRevGenet 2010) は臨床シーケンシングにおける標的パネルの実用性の重要性を示したが、FFPE 低品質核酸への対応や融合パートナー未知の遺伝子再構成の網羅的検出は依然として課題であった。
目的
融合パートナーの事前知識なしに遺伝子再構成を検出可能で、FFPE 検体の少量核酸入力 (5-200 ng) に対応する迅速 NGS 標的エンリッチメント法 AMP (anchored multiplex PCR; アンカー型多重 PCR) を開発し、臨床感度・特異度の検証と新規融合遺伝子の発見への適用を実証すること。
結果
臨床感度・特異度の完全な達成:
FISH 陽性 56 samples (ALK 19 例・ROS1 23 例・RET 10 例) および陰性 273 samples を含む n=319 samples での検証において、AMP は参照アッセイである FISH と比較して感度 100% (95% CI: 96.5-100%) および特異度 100% (95% CI: 99.3-100%) を達成した (Table 1)。FISH 判定困難例においても AMP は明確な融合再構成を同定し、また ALK および ROS1 の green-only FISH 例では AMP で既知の融合転写産物が検出されず、クリゾチニブ無効事例との整合が確認された。続いて n=986 samples の臨床運用においても直近 3 ヶ月の失敗率は 3% (9/313 cases) と低く、ルーチン臨床使用への堅牢性が示された。融合遺伝子検出における網羅性の観点では、ROS1 の 11 種以上の融合パートナーすべてが RT-PCR による確認なしに検出可能であった点が特筆される。これは従来手法 (既存の RT-PCR パネル) では達成困難であった多様な融合バリアントの一括網羅的検出を実現したことを意味する。
遺伝子再構成の多様性の網羅的検出:
23-plex RNA-seq パネルにより、複数の ALK 融合バリアント (5 種のエクソン結合パターン)・RET 融合・ROS1 の 11 種以上の融合パートナーとスプライシングバリアントが同定された (Fig. 2a)。137-amplicon 拡張パネルでは膠芽腫での FGFR3 (fibroblast growth factor receptor 3) - TACC3 (transforming acidic coiled-coil 3) 融合、乳癌でのNTRK 関連融合が検出された。既知バリアントはすべて参照アッセイと完全一致した。
新規治療標的融合遺伝子の発見:
n=986 FFPE samples の臨床運用において、複数の腫瘍種で新規治療標的融合遺伝子が発見された。膠芽腫 115 cases のスクリーニングでは 2 種の新規 NTRK-関連融合 (FISH および RT-PCR で確認) が同定された。肺癌では ROS1・BRAF・NRG1 (neuregulin 1; 神経調節因子1)-NTRK・RET に関わる計 5 種の新規融合が同定された。胆管癌では FGFR2 (fibroblast growth factor receptor 2; 線維芽細胞増殖因子受容体2) 関連融合、甲状腺癌では NTRK 関連融合が同定された。これらはいずれも既存分子標的薬 (NTRK 阻害薬・BRAF 阻害薬・RET 阻害薬等) の治療標的として重要である (Supplementary Table 2)。
DNA シーケンシングへの拡張と包括的バリアント検出:
AMP を genomic DNA に適用した 626-amplicon アッセイでは、Platinum Taq ポリメラーゼで on-target 率 87.8%・マッピング率 99.5%、ターゲット塩基の 97% が 100× 以上・94% が 500× 以上の coverage を達成した (Table 2, Fig. 3)。ターゲット塩基の 93.1% が平均 coverage の 25 倍以内・83.9% が 10 倍以内という均一な coverage 分布も示された。96-amplicon ホットスポットパネルによる n=63 samples の検証では SNV 24 例・indel 18 例・コピー数変化 11 例がすべて正確に検出された。入力 DNA 量を 200 ng から 5 ng まで段階的に低減した際も、5 ng で 82% のターゲット塩基が 100× 以上の coverage を維持し、最低 25 ng/reaction の入力で安定した性能が確保された。ライブラリ作製は 1-2 日で完了する迅速・経済的なプロセスであり、単一プラットフォームでの RNA-seq と DNA-seq の統合による包括的な臨床ゲノム解析が実現可能であることが示された。
考察/結論
本研究は片端アンカー型多重 PCR である AMP を用いた包括的な NGS 標的エンリッチメント法を開発・検証した技術報告論文である。先行手法として FISH・RT-PCR・ハイブリダイゼーションキャプチャー (既存報告) と比較して (in contrast)、AMP はランダムライゲーション末端からの配列探索により融合パートナー未知の遺伝子再構成を検出できるという novel (新規) の設計原理を持つ。特に ROS1 の 11 種以上の融合パートナーのような複雑な再構成景観への対応や FFPE 検体低品質核酸への適用が可能であり、既存手法の限界を克服している。Meyerson et al. NatRevGenet 2010 が指摘した臨床シーケンシングの実用課題を AMP が解決した点でも意義深い。
臨床応用 (clinical implication) として、AMP は ALK・RET・ROS1・NTRK 等の融合遺伝子に加え SNV・indel・CNV を単一プラットフォームで検出可能であり、包括的な臨床腫瘍ゲノム診断基盤となりうる。新規融合遺伝子の発見 (膠芽腫・肺癌・胆管癌・甲状腺癌) は腫瘍種横断的な精密医療の可能性を拡大する。n=986 samples の運用実績と低失敗率は実臨床での安定性を示す。
今後の課題 (future research) としては、(1) 血液由来 cfDNA や新鮮凍結検体への適用拡大、(2) AMP で新規同定された融合遺伝子の機能解析・前臨床試験・臨床試験の推進、(3) RNA-seq と DNA-seq の同時解析によるマルチオミクス統合診断が挙げられる。AMP は癌精密医療時代の遺伝子融合診断の礎石として、複数の標準的臨床ゲノム診断プラットフォームの技術基盤として広く採用されており、その後の融合遺伝子検出標準化と新規治療標的探索研究の基盤を形成した重要論文である。
方法
AMP の設計原理: AMP (anchored multiplex PCR; アンカー型多重 PCR) は RACE (rapid amplification of cDNA ends; cDNA末端迅速増幅法) と類似の片端アンカー原理で動作する NGS 標的濃縮法である。二本鎖 cDNA またはゲノム DNA に対して末端修復・dA テーリング・半機能型ユニバーサルアダプターライゲーション後、第一ラウンド (10-14 サイクル) および第二ラウンド (10 サイクル) の低サイクル多重 PCR により標的を濃縮する。第一ラウンドでは GSP1 (gene-specific primer 1; 遺伝子特異プライマープール1) を使用し、第二ラウンドではネスト型 GSP2 (gene-specific primer 2; ネスト型第二プライマープール) を用いる。片端が遺伝子特異的にアンカーされ、他端は無作為ライゲーション型アダプターで終端するため、融合パートナーが未知の遺伝子再構成でも検出可能である。
検証コホート: RNA-seq 向け 23-plex パネル (ALK・RET・ROS1 のキナーゼドメインを標的) で n=319 FFPE samples (独立 FISH 結果付き) の感度・特異度を評価した。さらに 137-amplicon 拡張 RNA パネルおよびゲノム DNA 向け 626-amplicon アッセイ (18 腫瘍抑制遺伝子・370 エクソン) と 96-amplicon ホットスポットパネルで性能を評価した。臨床運用実績は n=986 FFPE samples で評価した。