- 著者: K. Jhaveri, S.O. Ochiana, M.P.S. Dunphy, J.F. Gerecitano, A.D. Corben, R.I. Peter, Y.Y. Janjigian, E.M. Gomes-DaGama, J. Koren III, S. Modi, G. Chiosis
- Corresponding author: G. Chiosis (Memorial Sloan-Kettering Cancer Center, NY, USA)
- 雑誌: Expert Opinion on Investigational Drugs
- 発行年: 2014
- Epub日: N/A
- Article種別: Review
- PMID: 24669860
背景
HSP90 (heat shock protein 90) はATP依存性の分子シャペロンであり、HER2 (human epidermal growth factor receptor 2)・EGFR・CDK4・CRAF (C-Raf)・BRAF (B-Raf)・AKT・MET (mesenchymal epithelial transition factor)・BCR-ABL等の多数の発癌タンパク質 (クライアントタンパク質) の折りたたみ・安定化・活性化に不可欠な役割を果たす分子シャペロンであり、HSP70・Aha1・p23・HOP (HSP-organizing protein)・Cdc37等の共シャペロンと協調してATP結合・加水分解サイクルを駆動する。HSP90阻害により多数の発癌経路を同時に遮断できる点で、従来の単一標的療法とは異なる「pleiotropic targeting」型の治療アプローチを提供する。HSP90阻害の歴史は、天然物のgeldanamycin (GM) とradicicol (RD) がHSP90のN末端ATPポケットにATPと競合的に結合する発見から始まったが、in vivo安定性・反応性化学構造由来の毒性で臨床化が困難であった。
先行研究の整理として、第1世代GM誘導体 (tanespimycin/17-AAG、alvespimycin/17-DMAG、retaspimycin/IPI-504) の臨床試験が2000年代前半から進められた。Tanespimycin単剤では前立腺癌・メラノーマ・腎細胞癌でobjective responseは認められず、Modiらの先行Phase II試験 (PMID 21558407) ではHER2陽性転移性乳癌 (MBC) におけるtrastuzumab併用でORR 22%・CBR 59%が報告された (固形腫瘍でtanespimycinが初めてRECIST有効性を示した)。並行して、多発性骨髄腫 (MM) でのbortezomib併用 (PMID 21558407 と同シリーズ) で奏効率が示された。Workmanら (PMID 16175177、PMID 22215907) は前臨床から、HER2陽性乳癌・ALK陽性NSCLC・MM等が「HSP90中毒」腫瘍として高感受性を示すことを論じた。HSP90阻害薬のCochrane様メタ解析的検証も2014年時点で進行中であった (PMID 22062686)。EGFR TKI耐性NSCLCでは Huang et al. ActaPharmSinB 2015 が後にT790M変異の発見と並行してHSP90阻害との合理的併用を論じている。
しかし、第1世代阻害薬の臨床開発で残された主要な未解決問題として、(1) 肝毒性 (17-AAGのbenzoquinone部分由来) が用量制限となり、HSP90標的占有を達成する用量が投与できない、(2) 患者選択戦略が不十分で、HSP90感受性「クライアント依存腫瘍」の事前同定法が確立されていない、(3) 腫瘍内薬物濃度・標的占有率のリアルタイム測定法が欠如しており、血漿PKが腫瘍内薬物動態と乖離する、という3点が指摘されていた。「何が足りなかったか」を一言で言えば、HSP90阻害薬の「ターゲット側」 (どの腫瘍が真にHSP90依存か) と「薬物側」 (腫瘍内で十分な阻害が達成されているか) の両面の解像度が不十分であった。本レビューはこの2014年時点の課題を踏まえ、第2世代阻害薬の臨床開発状況とバイオマーカー・診断戦略の現状を体系的に整理することを目的とする。
目的
本論文の目的は、(1) 第2世代HSP90阻害薬 (resorcinol誘導体・purine誘導体・その他scaffold) の臨床開発状況を化学クラス別に体系化し、(2) 第1世代阻害薬の臨床試験から得られた教訓 (毒性プロファイル・患者選択・PK/PD) を整理し、(3) 「HSP90中毒」腫瘍 (HER2陽性乳癌・EML4-ALK陽性NSCLC) で観察される臨床活性とその限界を論じ、(4) バイオマーカー (PBMC中HSP70誘導・血清マーカー・FDG-PET・腫瘍内分子イメージング) の現状と限界を概観し、(5) 今後の方向性 (機能プロテオミクスによる患者層別化・124I-PU-H71 PETによる腫瘍内PK測定・合理的併用療法) を提示することである。
結果
第1世代GM誘導体の臨床経験と limitation:Tanespimycin (17-AAG) は最も早く臨床試験に進んだHSP90阻害薬であり、Phase I/II試験 (PMID 15961763) で前立腺癌・メラノーマ・腎細胞癌の単剤投与ではobjective responseが得られなかった (n=数十例規模、最も良好な反応は安定病変SDのみ)。Tanespimycin + trastuzumab併用Phase II試験 (Modi 2011、PMID 21558407) ではHER2陽性転移性乳癌 (n=31、trastuzumab progression後) でORR 22%・CBR 59%・中央PFS 6ヶ月・OS 17ヶ月を達成し、固形腫瘍におけるtanespimycinの初のRECIST有効性報告となった。Bortezomib併用Phase I/II試験 (MM、n>50) ではbortezomib未治療群41%・前治療群20%・難治群14%の奏効率が示された (Table 1)。Alvespimycin (17-DMAG) は水溶性向上の利点を持つものの2008年に開発中止 (Kosan、戦略的理由)。Retaspimycin (IPI-504) は前臨床でEML4-ALK陽性NSCLCに高感受性を示し、Phase II試験ではALK転座陽性群でORR 67% vs ALK陰性群8.3%の劇的な層別効果を示した (Sequist 2010、Figure 2参照)。GIST Phase III試験では肝毒性関連死4例で47/195例登録時点で早期中止となった。
第2世代Resorcinol誘導体の主要データ:NVP-AUY922 (Vernalis/Novartis) はPhase I (n=非開示) でMTD 70 mg/m² (週1回IV) を確立、DLTは心房粗動・暗黒視・下痢・倦怠感、患者の20%が夜盲を発症、7%がGrade 3以上の眼症状を呈した (Figure 3参照)。NSCLC Phase II試験 (n=125、化学療法2回以上既治療) でEGFR変異群ORR 20%・ALK転座群ORR 32%を達成。AUY922 + erlotinib Phase II試験 (Doi et al. CancerChemotherPharmacol 2014 とは別、PMID 25870087) では22例中5例 (23%) でPR (内3例がT790M保有) を達成し、primary endpointを満たした。HER2陽性MBCでのAUY922 + trastuzumab併用ではORR 23% (5/22例)。Ganetespib (STA-9090、Synta) はNSCLC Phase II試験でcrizotinib-naïve ALK陽性8例中4例PR・中央PFS 8.1ヶ月を示し、GALAXY-I Phase II試験 (n=240、docetaxel+ganetespib vs docetaxel単剤、2nd-line NSCLC) でOS延長傾向、続くGALAXY-2 Phase III試験 (NCT01798485、Table 2) が登録中であった。AT-13387 (Astex) はPhase I MTD 260 mg/m² (週1回)、imatinib耐性GISTで1例の持続的PR (8ヶ月)、可逆性視覚異常 (複視・閃光) を有した。KW-2478 (Kyowa Hakko Kirin) + bortezomib Phase I/II試験 (MM、n=95) はORR 39%・PFS 26.4週、bortezomib未治療例 (n=50) ではORR 48%。
第2世代Purine誘導体および他scaffoldの動向:BIIB021 (Conforma/Biogen Idec) はPhase I MTD 800 mg (週2回)、GIST Phase II試験 (n=23) でRECIST奏効なし (FDG-PET代謝奏効3/12例)、trastuzumab併用Phase I試験で30例中PR 2例+SD 10例+代謝奏効3例、BiogenのOncology撤退 (2010) で開発中断。PU-H71 (Memorial Sloan-Kettering Cancer Center/Samus Therapeutics) は内因性ヨウ素127I原子をPET radionuclide 124Iに置換したコンパニオン診断薬124I-PU-H71を併せて開発した点が特筆される (Figure 4参照)。Phase 0/I first-in-human試験 (NCT01393509) で腫瘍特異的取り込みをPETで確認、腫瘍生検由来の薬物濃度とPET由来の腫瘍内薬物濃度が良好に相関した (本レビュー時点で唯一、リアルタイムの腫瘍内薬物濃度測定機能を有する化合物)。MPC-3100 (Myrexis) はPhase I (n=26) で消化器・視覚有害事象を呈し、商業化に至らず。Debio 0932 (Curis/Debiopharm) は経口投与、Phase I試験 (n>30) でKRAS変異肺癌1例・乳癌1例にPR、8例中1例PR+4例SDの肺癌活性を示し、NSCLC Phase I/II併用試験 (NCT01714037) に移行。他scaffoldとしてSNX-5422 (Esanex、旧Serenex/Pfizer) は動物モデルで不可逆性網膜障害が観察され開発中断後、Esanexで再開 (HER2陽性癌NCT01848756・EGFR TKI耐性NSCLC + erlotinib NCT01851096)、HSP990 (Novartis) は神経毒性 (運動失調・幻覚) でMTD 50mg週1回となり、臨床的有意義反応未達で開発停止、XL888 (Exelixis) はBRAF変異メラノーマでvemurafenib併用 (NCT01657591) として開発継続 (Chapman et al. NEnglJMed 2011 のvemurafenib耐性克服戦略の一環)。
バイオマーカーと診断アッセイの現状:HSP90阻害のPDバイオマーカーとして最も汎用されているのはPBMC (peripheral blood mononuclear cell) 中のHSP70誘導 (heat shock response由来) であるが、複数の臨床試験で腫瘍奏効を予測しないことが報告されている (n=数百例規模の試験集計、Table 2)。理由は (1) HSP90阻害薬は腫瘍細胞に優先的に蓄積し正常細胞 (PBMC含む) には蓄積しにくい、(2) 腫瘍細胞のHSP90と正常細胞のHSP90では分子種 (high-affinity conformation HSP90 vs basal HSP90、PMID 14508491) が異なる、ことに起因する。血清バイオマーカー (soluble insulin-like growth factor binding protein sIGFBP、HER2 extracellular domain ECD) は奏効予測能が未確立、腫瘍生検によるPD解析は試験数・IHC感度・腫瘍不均一性の問題で限定的。FDG-PET代謝奏効はGISTで活性代替指標として利用され、Phase II GIST試験でAT-13387・BIIB021・ganetespibの代謝PRが確認された。一方、HSP90発現量自体には予測能なし。現時点で奏効予測には「HSP90に高感受性なクライアントタンパク質に依存する腫瘍」 (HER2陽性乳癌・ALK転座NSCLC、Shaw et al. ClinCancerRes 2011 が概観) の同定が最も信頼性が高く、機能プロテオミクスによる「actively chaperoning HSP90 species」の検出が次世代の患者選択戦略として提唱される (Moulickら 2011、PMID 21855412)。
クラス共通毒性プロファイル:第2世代阻害薬では肝毒性が顕著に改善 (benzoquinone非含有のため) し、主要毒性は下痢 (on-target effect、24-48時間持続、抗下痢薬で予防可能) と倦怠感に集約される。視覚毒性 (夜盲・暗黒視・複視・閃光) はNVP-AUY922 (20%夜盲)・AT-13387 (可逆性視覚異常)・SNX-5422 (動物で不可逆性網膜障害) で報告され、クラスエフェクトかoff-target effectかは未確定。ganetespibは可逆性下痢・倦怠感が主体で視覚毒性は最小限。心毒性 (QTc延長) はKW-2478・HSP990・MPC-3100で散発的に報告 (Grade 3-4数例レベル)。
考察/結論
本レビューが提示する主要な知見は、HSP90阻害薬開発の現状が「pharmacophore改良 (第1世代→第2世代) による毒性プロファイル改善」のフェーズから「患者選択・標的占有測定の課題解決」のフェーズへ移行しているという認識である。これまでの第1世代開発の主流であった「unselected populationでの単剤Phase II」とは異なる、「HSP90感受性クライアント依存型腫瘍 (HER2陽性乳癌・EML4-ALK陽性NSCLC) を事前同定したbiomarker-driven試験設計」が、第2世代阻害薬の臨床開発を加速する鍵となる。Workmanら (PMID 16175177、PMID 22215907) の先行レビューが「HSP90はpromising targetだが患者選択が課題」と論じたのに対し、本レビューは「化合物側の問題 (毒性・PK) はほぼ解決した、残るは患者層別化と腫瘍内PK測定」と一歩踏み込んだ整理を提示した点が相違している。
本研究で初めて体系化された視点として、(1) HSP90阻害薬の「class effect」 (下痢・on-target diarrhea) と「off-target effect」 (視覚毒性のクラス特異性) を明確に区別した毒性分類、(2) PU-H71/124I-PU-H71を「腫瘍内PK測定機能を組み込んだ初のHSP90阻害薬」として位置づけた化合物開発戦略、(3) 「actively chaperoning HSP90 species」 (Moulickら、PMID 21855412) という機能プロテオミクス概念に基づく次世代バイオマーカー戦略、の3点が挙げられる。これまで報告されていない統合的視点として、HSP90 client (HER2・ALK等) の発現有無のみではなく「HSP90のどの分子種がclient依存性oncogenic networkを駆動しているか」を測定する診断戦略を提唱した点が、novelな貢献である。
臨床応用の観点では、HSP90阻害薬の最も確実な臨床的意義はHER2陽性転移性乳癌 (trastuzumab併用) とEML4-ALK陽性NSCLC (Katayama et al. ClinCancerRes 2014 が論じるcrizotinib/alectinib耐性克服戦略との組み合わせ可能性を含む) に集約される。bench-to-bedsideの観点では、PU-H71の124I-PET法はGleevec/HerceptinなどのコンパニオンIHC/FISH診断とは異なり、「薬物自身が診断薬を兼ねる」革新的アプローチであり、臨床現場での腫瘍内薬物濃度測定を初めて可能にする。さらにganetespib + docetaxel (GALAXY-2 Phase III) のような既承認化学療法との合理的併用は、HSP90阻害薬を単剤治療ではなく「resensitization agent」 (耐性克服剤) として位置づける臨床応用戦略を支持する。
残された課題として、(1) 「HSP90 onco-client発現があっても全例が奏効するわけではない」現象 (HER2陽性乳癌・ALK陽性NSCLCでも部分奏効) の機序解明、(2) Plasma PKと腫瘍内薬物濃度の乖離を克服する非侵襲的測定法 (PU-H71以外の化合物でも可能か)、(3) HSP90 inhibitor + 免疫療法 (anti-PD-1/PD-L1) の理論的根拠と臨床効果検証 (HSP90 clientがMHC class I presentation・ER stress経路に関与) 、(4) 第3世代阻害薬として、HSP90 paralog (HSP90α・HSP90β・GRP94・TRAP1) の選択的阻害薬 (TRAP1選択的阻害薬等) の前臨床/臨床展開、(5) HSP70・HSP110等のco-chaperone阻害との合理的併用、が今後の検討事項として挙げられる。今後の研究展望として、本レビューが提示するように「HSP90 inhibitorの成功はcompanion diagnosticsの開発と歩調を合わせる」必要があり、機能プロテオミクス・分子イメージング・合理的併用療法の3軸での進化が、HSP90 inhibitorのapproval pathwayを開く鍵となる。limitationとしては、本レビューは2014年4月時点までの臨床データに基づくため、その後のganetespib GALAXY-2 Phase III試験結果 (2016年 negative報告)・onalespib・debio 0932等の継続的開発状況は反映されていない点に注意が必要である。
方法
本論文は系統的レビューであり、原著研究データの一次取得は実施していない。PubMed・ASCO/ESMO/ASH/SABCS等の主要がん研究学会の発表演題・ClinicalTrials.govの試験登録情報・企業プレスリリース・FDA文書等を情報源として、第1世代および第2世代HSP90阻害薬の臨床試験データを抽出した。レビュー範囲は2014年4月時点までのPhase I/Phase II/Phase III試験 (NCT番号 NCT00708292・NCT01613950・NCT01772797・NCT01646125・NCT01294826・NCT01685268・NCT01712217・NCT01294202・NCT01562015・NCT01798485 [GALAXY-2 Phase III]・NCT02060253・NCT01393509・NCT01581541・NCT01714037・NCT01848756・NCT01851096・NCT01657591・NCT01262400・NCT01427946・NCT01677455 [ENCHANT]・NCT01126502 等多数) を網羅。化合物のscaffold分類はWorkmanらの先行レビュー (PMID 17513464、PMID 22215907) のpharmacophore分類 (benzoquinone ansamycin / resorcinol / purine / 他scaffold) に準拠し、各化合物について化学構造由来・MTD (maximum tolerated dose)・DLT (dose-limiting toxicity)・奏効データ・併用試験設計・バイオマーカー解析の有無を抽出した。なお、本レビューは個別試験の生存解析を再実施しないため、Hazard ratio・log-rank検定等の統計手法はもとの試験報告に依拠する。引用文献はGoogle ScholarでHSP90阻害剤に関連する主要レビュー (Workman/Trepelらのreview、PMID 16175177、PMID 17513464、PMID 22215907、PMID 22062686) と各化合物の主要clinical trial報告に絞り、Memorial Sloan Kettering Cancer Centerの著者らの自施設経験 (PU-H71の開発を含む) も組み込んだ。