• 著者: Ryohei Katayama, Luc Friboulet, Sumie Koike, Elizabeth L. Lockerman, Tahsin M. Khan, Justin F. Gainor, A. John Iafrate, Kengo Takeuchi, Makoto Taiji, Yasushi Okuno, Naoya Fujita, Jeffrey A. Engelman, Alice T. Shaw
  • Corresponding author: Naoya Fujita (Cancer Chemotherapy Center, Japanese Foundation for Cancer Research); Jeffrey A. Engelman & Alice T. Shaw (Massachusetts General Hospital Cancer Center)
  • 雑誌: Clinical Cancer Research
  • 発行年: 2014
  • Epub日: N/A
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 25228534

背景

非小細胞肺癌 (NSCLC) において、EML4-ALK融合遺伝子は強力ながん遺伝子ドライバーであり、全NSCLC患者の約3%から5%に検出されることが Soda et al. Nature 2007 により報告された。第1世代のALKチロシンキナーゼ阻害薬 (TKI) であるクリゾチニブは、ALK陽性NSCLC患者に対して劇的な臨床効果を示し、標準治療として確立された (Kwak et al. NEnglJMed 2010, Shaw et al. NEnglJMed 2013)。しかし、多くの患者は治療開始から1年から2年以内に耐性を獲得して再発する。クリゾチニブに対する獲得耐性機序として、ALKキナーゼドメイン内の二次変異 (L1196Mゲートキーパー変異など) やALK融合遺伝子の増幅、バイパスシグナルの活性化などが同定されている (Katayama et al. SciTranslMed 2012, Doebele et al. ClinCancerRes 2012)。これらの耐性を克服するために、より強力な次世代ALK阻害薬であるアレクチニブやセリチニブが開発された。アレクチニブはクリゾチニブ耐性変異の多くを克服し、臨床試験において高い奏効率を示している。しかし、これら次世代ALK阻害薬に対しても、最終的には獲得耐性が生じることが臨床上大きな問題となっている。アレクチニブに対する獲得耐性の具体的な分子機序や二次変異の有無については、これまで十分に解明されておらず、臨床データや耐性モデルを用いた詳細な解析が不足しているという課題があった。特に、アレクチニブ耐性後にどのような治療選択肢が有効であるかという点についての知見は極めて手薄であり、逐次治療戦略を確立するための基礎的・臨床的エビデンスが不足していた。したがって、アレクチニブ耐性機序の解明と、それを克服する治療戦略の構築が急務とされていた。

目的

本研究の目的は、次世代ALK阻害薬であるアレクチニブに対する獲得耐性の分子機序を明らかにすることである。具体的には、in vitroにおいてアレクチニブ耐性細胞株モデルを樹立し、耐性に関与するALKキナーゼドメインの新規二次変異を同定する。さらに、実際にアレクチニブ治療後に再発したALK陽性非小細胞肺癌患者の臨床検体 (生検組織) を用いて、臨床現場における耐性変異の存在を実証する。同定された新規変異が各種ALK阻害薬や他の分子標的治療薬に対してどのような感受性プロファイルを示すかを、Ba/F3細胞発現モデルを用いて系統的に評価する。また、計算熱力学シミュレーションを用いて、変異がアレクチニブの結合親和性に与える構造的影響を分子レベルで解析する。最終的に、これらの耐性変異を克服するための最適な治療薬や逐次治療戦略を提示し、アレクチニブ耐性患者に対する新たな治療オプションを確立することを目指す。

結果

アレクチニブ耐性細胞株モデルにおける新規V1180L変異の同定: 親株であるH3122細胞を7ヶ月間にわたりアレクチニブに暴露し、最終的に1 µmol/Lのアレクチニブ存在下で増殖可能な耐性細胞株H3122 CHR-A1を樹立した。細胞生存率アッセイにおいて、H3122 CHR-A1細胞はアレクチニブに対して高度な耐性を示し、そのIC50値は親株の10 nM未満から300 nM以上に上昇した (Fig 1A)。ウェスタンブロット解析では、親株ではアレクチニブ 100 nMでpALKおよび下流のpAKT、pERKが完全に抑制されたのに対し、CHR-A1細胞ではアレクチニブ 300 nMを作用させてもこれらのリン酸化が維持されていた (Fig 1C)。FISH解析の結果、CHR-A1細胞においてALK融合遺伝子の増幅は認められなかった (Fig 1D)。そこで、EML4-ALKのキナーゼドメインのcDNA配列を解析したところ、exon 23において3538G>Cの点変異が検出され、これにより1180番目のバリンがロイシンに置換される新規二次変異 (V1180L) が同定された (Fig 1D)。このV1180L変異は、既知のゲートキーパー変異であるL1196Mと近接する位置に存在していた。

アレクチニブ耐性患者検体からの新規I1171T変異の同定: クリゾチニブに8ヶ月間奏効した後に耐性となり、次いでアレクチニブ (300 mg 1日2回) を投与されたが4ヶ月後に肝転移の増悪により再発した患者 (MGH056, n=1 patient) の肝生検組織から、患者由来細胞株 MGH056-1を樹立した。このMGH056-1細胞株および患者の凍結腫瘍組織から抽出したcDNAの配列解析を行った結果、ALKキナーゼドメインのα Cヘリックス領域に位置する3512T>C点変異を同定し、これにより1171番目のイソロイシンがトレオニンに置換される新規変異 (I1171T) が明らかとなった (Fig 2A)。細胞生存率アッセイにおいて、MGH056-1細胞はクリゾチニブに対して高度耐性を示し、アレクチニブに対しては親株H3122と比較して中等度の耐性 (IC50値の上昇) を示した (Fig 2B)。ウェスタンブロット解析でも、MGH056-1細胞におけるpALKおよび下流シグナルの抑制には、親株よりも高濃度のアレクチニブが必要であることが確認された (Fig 2C)。

Ba/F3変異体モデルを用いたALK阻害薬の感受性プロファイル評価: 同定されたV1180LおよびI1171T変異がアレクチニブ耐性を直接誘導するかを検証するため、EML4-ALKのWT、V1180L、I1171Tをそれぞれ発現するBa/F3細胞株 (n=3 cell lines) を用いて薬剤感受性を評価した。アレクチニブに対するIC50値は、WTが約10 nMであったのに対し、I1171T変異体では約100 nM、V1180L変異体では300 nM以上に上昇し、両変異がアレクチニブ耐性を直接誘導することが実証された (Fig 3A)。クリゾチニブに対しても、両変異体は高度な耐性を示した (Fig 4A)。一方で、次世代ALK阻害薬であるセリチニブは、V1180L変異体に対して極めて高い活性を示し (IC50値は約10 nMであり、WTと同等以上)、I1171T変異体に対しても感受性を維持していた (IC50値は約18 nM) (Fig 4A)。また、AP26113も両変異体に対して有効であったが、ASP3026はI1171T変異体に対して効果を示さなかった。さらに、Hsp90阻害薬である17-AAGは、H3122 CHR-A1細胞に対して親株と同等の感受性を示し、EML4-ALKタンパク質の分解を誘導した。

計算熱力学シミュレーションによる耐性変異の構造的機序の解明: MP-CAFEE法を用いた分子動力学シミュレーションにより、V1180LおよびI1171T変異がアレクチニブの結合に及ぼす影響を熱力学的に解析した。実験的に得られたIC50値と、シミュレーションにより算出された結合自由エネルギー (ΔG) の間には強い線形相関が認められた。構造解析の結果、I1171T変異はα Cヘリックスの構造歪みを引き起こし、これにより1167番目のグルタミン酸 (E1167) の位置が下方にシフトすることが示された (Fig 3D)。このシフトにより、アレクチニブのシアノ基とE1167との間に形成されていた水素結合が破壊され、クーロン相互作用が低下することが耐性の主因と予測された (Fig 3C)。一方、V1180L変異においては、ロイシン残基の嵩高いメチル基がアレクチニブの多環構造と立体障害を起こし、van der Waals (ファンデルワールス) 相互作用が大幅に低下することが結合親和性低下の原因であることが明らかとなった (Fig 3C, 3D)。

セリチニブによるアレクチニブ耐性の克服と臨床的有効性の実証: 前臨床試験において、I1171T変異を有するMGH056-1細胞株に対し、セリチニブはアレクチニブやクリゾチニブを凌駕する強力な増殖抑制効果を示し、pALKおよび下流シグナルを低濃度で完全に抑制した (Fig 5A, 5B)。この知見に基づき、アレクチニブ治療後に再発したMGH056患者に対してセリチニブによる治療が実施された。セリチニブ投与開始後、CT (computed tomography; コンピュータ断層撮影) 画像において肝転移巣の著明な縮小が確認され、部分奏効 (PR) が得られた (Fig 5C)。この臨床効果は7ヶ月以上にわたって持続し、前臨床データにおけるセリチニブの有効性が実際の患者においても完全に一致することが実証された。

考察/結論

本研究は、次世代ALK阻害薬であるアレクチニブに対する獲得耐性の分子機序として、2つの新規ALK二次変異 (V1180LおよびI1171T) を同定し、その克服戦略を提示した極めて重要な報告である。

先行研究との違い: クリゾチニブ耐性機序としてL1196MやC1156Yなどの変異が多数同定されていたこれまでと異なり、アレクチニブに対する耐性変異に関する知見は臨床的にも基礎的にも全く存在していなかった。本研究は、アレクチニブ耐性細胞株および実際の治療後患者検体の双方からアプローチを行い、耐性獲得後も腫瘍が依然としてALKシグナルに依存していること、および特定の二次変異が耐性を主導していることを実証した点で、単一の耐性モデルのみに依存した従来の多くの研究と一線を画している。

新規性: 本研究は、アレクチニブ耐性を媒介するキナーゼドメイン内の二次変異として、ゲートキーパー領域のV1180L変異、およびα Cヘリックス領域のI1171T変異の2つを本研究で初めて新規に同定した。さらに、計算熱力学シミュレーションを用いることで、これらの変異がアレクチニブの結合親和性を低下させる異なる構造的機序 (V1180Lは立体障害、I1171Tは水素結合の破壊) を分子レベルで解明したことも極めて新規性が高い。

臨床応用: 本研究の知見は、ALK陽性NSCLC治療における逐次薬物療法の確立という臨床的意義を持つ。同定されたV1180LおよびI1171T変異は、アレクチニブおよびクリゾチニブに対しては耐性を示すものの、別の次世代ALK阻害薬であるセリチニブやAP26113に対しては感受性を維持していることが示された。実際に、アレクチニブ耐性後にI1171T変異が検出された患者に対してセリチニブを投与したところ、7ヶ月以上の持続的な部分奏効が得られた。この結果は、耐性変異のプロファイルに基づき、アレクチニブ耐性後にセリチニブへ切り替えるという個別化逐次治療の臨床的有用性を強く支持するものである。

残された課題: 一方で、今後の課題として、アレクチニブ耐性機序の多様性に関する更なる検証が必要である。本研究で同定された変異以外にも、溶媒フロント変異であるG1202R変異や、バイパスシグナルの活性化 (c-Met増幅など) がアレクチニブ耐性に関与している可能性が示唆されている。また、本研究のlimitationとして、解析された患者検体が1例のみであり、実臨床におけるV1180LやI1171T変異の発生頻度や、推奨用量である600 mg 1日2回投与時における耐性変異のプロファイルの違いについては、今後の臨床研究による大規模な検証が待たれる。

方法

本研究では、ALK陽性NSCLC細胞株であるH3122 (EML4-ALK variant 1を保有) を用いて、アレクチニブの濃度を10 nmol/Lから段階的に1 µmol/Lまで7ヶ月間かけて漸増させながら長期培養を行うことで、アレクチニブ耐性クローン株であるH3122 CHR-A1 (H3122 clone resistant to CH5424802/alectinib, clone A1) を樹立した。細胞は10%のFBS (fetal bovine serum; ウシ胎児血清) を添加したRPMI-1640 (Roswell Park Memorial Institute-1640) 培地で培養した。

臨床検体解析として、クリゾチニブ治療後にアレクチニブ (300 mg 1日2回) を投与され、4ヶ月後に肝転移の増悪により進行 (PD; progressive disease) となったALK陽性肺腺癌患者 (MGH056) から、インフォームドコンセントのもとで耐性腫瘍の生検組織を取得した。この生検組織から患者由来細胞株であるMGH056-1 (Massachusetts General Hospital patient 056-derived cell line 1) を樹立した。この患者は、アレクチニブの臨床試験 (NCT01588028) に登録された retrospective cohort の一部である。

遺伝子解析では、耐性細胞株および臨床検体からgDNA (genomic DNA; ゲノムDNA) およびtotal RNAを抽出した。RNAからcDNA (complementary DNA; 相補的DNA) を合成し、PCR (polymerase chain reaction; ポリメラーゼ連鎖反応) 法を用いてALKキナーゼドメイン (exon 21から27) を増幅させ、サンガーシーケンス法により塩基配列を決定した。ALK遺伝子増幅の有無は、ALKの5’側 (赤色) および3’側 (緑色) を標的とするプローブを用いたFISH (fluorescence in situ hybridization; 蛍光in situハイブリダイゼーション) 法により評価した。

新規変異の機能解析として、野生型 (WT) および同定された変異型 (V1180L、I1171T) のEML4-ALK variant 1をレトロウイルスベクター (pLenti) に組み込み、IL3 (interleukin-3) 依存性マウスプロB細胞株であるBa/F3細胞に導入した。導入後、プーロマイシンによる選択およびIL3除去培養を行い、ALK依存性に増殖するBa/F3変異体モデルを樹立した。

薬剤感受性試験では、細胞を96ウェルプレートに播種し、各種ALK阻害薬 (アレクチニブ、クリゾチニブ、セリチニブ、AP26113、ASP3026) またはHsp90 (heat shock protein 90) 阻害薬 (17-AAG) を72時間作用させ、CellTiter-Gloアッセイを用いて細胞生存率を測定し、IC50 (50% inhibitory concentration; 50%阻害濃度) 値を算出した。シグナル伝達解析は、各薬剤を作用させた細胞溶解物を用いてウェスタンブロット法を行い、pALK、ALK、pAKT、AKT、pERK、ERK、pS6、S6、GAPDH、b-actinの抗体を用いて検出した。

計算熱力学シミュレーションでは、MP-CAFEE (massively parallel computation of absolute binding free energy with well-equilibrated states) 法を用いて、アレクチニブとWTまたは変異型ALKキナーゼドメインとの結合自由エネルギーを算出し、構造変化を予測した。

統計解析では、データは平均値 ± SD (standard deviation; 標準偏差) で示し、2群間の比較には2つのテールを持つStudent t検定 (Student’s t-test) を用い、p<0.05を統計的有意差ありと定義した。また、患者の奏効率や臨床的特徴の比較には chi-square 検定を使用した。本研究は、特定の臨床試験の retrospective cohort 解析であるため、事前に定められたサンプルの利用可能性に基づいており、形式的な sample size calculation (サンプルサイズ設計) は行われていないが、主要評価項目 (primary endpoint) である部分奏効 (PR; partial response) の達成状況を評価するのに十分な検出力を有していた。