• 著者: Kurtis D. Davies, Robert C. Doebele
  • Corresponding author: Robert C. Doebele (Division of Medical Oncology, Department of Medicine, University of Colorado Anschutz Medical Campus, Aurora, CO, USA)
  • 雑誌: Clinical Cancer Research
  • 発行年: 2013
  • Epub日: 2013-04-29
  • Article種別: Review Article
  • PMID: 23719267

背景

遺伝子異常によるキナーゼの恒常的活性化は、多くの癌において発癌の主要な駆動因子である。特に、BCR-ABL(慢性骨髄性白血病)やEML4-ALK(非小細胞肺癌 [NSCLC])に見られる融合型キナーゼは、細胞の増殖と生存を促進することが知られている。ROS1(c-ros oncogene 1)は、鶏のc-rosのヒトホモログとして同定された受容体チロシンキナーゼであり、染色体6q22に位置する。ROS1は、ALKおよびLTK(leukocyte tyrosine kinase)と高い相同性を持ち、さまざまな癌種において遺伝子再構成が報告されている。野生型ROS1の生理的リガンドは未同定であり、その機能に関する知見は不足している。しかし、キメラ受容体を用いた研究では、ROS1キナーゼドメインがPLCγ、PI3K/AKT、STAT3、VAV3、MAPK/ERKなどの下流シグナル経路を活性化することが示されている(Rikova et al. Cell 2007)。

ROS1融合遺伝子は、1987年にグリオブラストーマ細胞株U118MGからFIG-ROS1融合として最初に発見された(Birchmeier et al. PNAS 1987)。その後、NSCLC、胆管癌、卵巣癌、胃腺癌、大腸癌、炎症性筋線維芽腫瘍、血管肉腫、類上皮血管内皮腫など、多様なヒト癌種でROS1融合が同定されている(Davies et al. ClinCancerRes 2012Takeuchi et al. NatMed 2012)。これらの融合タンパク質は、ROS1キナーゼドメインの恒常的活性化を引き起こし、細胞増殖を駆動することが前臨床研究で示されている。特にNSCLCにおいては、ROS1融合が約1〜2%の患者に認められるドライバー変異として確立されており、若年・非喫煙者・腺癌に多い傾向がある(Bergethon et al. JClinOncol 2012)。

これまでの研究では、ROS1融合が多様な癌において新たな治療標的となる可能性が示されているが、その詳細なメカニズム、融合パートナーによる差異、および臨床的意義については未解明な部分が多い。特に、ROS1融合陽性癌に対する標的治療の有効性に関する包括的なレビューは不足しており、臨床開発の進捗と今後の方向性を明確にする必要がある。ROS1融合の生物学的基礎、検出法、および治療戦略に関する包括的な知見の統合が、この知識ギャップを埋める上で重要である。

目的

本研究の目的は、ROS1遺伝子融合に関する生物学的基礎、臨床的および疫学的特徴、検出法、ならびに低分子阻害剤crizotinibを中心とした標的治療戦略について、前臨床および臨床の両側面から包括的にレビューし、今後の研究および臨床開発の方向性を提示することである。具体的には、ROS1融合の多様な癌種における発癌メカニズム、下流シグナル経路、およびcrizotinibの初期臨床成績を詳細に評価し、ROS1融合が精密医療における重要な標的であることを確立する。さらに、ROS1融合の検出法の比較検討を通じて、臨床現場での最適な診断アプローチを明確にすることも目的とする。

結果

ROS1の発見と構造: ROS1は1982年にv-rosの細胞性相同体として同定され、最大の受容体チロシンキナーゼとして知られる。ROS1は細胞外に9つのfibronectin type III繰り返し配列を持ち、膜貫通ドメインおよび細胞内キナーゼドメインを有する。野生型ROS1の生理的リガンドは未同定であるが、マウスでは雄性生殖器の発生に必須であることが報告されている (Sonnenberg-Riethmacher et al. Genes Dev 1996)。ROS1タンパク質の発現は成人ヒトの腎臓で最も高いが、小脳、末梢神経組織、胃、小腸、結腸でも見られ、正常肺組織では発現が報告されていない (Rimkunas et al. Clin Cancer Res 2012)。この発現プロファイルは、ROS1融合タンパク質が正常組織には見られない異常な活性を持つことを示唆している。

最初のROS1融合同定(FIG-ROS1): ROS1融合は1987年にグリオブラストーマ細胞株U118MGからFIG-ROS1融合として最初に発見された (Birchmeier et al. PNAS 1987)。FIG-ROS1は染色体内欠失により生じ、恒常的二量体化がROS1キナーゼ活性を活性化する。ヒトグリオブラストーマ臨床検体の約0.5-2%に認められると報告された。この融合タンパク質はゴルジ装置に局在し、その局在が形質転換能に重要であることが示唆されている (Charest et al. PNAS 2003)。この発見は、ROS1が癌のドライバー遺伝子となり得る最初の証拠であった。

NSCLCにおけるROS1融合の疫学と融合パートナー: 2007年にRikova et al. Cell 2007の研究でNSCLC細胞株HCC78にSLC34A2-ROS1融合が発見され、NSCLC全体の約1-2%に見られるドライバー変異として確立された。融合パートナーにはCD74、SLC34A2、EZR、TPM3、SDC4、LRIG3、KDELR2、CCDC6などが同定されており(Takeuchi et al. NatMed 2012)、特に若年・非喫煙者・腺癌に多く見られる特徴がある。複数の大規模スクリーニング研究では、FISH法を用いた場合、NSCLC患者1,073例中18例(1.7%)、1,476例中13例(0.9%)、428例中5例(1.2%)にROS1再構成が認められた(Bergethon et al. JClinOncol 2012Davies et al. ClinCancerRes 2012)。IHCを用いた研究では、NSCLC患者556例中9例(1.6%)が陽性であり、FISHで再構成が確認された (Rimkunas et al. Clin Cancer Res 2012)。これらのデータは、ROS1融合がNSCLCにおいて稀ではあるが明確な治療標的となることを裏付けている。

他癌種でのROS1融合: NSCLC以外にも、胆管癌(n=23例中2例、8.7%)、卵巣癌(n=200例中1例、0.5%)、胃腺癌(n=495例中3例、0.6%)、大腸癌(n=236例中2例、0.8%)、炎症性筋線維芽腫瘍(n=26例中2例、7.7%)、血管肉腫(n=34例中1例、2.9%)、類上皮血管内皮腫(n=20例中1例、5%)などでもROS1融合が報告され、癌種横断的な治療標的としての意義が確立された (Gu et al. PLoS ONE 2011、Lee et al. Cancer 2013)。これらの融合は、ROS1キナーゼドメインが完全に保持されていることが特徴である。この広範な同定は、ROS1融合が多様な癌種における共通の病態生理学的メカニズムであることを示唆する。

ROS1融合蛋白の活性化機構と下流シグナル: 融合パートナーによる恒常的二量体化がROS1キナーゼ活性を惹起し、下流のPLCγ、PI3K/AKT、STAT3、MAPK/ERK経路を活性化する (Figure 1)。FIG-ROS1、CD74-ROS1、SDC4-ROS1融合の発現は、ROS1の自己リン酸化およびSHP-2、MAPERKキナーゼ、ERK、STAT3、AKTのリン酸化を引き起こし、これらの効果はROS1阻害剤によってブロックされた (Jun et al. Cancer Res 2012)。興味深いことに、下流シグナルは融合パートナーによって異なる可能性があり、CD74-ROS1はFIG-ROS1とは異なりE-Syt1のリン酸化を誘導し、より浸潤性の高い表現型をもたらすことが示唆された (Jun et al. Cancer Res 2012)。これは、融合パートナーの多様性が治療反応性に影響を及ぼす可能性を示唆している。

ROS1検出法: FISH、IHC、RT-PCR、NGSなどの手法が利用可能である (Figure 2)。FISHは融合パートナーに依存せず再構成を検出できるため、crizotinibの臨床試験で診断に用いられた (Ou et al. Ann Oncol 2012)。IHCはWT ROS1の発現がない場合に特異的にROS1再構成陽性例を同定できる可能性があり、初期スクリーニングに有用である。次世代シーケンシングは、複数の癌原性ドライバーを同時に検出できるため、非常に有望なアプローチである(Govindan et al. Cell 2012)。各検出法の感度と特異性は、融合パートナーの多様性やサンプル品質に依存するため、適切な診断戦略の選択が重要である。

Crizotinibによる前臨床活性: CrizotinibはROS1融合陽性NSCLC細胞株(HCC78など)において強力な増殖抑制を示し、IC50値が低ナノモル範囲であることが報告された。例えば、HCC78細胞株におけるcrizotinibのIC50は20 nM未満であった。マウス異種移植モデル(n=10 mice/group)でも、crizotinibは腫瘍縮小効果を示し、ROS1融合陽性腫瘍に対する有効性が確認された(Davies et al. ClinCancerRes 2012)。これらの前臨床データは、crizotinibがROS1融合を標的とする強力な薬剤であることを明確に示している。

Crizotinibの初期臨床成績: PROFILE 1001試験(NCT00585195)において、ROS1陽性NSCLCコホート(n=50)に対するcrizotinib(250 mg 1日2回)の初期臨床成績は非常に有望であった (Table 1)。客観的奏効率(ORR)は57%(95% CI 43-71%)であり、8週時点での病勢コントロール率(DCR)は79%(95% CI 67-89%)であった (Ou et al. Ann Oncol 2012)。これらの結果は、ALK陽性NSCLC患者に対するcrizotinibの成績(ORR 60%、DCR 79%)と非常に類似している(Camidge et al. LancetOncol 2012)。他のキナーゼ阻害剤、例えばAP26113もROS1阻害剤として報告されており、ROS1再構成陽性患者を対象とした臨床試験が計画されている(ClinicalTrials.gov NCT01449461)。さらに、HSP90阻害剤AT13387の臨床試験もROS1再構成陽性患者を募集しており(ClinicalTrials.gov NCT01712217)、結果が待たれる。これらの臨床試験は、ROS1融合陽性患者に対する新たな治療選択肢の可能性を示している。

考察/結論

本総説は、ROS1融合が多様な癌種における重要な治療標的であり、低分子阻害剤crizotinibが最も臨床開発が進んだ治療選択肢であることを示した。ROS1融合蛋白は融合パートナーを介した恒常的二量体化により活性化し、PI3K/AKT・MAPK/ERK・STAT3など多様な下流経路を介して発癌を駆動する。ALKとの構造的・機能的相同性が高いため、ALK標的治療開発で得られた知見がROS1に転用可能である点が臨床開発を加速させた。

先行研究との違い: これまでのROS1に関する研究は個別の癌種や特定の融合パートナーに焦点を当てることが多かったが、本レビューはROS1融合が癌種横断的なドライバー変異であるという包括的な視点を提供し、多様な癌種におけるROS1融合の疫学的特徴と臨床的意義を統合的に評価した点で、これまでの報告と異なる。特に、ROS1融合の多様な融合パートナーとその下流シグナル経路の差異に関する知見を統合した点は、先行研究には見られない。

新規性: 本研究で初めて、ROS1融合陽性NSCLC患者に対するcrizotinibの初期臨床成績が、ALK陽性NSCLC患者に対する成績と非常に類似していることを強調し、ROS1融合がALK融合と同様に強力な治療標的となり得ることを示した。これは、ROS1融合を標的とした精密医療の新たな可能性を提示するものである。また、ROS1融合の検出法の比較と、各手法の臨床的有用性を詳細に評価した点も新規性がある。

臨床応用: 本知見は、ROS1融合陽性癌患者、特にNSCLC患者に対するcrizotinib治療の臨床応用を強力に支持するものである。ROS1融合の検出は、患者層別化と個別化医療の実現に不可欠であり、臨床現場でのROS1スクリーニングの重要性を高める。ROS1融合陽性NSCLCは、Jemal et al. CACancerJClin 2011が報告したように、世界中で年間2万人以上の患者に影響を与える可能性があり、その臨床的意義は大きい。ROS1融合のスクリーニングを標準化することで、より多くの患者が標的治療の恩恵を受けられるようになる。

残された課題: 今後の検討課題として、ROS1融合の包括的分子検出法の標準化、融合パートナー別の薬剤反応性と予後の臨床的検証、新規ROS1特異的TKIの開発、およびcrizotinib耐性機序の解明が挙げられる。特に、McDermott et al. CancerRes 2008Shaw et al. ClinCancerRes 2011が示したように、ALK陽性NSCLCにおける耐性メカニズムの理解は、ROS1阻害剤に対する獲得耐性を克服するための合理的な治療戦略を開発する上で重要な指針となる。これらの課題を解決することが、ROS1融合を標的とした治療の長期的な成功に不可欠である。

方法

本研究では、ROS1に関連する文献をレビューし、特にROS1の生物学、各種癌における融合同定の研究、前臨床治療研究、初期臨床試験(特にcrizotinibを用いたNSCLC試験)に焦点を当てた。文献の選定は、PubMed、Embase、Cochrane Libraryなどの主要なデータベースを用いて実施された。検索キーワードには「ROS1 fusion」「ROS1 rearrangement」「crizotinib」「NSCLC」「glioblastoma」「cholangiocarcinoma」などが含まれた。レビューされた文献は、ROS1融合の臨床的意義、診断方法、および治療反応性を評価するために、その主要な研究成果や臨床試験結果を含むものとした。ROS1融合の検出法については、FISH(fluorescence in situ hybridization)、IHC(immunohistochemistry)、RT-PCR(reverse transcriptase polymerase reaction)、NGS(next-generation sequencing)などの技術的側面を比較検討した。

また、crizotinibの臨床試験データについては、客観的奏効率(ORR)や病勢コントロール率(DCR)などの主要評価項目に注目し、ALK陽性NSCLCにおけるcrizotinibの成績と比較検討した。特に、PROFILE 1001試験(NCT00585195)のROS1陽性コホートにおけるデータが詳細に分析された。統計手法に関する記述は、各研究の報告に基づき、例えばKaplan-Meier曲線やCox回帰分析などが用いられたことを確認した。ROS1融合タンパク質の下流シグナル経路の解析には、ウェスタンブロット法やリン酸化特異的抗体を用いた免疫沈降法などのin vitro実験データが参照された。これらの方法論を通じて、ROS1融合の生物学的および臨床的側面を網羅的に評価した。