- 著者: Lihua Huang, Liwu Fu
- Corresponding author: Liwu Fu (State Key Laboratory of Oncology in Southern China, Cancer Center, Sun Yat-Sen University, Guangzhou 510060, China)
- 雑誌: Acta Pharmaceutica Sinica B
- 発行年: 2015
- Epub日: 2015-07-26
- Article種別: Review
- PMID: 26579470
背景
EGFR (epidermal growth factor receptor) は HER (human epidermal receptor) ファミリーに属する膜貫通型受容体チロシンキナーゼであり、リガンド (EGF、TGFα) との結合を契機にホモ二量体またはヘテロ二量体を形成し、RAS/RAF/MAPK (mitogen-activated protein kinase)、PI3K/AKT、JAK/STAT の 3 大下流経路を介して細胞増殖・生存・分化を制御する。EGFR 遺伝子変異陽性 NSCLC (non-small cell lung cancer) においては、「オンコジーン依存性 (oncogene addiction)」の原理により腫瘍細胞が変異型 EGFR シグナルに全面依存するため、EGFR-TKI (tyrosine kinase inhibitor) であるゲフィチニブやエルロチニブが劇的な奏効を示す。しかし、これらの第一世代 EGFR-TKI の治療効果は平均約 1 年で減弱し、ほぼ全例が獲得耐性を生じる。
先行研究として、Kobayashi et al. NEnglJMed 2005 は EGFR exon 20 の T790M 二次変異を獲得耐性の主要機序として初報告した。Engelman et al. Science 2007 は HCC827 細胞株モデルでゲフィチニブ耐性における c-Met 遺伝子増幅の役割を実証し、バイパス経路が独立した耐性ドライバーとなりうることを示した。さらに Yu et al. ClinCancerRes 2013 は n=155 例の耐性 NSCLC 患者の連続検体を解析し、T790M 変異が約 49%、c-Met 増幅が約 22% と複数の耐性機序が並存することを臨床的に実証した。しかし、これらの知見は各機序を個別に検討したものであり、21 種に及ぶ耐性サブ機序を 6 大カテゴリとして統合し、対応する治療戦略との対応関係を体系化したレビューは不足しており、特に「どの耐性機序にどの標的薬を組み合わせるか」という臨床判断を支援する包括的な知識体系に gap in knowledge が残されていた。
目的
本レビューは、第一世代および第二世代 EGFR-TKI (ゲフィチニブ、エルロチニブ、アファチニブ) に対する一次耐性および獲得耐性の多様な分子メカニズムを 6 大カテゴリ (EGFR 二次変異、バイパス経路活性化、下流シグナル異常、アポトーシス経路障害、組織学的転換、ABC (ATP-binding cassette) トランスポーター) に体系化し、各機序を克服するための合理的な治療標的と臨床試験段階にある治療戦略を横断的に提示することを目的とする。前臨床データ (細胞株・マウスモデル) と臨床試験エビデンスを統合し、耐性診断後の個別化治療選択に資する包括的なフレームワークの構築を目指す。
結果
T790M ゲートキーパー変異による耐性: EGFR-TKI 獲得耐性例の約 50% を占める最頻耐性機序である。EGFR exon 20 コドン 790 でスレオニンがメチオニンに置換した T790M 変異は、ATP 結合ポケット入口の「ゲートキーパー」残基の立体的嵩高さを増すと当初解釈されていたが、Yun et al. ProcNatlAcadSciUSA 2008 により真の機序が ATP 親和性の約 10-fold 上昇であることが解明された。この結果、第一世代 TKI は ATP と競合的に結合できなくなり耐性が生じる (Fig 2)。T790M 変異は L858R 変異と共存した場合、さらなるリン酸化活性の増強をもたらし、細胞生存促進作用を示すことから「がん遺伝子」としての性質も持つ。Su et al. JClinOncol 2012 は、治療前検体における T790M の高感度検出が短 PFS と相関することを実証した。T790M 変異の産生には「サブクローン理論」(治療前から微小割合で存在する抵抗性クローンが治療圧により選択される) と「誘導変異理論」の 2 説があり、T790M 陰性腫瘍においても約半数の治療後患者で T790M が検出される。この変異に対して T790M 選択的第三世代 EGFR-TKI の開発が進み、Cross et al. CancerDiscov 2014 は AZD9291 (オシメルチニブ) が T790M 陽性腫瘍モデルで IC50 < 10 nM の強力な阻害効果を示す一方、野生型 EGFR への毒性が低いことを前臨床で実証した。また Walter et al. CancerDiscov 2013 は CO-1686 が同様の選択的抑制効果を有することを示した。T790M 以外の非 T790M 二次変異として L747S、D761Y、T854A も報告されているが頻度は低く、exon 20 への新規挿入変異 (Pro772_His773insGlnCysPro) も非喫煙者で同定されている。
バイパス受容体経路の活性化 (HER ファミリー・c-Met・AXL): 第二の主要カテゴリは、EGFR 外の受容体チロシンキナーゼが TKI 存在下でも下流経路を維持する「バイパス」機序である。HER ファミリーでは、HER2 の増幅や変異が耐性例の約 12% で観察され、HER3 は固有のキナーゼ活性を持たないものの、HER1/2 または c-Met 増幅により HER3 がリン酸化されて PI3K/AKT・MEK/MAPK 経路を強力に活性化する。Engelman et al. Science 2007 はゲフィチニブ耐性 HCC827 細胞において c-Met 増幅が EGFR キナーゼ活性非依存的に HER3 をリン酸化し PI3K/AKT 経路を維持することを示し、臨床検体では c-Met 増幅が 5-22% の耐性例で検出される。HGF (hepatocyte growth factor) は c-Met のリガンドであり、HGF 過剰発現は c-Met を介して MAPK/ERK および PI3K/AKT 経路を回復させる経路で耐性を誘導するが、HER3 や EGFR とは独立した経路を使用する点で c-Met 増幅とは異なる。Zhang et al. NatGenet 2012 はエルロチニブ耐性 NSCLC 腫瘍異種移植モデルにおいて AXL 受容体チロシンキナーゼの過剰発現と活性化を同定し、GAS6 (growth-arrest-specific protein 6) リガンドによる AXL の活性化が AKT/MAPK シグナルを促進するとともに Slug 発現誘導を通じ上皮間葉転換 (EMT) プロセスと連動することを示した (Fig 3)。AXL 阻害薬 (MP-470、XL-880、NPS-1034) の前臨床モデルでの有効性が実証されており、Rho et al. CancerRes 2014 は c-Met/AXL 二重阻害薬 NPS-1034 が耐性細胞株に対して有効であることを示した。
血管新生・その他のバイパス経路: VEGF (vascular endothelial growth factor)/VEGFR2 (VEGF receptor 2) 経路は NSCLC 細胞内の VEGFR2/PI3K/mTOR を介した feed-forward loop を形成し、HIF-1α を介して VEGF 分泌を増幅させることで抗 EGFR 薬への抵抗性に寄与する (Fig 3)。FGFR2 (fibroblast growth factor receptor 2)/FGFR3 は TKI 治療後に発現が上昇し、FGF2 (fibroblast growth factor 2)/FGF7 (fibroblast growth factor 7) 刺激による ERK 活性化を介して細胞生存を維持する脱抑制型エスケープ機構として機能する。EGFRvIII は exon 2-7 の 801 bp 欠失による腫瘍特異的変異体であり、EGFRvIII/EGFR 活性化細胞では PDGFRβ へのキナーゼスイッチが起こり TKI 耐性を付与する。IL-6 は IL-6R/JAK1/STAT3 経路を活性化し、アファチニブに対する de novo 耐性を誘導する一方、TGFβ 軸を介してパラクリン・オートクリン的に IL-6 分泌を促進することで耐性増悪のループを形成する。CRKL (Crk-like protein) 遺伝子増幅は EGFR 変異耐性例の 1/11 例で観察され、ERK/AKT シグナルを介して耐性を誘導する。インテグリン β1 の過剰発現は FAK (focal adhesion kinase)/SRC 経路を活性化し、c-Met との協調による PI3K/AKT 経路の維持を通じて耐性を付与する。
下流シグナル伝達分子の異常: Pao et al. PLoSMed 2005 はコドン 12/13 の KRAS 変異が単剤ゲフィチニブ・エルロチニブ一次耐性の強力なバイオマーカーであることを示した。KRAS 変異の約 80% がコドン 12 に集中し、GTP 結合型活性化状態を維持して上流の EGFR 阻害に依存しない恒常的 MAPK 経路の駆動を引き起こす。PTEN はコドン 10q23.3 に位置する腫瘍抑制遺伝子であり、PI3-(3,4,5)-三リン酸を脱リン酸化して PI3K/AKT/mTOR 経路を負に制御するが、PTEN 発現消失は AKT の持続活性化をもたらしエルロチニブ耐性を誘導し、早期切除 NSCLC の独立予後因子となる。PIK3CA の触媒サブユニット遺伝子変異 (E542K、E545K、H1047R 等) は EGFR または KRAS 変異と高頻度に共存し、PI3K/AKT 経路を恒常活性化させる。BRAF V600E 変異は RAF/MEK/ERK 経路を構成的に活性化し、EGFR-TKI 獲得耐性例の約 1% で検出される。deBruin et al. CancerDiscov 2014 は、RAS GTPase 活性化タンパク質をコードする NF1 遺伝子の発現低下が RAS/RAF/MEK/ERK 経路の完全阻害を妨げてエルロチニブ耐性を誘導することを実証し、EGFR と MEK 阻害薬の併用による耐性克服の可能性を示した (Table 1)。
アポトーシス経路障害:BIM 欠失多型: BCL2-like 11 / BIM (BCL2L11) は BCL-2 ファミリーのプロアポトーシスタンパク質であり、EGFR-TKI によるアポトーシス誘導において不可欠な役割を担う BH3 (BCL2-homology domain 3) ドメインを有する。イントロン 2 における 2,903 bp の生殖細胞系欠失多型 (BIM deletion polymorphism) は、スプライシングを exon 4 から exon 3 に切り替えることで BH3 ドメインを欠く不活性型 BIM アイソフォームの産生を優先させ、EGFR-TKI 誘発性アポトーシスを阻害する (Fig 4)。この多型は東アジア人集団の約 12.9% に認められ、慢性骨髄性白血病 (CML) および EGFR 変異 NSCLC 細胞株において TKI に対する内因性耐性を付与することが実証されている。BH3 ミメティクス薬による克服が示されており、PP2A (protein phosphatase 2A) 活性化薬 FTY720 が BIM と BID (BH3-interacting domain death agonist) の二重活性化を介して CML 細胞のアポトーシスを誘導し TKI 耐性を克服する前臨床データが示された。
組織学的転換:EMT と小細胞肺癌転換: EMT (epithelial-mesenchymal transition) は胚発生に由来する生理的プロセスが腫瘍環境で再活性化したものであり、E-カドヘリンの消失とビメンチン・N-カドヘリンの発現獲得を特徴とする。2005 年に EGFR-TKI 治療中の患者で間葉型表現型への転換が観察され、その後 AXL/PI3K/AKT 経路の活性化、E-カドヘリン消失による EGFR-MEK/ERK/ZEB1/MMP2 軸の活性化、IL-6・TGFβ・FGF・HGF などのサイトカインによる誘導が EMT 促進因子として同定された (Fig 3)。Co-targeting による EMT 関連耐性克服 (Src/FAK 阻害等) が前臨床で報告されている。EGFR 変異を保持しながら小細胞肺癌 (SCLC) の組織型を示す転換は耐性例の約 14% で観察され、RB1 遺伝子不活性化や TP53 変異と密接に関連する。SCLC へ転換した場合、プラチナ製剤+VP-16 などの SCLC 標準療法が有効となり、一定期間の細胞傷害性化学療法後に TKI 感受性が再出現するケースも報告されている。
ABC トランスポーターと EML4-ALK 融合遺伝子: ABCB1 (ATP binding cassette, sub-family B, member 1) および ABCG2 (ATP binding cassette, sub-family G, member 2) はラパチニブなどの TKI と高親和性に結合し過剰発現することで、細胞内薬剤濃度を低下させ耐性を付与する。ABCC1 および ABCC10 も同様の薬剤排出に関与する。GW583340 および GW2974 は EGFR/HER-2 阻害薬として ABCG2・ABCB1 介在耐性を逆転させる可能性が報告された (Table 1)。Soda et al. Nature 2007 により同定された EML4-ALK 融合遺伝子は NSCLC の特に非喫煙者・腺癌患者に高頻度で認められ、Kwak et al. NEnglJMed 2010 による第一相試験でクリゾチニブの劇的な腫瘍縮小効果が確認された。しかし ALK 陽性肺癌においても ALK 二次変異と EGFR シグナル活性化が協調して耐性を形成することが Sasaki et al. CancerRes 2011 により示され、EGFR-TKI と ALK 阻害薬の併用療法開発の根拠となっている。
考察/結論
先行研究との違い: 本レビューは特定の単一耐性機序のみに焦点を当てていた従来の個別研究とは異なり、2005 年から 2015 年に発表された研究を統合して EGFR-TKI 耐性の 21 種のサブ機序を 6 大カテゴリに体系化した点が際立つ。既報の T790M 変異・c-Met 増幅に関する単独レビューとは対照的に、これまで個別に議論されてきた ABC トランスポーター、BIM 欠失多型、SCLC 転換といった機序を同一フレームワーク内に統合することで、耐性の全体像と相互作用の複雑性を初めて一望できるように整理した点で重要な差異がある。
新規性: 本研究で初めて、EGFR-TKI 耐性における「バイパス経路スイッチ」と「組織学的転換」の分子的なオーバーラップを整理し、各耐性機序に対応する標的治療薬の臨床試験フェーズをマッピングした包括的な治療マトリクス (Table 1) を新規に提示した。この治療戦略マップにより、耐性獲得後の二次・三次治療における合理的な標的選択基準が明確化された。特に T790M 特異的阻害薬 (AZD9291・CO-1686) が 2013-2014 年に臨床開発され、本レビュー時点で Phase I/II 試験が進行中という最新知見が組み込まれている。
臨床応用: 本知見は EGFR 変異陽性 NSCLC の個別化医療の臨床応用に直結する。治療開始前の高感度遺伝子スクリーニング (T790M の超高感度液体生検・BIM 欠失多型の生殖細胞系 PCR 検査) および耐性進行時の再生検 (SCLC 転換・c-Met 増幅・T790M 状態の再評価) を実施することで、患者個々の耐性プロファイルに応じた次世代 TKI (オシメルチニブなど) や標的薬併用療法の選択が可能となる。bench-to-bedside の観点から、前臨床で実証された MEK 阻害薬・PI3K 阻害薬・Hsp90 阻害薬の耐性克服効果を臨床現場に橋渡しするための試験が並行して進行している。
残された課題: 今後の検討課題として、同一患者内における複数耐性機序の共存 (例:T790M 変異と c-Met 増幅が異なる転移巣に同時発生) や時間的クローン進化の問題がある。単一生検に基づく耐性診断では空間的不均一性を見逃す limitation があり、液体生検による循環腫瘍 DNA のモニタリングが今後の研究課題である。また、複数標的を同時に阻害する多剤併用療法では毒性の重積が課題となり、臨床的意義を最大化しながら安全な投与スケジュールを確立するための更なる検討が求められる。
方法
レビュー設計: 2005 年から 2015 年までに発表された EGFR-TKI 獲得耐性に関する査読済み原著論文・総説・臨床試験報告を網羅的に検索・統合したナラティブレビューである。主要文献データベースとして PubMed および Web of Science を使用し、「EGFR-TKI resistance」「T790M」「c-Met amplification」「EMT in lung cancer」「BIM deletion polymorphism」などのキーワードで検索を実施した。
対象薬剤と評価軸: 対象薬剤は第一世代可逆的 EGFR-TKI (ゲフィチニブ・エルロチニブ)、第二世代不可逆的 pan-ERBB 阻害薬 (アファチニブ)、および耐性克服戦略として開発中の第三世代 T790M 選択的 TKI (AZD9291 [オシメルチニブ]、CO-1686 [ロシレチニブ])、c-Met 阻害薬 (クリゾチニブ)、MEK (mitogen-activated protein kinase kinase) 阻害薬、PI3K 阻害薬、Hsp90 阻害薬、抗体製剤 (セツキシマブ、ベバシズマブ、シルツキシマブ) に及ぶ。データ抽出は (1) 耐性機序の分子生物学的特性、(2) 臨床検体における検出頻度、(3) 細胞株 (PC9、HCC827、H1975、A549 等) および動物モデルを用いた機能検証データ、(4) 耐性克服薬の臨床試験フェーズ の 4 軸で行った。引用文献における定量的指標として、Kaplan-Meier 法による無増悪生存期間 (PFS)・全生存期間 (OS) の推定、Cox regression モデルによるハザード比 (HR) 評価、IC50・EC50 値等の薬理学的パラメーターを抽出した。