• 著者: Robert C. Doebele, Lara E. Davis, Aria Vaishnavi, Anh T. Le, Adriana Estrada-Bernal, Stacey Keysar, Antonio Jimeno, Marileila Varella-Garcia, Dara L. Aisner, Yan Li, Philip J. Stephens, Douglas Morosini, Martha Fernandes, Navneet Nanda, James A. Low
  • Corresponding author: Robert C. Doebele (University of Colorado Cancer Center)
  • 雑誌: Cancer Discovery
  • 発行年: 2015
  • Epub日: 2015-07-27
  • Article種別: Research Brief (Case Report with Preclinical Data)
  • PMID: 26216294

背景

NTRK (神経栄養因子受容体型チロシンキナーゼ) 遺伝子ファミリー (NTRK1、NTRK2、NTRK3) の融合は、各種固形腫瘍において発癌性ドライバーとなりうることが前臨床的に示唆されていた。これらの遺伝子はTRKA、TRKB、TRKCをコードし、多様な5’パートナー遺伝子との組み合わせにより、ALK融合やROS1融合と同様に構成的なキナーゼ活性化をもたらすことが知られている。例えば、肺癌におけるNTRK1再構成は、薬物感受性を示すことがVaishnavi et al. NatMed 2013によって報告されている。また、ROS1融合タンパク質が癌において重要な役割を果たすことはDavies et al. ClinCancerRes 2013によって示されており、ALK再構成非小細胞肺癌におけるセリチニブの有効性はShaw et al. NEnglJMed 2014で確立されている。しかし、これまで軟部肉腫 (STS) におけるNTRK融合の臨床的意義は未解明であり、既存の化学療法 (doxorubicin単独の奏効率は約20%) では予後不良が続いていた。このため、NTRK融合を標的とした治療法の開発が強く望まれていたが、その臨床的有効性を示すデータが不足していた。

LOXO-101はTRKキナーゼファミリーに対して高選択性を持つ経口低分子阻害薬であり、TRKA、TRKB、TRKCに対して2〜20 nmol/Lの細胞内活性を示す。226種の非TRKキナーゼに対するオフターゲット阻害活性はほとんど認められず、高い選択性を持つことが前臨床試験で確認されていた。この薬剤は、TRK融合が関与する腫瘍において、MAPKやAKTなどの下流シグナル経路を阻害し、癌細胞の増殖を抑制することが期待されていた。しかし、NTRK融合が実際に腫瘍のドライバー変異として機能し、TRK阻害薬が臨床的に有効であるという直接的な証拠は、本研究以前には報告されていなかった。特に、軟部肉腫のような多様な組織型を持つ腫瘍におけるNTRK融合の頻度や臨床的意義は不明であり、新たな治療戦略の確立が喫緊の課題であった。本研究は、このような知識のギャップを埋めることを目指した。

目的

本研究の目的は、NTRK融合を有する固形腫瘍患者において、高選択的TRK阻害薬LOXO-101が有効であるかを臨床的に検討することである。これにより、NTRK融合が真の発癌性ドライバーとして機能し、TRK阻害が有効な治療標的となりうることを初めて臨床的に実証することを目指した。特に、これまで治療選択肢が限られていた転移性軟部肉腫患者におけるLOXO-101の臨床的有用性を評価し、NTRK融合が組織型を超えて治療反応を規定する可能性を探ることも重要な目的であった。

結果

LOXO-101の選択的NTRK融合細胞株抑制: LOXO-101はNTRK融合を持つ3つの細胞株すべてにおいて、用量依存的な増殖抑制効果を示した (Figure 1A-C)。IC50値は、CUTO-3.29 (MPRIP-NTRK1融合) で約59.4 ± 2.2 nmol/L、KM12 (TPM3-NTRK1融合) で3.5 ± 0.7 nmol/L、MO-91 (ETV6-NTRK3融合) で1.0 ± 0.05 nmol/Lであった。これらの細胞株では、融合タンパク質のリン酸化 (pTRKA Y496またはpTRKC) および下流のERK1/2のリン酸化がLOXO-101によって阻害された (Figure 1D-F)。MO-91細胞ではpAKTも抑制されたが、CUTO-3.29細胞ではpAKTはLOXO-101で抑制されず、AKTシグナルがTRK非依存性である可能性が示唆された。NTRK融合を持たない細胞株では増殖抑制効果は認められず、LOXO-101のTRKキナーゼファミリーに対する高い選択性が確認された。

In vivo腫瘍増殖抑制: KM12細胞を用いたアテミックヌードマウス異種移植モデル (n=10/群) において、LOXO-101は用量依存的な腫瘍増殖抑制効果を示した (Figure 1G)。60 mg/kg/日および200 mg/kg/日のLOXO-101投与群では、対照群と比較して有意な腫瘍抑制が認められ、特に200 mg/kg群ではp<0.01であった。腫瘍体積の変化率は、対照群と比較してLOXO-101投与群で顕著に低かった。この結果は、LOXO-101がin vivoにおいてもTRK融合を標的として腫瘍増殖を効果的に阻害することを示している。

症例背景とLMNA-NTRK1融合の同定: 41歳女性の患者は、大腿部前面に発生した未分化肉腫 (undifferentiated sarcoma) と両肺への多発転移を有していた。手術、術前化学療法 (epirubicin+ifosfamide)、放射線療法後に病勢進行し、doxorubicin 1コース投与後にLOXO-101試験に登録された。FoundationOneHeme次世代シーケンシングにより、LMNA exon 2とNTRK1 exon 11〜17の融合 (LMNA-NTRK1融合) が検出された (Figure 2A)。また、CDKN2A/B欠失も合併していた。NTRK1 break-apart FISHでは、腫瘍核の64%に孤立した3’NTRK1シグナルが確認され、NTRK1遺伝子座のゲノム再構成を示唆した (Figure 2B)。RT-PCRとシーケンシングにより、LMNA exon 2とNTRK1 exon 11の間の融合ブレークポイントが確認された (Figure 2C)。TRK-SHC1 PLAは腫瘍細胞で強陽性シグナルを示し、腫瘍内でのTRKA機能的活性化を証明した (Figure 2D)。これにより、LMNA-NTRK1融合が患者の腫瘍のドライバー変異であることが強く示唆された。

臨床的治療効果:著明な腫瘍退縮: LOXO-101開始前の胸部CTでは、多発大型肺転移 (最大径約7 cm) と大量の左側胸水を認め、患者は5 Lの補酸素を必要とし、SpO2は90%であった (Figure 3B)。LOXO-101 100 mg 1日2回投与を開始し、1サイクル (28日) 後のCTではRECIST 1.1に基づき部分奏効 (PR) と判定された (Figure 3C)。4サイクル (4ヶ月) 後のCTでは、最大の腫瘤がほぼ完全に消失していることが確認された (Figure 3D)。臨床的には、患者は酸素投与が不要となり (室内気でSpO2 97%)、CA125腫瘍マーカーレベルも正常化した。治療開始から4ヶ月時点で、LOXO-101に関連する有害事象は認められなかった。この迅速かつ著明な奏効は、NTRK融合が治療標的として非常に有効であることを示している。

軟部肉腫におけるNTRK融合頻度: Foundation Medicine社のデータベースで解析された1,272件の軟部肉腫サンプルにおけるNTRK融合の検出率は0.63% (95% CI 0.32-1.24%) であった。特に、25歳未満の若年患者では検出率が4.1% (95% CI 1.8-9.3%) と有意に高く (Fisher exact test, p=4×10⁻⁴)、5歳未満の患者では14.3% (95% CI 5.7-31.5%, p=2×10⁻⁵) であった (Table 1)。この結果は、若年発症の軟部肉腫においてNTRK融合スクリーニングの重要性を示唆するものであり、小児および若年成人における新たな治療戦略の可能性を提示する。

考察/結論

新規性: 本症例は、NTRK融合が腫瘍のドライバー変異として機能しうることを初めて臨床的に実証した歴史的報告である。LMNA-NTRK1融合を有する転移性軟部肉腫患者において、高選択的TRK阻害薬LOXO-101が迅速かつ著明な腫瘍退縮をもたらしたことは、TRK阻害が有効な治療戦略であることを示した。この知見は、NTRK融合が組織型を超えて治療反応を規定する、いわゆるtumor-agnosticな治療概念の礎となった点で新規性が高い。

先行研究との違い: これまで、ALK阻害薬 (crizotinib) やROS1阻害薬 (crizotinib) において、融合遺伝子がドライバー変異として機能し、標的治療が有効であることが確立されていたが、NTRK融合については臨床的証拠が不足していた。本研究は、この点において、NTRKをALKやROS1と同様のドライバー変異として位置づける初の臨床的エビデンスを提供した点で、これまでの研究とは異なる重要な貢献である。特に、軟部肉腫におけるNTRK融合の臨床的意義はこれまで不明であったが、本研究によりその治療標的としての可能性が示された。

臨床応用: 本研究の成果は、NTRK融合陽性固形腫瘍患者、特に治療選択肢が限られている転移性軟部肉腫患者に対する新たな治療戦略の臨床応用を強く支持するものである。軟部肉腫におけるNTRK融合は小児・若年患者に多く (25歳未満での検出率4.1%)、特に小児固形腫瘍における重要な治療標的となりうる。この結果は、NTRK融合スクリーニングをルーチン化し、適切な患者にTRK阻害薬を投与することの臨床的有用性を示唆する。LOXO-101はその後larotrectinibとして開発され、2018年にNTRK融合陽性固形腫瘍に対するFDA tumor-agnostic承認を取得した初の薬剤となった。

残された課題: 本研究の限界は単一症例報告である点である。耐性獲得メカニズムや長期成績、複数のNTRK融合タイプや多様な組織型における一般化には、追加の臨床試験が必要である。また、前臨床データではAKTシグナル経路のTRK依存性に細胞株間で微妙な違いが認められており、これらの違いが細胞の組織学的起源や遺伝的背景、あるいは融合遺伝子自体に起因するものかを解明することが今後の課題である。

方法

前臨床試験: NTRK融合を有する3つのがん細胞株 (CUTO-3.29 肺腺癌/MPRIP-NTRK1融合、KM12大腸癌/TPM3-NTRK1融合、MO-91急性骨髄性白血病/ETV6-NTRK3融合) を用いて、LOXO-101の増殖抑制効果をMTSアッセイで評価した。細胞は5% FBSを添加した培地で培養し、72時間薬物処理後に増殖を測定した。また、融合タンパク質および下流シグナル経路 (pERK1/2、pAKT) のリン酸化阻害をウェスタンブロット法で評価した。KM12細胞を用いたアテミックヌードマウス異種移植モデルでは、腫瘍が150〜200 mm³に達した後、LOXO-101を60 mg/kg/日または200 mg/kg/日で14日間経口投与し、腫瘍体積の変化を測定した。統計解析には反復測定ANOVA (analysis of variance) とBonferroni補正を用いた。TRK-SHC1近接ライゲーションアッセイ (PLA: proximity ligation assay) を用いて、FFPE (formalin-fixed paraffin-embedded) サンプル中のTRKA活性を評価し、機能的シグナル複合体の存在を確認した。PLAは、TRKAキナーゼドメインのY496に結合するアダプターSHC1との複合体形成を検出することで、TRKAの機能的活性を評価する。このアッセイは、NTRK1のRNAiノックダウンやLOXO-101による阻害によってTRKA-SHC1複合体が減少することを確認し、ヒト細胞株および患者由来異種移植モデル (PDX) サンプルで検証された。

臨床試験: 対象患者は、Foundation Medicine社のFoundationOneHeme次世代シーケンシング (405癌関連遺伝子のDNA-seqおよび265遺伝子のRNA-seq) によりLMNA-NTRK1融合が検出された41歳女性の転移性軟部肉腫患者1名である。NTRK1 break-apart FISH、RT-PCR、およびTRK-SHC1 PLAにより融合タンパク質の機能的活性を確認した。患者は、標準治療選択肢がない進行固形腫瘍患者を対象としたLOXO-101の多施設共同第I相用量漸増試験 (ClinicalTrials.gov no. NCT02122913) に登録された。LOXO-101は100 mg 1日2回で経口投与され、RECIST 1.1基準に基づき治療効果を評価した。有害事象は毎週モニタリングされた。Foundation Medicine社のデータベースを用いて、1,272件の軟部肉腫サンプルにおけるNTRK融合の頻度を解析し、若年患者における検出率をFisher exact testで比較した。