- 著者: Benjamin J. Solomon, Tony Mok, Dong-Wan Kim, Yung-Liang Wu, Kazuhiko Nakagawa, Tarek Mekhail, Enriqueta Felip, Francis Capuzzo, Johan Paolini, Tiziana Usari, Satvinder Iyer, Anthony Reisman, Keith D. Wilner, Jin Tong, Lucio Crino
- Corresponding author: Benjamin J. Solomon (Peter MacCallum Cancer Centre, Melbourne, Australia)
- 雑誌: Journal of Clinical Oncology
- 発行年: 2018
- Epub日: 2018-06-20
- Article種別: Original Article
- PMID: 29768118
背景
ALK (anaplastic lymphoma kinase) 遺伝子再配列はNSCLCの約3-5%に認められる予後良好な分子サブタイプであり、crizotinibはこの遺伝子異常を標的とした最初のALK-TKI (tyrosine kinase inhibitor) として開発された。2011年の後ろ向き解析では、crizotinib使用患者においてALK陽性NSCLCの生存期間が良好であることが示唆されたが (Shaw et al. LancetOncol 2011)、これは前向き無作為化試験によるOS有意差の証拠ではなく、first-line治療としてのOS利益は不足していた。
PROFILE 1014試験は未治療ALK陽性進行NSCLCを対象に、crizotinibとプラチナ製剤+ペメトレキセド化学療法を比較したPhase III無作為化試験として実施された。2014年のPFS一次解析では、crizotinib群で有意なPFS延長が示された (HR 0.45, p<0.001; Solomon et al. NEnglJMed 2014)。しかし当時の中間OS解析では有意差は認められず、OS最終データの確認は「何が足りなかったか」という問いとして残存していた。
その後、第二世代ALK阻害薬による試験結果が相次いで報告された。ALEX試験ではalectinibがcrizotinibに対してPFS優越性を示し (Peters et al. NEnglJMed 2017)、ASCEND-4試験においてもceritinibが化学療法を上回るPFSを示した (Soria et al. LancetOncol 2017)。この状況でcrizotinib first-lineのOS最終解析データはALK陽性NSCLCにおける治療開発の歴史的基準値として、また高クロスオーバー率が無作為化比較試験のOS解析に与える影響を定量化する上で、gap in knowledge を埋める重要な情報であった。
目的
PROFILE 1014試験のOS最終解析を実施し、first-line crizotinib対プラチナ/ペメトレキセド化学療法のOS、PFS最終解析値、ORR (overall response rate)、および患者報告アウトカム (PRO; patient-reported outcome) を包括的に評価すること。
結果
患者背景と登録状況:脳転移合併35%を含む343例のALK陽性NSCLC
n=343例がランダム化され、crizotinib群n=172例、化学療法群n=171例に割り付けられた (Table 1)。両群のベースライン特性はバランス良く、年齢中央値は各群約52歳、ECOG PS 0-1が90%以上を占め、組織型は腺癌が大多数であった。脳転移合併率はcrizotinib群35%、化学療法群34%と同等であり、ALK陽性NSCLCの約1/3が脳転移を合併する実態を反映していた。OS最終解析時には177例が死亡 (crizotinib群86例、化学療法群91例) しており、化学療法群ではn=144/171例 (84.2%) がcrizotinibを後治療として受けていた。
PFS最終解析:HR 0.454, p<0.0001 — 一次解析からの一貫した優位性確認
IRCによるPFS最終解析において、crizotinib群の中央値PFSは10.9ヶ月 (95% CI 8.3-13.9) であったのに対し、化学療法群は7.0ヶ月 (95% CI 6.8-8.2) であった (HR 0.454, 95% CI 0.346-0.596, p<0.0001; Fig 1)。crizotinib群と化学療法群の絶対差は約3.9ヶ月であり、PFS改善の効果はサブグループ解析においても全般的に一貫して認められた。ORRはcrizotinib群74%対化学療法群45% (p<0.0001) と大幅に優位であり、奏効持続期間 (DoR) の中央値はcrizotinib群11.3ヶ月対化学療法群5.3ヶ月であった。これらの結果は2014年の一次解析と整合しており、crizotinibのfirst-lineとしての奏効性と腫瘍制御能が最終解析においても確認された。
OS最終解析:HR 0.760, p=0.0978 — 84%クロスオーバーが検出力を希釈
OS最終解析 (Fig 2) では、crizotinib群のOS中央値は未到達 (95% CI 45.8ヶ月-未到達) であったのに対し、化学療法群は45.3ヶ月 (95% CI 35.2-66.6) であった (HR 0.760, 95% CI 0.548-1.053, p=0.0978)。統計的有意水準 (p<0.05) には達しなかった。4年OS率はcrizotinib群56.6%対化学療法群49.1%であり、数値上の絶対差は7.5ポイントであった。
OS有意差が得られなかった主要な要因として、化学療法群の84.2% (n=144/171例) がcrizotinibにクロスオーバーした点が挙げられる。このクロスオーバー率は設計時の想定を大幅に上回り、OS解析の検出力を著しく低下させた。試験設計上は177イベント時点での解析が計画されており実際に達成されたが、対照群の大多数が有効治療へ移行した結果として両群のOS曲線が後半で接近し、有意差の検出が困難となった。crizotinib群のOS中央値が未到達のまま成熟したこと自体は、crizotinib first-lineが持続的な生存利益をもたらし得ることを示唆している。
患者報告アウトカムと安全性:QOL優位と管理可能な有害事象
PRO解析では、crizotinib群においてLCSS (Lung Cancer Symptom Scale) による肺がん関連症状の改善がより早期に始まり、長期間維持された (Fig 3)。LCSS global score変化量は6週時点でcrizotinib群が化学療法群に対して有意に優位 (p=0.002) であり、奏効に伴う症状軽減が早期から発現することが示された。EQ-5D utility scoreでもcrizotinib群の健康状態は化学療法群に比べ全フォローアップ期間にわたり有意に優れており (p<0.05)、PRO観点からのcrizotinibの総合的優位性が確認された。
安全性についてはcrizotinib群の最頻有害事象として視覚障害 (71%)、悪心 (61%)、浮腫 (49%)、下痢 (46%)、嘔吐 (46%) が認められ、いずれもGrade 1-2が主体であった。Grade 3-4の治療関連有害事象はcrizotinib群40%対化学療法群36%と両群で概ね同等であった。QTc延長はcrizotinib群でより高頻度に認められたが、Grade 3は約1%程度と低率であり臨床的管理が可能であった。肝機能検査異常 (ALT/AST上昇) もcrizotinib群で認められたが、重篤な肝毒性は少なかった。これらの安全性プロファイルはこれまでの報告と対照的な新たな所見を示すものではなく、既知のcrizotinibの安全性と一致していた。
考察/結論
PROFILE 1014の最終OS解析は、これまでの研究で確認されていなかったfirst-line crizotinibのOS最終データを提供した重要な試験である。OS中央値は数値上crizotinib群が優位 (未到達 vs 45.3ヶ月、4年OS率 56.6% vs 49.1%) であったが、p=0.0978と統計的有意差には達しなかった。既報の中間OS解析結果と対照的に、最終解析においてもOS有意差が得られなかったことは、高いクロスオーバー率 (84%) という構造的な問題が主因であることを明確に示した。従来の試験設計におけるOS検出力の想定が、倫理的に合理的な対照群へのクロスオーバー許容によって実現不可能であったという事実は、ALK陽性NSCLCを含む分子標的治療の臨床試験設計において重要な教訓である。
本研究で初めて最終データとして確認された新規の知見として、4年OS率56.6% (crizotinib群) という長期生存率は、ALK陽性NSCLCの予後が良好であることを示す新規の実証的根拠であり、2014年以前の化学療法時代の転帰と比較して新規の視点を加えるものである。また化学療法群でも45.3ヶ月という比較的良好な中央値OSが達成されたことは、84%の患者がcrizotinibにクロスオーバーした効果を反映していると考えられ、有効薬剤への適切なアクセスがOS予後に実質的な利益をもたらすことを示した。
臨床的意義として、PROFILE 1014はcrizotinibがALK陽性NSCLCのfirst-lineにおいてPFS延長、ORR改善、QOL優位性をもたらすことを確認し、分子標的治療の標準化に貢献した。臨床現場においてこの試験結果はcrizotinibのfirst-line適応承認の基盤となり、その後のALK陽性NSCLC治療の発展を方向付けた。しかし同時期にALEX試験・ALTA-1L試験などにより第二世代ALK阻害薬の優越性が示され、現在の標準治療はalectinib・brigatinib等へ移行している。PROFILE 1014の臨床的含意は現代においては歴史的基準値として位置づけられ、次世代ALK阻害薬の比較対象・臨床的背景として参照される意義を持つ。
残された課題として、クロスオーバー補正解析 (rank-preserving structural failure time modelやinverse probability censoring weights法等) を用いたOS推定は本論文では実施されておらず、crizotinibの「クロスオーバー補正後のOS利益」の定量化はlimitationとして残る。また本試験はalectinib・brigatinib・lorlatinibが first-lineの選択肢となる以前に実施されており、現代の治療連続体への外挿可能性は今後の検討が必要である。さらにALK陽性NSCLCにおける連続的ALK阻害薬投与 (crizotinib後の次世代ALK-TKI) の最適シークエンスを検証するエビデンスの更なる蓄積が求められており、今後の研究における重要な課題として残されている。
方法
多施設共同、無作為化、非盲検Phase III試験 (NCT01154140)。対象は組織学的・細胞学的にALK再配列陽性と確認された未治療の進行NSCLC患者。ALK再配列の検出はFISH (fluorescence in situ hybridization) による中央集中判定で実施した。
患者はcrizotinib 250mg 1日2回連続経口投与群と、pemetrexed 500 mg/m² + cisplatin 75 mg/m² またはcarboplatin AUC 5-6 (3週毎、最大6サイクル後に増悪までpemetrexed維持投与可) 化学療法群に1:1で無作為割り付けした。層別化因子はECOG PS (0/1 vs 2)、人種 (アジア系 vs 非アジア系)、脳転移有無。化学療法群での疾患進行後にcrizotinibへの移行 (クロスオーバー) が許容された。
主要エンドポイントはIRC (independent radiology committee) によるPFS評価。副次エンドポイントはOS、ORR、奏効持続期間 (DoR)、健康関連QOL (LCSS [Lung Cancer Symptom Scale]、EQ-5D [EuroQol 5-Dimension questionnaire])。腫瘍評価はRECIST v1.0に基づき6週毎に実施。統計解析はlog-rank検定とCox比例ハザードモデルを用い、HRおよび95% CIを算出した。OS最終解析のデータカットオフは2017年2月であり、この時点で177例の死亡イベントが確認された。