- 著者: Rita Chiari, Giulio Metro, Daniela Iacono, Guido Bellezza, Alberto Rebonato, Alessandra Dubini, Isabella Sperduti, Chiara Bennati, Luca Paglialunga, Marco Angelo Burgio, Sara Baglivo, Raffaele Giusti, Vincenzo Minotti, Angelo Delmonte, Lucio Crinò
- Corresponding author: Giulio Metro (Medical Oncology, Santa Maria della Misericordia Hospital, Azienda Ospedaliera di Perugia, Perugia, Italy)
- 雑誌: Lung Cancer
- 発行年: 2015
- Epub日: 2015-09-12
- Article種別: Original Article
- PMID: 26395848
背景
ALK (anaplastic lymphoma kinase: 未分化リンパ腫キナーゼ) 再構成陽性非小細胞肺癌 (NSCLC: non-small cell lung cancer) は、ALKチロシンキナーゼ阻害剤 (ALK-TKI) に極めて高い感受性を示すことが知られている。特に、crizotinibは第1世代ALK-TKIとして、ALK陽性進行NSCLCの1次治療において優れた治療成績を示し、標準治療として確立された(Solomon et al. NEnglJMed 2014、Shaw et al. NEnglJMed 2013)。しかし、ほぼ全ての患者で最終的に薬剤耐性が生じ、病勢進行に至ることが大きな課題である。この耐性克服のため、ceritinibやalectinibなどのより強力な第2世代ALK-TKIが開発され、crizotinib耐性後の治療選択肢として期待されている(Shaw et al. NEnglJMed 2014)。
1次ALK-TKI治療失敗後の最適な治療戦略は依然として未解明であり、患者の病態や耐性メカニズムに応じて、2次ALK-TKIへの切り替え、1次ALK-TKIの継続 (beyond progression)、あるいは他の全身療法への切り替えのいずれが最も有益であるかについては、エビデンスが不足している。特に、孤立性の中枢神経系 (CNS: central nervous system) 進行やオリゴ進行性疾患の場合には、局所療法と併用して1次ALK-TKIを継続する戦略も検討されているが、これらの治療選択がその後の生存期間に与える影響を直接比較したデータは不十分である。本研究は、イタリアの多施設共同後ろ向き解析を通じて、この重要なクリニカルクエスチョンに答えることを目的とした。
目的
本研究の目的は、進行ALK陽性NSCLC患者における1次ALK-TKIの治療成績を評価することである。さらに、1次ALK-TKI失敗後の治療選択(2次ALK-TKIへの切り替え、1次ALK-TKIの継続、他の全身療法への切り替え、または急速進行による死亡)が、その後の post-progression survival (PPS: 進行後生存期間) に与える影響を比較し、逐次的なALK阻害継続戦略の臨床的有用性を明らかにすることを目指す。これにより、1次ALK-TKI治療失敗後の最適な治療アルゴリズムを構築するための基礎データを提示する。
結果
1次ALK-TKI治療における臨床的有効性と患者背景: 対象患者69例は全て腺癌であり、97.1% (67例) がcrizotinib、2.9% (2例) がceritinibを1次ALK-TKIとして投与された。crizotinib投与群67例のうち23例 (34.3%) は臨床試験(19例がNCT00932451、4例がNCT00932893)の枠組みで治療を受け、ceritinib投与群2例はともにNCT01828099試験で治療された。患者背景は、中央値年齢51歳(範囲25-77歳)、女性56.5% (39例)、非喫煙者72.5% (50例)、全身状態を表す PS (performance status: 全身状態) 0/1が88.4% (61例)、PS 2が10.1% (7例)、PS 3以上が1.5% (1例) であった。EGFR遺伝子変異陽性例は2.9% (2例) に認められ、診断時にステージIVであった症例は87.0% (60例)、ベースライン時の脳転移は18.8% (13例) であった。前治療としての化学療法の治療ライン数中央値は1ライン(範囲0-6ライン)であり、全例 (100%) がpemetrexedの投与歴を有し、17.4% (12例) がEGFR-TKIの投与歴を有していた (Table 1)。1次ALK-TKIによる客観的奏効率 (ORR: objective response rate) は60.9% (42例) であり、臨床的有用性 (clinical benefit: 奏効または6ヶ月以上の病勢安定) は71.0% (49例) であった。中央値PFSは12.0ヶ月 (95% CI 6.0-18.0) であり (Figure 1A)、中央値OSは40.0ヶ月 (95% CI 25.0-59.0) であった (Figure 1B)。この良好なPFSは、crizotinibの第3相試験である PROFILE 1014 試験(Solomon et al. NEnglJMed 2014)で示された化学療法に対する優位性である HR 0.45 (95% CI 0.35-0.60, p<0.001) という優れた治療効果とも一貫している。
1次ALK-TKI進行後の多様な治療パターンと患者特性: 1次ALK-TKI進行を経験した50例の治療パターンは4群に分類された (Figure 2)。22例 (44.0%) が2次ALK-TKI(ceritinib 18例、alectinib 4例)に切り替えられた。7例 (14.0%) は1次ALK-TKIを継続し(孤立性 CNS 進行4例、オリゴ進行性疾患3例)、8例 (16.0%) は他の全身療法(主に単剤化学療法:docetaxel/paclitaxel/gemcitabine 7例、afatinib 1例)へ移行した。残りの13例 (26.0%) は急速な病勢進行により、1次ALK-TKI中止後3ヶ月以内に死亡した。2次ALK-TKI群の22例中19例 (86.4%) は1次ALK-TKI終了後、中央値21日(範囲1-421日)の短いインターバルで2次ALK-TKIを開始した。これら4群間における患者背景の比較では、2次ALK-TKI群においてPS 0/1の割合が95.5% (21例) と高かったのに対し、1次ALK-TKI継続群ではPS 2の割合が42.9% (3例) と高かった。また、ベースライン時の脳転移の割合は、2次ALK-TKI群で22.7% (5例)、1次ALK-TKI継続群で28.6% (2例)、他の全身療法群で12.5% (1例)、急速進行群で38.5% (5例) であった (Table 2)。
2次ALK-TKIの優れた有効性と統合PFS: 2次ALK-TKIを投与された22例において、2次ALK-TKIとしてceritinibが18例 (81.8%)、alectinibが4例 (18.2%) に投与された。ceritinib投与群18例のうち15例は臨床試験(11例がNCT01685060、4例がNCT01828112)で治療され、alectinib投与群4例のうち2例はNCT01801111試験で治療された。2次ALK-TKIによるORRは86.4% (19例) と非常に高く、臨床的有用性は91.0%であった。2次ALK-TKIに奏効した19例のうち、16例 (84.2%) は1次ALK-TKIにも奏効(部分奏効: PR (partial response))を示しており、2例は病勢安定 (SD: stable disease)、1例は病勢進行 (PD: progressive disease) であった (Table 3)。2次ALK-TKIの中央値PFSは7.0ヶ月 (95% CI 6.0-8.0) であり (Figure 1A)、中央値OSは22.0ヶ月 (95% CI 10.0-34.0) であった (Figure 1B)。1次ALK-TKIと2次ALK-TKIを合わせた統合中央値PFSは19.0ヶ月に達した。
治療戦略別の進行後生存期間 (PPS) の比較と多変量解析: 1次ALK-TKI進行後の治療戦略別PPSの比較において、2次ALK-TKI群 (n=22) vs 急速進行群 (n=13) の比較では、2次ALK-TKI群のPPSが有意に良好であった (p < 0.0001)。また、他の全身療法へ移行した群 (n=8) vs 2次ALK-TKI群 (n=22) の比較でも、2次ALK-TKI群のPPSは有意に良好であった (p = 0.03) (Figure 1C)。一方、1次ALK-TKI継続群 (n=7) vs 2次ALK-TKI群 (n=22) の間にはPPSの有意な差は認められなかった (p = 0.89)。多変量解析の結果、急速進行群に属することのみがPPS不良と有意に関連する独立因子であり、HR 4.20 (95% CI 1.80-9.70, p<0.0001) であった。他の因子(年齢、性別、全身状態 (PS)、喫煙歴、脳転移の有無など)はPPSに有意な影響を与えなかった。
考察/結論
本研究は、ALK陽性進行NSCLC患者における1次ALK-TKI治療後の治療戦略と、それに続くPPSの関係を評価した多施設共同後ろ向き解析である。
先行研究との違い: 本研究における2次ALK-TKI群の86.4%という高いORRは、crizotinib前治療後のceritinibやalectinibの臨床試験で報告されたORR (38.6-56.4%) を上回る。これは、本研究の患者群が1次ALK-TKIに奏効した患者を多く含んでいたこと(2次ALK-TKI群の72.7%が1次responder)による「感受性集団の濃縮」と、一部の患者で観察された「re-treatment effect」(薬剤休薬期間後の感受性再獲得)に起因すると考えられる。この結果は、Gainor et al. ClinCancerRes 2015が報告した逐次crizotinib→ceritinibの結果と一致しており、ALK阻害継続戦略の臨床的妥当性を裏付けるものである。これまで報告されたデータと異なり、本研究のPPS解析は、治療戦略の選択がその後の生存に与える影響を直接的に比較した点で対照的であり、より実践的な情報を提供する。
新規性: 本研究は、1次ALK-TKI失敗後の2次ALK-TKI逐次投与が非常に高いORR (86.4%) と良好なPFS (7.0ヶ月) を示すことを明らかにした。これは、ALK阻害を継続する戦略が、他の全身療法への切り替えと比較して有意に良好なPPSと関連することを本研究で初めて新規に示した知見である。特に、急速進行群と比較して2次ALK-TKI群のPPSが有意に良好であったことは、ALK阻害継続の重要性を強く示唆する。
臨床応用: 本研究の知見は、ALK陽性NSCLC患者の治療戦略に重要な臨床的意義(臨床的含意)を持つ。特に、crizotinib進行後には、まず病勢進行パターンを評価することが重要である。全身性進行の場合には、ceritinibやalectinibなどの2次ALK-TKIへの切り替えが強く推奨される(臨床応用)。一方、孤立性CNS進行やオリゴ進行性疾患の場合には、局所療法と併用して1次ALK-TKIを継続する戦略が、2次ALK-TKIへの切り替えと同等のPPSを示す可能性があり、個別化された治療戦略の合理性を支持する。早期のALK標的療法中止は、他の全身療法への切り替え群でPPSが有意に短縮されたことから、推奨されない。
残された課題: 本研究の主なlimitationとしては、後ろ向きデザインであること、ALK二次変異やALK増幅などの分子機序評価が欠如していること、および各治療群の症例数が比較的少ないことが挙げられ、これらは今後の検討課題(残された課題)である。これらの課題を克服するためには、将来的に分子生検による耐性変異同定に基づいた次世代ALK-TKI選択を組み込んだ前向き研究が必要である。NCT01828112(ceritinib vs 化学療法)などの進行中の臨床試験の結果により、さらなる検証が期待される。
方法
本研究は、イタリア国内の3施設(Perugia Hospital、IRST (Istituto Scientifico per la Cura e lo Studio dei Tumori: 科学的がん治療研究推進機構) Meldola、Sant’Andrea Hospital Rome)において、2010年9月3日から2015年2月16日の期間に少なくとも1剤以上のALK-TKIを投与された進行ALK陽性NSCLC患者69例を対象とした多施設共同後ろ向き解析である。患者は全て生検により進行NSCLCと診断され、ALK再構成は FISH (fluorescence in situ hybridization: 蛍光in situハイブリダイゼーション) 法(デュアルカラーbreak-apartアッセイ)を用いて確認された。腫瘍効果の評価は、RECIST (Response Evaluation Criteria in Solid Tumors: 固形がんの治療効果判定基準) v1.1ガイドライン(Eisenhauer et al. EurJCancer 2009)に基づき、2~3ヶ月ごとに実施された。
PFS (progression-free survival: 無増悪生存期間) は各ALK-TKIの投与開始日から画像上または臨床的進行、あるいは死亡までの期間と定義された。OS (overall survival: 全生存期間) は各ALK-TKIの投与開始日からあらゆる原因による死亡までの期間と定義された。PPSは1次ALK-TKIの進行日から死亡までの期間と定義された。画像上または臨床的進行が確認されなかった患者は、最終フォローアップ日にデータが打ち切られた。ALK-TKIを病勢進行以外の理由(例:毒性)で中止した患者は、中止日にデータが打ち切られた。生存解析には Kaplan-Meier 法が用いられ、生存曲線間の比較には log-rank 検定が適用された。ハザード比 (HR) および95%信頼区間 (CI) の推定には Cox 比例ハザードモデル (Cox regression) が使用され、多変量解析はステップワイズ回帰(前方選択法)により実施された。統計解析にはSPSSソフトウェアバージョン20.0が用いられた。なお、crizotinibは臨床試験 NCT00932451 および NCT00932893、ceritinibは臨床試験 NCT01828099、NCT01685060、NCT01828112、alectinibは臨床試験 NCT01801111 の枠組み、あるいは人道的見地からの無償提供 (compassionate use) に基づき投与された。