- 著者: Jessica J. Lin, Viola W. Zhu, Satoshi Yoda, Beow Y. Yeap, Alexa B. Schrock, Ibiayi Dagogo-Jack, Nicholas A. Jessop, Ginger Y. Jiang, Long P. Le, Kyle Gowen, Philip J. Stephens, Jeffrey S. Ross, Siraj M. Ali, Vincent A. Miller, Melissa L. Johnson, Christine M. Lovly, Aaron N. Hata, Justin F. Gainor, Anthony J. Iafrate, Alice T. Shaw, Sai-Hong Ignatius Ou
- Corresponding author: Alice T. Shaw (Massachusetts General Hospital Cancer Center, Department of Thoracic Oncology, Boston, MA, USA)
- 雑誌: Journal of Clinical Oncology
- 発行年: 2018
- Epub日: 2018-01-26
- Article種別: Original Article
- PMID: 29373100
背景
ALK融合遺伝子は非小細胞肺がん (NSCLC) の約5%に認められ、ALKチロシンキナーゼ阻害薬 (ALK-TKI) により効果的に治療される。第一世代のcrizotinibに始まり、第二世代 (ceritinib, alectinib, brigatinib) から第三世代 (lorlatinib) に至る複数のALK-TKIが開発され、ALK陽性NSCLCの治療選択肢を劇的に拡大させた。しかし、ALK-TKI投与患者間では臨床転帰に大きなばらつきがあり、最終的にほぼ全例で獲得耐性により再発することが知られている。この獲得耐性の分子メカニズムの解明は、その後の治療法を合理的に選択する上で極めて重要であるとされている Lin et al. JClinOncol 2017。
EML4-ALK融合遺伝子はNSCLCにおける主要なALK融合パートナーであり Soda et al. Nature 2007、これまでに15種類以上のバリアントが同定されている。最も一般的なのはバリアント1 (v1; EML4のexon 13とALKのexon 20が融合) とバリアント3a/b (v3a/b; EML4のexon 6a/bとALKのexon 20が融合) である Shaw et al. JClinOncol 2009。これらのバリアントはEML4のTAPE (tandem atypical propeller EML) ドメインの保持範囲が異なるため、融合タンパク質の安定性やcrizotinibに対する感受性にin vitroで影響を与えることが示唆されてきた Heuckmann et al. ClinCancerRes 2012。
先行研究では、ALKバリアントがcrizotinibに対する臨床反応に影響を与える可能性が示唆されてきたが、その結果は一貫していなかった。例えば、v1が非v1と比較してcrizotinibに対する奏効期間が長いという報告や、非v3がv3と比較して奏効期間が長いという報告がある一方で、バリアントによる臨床反応に差がないとする研究も複数存在する Yoshida et al. JClinOncol 2016。これらの相反する結果は、サンプルサイズの小ささ、crizotinibの治療ラインの区別不足、生物学的・臨床的に関連性の低いバリアントのクラスター化といった限界に起因する可能性がある。
さらに、ALKバリアントが次世代ALK-TKIの有効性や、その後の治療反応に影響を与える耐性メカニズムの発生に与える潜在的な影響については、本研究以前には系統的に評価されていなかった。特に、第三世代ALK-TKIであるlorlatinibは、G1202Rを含む既知のALK耐性変異の多くに対して強力な活性を保持することが報告されており Gainor et al. CancerDiscov 2016、バリアントと耐性変異の関連性を解明することは、治療戦略の最適化に不可欠である。この領域には依然として知識のギャップが残されており、特定のALKバリアントが耐性変異の発生頻度やスペクトラムにどのように影響し、それが臨床転帰にどのように結びつくのかは未解明な点が多かった。
目的
本研究の目的は、ALK陽性NSCLC患者において、EML4-ALK融合バリアント別にALK-TKI耐性変異の発生頻度とスペクトラムを比較することである。さらに、第一世代、第二世代、および第三世代ALK-TKI(特にlorlatinib)投与時の臨床転帰(無増悪生存期間 [PFS] および全生存期間 [OS])が、これらのバリアントによって異なるかどうかを明らかにすることを目指した。これにより、ALKバリアントがALK-TKI治療における耐性メカニズムと臨床転帰に与える影響の分子基盤を確立し、次世代ALK阻害薬の選択におけるバリアント情報の重要性を評価することを目的とした。特に、先行研究で一貫した結論が得られていなかったバリアントと臨床転帰の関連性について、より大規模なコホートと詳細な耐性変異解析を通じて、その分子基盤を解明することが本研究の主要な目的であった。
結果
バリアント分布と患者背景: 全129例中、123例 (95%) がEML4-ALK融合遺伝子を有していた。最も頻度の高いEML4-ALKバリアントは、variant 1 (v1) が55例 (43%)、variant 3 (v3) が51例 (40%) であった (Fig 1)。残りのEML4-ALK融合はv2 (6%)、v5’ (4%)、v5 (2%)、v7 (1%) であり、非EML4-ALK融合はHIP1 (HIP-1 proto-oncogene) (n=3)、KIF5B (kinesin family member 5B) (n=1)、PRKAR1A (protein kinase CAMP-dependent type I regulatory subunit alpha) (n=1)、MTA3 (metastasis associated 1 family member 3) (n=1) の6例 (5%) であった。v1とv3の患者背景 (年齢、性別、人種、組織型、診断時の病期、ALK-TKI投与数) に有意差は認められなかった (Table 1)。全体として、患者の94% (n=121) がcrizotinibを、42% (n=54) がceritinibを、54% (n=70) がalectinibを、11% (n=14) がbrigatinibを、30% (n=39) がlorlatinibを投与されていた。
ALK耐性変異のバリアント別比較: ALK-TKI進行後の生検検体 (v1=33、v3=44) の解析では、ALK耐性変異はvariant 3で57% (25/44) に認められたのに対し、variant 1では30% (10/33) であり、variant 3で有意に高頻度であった (p=0.023) (Fig 2)。特に、第一世代および第二世代ALK-TKIに高度耐性を付与するsolvent-front変異であるG1202Rは、variant 1では0% (0/33) であったのに対し、variant 3では32% (14/44) と著明に偏在していた (p<0.001)。
第二世代ALK-TKI投与後に進行した患者の生検サブセット (v1=19、v3=32) に焦点を当てた解析では、ALK耐性変異の発生頻度はv3で66% (21/32)、v1で42% (8/19) であったが、統計的有意差は認められなかった (p=0.145)。しかし、G1202R変異はv3で44% (14/32) に認められたのに対し、v1では0% (0/19) であり、この差は統計的に有意であった (p=0.001) (Fig 3)。crizotinib投与後に進行した患者の生検検体 (v1=14、v3=12) では、ALK耐性変異はv3で33% (4/12)、v1で14% (2/14) であり (p=0.365)、G1202R変異は両群ともに検出されなかった (Fig 4)。これは、G1202R変異が第二世代ALK-TKI後に特に出現しやすいという既報の知見と一致する。
Foundation Medicine 577例での検証: Foundation Medicineデータベースの独立コホート (ALK陽性NSCLC患者577例) での検証では、EML4-ALK v1 (n=182, 32%) とv3 (n=186, 32%) の頻度はほぼ同等であった。このコホートにおいても、ALK耐性変異 (v3 8% vs v1 2%, p=0.010) およびG1202R変異 (v3 3.5% vs v1 0%, p=0.015) は、variant 3で有意に高頻度で検出され、本研究コホートで観察された関連性が再現された。
第一/第二世代ALK-TKIでの臨床転帰: crizotinibを最初のALK阻害薬として投与された99例において、v1 (n=51) とv3 (n=48) の間でPFSに有意差は認められなかった (HR 1.30; 95% CI 0.85-1.98; p=0.229) (Fig 5A)。crizotinibを一次治療として受けた55例のサブセットでも、v1 (n=27) とv3 (n=28) の間でPFSに有意差はなかった (HR 1.61; 95% CI 0.84-2.75; p=0.163) (Fig 5B)。crizotinib後の第二世代ALK-TKI (ceritinib, alectinib, brigatinib) 投与を受けた77例においても、v1 (n=37) とv3 (n=40) の間でPFSに有意差は認められなかった (HR 1.45; 95% CI 0.88-2.38; p=0.141) (Fig 5C)。ただし、これらの解析ではいずれもv3群でPFS中央値が数値的に短い傾向が示された。
Lorlatinibでの顕著なバリアント効果: crizotinibおよび少なくとも1剤の第二世代ALK-TKI治療後にlorlatinibを投与された29例 (v1=12、v3=17) の探索的解析では、variant 3のPFS中央値11.0ヵ月はvariant 1の3.3ヵ月と比較して有意に長かった (HR 0.31; 95% CI 0.12-0.79; p=0.011) (Fig 5D)。lorlatinib投与前の腫瘍生検を受けた患者 (v1=6、v3=15) では、ALK耐性変異はv1で17% (1/6; G1269A)、v3で87% (13/15) に認められた。v3の13例中12例がG1202R変異を保有していた。lorlatinibはG1202Rを含む全ての既知ALK耐性変異に対して活性を保持することが示されているため、variant 3におけるALK依存性耐性パターンに対するlorlatinibの高い感受性が、このPFS延長を説明する可能性が示唆された。
OSおよびその他の結果: 進行疾患診断からのOS中央値は、v1で5.0年、v3で3.6年であったが、統計的有意差は認められなかった (HR 1.16; 95% CI 0.67-2.01; p=0.584)。このOS解析はデータカットオフ時点で52例 (49%) の死亡しか確認されておらず、未成熟である。疾患進行パターン (CNS単独、頭蓋内外、頭蓋外単独) はv1とv3の間で差がなかった。Pemetrexed単剤療法 (HR 1.11; 95% CI 0.60-2.07; p=0.742) およびplatinum-pemetrexed併用療法 (HR 0.84; 95% CI 0.40-1.78; p=0.649) 投与時のPFSもバリアント間で差はなく、バリアント効果がALK-TKI特異的であることが示唆された。
考察/結論
本研究は、ALK陽性NSCLCにおけるALKバリアント、耐性変異、および臨床転帰を結びつける分子基盤を提供した最大規模の解析である。これまで報告されていない知見として、EML4-ALKバリアント3がバリアント1と比較して、ALK耐性変異、特にG1202Rの発生頻度と有意に関連していることを示した。この結果は、特定のALKバリアントがALK-TKI治療中に異なる耐性メカニズムを発達させる可能性を示唆する。
先行研究と異なり、本研究ではバリアントを2群にクラスター化せず、最も一般的なv1とv3を個別に評価し、より大規模なコホートで解析を行ったため、その頑健性が高い。Foundation Medicineの独立した577例のコホートでも同様の関連性が再現されたことは、本研究の主要な知見の妥当性を強く支持する。
本研究の新規性は、特に第三世代ALK-TKIであるlorlatinibの治療において、バリアント3の患者が無増悪生存期間の有意な延長を示すことを初めて明らかにした点にある。これは、バリアント3がG1202R変異をより高頻度に獲得する傾向があることと、lorlatinibがG1202R変異を含む既知のALK耐性変異に対して強力な活性を保持することによって説明される。この知見は、ALKバリアントステータスが、特にlorlatinibのような次世代ALK阻害薬の選択において重要な予測因子となり得ることを示唆する。
臨床応用の観点から、ALK-TKI耐性時のALKバリアント情報は、その後の薬剤選択において重要な意味を持つ可能性がある。例えば、バリアント3の患者では、G1202R変異の発生リスクが高いため、lorlatinibが特に有効な治療選択肢となることが期待される。これは、個別化医療の推進において重要な臨床的意義を持つ。
しかし、本研究にはいくつかの残された課題とlimitationがある。第一に、本研究は後方視的解析であり、前向き研究による検証が必要である。第二に、本研究は最も一般的なEML4-ALKバリアントであるv1とv3に焦点を当てており、非v1/v3バリアントがALK-TKI耐性メカニズムや臨床転帰に与える潜在的な影響は未評価である。第三に、全生存期間 (OS) データは未成熟であり、長期的な転帰に関するさらなる調査が必要である。第四に、現在の標準治療である一次治療alectinib時代におけるバリアント効果の再評価が今後の検討課題である。最後に、なぜvariant 3がG1202Rのような特定のALK耐性変異を選択的に発生させるのか、その構造生物学的メカニズムの解明が今後の研究方向性として挙げられる。CROWN試験 (lorlatinib vs crizotinib一次治療) のような前向き試験におけるバリアント別サブ解析が待たれる。
方法
本研究は、Massachusetts General Hospital (MGH; n=113) およびUniversity of California, Irvine (n=16) で2008年1月から2017年1月の間に同定された、ALKバリアントが既知のALK陽性NSCLC患者129例を対象とした後方視的コホート研究である。研究は各施設の治験審査委員会 (IRB) の承認を得て実施された。
ALK融合バリアントの同定には、MGH fusion panel (アンカーマルチプレックスPCRを用いたtargeted RNA sequencingにより既知の癌遺伝子融合転写産物を検出) Zheng et al. NatMed 2014、FoundationOneプラットフォーム Frampton et al. NatBiotechnol 2013、外部機関のtargeted NGSプラットフォーム、または逆転写PCRおよびcDNAのSangerシーケンスが用いられた。
ALK-TKI投与後の進行時に腫瘍生検を実施した77例の患者から得られた93検体について、ALK耐性変異の有無を解析した。耐性変異の検出には、MGH SNaPshot NGSプラットフォーム (アンカーPCRを用いて癌関連遺伝子中のSNPおよび挿入/欠失を検出) 、FoundationOne NGS、OncoPanel NGSが用いられた。一部の検体は、ALKドメイン全体のcDNA Sangerシーケンス Katayama et al. SciTranslMed 2012、またはwhole-exome sequencingによって解析された。
主要評価項目である無増悪生存期間 (PFS) および全生存期間 (OS) は、Kaplan-Meier法を用いて推定された。バリアント群間のPFSおよびOSの差を評価するために、Cox比例ハザード回帰モデルを用いてハザード比 (HR) を算出した。統計解析はSAS 9.4ソフトウェア (SAS Institute, Cary, NC) を用いて実施された。
さらに、本研究コホートの結果を検証するため、Foundation Medicine社のFoundationOne NGSデータベースから、ALKバリアントが既知のALK陽性NSCLC患者577例の独立したコホートを解析した。このコホートでは、ALK耐性変異の発生頻度と分布がバリアント別に評価された。この解析はWestern IRB (protocol no. 20152817) の承認を得て実施された。このFoundation Medicineのデータセットでは、前生検治療歴を含む臨床情報は利用できなかった。