• 著者: Weihua Li, Lei Guo, Yutao Liu, Lin Dong, Lin Yang, Li Chen, Kaihua Liu, Yang Shao, Jianming Ying
  • Corresponding author: Jianming Ying (National Cancer Center/National Clinical Research Center for Cancer, Beijing)
  • 雑誌: Journal of Thoracic Oncology
  • 発行年: 2021
  • Epub日: N/A
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 33248323

背景

非小細胞肺癌 (NSCLC) において、ALK、ROS1、RET融合遺伝子は重要なドライバー変異として認識されており、これらの融合遺伝子を標的とするチロシンキナーゼ阻害薬 (TKI) は、対応するALK、ROS1、RET融合陽性患者に対して顕著な臨床効果を示す。例えば、ALK融合陽性NSCLCに対してはクリゾチニブやアレクチニブが、ROS1融合陽性NSCLCに対してはクリゾチニブやロルラチニブが、RET融合陽性NSCLCに対してはセルペルカチニブなどが有効であると報告されている Takeuchi et al. NatMed 2012Shaw et al. LancetOncol 2019Shaw et al. AnnOncol 2019。しかし、これらのTKIに対する臨床反応の期間は患者間で不均一であり、一部の患者は治療開始後1年以内に獲得耐性を発現し、ごく一部の患者は内因性耐性により最良効果が病勢進行 (PD) となることが報告されている Camidge et al. LancetOncol 2012

近年、ターゲットキャプチャーDNA次世代シーケンシング (DNA NGS) の普及により、ALK、ROS1、RET融合遺伝子において多様なゲノムブレークポイントが同定されるようになった。DNA NGSはゲノムレベルで特定の塩基位置のブレークポイントを特定できるため、様々な融合バリアントを検出可能である。これまでの研究では、EML4-ALKバリアントやALK再配列例におけるTP53同時変異、ROS1再配列例における融合パートナーの種類などがクリゾチニブの有効性と関連することが示されている Yoshida et al. JClinOncol 2016Lin et al. JClinOncol 2018。また、DNA NGSにより、稀なまたは未報告の融合パートナーを持つ非典型的融合 (noncanonical fusion) や、プライマリーおよびレジプロカルな再配列が同時に検出されるプライマリー/レジプロカル融合 (primary/reciprocal fusion) など、いくつかの非典型的融合バリアントが同定されている。

しかし、DNA NGSで検出されるこれらの非典型的ゲノムブレークポイントを有する融合が、実際に機能的なインフレーム融合転写産物を生成するかどうかは未解明であった。スプライシングや転写産物のプロセシングの生物学的複雑性により、ゲノムレベルでの再配列が必ずしもRNAレベルでの機能的融合転写産物につながるとは限らないため、DNA NGSのみによる判定では標的治療への応答予測精度が低下する可能性が指摘されていた。特にイントロン内やエクソン外のブレークポイントを持つ非典型的な融合の場合、DNA NGSの結果がRNAレベルやタンパク質レベルでの機能的融合の存在を正確に予測できないという知識ギャップが残されている。このような状況下で、DNA NGSで検出された非典型的融合の信頼性を包括的に評価し、RNA/タンパク質レベルでの機能的検証の必要性を検討することは、適切な標的治療の選択と不必要な治療の回避のために極めて重要である。DNA NGS単独では、稀な融合の機能的検証が不足しているという課題が存在する。

目的

本研究の目的は、DNA NGSによって検出されたALK、ROS1、RET融合遺伝子の非典型的ゲノムブレークポイントの信頼性を包括的に評価することである。具体的には、これらの非典型的融合がRNAレベルおよびタンパク質レベルで実際に機能的な融合転写産物や融合タンパク質を生成するかどうかを多次元的な分子プロファイリング手法を用いて検証する。さらに、DNA NGSで検出されたALK融合のサブタイプと、クリゾチニブによる標的治療の有効性との関連性を解析し、非典型的ゲノムブレークポイントが標的治療の有効性予測において信頼できる指標となるか否かを検討する。最終的に、DNA NGSで検出された稀な融合の正確な検出と解釈のために、RNAまたはタンパク質アッセイによる機能的検証が臨床的価値を持つかどうかを明らかにすることを目指す。

結果

融合遺伝子の全体的検出状況とサブタイプ分類: 3,787例のNSCLCサンプルをDNA NGSで解析した結果、ALK融合が241例、ROS1融合が59例、RET融合が76例で検出された。これらの融合は、ゲノムブレークポイントの位置と融合パートナーに基づいて、canonical fusion (典型的融合) が280例 (74.5%)、noncanonical fusion (非典型的融合) が45例 (12.0%)、primary/reciprocal fusion (プライマリー/レジプロカル融合) が51例 (13.5%) であった。Noncanonical fusionとprimary/reciprocal fusionを合わせたuncommon fusionは、ALK融合の19.5% (47/241例)、ROS1融合の11.9% (7/59例)、RET融合の11.8% (9/76例) を占めた。異なる融合サブタイプ間で、臨床病理学的特徴に顕著な差は認められなかった (Supplementary Table 3)。また、ALK、ROS1、RET間で融合サブタイプの分布に有意差はなかった (Fig. 1C)。TP53はこれらの症例で最も頻繁に変異していた遺伝子であったが、ALK、ROS1、RET融合間でのTP53変異の分布に差はなかった (Fig. 1D)。

非生産的再配列の同定と機能的検証: Uncommon fusion 47例 (非典型的融合24例、プライマリー/レジプロカル融合23例) に対してRNAシーケンシングとIHCによる機能的検証を実施した。その結果、47例中6例 (12.8%) が、DNAレベル (DNA NGSおよびFISH) では陽性であったものの、IHCおよびRNA NGSでは陰性であり、異常な転写産物やタンパク質を産生しない「非生産的再配列」であることが判明した (Table 2)。これらの症例はDNA NGSでは融合陽性と判定されながら、実際には機能的な融合タンパクを産生しないため、標的治療の恩恵を受けない可能性が示唆された。例えば、B356症例ではCLIP4-ALK再配列がDNAレベルで検出されたが、機能的な転写産物もキメラ融合タンパク質も同定されなかった (Supplementary Fig. 1A)。これは転写サイレンシングによる可能性が考えられる。同様の非機能的融合は他の3症例 (B131、B444、B2506) でも確認された。B389症例では、EML4のエクソン21にプライマリーALK融合のゲノムブレークポイントが存在し、アウトフレームタンパク質が生成される可能性が高い。ROS1融合のB565症例でも、ROS1のエクソン35にゲノムブレークポイントが存在し、コーディング配列が破壊されることで非機能的融合が生じていた。

非典型的融合における典型的融合転写産物の産生: 残りの41例 (非典型的融合20例、プライマリー/レジプロカル融合21例) では、DNAおよびRNAレベルの両方で陽性所見が認められた。これらの症例の多くで、ゲノムブレークポイントと転写レベルのブレークポイントは一致しなかった (Table 1)。非典型的融合サブタイプでは、20例中14例 (70%) で、RNAレベルでの融合パートナーがDNA NGSで予測されたものと異なっていた。これらの14例でDNA NGSにより同定された融合パートナーは稀なまたは未報告のものであったが、RNA NGSによると、実際の融合パートナーはEML4 (ALK融合)、CD74 (ROS1融合)、KIF5BおよびCCDC6 (RET融合) といった一般的な遺伝子から転写されていた。プライマリー/レジプロカル融合サブタイプでは、DNA NGSでプライマリーおよびレジプロカルな再配列の両方が観察されたが、RNAレベルではプライマリー融合 (3’-ALKおよび3’-RET融合) のみが同定された。WTSを7例のプライマリー/レジプロカル融合 (ALK融合5例、RET融合2例) で実施した結果も、RNA NGSと同様に3’融合のみが検出され、レジプロカル融合転写産物は同定されなかった。

クリゾチニブへの治療効果との関連: DNA NGSでALK融合が同定され、一次治療としてクリゾチニブを投与された84例の患者を解析した (Fig. 2A)。このうち、uncommon ALK融合患者 (n=31) は、canonical ALK融合患者 (n=53) と比較して、PFS中央値が有意に短かった (8.4ヶ月 vs 12.0ヶ月、HR 2.13 (95% CI 1.27-3.59), p = 0.004) (Supplementary Fig. 2B)。特に、primary/reciprocal ALK融合患者はcanonical ALK融合患者と比較して、客観的奏効率 (ORR) が有意に低く (50.0% vs 77.3%、p = 0.028)、PFSも有意に短かった (8.0ヶ月 vs 12.0ヶ月、HR 2.13 (95% CI 1.27-3.59), p = 0.009) (Fig. 2C)。単変量および多変量解析では、TP53変異とuncommon ALK融合がPFS短縮と有意に関連していた (Table 4)。

しかし、RNA NGSまたはIHCでALK融合が確認された症例のみを対象に解析した場合 (n=61)、uncommon ALK融合患者 (n=20) とcanonical ALK融合患者 (n=41) の間でPFSに有意差は認められなかった (11.0ヶ月 vs 11.8ヶ月、HR 1.50 (95% CI 0.82-2.75), p = 0.185) (Supplementary Fig. 2C)。DNA NGSで検出されたuncommon ALK融合のうち、RNA/タンパク質陽性であった患者は、RNA/タンパク質陰性であった患者と比較して、クリゾチニブに対する奏効期間が有意に長かった (11.0ヶ月 vs 2.0ヶ月、p = 0.001) (Fig. 2F)。これは、uncommon fusionの中に含まれる非生産的再配列例が、DNA NGSのみで判定された場合の全体の成績を引き下げていることを示唆している。

考察/結論

本研究は、DNA NGS単独によるALK、ROS1、RET融合検出の限界を明確に示した。特に、非典型的ゲノムブレークポイントを有するuncommon ALK/ROS1/RET融合の12.8% (47例中6例) が非生産的再配列であり、これらの患者は標的治療の恩恵を受けない可能性が示された。これは、DNA NGSで融合が検出されても、必ずしも機能的な融合タンパク質が産生されるわけではないという重要な知見である。一方、uncommon fusionの85.4% (41例中35例) はRNA/タンパク質レベルで実際には典型的な融合転写産物を産生しており、これらの患者には標的治療が適応されるべきである。

先行研究との違い: これまでの研究では、DNA NGSで検出された稀な融合バリアントが標的治療に感受性を示すことが報告されてきたが、ゲノムレベルとトランスクリプトームレベルの不一致を系統的に大規模コホート (3,787例) で評価し、その臨床転帰への影響を詳細に解析した研究はこれまで報告されていない。本研究は、DNA NGSで検出された非典型的ブレークポイントが、RNA/タンパク質レベルでの機能的融合の存在を必ずしも正確に予測しないという点で、これまでの報告とは対照的な結果を示している。

新規性: 本研究で初めて、uncommon ALK融合患者におけるクリゾチニブのPFSが、DNA NGSのみで評価した場合にcanonical ALK融合患者と比較して有意に短いことを実証した。さらに、RNA/タンパク質レベルでの機能的検証により、このPFSの差が非生産的再配列の存在に起因することを明らかにした点は新規性が高い。また、DNA NGSで検出された非典型的融合の多くが、複雑なスプライシングを経てRNAレベルでは一般的な融合転写産物を生成するという生物学的複雑性も本研究で初めて詳細に示された。

臨床応用: 本知見は、NSCLC患者の治療戦略に重要な臨床的含意を持つ。DNA NGSで融合が検出されたものの非典型的ブレークポイントを持つ症例では、RNA NGSまたはIHCによる機能的確認が治療決定前に強く推奨される。特に、非典型的ブレークポイントの場合、12.8%が非生産的再配列であるという具体的なリスクが示されており、不必要な標的治療投与を避けるためのRNA/タンパク質レベルの検証が正当化される。この結果は、現在の臨床ゲノム検査においてDNA NGSにRNA/タンパク質レベルの確認を組み合わせる「マルチモーダルアプローチ」の重要性を支持する重要なエビデンスを提供する。

残された課題: 今後の検討課題として、非生産的再配列を示す具体的なゲノムブレークポイントの特徴を系統的に記述し、その予測モデルを開発することが挙げられる。また、本研究では組織量の制限やRNA品質の低さにより、全てのuncommon fusion、特にROS1のprimary/reciprocal fusionの検証ができなかった点がlimitationである。さらに、クリゾチニブ以外の第2世代・第3世代ALK TKI (アレクチニブ、ブリガチニブ、エンサルチニブ、ロルラチニブなど) の有効性との関連については、サンプルサイズの制約から十分に評価できなかった。これらのTKIは近年、一次治療としてクリゾチニブよりも優れていることが示されており Peters et al. NEnglJMed 2017Camidge et al. NEnglJMed 2018、今後の研究でこれらの薬剤に対するuncommon fusionの応答を評価する必要がある。

方法

本研究では、2017年1月から2019年12月にかけて収集された中国人NSCLC患者3,787例の組織サンプルを対象とした。これらの患者は、腫瘍病期に基づいてコホートA (ステージI-IIIAの肺腺癌1,171例) とコホートB (切除不能なステージIIIBまたはIVのNSCLC 2,616例) に分けられた。本研究は、中国医学科学院腫瘍病院の施設内審査委員会によって承認され、全ての患者からインフォームドコンセントを得た。

DNA NGS解析: 全てのサンプルに対して、56遺伝子パネルを用いたターゲットキャプチャーDNA NGSを実施した。このパネルは、既報の通り、変異、コピー数変異、および再配列の検出に用いられた。ゲノムブレークポイントが遺伝子間領域で検出された場合、最も近い遺伝子が予測される融合パートナーとして報告された。

融合の分類: DNA NGSで検出された融合は、ゲノムブレークポイントの位置と融合パートナーに基づいて、以下の3つのサブグループに分類された。

  1. Canonical fusion (典型的融合): 3例以上で同定された融合バリアント。EML4-ALK、CD74/EZR/TPM3/SDC4-ROS1、KIF5B/CCDC6-RETの単一融合を含む。
  2. Noncanonical fusion (非典型的融合): 3例未満で同定された融合バリアント。非EML4-ALK、非CD74/EZR/TPM3/SDC4-ROS1、非KIF5B/CCDC6-RETの単一融合を含む。
  3. Primary/reciprocal fusion (プライマリー/レジプロカル融合): DNA NGSによりプライマリーおよびレジプロカルな再配列の両方が検出された融合。 Noncanonical fusionとPrimary/reciprocal fusionを合わせて「uncommon fusion (非典型的融合)」と定義した。

RNA/タンパク質レベルでの機能的検証: Uncommon fusionと判定された47例 (非典型的融合24例、プライマリー/レジプロカル融合23例) に対して、ターゲット特異的RNA NGS、全トランスクリプトームシーケンシング (WTS)、および免疫組織化学染色 (IHC) を用いた多次元的な機能的検証を実施した。RNA NGSは、既報の通り、共通の融合およびエクソンスキッピングイベントを転写レベルで同定するために行われた。WTSは、KAPA Stranded RNA Sequencing Library Preparation Kitを用いてライブラリ調製後、Illumina HiSeq NGSプラットフォームでシーケンスされた。FusionCatcher (version 0.99.4e) およびin-houseスクリプトを用いたBLASTツールで融合を解析し、Integrative Genomics Viewerで手動確認した。IHCは、ALK融合のタンパク質発現を確認するために実施された。

クリゾチニブ治療効果の評価: コホートBの患者のうち、DNA NGSでALK融合が同定され、一次治療としてクリゾチニブを投与された84例を対象に治療効果を評価した。クリゾチニブは1日2回250mgの初期用量で、病勢進行または許容できない毒性が生じるまで経口投与された。臨床反応は、Eisenhauer et al. EurJCancer 2009ガイドラインに従い、6〜8週間ごとにCTまたはMRI画像に基づいて評価された。無増悪生存期間 (PFS) は、標的治療開始日から病勢進行日までの期間として測定された。

統計解析: 融合サブタイプと臨床病理学的・分子学的特徴との関連は、カイ二乗検定またはFisherの正確検定を用いて検討された。PFSはKaplan-Meier法を用いて解析され、変数の差はログランク検定を用いて評価された。単変量および多変量解析は、Cox比例ハザード回帰モデルを用いて実施された。全てのデータはSPSS 25.0ソフトウェア (IBM, Chicago, IL) を用いて解析され、両側p値が0.05未満を統計的に有意とみなした。本研究では、細胞株やマウスモデルは使用されていない。