- 著者: Justin F. Gainor, Daniel S.W. Tan, Tomasso De Pas, Benjamin J. Solomon, Aziah Ahmad, Chiara Lazzari, Filippo de Marinis, Gianluca Spitaleri, Katherine Schultz, Luc Friboulet, Beow Y. Yeap, Jeffrey A. Engelman, Alice T. Shaw
- Corresponding author: Alice T. Shaw (Massachusetts General Hospital Cancer Center, Boston)
- 雑誌: Clinical Cancer Research
- 発行年: 2015
- Epub日: 2015-02-27
- Article種別: Original Article
- PMID: 25724526
背景
ALK (anaplastic lymphoma kinase) 再構成は、非小細胞肺癌 (NSCLC) 患者の3〜5%に認められる重要なオンコジェニックドライバーであり、ALKチロシンキナーゼ阻害薬 (ALK-TKI) に対する高い感受性をもたらすことが確立されている Soda et al. Nature 2007、Shaw et al. JClinOncol 2009。当時、最初の承認されたALK-TKIであるクリゾチニブは、ALK陽性NSCLC患者において高い客観的奏効率 (ORR) と8〜10ヶ月の無増悪生存期間 (PFS) 中央値を示すことが報告され、標準治療としての地位を確立した Kwak et al. NEnglJMed 2010、Camidge et al. LancetOncol 2012、Shaw et al. NEnglJMed 2013。しかし、クリゾチニブ治療を受けた患者は最終的に耐性を獲得し、疾患が進行することが主要な課題であった。クリゾチニブ耐性の分子機序には、ALKキナーゼドメイン内の二次変異 (例: L1196M)、ALK遺伝子増幅、およびバイパスシグナル経路の活性化などが含まれることが先行研究で明らかにされている Katayama et al. SciTranslMed 2012、Doebele et al. ClinCancerRes 2012。
これらの耐性機序を克服するため、より強力な第2世代ALK阻害薬の開発が進められた。セリチニブ (LDK378) は、前臨床試験においてクリゾチニブ耐性モデルでも有意な抗腫瘍活性を示すことが報告された Friboulet et al. CancerDiscov 2014。さらに、第I相臨床試験では、進行ALK陽性NSCLC患者において、クリゾチニブ前治療歴のある患者でも56%のORRと6.9ヶ月のPFS中央値を達成し、その有効性が示された Shaw et al. NEnglJMed 2014。この結果を受け、セリチニブはクリゾチニブ治療後に進行したALK陽性NSCLC患者に対する治療薬として米国FDAから迅速承認された。
しかし、クリゾチニブとセリチニブを逐次的に使用した場合の合算PFSや長期的な全生存期間 (OS) に関するデータは当時不足しており、その臨床的意義は未解明であった。特に、クリゾチニブ耐性時の分子機序、例えば特定のALK抵抗性変異の有無が、その後のセリチニブへの治療反応性にどのように影響するかについても、詳細な検討が待たれていた。本研究は、クリゾチニブ未治療設定での次世代ALK阻害薬の試験におけるベンチマークデータを提供することを目的とし、これらのギャップを埋めることを目指した。これまでのところ、逐次療法における各薬剤の寄与度や、耐性メカニズムが次治療に与える影響に関する包括的なデータは不足しており、最適な治療戦略を確立するための重要な課題であった。
目的
本研究の目的は、クリゾチニブに続くセリチニブの逐次療法を受けたALK陽性NSCLC患者における無増悪生存期間 (PFS) および全生存期間 (OS) を多施設後方視的に評価することである。さらに、クリゾチニブ耐性時に同定された分子機序、特にALK抵抗性変異の有無が、その後のセリチニブへの治療反応性に与える影響を検討し、個別化医療の可能性を探ることも目的とした。この解析を通じて、逐次療法による臨床的利益を定量化し、将来のALK-TKI治療戦略の最適化に資するエビデンスを提供することを目指した。特に、クリゾチニブ耐性後のセリチニブの有効性を詳細に解析し、次世代ALK阻害薬のファーストライン治療における有効性を評価するためのベンチマークデータを提供することも重要な目的であった。
結果
本研究には、クリゾチニブとセリチニブの逐次療法を受けたALK陽性NSCLC患者73例が登録された。患者のベースライン特性は、中央年齢50歳 (範囲22〜72歳)、男性52%、非喫煙者78%、腺癌95%であった (Table 1)。脳転移の既往がある患者は35% (n=25) であった。クリゾチニブは14% (n=10) の患者で一次治療として、残りの患者では二次治療以降に投与された。セリチニブは、大部分の患者 (n=71) が第I相臨床試験 (NCT01283516) の一環として投与された。
クリゾチニブの有効性: 全体集団 (n=73) におけるクリゾチニブのPFS中央値は8.2ヶ月 (95% CI 7.4〜10.6ヶ月) であった (Figure 1A)。2例が毒性 (肝酵素上昇、腎嚢胞) により治療を中止したが、残りの患者は疾患進行により中止した。クリゾチニブ中止後も進行後クリゾチニブを継続した期間の中央値は25日 (範囲0〜318日) であった。
セリチニブの有効性: クリゾチニブ前治療歴のある患者全体 (n=73) におけるセリチニブのPFS中央値は7.8ヶ月 (95% CI 6.5〜9.1ヶ月) であった (Figure 1B)。クリゾチニブ中止からセリチニブ開始までの間隔中央値は25日 (範囲1〜694日) であった。クリゾチニブとセリチニブの間に他の治療が介在しなかった53例 (72.6%) のサブセットにおいても、セリチニブのPFS中央値は7.8ヶ月 (95% CI 5.4〜9.8ヶ月) と同様であり (Figure 1C)、これは「rechallenge効果」ではなく、セリチニブの真の抗腫瘍活性を反映していることが示唆された。
逐次療法の合算PFS: クリゾチニブとセリチニブの逐次療法による合算PFS中央値は17.4ヶ月 (95% CI 15.5〜19.4ヶ月) であった。介在治療がなかった53例に限定した場合でも、合算PFS中央値は17.0ヶ月 (95% CI 15.6〜19.8ヶ月) と同様の結果であった。個々の患者のPFSデータはFigure 2に示されている。この合算PFSは、クリゾチニブ単独のPFSと比較して有意な延長を示し、逐次療法の臨床的有用性を裏付けるものであった。
post-crizotinib再生検の分子解析: クリゾチニブ進行後に再生検を受けた23例のサブセットにおいて、分子解析が実施された (Table 2)。ALK FISH再施行された19例全てで、元のALK再構成の存在が確認された。2例 (10.5%) でALK融合遺伝子の増幅が検出された。ALK抵抗性変異は7例/23例 (30.4%) に同定された。検出された変異には、1151Tins (1例)、C1156Y (1例)、L1196M (4例)、S1206Y (1例)、G1269A (1151Tinsと同一検体) が含まれる。これらの変異はクリゾチニブ耐性の主要なメカニズムとして知られている。
ALK抵抗性変異とセリチニブPFS: ALK抵抗性変異を有する群 (n=7) と有さない群 (n=16) のセリチニブPFS中央値は、それぞれ5.4ヶ月 (95% CI 2.7〜10.8) と6.5ヶ月 (95% CI 4.0〜9.7) であり、統計的に有意な差は認められなかった (p=0.510) (Figure 1D)。しかし、個々の変異を見ると、in vitroでセリチニブ耐性が示されているC1156Y保有患者のセリチニブPFSは2.4ヶ月、1151Tins保有患者は2.7ヶ月と比較的短かった。一方、in vitroでセリチニブ感受性を示すS1206Y保有患者では14.8ヶ月と長いPFSが観察された (Figure 3)。この結果は、特定の変異がセリチニブの治療効果に影響を与える可能性を示唆する。
全生存期間 (OS) 解析: 追跡期間中央値53.2ヶ月において、転移性NSCLC診断日からの全体OS中央値は49.4ヶ月 (95% CI 35.5〜63.1ヶ月) であった (Figure 4A)。クリゾチニブ開始前に脳転移があった25例では、OS中央値は42.2ヶ月 (95% CI 26.4〜51.2ヶ月) であった。二次治療としてクリゾチニブを投与された32例 (PROFILE 1007試験の集団と類似) では、クリゾチニブ開始時点からのOS中央値は30.3ヶ月 (95% CI 18.0〜43.8ヶ月) であり、PROFILE 1007試験のクリゾチニブ群のOS中央値20.3ヶ月を上回る結果であった (Figure 4B)。このOSの延長は、逐次療法がALK陽性NSCLC患者の長期予後を改善する可能性を示唆する。
考察/結論
本研究は、クリゾチニブに続くセリチニブの逐次療法が、ALK陽性NSCLC患者において著明な臨床的利益をもたらすことを示した初の多施設後方視的解析である。本研究で示された合算PFS中央値17.4ヶ月は、クリゾチニブ未治療設定でのセリチニブ単独療法に関する第I相試験の更新データ (83例のクリゾチニブ未治療患者におけるPFS中央値18.4ヶ月) と概ね同等であった。この知見は、ファーストライン治療としてセリチニブまたは他の次世代ALK-TKIを使用した場合の有効性のベンチマーク (約17.4ヶ月以上) を設定する上で重要な意味を持つ。これは、クリゾチニブをファーストラインとする戦略と、より強力な次世代TKIをファーストラインとする戦略を比較する進行中の臨床試験 (例: ASCEND-4試験) にとって、重要な文脈を提供するものである。
新規性: 本研究で初めて、クリゾチニブとセリチニブの逐次療法における合算PFSとOSの長期データを大規模な後方視的コホートで提示した。これまで報告されていない逐次療法によるOS中央値49.4ヶ月は、当時の進行NSCLC患者の一般的な予後を大幅に上回るものであり、ALK陽性NSCLC患者が複数のALK阻害薬を順次使用できた場合に、疾患が「慢性疾患化」する可能性を初めて示唆した。PROFILE 1007試験におけるクリゾチニブ群のOS中央値20.3ヶ月と比較しても、セリチニブを含む逐次療法によってOSが改善する可能性が示唆された。
先行研究との違い: 従来の単剤治療の報告と異なり、本研究は逐次療法の全体的な効果を評価した点に新規性がある。クリゾチニブ耐性後のALK抵抗性変異の有無によるセリチニブPFSの差が統計的に有意でなかった点については、サンプルサイズが小さく、全ての変異をひとまとめに解析したことによる限界が指摘される。しかし、個別の変異レベルでは、in vitroデータと臨床データの整合性が認められた。例えば、in vitroでセリチニブ耐性が示されているC1156Yおよび1151Tins保有患者では比較的短いPFSが観察され、in vitroでセリチニブ感受性を示すS1206Y保有患者では長いPFSが観察された。このことは、将来的に特定のALK抵抗性変異に対応した薬剤選択を行う精密医療的アプローチの必要性を支持する。
臨床応用: 本研究は、ALK-TKIの逐次使用という治療戦略のエビデンスを確立した先駆的な研究であり、その後のALK陽性NSCLCの治療アルゴリズム構築に大きく貢献した。本知見は、ALK陽性NSCLC患者の臨床現場における治療選択肢を拡大し、個別化医療の推進に繋がる臨床的意義を持つ。
残された課題: 今後の検討課題としては、より大規模なコホートにおいて、特定のALK抵抗性変異とセリチニブを含む次世代ALK-TKIへの反応性との関係を詳細に検討する必要がある。また、本研究は後方視的解析であり、患者の選択バイアスや治療介入間の期間のばらつきなどのlimitationがあるため、これらの知見を前向き試験で確認することが今後の研究の方向性となる。特に、急速な進行や不良な全身状態の患者が本解析から除外されている可能性があり、その影響を評価することも重要である。
方法
本研究は、2008年から2014年の間にクリゾチニブに続いてセリチニブによる治療を受けたALK陽性NSCLC患者を対象とした多施設後方視的解析である。マサチューセッツ総合病院 (MGH、n=40)、シンガポール国立がんセンター (n=14)、欧州腫瘍学研究所 (Istituto Europeo di Oncologia、n=12)、ピーターマッカラムがんセンター (Peter MacCallum Cancer Center、n=7) の4施設から合計73例の患者が同定された。全ての患者は生検で確認されたNSCLCであり、ALK再構成はデュアルカラーbreak-apart法を用いた蛍光in situハイブリダイゼーション (FISH) により同定された。
主要評価項目は、クリゾチニブおよびセリチニブそれぞれのPFS、ならびに両剤を逐次使用した場合の合算PFSであった。PFSは、各薬剤の投与開始日から臨床的または放射線学的進行、あるいは死亡までの期間と定義された。進行が確認されずに治療中止となった患者は、最終フォローアップ日にデータが打ち切られた。クリゾチニブ中止からセリチニブ開始までの期間は、単剤クリゾチニブ中止からセリチニブ開始までの期間と定義された。合算PFSは、クリゾチニブのPFSとセリチニブのPFSの合計として算出され、両剤間の介在治療期間や進行後クリゾチニブ使用期間は除外された。全生存期間 (OS) は、転移性NSCLCの診断日から死亡日までの期間と定義され、死亡が確認されていない患者は最終フォローアップ日にデータが打ち切られた。
サブセット解析として、クリゾチニブ耐性後にセリチニブ開始前に再生検を受けた23例 (MGHおよびシンガポール国立がんセンターの2施設) に対して、ALK FISH再検査およびALKキナーゼドメイン変異解析が実施された。ALK抵抗性変異の有無が確認され、これらの変異の有無によるセリチニブのPFSの違いがログランク検定を用いて比較された。一部のサンプルでは、ターゲット次世代シーケンシング (Foundation One, Foundation Medicine Inc.) も実施された。
統計解析にはKaplan-Meier法がPFSおよびOSの推定に用いられ、群間の比較にはログランク検定が使用された。データ解析はMedCalc version 12.5ソフトウェアを用いて行われた。データカットオフは2014年6月であった。本研究は、各参加施設の治験審査委員会 (IRB) の承認を得て実施された。本研究は後方視的解析であり、患者選択バイアスや治療介入間の期間のばらつきが存在する可能性は考慮された。