• 著者: D. Ross Camidge, Scott A. Kono, Xian Lu, Sonia Okuyama, Anna E. Baron, Ana B. Oton, Angela M. Davies, Marileila Varella-Garcia, Wilbur Franklin, Robert C. Doebele
  • Corresponding author: D. Ross Camidge (Department of Medical Oncology, University of Colorado Denver, Aurora, CO)
  • 雑誌: Journal of Thoracic Oncology
  • 発行年: 2011
  • Epub日: 2011-04-01
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 21336183

背景

非小細胞肺癌 (NSCLC) におけるペメトレキセド (抗葉酸剤) は、非扁平上皮NSCLCに対して適応が拡大されている。一次治療のプラチナ併用療法および維持療法における無増悪生存期間 (PFS) 中央値は約5.26ヶ月、二次治療の単剤療法では3.1ヶ月がこれまでの報告におけるベンチマークである。2007年に発見されたALK融合遺伝子は、NSCLCの新たな分子サブタイプとして同定され、クリゾチニブの第I/III相試験の開発対象となった (Soda et al. Nature 2007)。ALK陽性患者に対するクリゾチニブの登録試験では、対照アームとしてペメトレキセドまたはドセタキセルが用いられているが、試験のサンプルサイズ計算は、分子選択されていない集団における化学療法のPFSを前提としている。しかし、EGFR変異陽性NSCLCにおけるカルボプラチン-パクリタキセル療法の奏効率 (ORR) が、EGFR変異型で47%に対し野生型で23%と差が示されたように (Mok et al. NEnglJMed 2009)、分子サブタイプによって化学療法の効果が異なる可能性が指摘されている。また、ペメトレキセドとドセタキセルを比較した第III相試験では、ペメトレキセド群のPFS中央値が4.8ヶ月であった (Hanna et al. JClinOncol 2004)。この点に関して、分子サブタイプ間の化学療法効果の差は未解明であり、特にALK陽性NSCLCにおけるペメトレキセドの効果に関する詳細なデータは不足している。University of Colorado (UC) では2008年よりNSCLC全例に対してEGFR、KRAS、ALKのルーチンスクリーニングを実施しており、これにより分子群横断的にペメトレキセドの効果を比較する機会が得られた。

目的

転移性NSCLC患者において、ペメトレキセド治療下での無増悪生存期間 (PFS) が、ALK陽性、EGFR変異、KRAS変異、およびトリプルネガティブの各分子サブタイプ間で異なるかを後方視的に検討する。

結果

患者背景と治療特性の分子群間比較: 解析対象の89例中、83例 (93%) が腺癌であった。ALK陽性群 (n=19) の中央年齢は46歳と若年であり、never/light smokerが84%を占め、63%が一次治療でペメトレキセドを使用していた。EGFR変異群 (n=12) は女性が75%、never/light smokerが67%であり、58%が二次治療でペメトレキセドを使用していた。KRAS変異群 (n=21) ではsmokerが86%と顕著に高かった (Table 1)。ALK陽性患者は全例がクリゾチニブ未投与でペメトレキセド治療を受けていた。全体として、ペメトレキセドは一次治療として48%の患者に投与され、そのうち72%がプラチナ併用療法であった。ペメトレキセドは単剤で38例、プラチナ併用で36例、非プラチナ併用で15例 (うちベバシズマブ併用が8例) に投与された。

単変量解析における無増悪生存期間の比較: 各分子サブタイプにおけるPFS中央値 (95% CI) は、ALK陽性群で9.0ヶ月 (95% CI 3.0-12.0)、KRAS変異群で7.0ヶ月 (95% CI 1.5-10.0)、EGFR変異群で5.5ヶ月 (95% CI 1.0-9.0)、トリプルネガティブ群で4.0ヶ月 (95% CI 3.0-5.0) であった (Figure 1, Figure 2)。トリプルネガティブ群を参照群とした単変量解析におけるPFSのハザード比 (HR) は、ALK陽性群において HR 0.44 (95% CI 0.24-0.81, p=0.0082) と有意なPFS延長が認められた。KRAS変異群では HR 0.58 (95% CI 0.32-1.07, p=0.0818) と延長傾向が見られたが有意差はなかった。EGFR変異群では HR 1.04 (95% CI 0.52-2.05, p=0.9185) で有意差は認められなかった。EGFR変異群ではハザード関数が交差したため、比例ハザード仮定が成立しなかった。

多変量解析における独立した予後因子の同定: 治療ライン、年齢、性別、組織型、喫煙歴、治療タイプ (単剤 vs プラチナ併用 vs 非プラチナ併用) を調整した多変量Cox回帰分析の結果、ペメトレキセドによるPFSと有意に関連する唯一の分子変数はALK陽性であった。ALK陽性群のトリプルネガティブ群に対する調整ハザード比は HR 0.36 (95% CI 0.17-0.73, p=0.0051) であり、有意なPFS延長と関連する独立した因子であることが示された (Table 2)。KRAS変異は HR 0.55 (95% CI 0.28-1.10, p=0.0952) で有意差はなく、EGFR変異は HR 1.00 (95% CI 0.49-2.04, p=0.9983) で差は認められなかった。その他の変数では、治療ライン (HR 1.57 (95% CI 1.07-2.31, p=0.0221)) と大細胞組織型 (HR 15.10 (95% CI 3.80-59.93, p=0.0001)) がPFSの悪化と有意に関連し、非プラチナ併用療法 (HR 0.50 (95% CI 0.25-1.00, p=0.0494)) はPFSの延長と境界線上で関連した。

治療ライン別の客観的奏効率の評価: 全治療ラインを通じた客観的奏効率 (ORR) は、ALK陽性群で42% (CR 0、PR 8/19、SD 10/19、PD 1/19)、EGFR変異群で30%、KRAS変異群で37% (CR 1含む)、トリプルネガティブ群で14%であった (Table 3)。特に一次治療でプラチナ-ペメトレキセド併用療法を受けた症例では、ALK陽性群のORRが70% (7/10) と高く、EGFR変異群100% (3/3)、KRAS変異群60% (5/10)、トリプルネガティブ群13% (1/8) と比較しても、ALK陽性群における高い奏効が確認された。一方、ペメトレキセド単剤療法におけるORRは、ALK陽性群で17% (1/6)、EGFR変異群で0% (0/7)、KRAS変異群で0% (0/5)、トリプルネガティブ群で12% (2/16) であった。

全生存期間および治療中止理由の解析: データカットオフ時点において、解析対象となった大半の患者が生存中であったため、全生存期間 (OS) の中央値は算出されなかった。ペメトレキセドの治療中止理由としては、全身性進行が78例、進行前の死亡が4例であった。また、毒性による中止が8例、あらかじめ規定されたサイクル数の完了による中止が5例認められた。中枢神経系 (CNS) 単独進行を示した5例 (EGFR変異1例、ALK陽性1例、トリプルネガティブ3例) については、CNSへの薬剤移行性の不十分さを反映していると判断し、CNS局所治療後にペメトレキセドが継続され、全身性進行をもってイベントと定義した。

考察/結論

先行研究との違い: 本研究は、ALK陽性NSCLC患者がペメトレキセド治療において有意に長いPFS (中央値9.0 vs 4.0ヶ月、HR 0.36 (95% CI 0.17-0.73, p=0.0051)) を示すことを、複数の交絡因子を調整した多変量解析で明らかにした。これは、これまでの分子選択されていない集団の化学療法効果データと異なり、ALK陽性患者におけるペメトレキセドのPFSが著しく長いことを示した。これは、クリゾチニブの第III相試験の対照アームにおける化学療法のPFSが、分子選択されていない集団のデータに基づいて設定されていたことと対照的である。

新規性: 本研究で初めて、ALK陽性NSCLCにおけるペメトレキセドのPFSが、EGFR変異、KRAS変異、およびトリプルネガティブの各群と比較して有意に長いことを示した。ALK陽性群における高いORR (全体で42%、一次プラチナ併用で70%) は、観察されたPFSの延長が単なる緩徐な自然経過によるものではなく、ペメトレキセドに対する真の感受性を反映している可能性を強く示唆する新規の知見である。

臨床応用: 本研究の知見は、複数の重要な臨床的含意を持つ。第一に、クリゾチニブの第III相試験において、対照アームとしてペメトレキセドを使用する際のサンプルサイズ設計に、分子サブタイプごとの化学療法効果の差を加味する必要がある。第二に、ALK陽性NSCLCにおいて、ペメトレキセドが優先される化学療法選択肢となり得ることを示唆する。第三に、ペメトレキセドの抗葉酸作用 (チミジル酸シンターゼ、ジヒドロ葉酸還元酵素 (DHFR)、グリシンアミドリボヌクレオチドホルミルトランスフェラーゼ、ATIC (5-aminoimidazole-4-carboxamide ribonucleotide formyltransferase/inosine monophosphate cyclohydrolase; 5-アミノイミダゾール-4-カルボキサミドリボヌクレオチドホルミルトランスフェラーゼ/イノシンモノホスファートシクロヒドロラーゼ) 阻害) と、ALKがATIC活性をリン酸化を介して増強するという先行知見から、ALK陽性腫瘍が抗葉酸剤に高感受性を示す可能性が考えられる。これは、ALK融合遺伝子によって駆動される未分化大細胞リンパ腫 (ALCL) において、別の抗葉酸剤であるプララトレキサートが22ヶ月以上の持続奏効を示した先行報告と一致する。これらの知見は、ALK陽性NSCLC患者の治療戦略を最適化し、より効果的な治療選択を可能にするための臨床応用に貢献する。

残された課題: 本研究のlimitationとしては、後方視的・単施設デザインであること、ベースラインのパフォーマンスステータスデータが欠如していること、ALK陽性症例で先行クリゾチニブ治療を受けた患者が含まれていないこと (クリゾチニブ後のペメトレキセド効果は未検討)、および症例数に限りがあることが挙げられる。これらの結果を確定するためには、ランダム化比較試験による検証が今後の検討課題である。また、他の抗葉酸剤がこのサブタイプにおいて有効である可能性があり、さらなる探索的検討の価値がある。

方法

本研究は後方視的コホート研究 (retrospective cohort study) デザインで実施された。2008年10月から2010年5月の期間に、UC Clinical Molecular Correlates (CMOCO) laboratoryでALK FISHを含むトリプル検査 (EGFR/KRAS/ALK) を受けたStage IV NSCLC患者を対象とした。これらの患者のうち、ペメトレキセド単剤または併用療法を受けた症例を特定した。ALK FISH検査は、breakapartプローブ (Abbott社製) を使用し、15%以上の腫瘍細胞で陽性シグナルが認められた場合に陽性と判定した。EGFR変異 (エクソン19、20、21) およびKRAS変異 (エクソン2) は、ABIモデル3730キャピラリーゲルシーケンサーを用いて解析された。最終的に、ALK陽性19例、EGFR変異12例、KRAS変異21例、トリプルネガティブ37例の計89例を解析対象とした。PFSは、ペメトレキセド初回投与日から、全身性進行、治療変更、または死亡までの期間と定義した。多変量Cox比例ハザード回帰分析 (Cox proportional hazards regression) を用いて、治療ライン、プラチナ併用または非プラチナ併用か単剤療法か、年齢、性別、組織型、喫煙歴を調整した。客観的奏効率 (ORR) はRECIST 1.1基準で評価した。データカットオフは2010年10月14日であった。本研究は施設内倫理委員会によって承認されたプロトコルに基づき実施された。なお、本研究は後方視的探索解析であるため、前向きランダム化比較試験 (RCT) のような臨床試験登録番号 (NCT番号など) は有していない。