• 著者: Zhu VW, Lin YT, Kim DW, Loong HH, Nagasaka M, To H, et al.
  • Corresponding author: Sai-Hong Ignatius Ou (University of California Irvine School of Medicine, CA)
  • 雑誌: Journal of Thoracic Oncology
  • 発行年: 2020
  • Epub日: 2020-04-28
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 32360579

背景

ALKおよびROS1遺伝子再構成を有する非小細胞肺がん(NSCLC)は、チロシンキナーゼ阻害薬(TKI)によって効果的に治療される分子サブタイプである。しかし、TKIに対する耐性は不可避であり、治療の継続的な課題となっている。ロルラチニブは、ALKおよびROS1を標的とする第3世代TKIであり、特に中枢神経系(CNS)への高い移行性を持つように設計された。この特性は、脳転移が高頻度で発生するALK陽性NSCLC患者にとって重要である。ロルラチニブは、ALK陽性NSCLCに対する第II相試験の結果に基づき、米国食品医薬品局(FDA)から承認を得た。

ALK陽性NSCLCにおいて、クリゾチニブ後の耐性変異として最も頻繁に報告されるのはG1202R(溶媒前縁変異)であり、ロルラチニブはこの変異を克服する活性を有することがGainor et al. CancerDiscov 2016によって示されている。同様に、ROS1陽性NSCLCでは、クリゾチニブ後の主要な耐性メカニズムとしてG2032R変異が同定されており、ロルラチニブがこの変異に対しても活性を示す可能性がGainor et al. JCOPrecisOncol 2017によって示唆されていた。ロルラチニブの承認は、主に単一の多コホート第II相試験のデータに基づいており、その結果は有望であったものの、より広範な患者集団における有効性と安全性を検証するための国際的なリアルワールドデータが不足していた。特に、重度の前治療歴を持つ患者や、多様な臨床背景を持つ患者におけるロルラチニブのパフォーマンスに関する知見は限られており、この点は未解明なギャップとして残されていた。また、実臨床における有害事象の発生頻度や管理方法についても、さらなる情報が必要とされており、これまでの報告では十分な情報が提供されていなかった。これらの知識ギャップを埋めるため、国際的なリアルワールド環境でのロルラチニブの評価が求められていた。例えば、Soria et al. Lancet 2017Peters et al. NEnglJMed 2017などの先行研究では、第2世代ALK TKIの有効性が示されているが、それらの薬剤に耐性を示した後の治療戦略に関するリアルワールドデータは手薄であった。

目的

本研究の目的は、TKI難治性のALK陽性またはROS1陽性NSCLC患者を対象に、早期アクセスプログラム(EAP)または拡大アクセスプログラムを通じてロルラチニブが投与された際の有効性および安全性を、国際的なリアルワールド解析によって評価することである。特に、多様な前治療歴を持つ患者集団におけるロルラチニブの客観的奏効率(ORR)、無増悪生存期間(PFS)、および頭蓋内活性に焦点を当て、実臨床での治療成績を明らかにすることを目指した。また、既報の第II相試験と比較して、リアルワールド環境における有害事象プロファイル(AE)の差異についても検討することを目的とした。本研究は、ロルラチニブの臨床的有用性をより広範な患者群で確認し、その実用性に関するエビデンスを補完することを目指した。

結果

合計95例のNSCLC患者(ALK陽性76例、ROS1陽性19例)が解析対象となった。ベースラインの患者特性では、ALK陽性患者の87%が2ライン以上のTKI治療歴を有し、ROS1陽性患者は全例がクリゾチニブ投与歴を有していた (Table 1)。ロルラチニブ投与開始前の脳転移率は、ALK陽性患者で84%、ROS1陽性患者で68%と高頻度であった。

ALK陽性NSCLC患者の有効性(N=76): 全体での客観的奏効率(ORR)は33% (95% CI: 22-46) であり、病勢コントロール率(DCR)は80% (95% CI: 68-89) であった (Table 2)。頭蓋外ORRは22% (95% CI: 12-35) であり、頭蓋内ORR(IC-ORR)は35% (95% CI: 22-49) であった (Figure 1B)。ロルラチニブの全ALK陽性患者における無増悪生存期間(PFS)中央値は9.3ヶ月 (95% CI: 6.5-NR) であった。6ヶ月PFS率は65.3% (95% CI: 51.5-76.0)、12ヶ月PFS率は40.8% (95% CI: 24.7-56.3) であった。 前治療歴別のORRおよびPFSは以下の通りである。2ライン以上のALK TKI治療歴を有する患者(n=55)では、ORRが35% (95% CI: 22-49)、PFS中央値が11.2ヶ月 (95% CI: 4.5-NR) であった (Figure 2A)。3ライン以上のALK TKI治療歴を有する患者(n=17)では、ORRが18% (95% CI: 4-43)、PFS中央値が6.5ヶ月 (95% CI: 3.5-11.6) であった。1ラインの第2世代ALK TKIのみを前治療として受けた患者(n=8)では、ORRが13% (95% CI: 0-53)、PFS中央値が9.2ヶ月 (95% CI: 3.3-NR) であった (Figure 2B)。全生存期間(OS)中央値は未到達であり、進行NSCLC診断時からの5年OS率は79.4% (95% CI: 65.9-88.1) と推算された。

ROS1陽性NSCLC患者の有効性(N=19): 評価可能であった17例のROS1陽性患者におけるORRは41% (95% CI: 18-67) であり、DCRは94% (95% CI: 71-100) であった (Table 2)。頭蓋外ORRは19% (95% CI: 4-46) であり、IC-ORRは55% (95% CI: 23-83) であった。ロルラチニブの全ROS1陽性患者におけるPFS中央値は11.9ヶ月 (95% CI: 6.4-NR) であった。6ヶ月PFS率は74.5% (95% CI: 45.0-89.7)、12ヶ月PFS率は42.6% (95% CI: 13.0-69.9) であった。OS中央値は未到達であり、進行NSCLC診断時からの5年OS率は92.3% (95% CI: 56.6-98.9) と推算された。

髄膜癌腫症患者における有効性: ロルラチニブ治療開始時に髄膜癌腫症を合併していた患者は13例(ALK陽性11例、ROS1陽性2例)であった。これらの患者におけるIC-ORRは45% (95% CI: 17-77)、頭蓋内DCRは91% (95% CI: 59-100) であった。PFS中央値は9.3ヶ月 (95% CI: 1.0-NR) であり、6ヶ月PFS率は83.3% (95% CI: 49.2-95.6) であった。

安全性プロファイル(N=95): 最も頻繁に報告されたグレード1-2の治療関連有害事象(AE)は、高コレステロール血症(61%)、高トリグリセリド血症(43%)、浮腫(7%)、認知障害(6%)であった (Table 3)。グレード3以上の主要なAEは、高コレステロール血症8%、高トリグリセリド血症4%、認知障害2%、肺炎1%、歩行障害1%であった。グレード4のAEとしては、幻覚1%およびアラニンアミノトランスフェラーゼ増加1%が報告された。治療関連死は認められなかった。用量中断は17% (n=16)、用量減量は19% (n=18) の患者で必要とされた。特に、グレード3の認知障害を呈した2例の患者は、用量減量後もロルラチニブを継続し、臨床的ベネフィットを享受した。

耐性変異解析: ロルラチニブ投与前後のシーケンスデータが利用可能であった9例(ALK陽性6例、ROS1陽性3例)の患者において、ロルラチニブがALK V1180L、ALK L1196M、およびALK G1202R変異に対して臨床的有効性を示すことが確認された (Table 4)。1例のALK陽性患者では、ロルラチニブ治療後にALK G1202R/G1269Aの複合変異が獲得され、これは先行研究で報告されているロルラチニブ耐性メカニズムと一致する。

考察/結論

本研究は、ロルラチニブのピボタル第II相試験後に行われた最大規模の国際リアルワールド解析であり、TKI難治性のALK陽性またはROS1陽性NSCLC患者におけるロルラチニブの有効性と安全性を評価した。本研究の結果は、ロルラチニブが実臨床環境においても、先行研究であるSolomon et al. LancetOncol 2018の第II相試験と同様、あるいはそれ以上の有効性を示すことを明らかにした。

先行研究との違い: 本研究におけるALK陽性NSCLC患者のPFS中央値は、2ライン以上のTKI治療歴を有する患者で11.2ヶ月であり、第II相試験で報告された6.9ヶ月と比較して延長していた。このPFSの延長は、リアルワールド設定における患者選択バイアス(より良好な全身状態や前TKI治療への奏効歴を持つ患者がEAPに優先的に登録された可能性)や、画像評価の標準化の欠如による進行イベントの遅延が寄与した可能性が考えられる。また、本研究では3ライン以上のALK TKI治療歴を有する重症例においても、ORR 18%、PFS中央値6.5ヶ月という有効性が維持されることが示され、これはこれまでの報告と比較して、より多重治療歴のある患者群でのロルラチニブの有用性を示唆する。

新規性: ロルラチニブはROS1陽性NSCLCに対しては未承認であるが、本研究ではORR 41% (95% CI: 18-67)、PFS中央値11.9ヶ月 (95% CI: 6.4-NR)、頭蓋内ORR 55% (95% CI: 23-83) という注目すべき成績を示した。これはShaw et al. LancetOncol 2019の第I/II相試験で報告されたORR 35%、PFS 8.5ヶ月を上回るものであり、TKI難治性ROS1陽性NSCLCに対するロルラチニブの臨床的有用性を強く支持する新規のリアルワールドデータである。さらに、髄膜癌腫症を合併する患者においても、PFS中央値9.3ヶ月という良好な結果が得られ、この重篤な病態に対する有効な治療選択肢が限られている中で、ロルラチニブの新規な臨床的意義が示された。

臨床応用: 本研究で示されたロルラチニブの高い頭蓋内活性は、脳転移が高頻度で発生するALK/ROS1陽性NSCLC患者にとって極めて重要な臨床的意義を持つ。特に、治療開始時に脳転移を有する患者がALK陽性で84%、ROS1陽性で68%に達していたことを考慮すると、ロルラチニブの優れたCNS移行性は、これらの患者の予後改善に直結すると考えられる。また、本研究ではALK陽性患者の10年OS率が72.6%、ROS1陽性患者の5年OS率が92.3%と推算され、長期生存の可能性が示唆された。これは、ALK TKIの逐次投与がOS延長と関連するというSolomon et al. JClinOncol 2018Ou et al. AnnOncol 2014の報告と一致し、実臨床におけるロルラチニブの導入が患者の長期予後改善に貢献する可能性を示唆する。

残された課題: 本研究の限界として、後ろ向き研究であること、画像評価が治験担当医によって行われ標準化されていないこと、およびEAPへの患者選択バイアスが存在する可能性があることが挙げられる。また、ほとんどの患者で次世代シーケンシングによる特定の融合パートナーや変異の同定が行われておらず、これらが疾患特性や臨床アウトカムにどのように影響するかを評価できなかった。今後の検討課題として、より大規模な前向き研究による検証、標準化された画像評価基準の適用、および詳細な分子プロファイリングによる治療効果予測因子の探索が挙げられる。さらに、ロルラチニブ投与後の耐性メカニズムの解明と、それらを克服するための新たな治療戦略の開発も今後の重要な研究方向性である。

方法

本研究は、米国、香港、シンガポール、韓国、台湾、タイの8施設で実施された後ろ向きリアルワールド解析である。対象患者は、TKI難治性のALK陽性またはROS1陽性NSCLC患者で、ロルラチニブの早期アクセスプログラムまたは拡大アクセスプログラムに登録された。米国では、施設内審査委員会(IRB)承認済みの拡大アクセスプロトコル(NCT03178071)に基づき患者が登録された。アジア諸国では、ファイザー社主導の「named-patient」早期アクセスプログラムを通じて患者が登録された。これらのプログラムは、各参加施設のIRBによって承認されている。

ロルラチニブの投与開始用量は100 mgを1日1回経口投与とした。患者の特性、分子学的特徴、診断方法、治療歴、治療アウトカム、および安全性データは、医療記録から抽出された。腫瘍の奏効評価は、RECIST v1.1(固形がんの治療効果判定基準)に基づき、治験担当医によって評価された。データカットオフ日は2019年6月30日であった。

治療期間(DOT)は、治療開始日から治療中止日またはデータカットオフ日までと定義された。無増悪生存期間(PFS)は、治療開始日から病勢進行または死亡までの期間として測定された。全生存期間(OS)は、進行NSCLCの診断時から死亡またはデータカットオフ日までの期間として算出された。PFSおよびOSの時間-イベント解析には、カプラン・マイヤー法が用いられた。95%信頼区間(CI)は、二項確率密度分布またはGreenwood法を用いて算出された。有害事象(AE)は、CTCAE v5.0(有害事象共通用語規準)に従ってグレード分類された。統計解析はStata 16.0(StataCorp LLC, College Station, TX)を用いて実施された。