- 著者: Jaemoon Koh, Ji-Young Jang, Bhumsuk Keam, Sehui Kim, Moon-Young Kim, Heounjeong Go, Tae Min Kim, Dong-Wan Kim, Chul-Woo Kim, Yoon Kyung Jeon, Doo Hyun Chung
- Corresponding author: Doo Hyun Chung (Department of Pathology, Seoul National University Hospital, Seoul National University College of Medicine, Seoul, Republic of Korea)
- 雑誌: OncoImmunology
- 発行年: 2016
- Epub日: 2015-10-29
- Article種別: Original Article (translational; large clinical cohort + mechanistic in vitro)
- PMID: 27141364
背景
PD-1 (programmed cell death-1) /PD-L1 (programmed death-ligand 1) チェックポイント経路の阻害はTopalian et al. NEnglJMed 2012 でNSCLC (non-small cell lung cancer, 非小細胞肺癌) における奏効が示されて以来、有望な治療戦略として台頭した。一方EML4-ALK融合遺伝子はSoda et al. Nature 2007 で同定され、肺腺癌 (pADC, pulmonary adenocarcinoma) の約3-7%に検出される独立したdriver fusionで、crizotinibなどのALK阻害薬で奏効が得られる (Shaw et al. NEnglJMed 2013 のPROFILE 1007試験でORR 65%, PFS中央値7.7ヶ月)。これまでの研究で何が足りなかったかというgapを整理すると、(a) ALK転座pADCにおけるPD-L1発現頻度の体系的定量がn=500超のコホートで未報告であり未解明、(b) EML4-ALKがPD-L1発現を直接調節する分子機序 (転写因子・低酸素応答との関連) が未解明、(c) ALK阻害薬治療後の臨床転帰とPD-L1発現の関連が未解明、の3点。先行報告 (Marzec 2008 PNAS等のNPM-ALK→STAT3→PD-L1経路解析) は別融合 (NPM-ALK in ALCL) に限定されており、EML4-ALK特異的な肺腺癌における機序とその臨床的意義は明らかでなかった。ALK転座陽性pADCは独自の免疫微小環境を持つ可能性が示唆されていたが、PD-L1誘導経路と治療応答性との関連は未解明のまま残されていた。
目的
(1) ALK転座肺腺癌におけるPD-L1・PD-1発現の頻度と特徴を大規模pADCコホート (n=532) でEGFR変異・KRAS変異・triple-negativeと比較定量する、(2) EML4-ALKによるPD-L1誘導の分子機序として正常酸素下 (STAT3経路) と低酸素下 (HIF-1α経路) の2軸を細胞株系で実験的に解明する、(3) PD-L1発現とcrizotinib治療後の臨床転帰 (PFS/OS) の関連を90例の前向き観察で評価する、という3つの問いに答えること。
結果
ALK転座pADCはPD-L1高発現を示す (大規模IHCコホート):PD-L1陽性率はALK転座pADCでn=47/58 (81%) に達し、EGFR変異・KRAS変異・triple-negative腫瘍と比較して有意に高頻度であった (p<0.005 for all、Fig 1A-B)。強発現 (score 3) もALK転座群で25.9%と、その他群の9.3%と比較して2.8-fold高率 (p=0.001、Fig 1B)。PD-L1陽性ALK転座例ではPD-1陽性TIL数およびPD-1/CD8 TIL比が有意に高値 (それぞれp=0.025; p<0.005、Fig 1C、n=58)。この臨床的所見はALK転座pADCの免疫微小環境が他driverとは質的に異なることを示し、PD-1/PD-L1依存性免疫制御が実働していることを示唆する。Cell lineレベルでもH2228 (EML4-ALK陽性) はH23 (EML4-ALK陰性) と比較してPD-L1 mRNAおよびタンパク発現がqRT-PCR・Western blot・flow cytometryで顕著高値 (relative fold change >5、Fig 1D-F、n=3 independent experiments、p<0.005)。
EML4-ALKがPD-L1を直接誘導 (gain/loss-of-function実験で双方向に検証):H2228細胞へのALK siRNA (3種) 100nMトランスフェクションは48時間後にPD-L1 total/surface発現を有意に減少 (Fig 2A-C、p<0.005)。Crizotinib (100nM, 24時間) 処理でもPD-L1 surface発現が有意に低下 (Fig 2D、p<0.005)。逆にH23細胞へのEML4-ALK v1またはv3トランスフェクション (1μg, 24時間) はPD-L1 mRNA・total protein・surface発現を顕著に上方制御 (fold change 3-5x、Fig 2E-G、n=3 independent experiments、p<0.005)、そしてこの上方制御はcrizotinib (2μM, 24時間) 後処理で減弱した (Fig 2H-I)。
STAT3経路 (正常酸素下) の関与:H2228細胞のALK siRNA1ノックダウンによりpSTAT3 (phospho-STAT3) /STAT3比が低下 (Fig 3A)、STAT3阻害薬S3I-201 (100μM) 処理でPD-L1発現が有意に減少 (Fig 3B-C、p<0.005)。H23細胞のEML4-ALK (v1/v3) トランスフェクションはpSTAT3を有意に上昇 (Fig 3D)、これに伴うPD-L1上方制御はS3I-201で部分的に阻害された (Fig 3E)。ChIPアッセイでEML4-ALK発現H23細胞核分画からのpSTAT3-PD-L1プロモーター結合が有意に確認された (Fig 3F、protein-DNA binding assayでluminometer測定)。ALK転座pADC組織IHCでも核内pSTAT3とPD-L1発現が有意な正相関 (p<0.005、Fig 3G、Spearman r 算出)。
HIF-1α経路 (低酸素下) の関与とubiquitination抑制機序:H2228細胞のCoCl2 (100μM, 3時間) 処理によりHIF-1α・PD-L1がmRNA・タンパクレベルで増加 (Fig 4A-C、p<0.005)、興味深いことにpALK (phospho-ALK) も同時に上昇した (Fig 4B)。ChIPアッセイでHIF-1αがPD-L1プロモーターのHRE1・HRE2に結合することがreal-time qPCRで定量的に示された (Fig 4D-E、CoCl2処理で対照比3-5x増加)。HIF-1α阻害薬PX-12 (100nM, 24時間) は低酸素下のPD-L1上昇を有意に阻害 (Fig 4F)。H23細胞ではCoCl2単独ではHIF-1α上昇のみでPD-L1上昇は最小 (Fig 5A-B)、しかしEML4-ALKトランスフェクション後の低酸素曝露でPD-L1がHIF-1α依存的に著明に上方制御された (transcriptional + protein level の両方で normoxia比 10-fold以上、Fig 5A-B)。機序解析でEML4-ALKがHIF-1αのpolyubiquitination (Fig 5C) およびHIF-1α-VHL相互作用 (Fig 5D, MG132共投与) を減弱、cycloheximide (100μM) chase assayでHIF-1α半減期延長 (Fig 5E、対照15分→EML4-ALK発現群>60分)。組織IHCでも核内HIF-1αとPD-L1が有意な正相関 (p<0.05、Fig 5F)、さらに核内HIF-1αとpSTAT3も正相関 (linear correlation coefficient r=0.412, p=0.036)。これはEML4-ALKが転写・翻訳後の二段階でHIF-1αを安定化させる新規機序を示す。
STAT3とHIF-1αの協調作用:Co-immunoprecipitation assayでH2228細胞の低酸素下でHIF-1αとpSTAT3が直接結合することが示された (Fig 6A)。S3I-201処理は低酸素下のPD-L1誘導を有意に抑制 (Fig 6B、p<0.005)、HIF-1αとSTAT3が協調的にPD-L1を上方制御する模式モデルがFig 6Cに提示された。
強PD-L1発現はcrizotinib治療後の予後不良と関連:crizotinib治療90例 (score 0=25, 1=17, 2=36, 3=12) のKaplan-Meier解析でPD-L1陽性 (score 2-3) 群のPFS中央値20.7ヶ月・OS中央値52.9ヶ月、陰性 (score 0-1) 群のPFS中央値28.1ヶ月・OS中央値96.0ヶ月であり、強発現 (score 3) 例は他群と比較してPFS (p=0.001) ・OS (p=0.002) ともに有意に短縮 (Fig 7)。crizotinib耐性前後ペア標本n=7では、n=6 (86%) で耐性獲得後にPD-L1発現が維持または増加 (Fig S2)、ALK阻害薬耐性メカニズムとして免疫回避が関与する可能性を示唆する。
考察/結論
本研究はSoda et al. Nature 2007 のEML4-ALK同定およびShaw et al. NEnglJMed 2013 のcrizotinib有効性報告を背景とし、ALK陽性pADC n=532という当時最大規模のコホートでPD-L1発現頻度を体系的に定量し、EML4-ALKがSTAT3 (正常酸素下) とHIF-1α (低酸素下) の二重経路でPD-L1を誘導するという機序を実験的に解明した。これまでの先行研究 (Marzec 2008 PNASのNPM-ALK→STAT3→PD-L1経路、ALCL anaplastic large cell lymphoma) と相違する点として、本研究で初めてEML4-ALKは (a) NPM-ALKと同様のSTAT3経路に加え、(b) HIF-1αの転写促進かつubiquitination抑制 (HIF-1α-VHL相互作用減弱) によるpost-translational安定化という新規な二段階機序を持つことを示した。これはALCLでは見られなかった肺腺癌特異的なregulationであり、ALK融合のcontext (腫瘍由来) によりdownstream signal architectureが異なることを示すnovelな知見である。81%という高頻度のPD-L1発現と、PD-1陽性TILの有意な増加は、ALK陽性NSCLCがPD-1/PD-L1阻害療法の良好な候補となる可能性を示唆する。臨床応用および臨床的意義の観点では、強PD-L1発現 (score 3) がcrizotinib治療後の予後不良 (PFS 20.7ヶ月 vs 28.1ヶ月、OS 52.9ヶ月 vs 96.0ヶ月) と関連することが示されたため、PD-L1 IHCがcrizotinib適応決定後の補助的予後マーカーとなりうる。さらにcrizotinib耐性後のn=6/7例でPD-L1発現が維持・増加した事実は、ALK阻害薬耐性例におけるPD-1/PD-L1阻害薬の治療的意義が特に高いことを支持し、bench-to-bedside translationの直接的根拠となる。残された課題と今後の展望 (limitation) としては、(i) 単一施設・後方視的デザインによる選択バイアス、(ii) 90例という臨床コホートサイズの制約、(iii) ALK-TKI耐性後の免疫療法の最適な組み合わせ・逐次投与戦略の検討 (ALK阻害薬によるPD-L1下方制御と抗PD-1療法の相互作用の系統的臨床評価)、(iv) HIF-1α-STAT3相互作用がPD-L1プロモーター結合に直接寄与するかどうかの分子レベル証明、(v) EML4-ALK variant別 (v1 vs v3 vs その他) のPD-L1誘導強度の比較、(vi) 第二・三世代ALK阻害薬 (alectinib・lorlatinib) でも同様のPD-L1下方制御が起こるかの検証、が挙げられる。本研究はEML4-ALK陽性肺腺癌の免疫回避機序の分子基盤を確立し、ALK-TKI + 免疫療法併用試験 (e.g., CheckMate 370など) の科学的根拠を提供した重要なtranslational studyである。
方法
臨床コホート: 韓国Seoul National University Hospitalにおける手術切除pADC n=532例 (ALK転座n=58 [10.9%]・EGFR変異n=230 [46.5%, 230/494]・KRAS変異n=26 [11.5%, 26/226]・triple-negative n=60を含む) のFFPE組織でIHC (immunohistochemistry, 免疫組織化学) を実施。PD-L1はE1L3Nまたは22C3抗体で評価し、tumor cellでの発現割合・強度から4段階H-score (0=陰性 / 1=弱 / 2=中等度 / 3=強) で判定。PD-1陽性TIL (tumor-infiltrating lymphocyte) ・CD8陽性TILをカウントしPD-1/CD8比を算出。In vitro実験: H23 (EGFR野生型 / ALK野生型 / PD-L1低発現) およびH2228 (EML4-ALK陽性 / PD-L1高発現) 細胞株を主に使用。EML4-ALKの効果検証としてH23細胞へpcDNA-EML4-ALK variant 1 (v1) または variant 3 (v3) を1μgトランスフェクション (24時間後回収) し、H2228細胞へALK siRNA (3種) 100nMでノックダウン (48時間後回収)。Crizotinib (100nMまたは2μM、24時間) で阻害効果を検証。STAT3阻害はS3I-201 (100μM, 24時間)、低酸素模倣はCoCl2 (100μM, 3-24時間)、HIF-1α阻害はPX-12 (100nM, 24時間)、タンパク分解阻害はMG132 (10μM, 3時間)、タンパク合成阻害はcycloheximide (CHX, 100μM, time-course)。発現定量はqRT-PCR (relative expression 2^-ΔΔCt)、Western blot、cell surface flow cytometryで実施。ChIP (chromatin immunoprecipitation) assayでSTAT3のPD-L1プロモーター結合・HIF-1αのHRE1/HRE2 (hypoxia response element) 結合をreal-time qPCRおよびsemi-quantitative PCRで定量。Co-immunoprecipitation/ubiquitination assayでHIF-1α-VHL相互作用・ポリユビキチン化を解析。臨床転帰解析: crizotinib治療を受けた90例 (PD-L1スコア0=25 / 1=17 / 2=36 / 3=12) でPFS・OSをKaplan-Meier法+log-rank testで解析、PD-L1陽性 (score 2-3) vs 陰性 (score 0-1) およびscore 3 vs others で比較。Crizotinib耐性前後のペア標本7例でPD-L1発現変化を検討。統計はchi-square test (頻度比較)、Student’s t-test (in vitro実験)、Spearman相関 (発現相関)、95% CI併記、p<0.05を有意水準と定義。Cell lineはATCCまたは韓国細胞バンクから入手し、Mycoplasma陰性を確認。