• 著者: Li F, Huang Q, Luster TA, Hu H, Zhang H, Ng WL, Khodadadi-Jamayran A, Wang W, Chen T, Deng J, Ranieri M, Fang Z, Pyon V, Dowling CM, Bagdatlioglu E, Almonte C, Labbe K, Silver H, Rabin AR, Jani K, Tsirigos A, Papagiannakopoulos T, Hammerman PS, Velcheti V, Freeman GJ, Qi J, Miller G, Wong KK
  • Corresponding author: Kwok-Kin Wong (Laura and Isaac Perlmutter Cancer Center, New York University Grossman School of Medicine, NYU Langone Health, New York, NY, USA)
  • 雑誌: Cancer Discovery
  • 発行年: 2020
  • Epub日: 2019-11-19
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 31744829

背景

KRAS変異肺腺癌 (LUAD: lung adenocarcinoma) は、非小細胞肺がん (NSCLC) における主要なドライバー変異陽性肺癌であり、全肺腺癌の約32%を占める。長年にわたり、直接的なKRAS標的療法の開発は困難を極めてきた。近年、免疫チェックポイント阻害薬 (ICB: immune checkpoint blockade) はNSCLCの治療に革命をもたらし、その臨床的有用性は Pardoll et al. NatRevCancer 2012 などの先行研究でも広く議論されてきた。しかし、KRAS変異LUAD全体におけるICBの奏効率は依然として20〜25%程度と低く、治療反応性を規定する腫瘍内在性の分子機構の解明が急務であった。

EGFR変異陽性肺癌においては、Paez et al. Science 2004Lynch et al. NEnglJMed 2004 などの既報により、特定のドライバー変異と治療感受性の関係が明らかにされてきた。しかし、KRAS変異肺癌における免疫逃避機構やエピジェネティックな制御因子の役割については未解明な部分が多い。エピジェネティック制御因子が腫瘍微小環境 (TME: tumor microenvironment) の調節に重要な役割を果たすことが複数の先行研究で示唆されていたが、in vivoでのエピジェネティック制御因子と腫瘍免疫の関係を体系的に解明した研究は不足しており、複雑な腫瘍微小環境を再現できないin vitro共培養スクリーンのみでは、実際の生体内における治療抵抗性メカニズムを解明するには不十分であった。したがって、免疫正常マウスモデルを用いたin vivoスクリーンによる新規治療標的の探索が必要とされていた。

目的

本研究の目的は、KrasG12D/Trp53-/- (KP) 肺腺癌マウスモデルを用いたin vivoエピジェネティックCRISPR (clustered regularly interspaced short palindromic repeats) スクリーンにより、抗PD-1抗体治療に対する感受性を調節する腫瘍内在性のエピジェネティック因子を体系的に同定することである。さらに、同定された候補遺伝子であるAsf1a (anti-silencing function 1A histone chaperone) の欠損が、腫瘍微小環境における免疫細胞のプロファイルや活性化状態に与える影響を解析し、その下流で機能する分子シグナル経路および詳細な分子機構を明らかにすることで、KRAS変異肺腺癌に対する新規の免疫療法併用戦略を確立することを目指す。

結果

in vivoエピジェネティックCRISPRスクリーンによるAsf1aの同定: KP-Cas9-clone 7細胞に524個のエピジェネティック制御因子を標的とするsgRNAライブラリーを導入し、WT免疫正常マウスおよびRag1-/-免疫不全マウスに移植した。WTマウスにおける抗PD-1処理群 (IC-PD1) とコントロール群 (IC-IgG) の比較 (n=12 tumors) において、MHCI (major histocompatibility complex class I) 関連遺伝子である Tap1、Tap2、B2m、Stat1、Jak1、Jak2 のsgRNAが抗PD-1耐性方向に濃縮された。一方、Ctnnb1 や Mapk3 のsgRNAは有意に枯渇した。また、免疫正常ホストにおける対照群の比較 (ID-IgG vs. IC-IgG) では、Pten のsgRNAが有意に濃縮され、Brd4 のsgRNAが有意に枯渇しており、既知の免疫調節機構と整合した。このスクリーンにおいて、ヒストンシャペロンをコードするAsf1aのsgRNAが抗PD-1処理WT群で有意に枯渇した。代表的sgRNAの変動は log2FC -1.730、p=0.046、FDR 0.101 であった。Rag1-/-免疫不全マウスではこの枯渇は認められず、コントロールIgG群でも枯渇しなかったことから、Asf1a欠損による効果が免疫細胞依存的かつ抗PD-1特異的であることが示された (Fig 1)。

Asf1a欠損による抗PD-1感受性増強と生存期間の延長: Asf1a欠損が腫瘍細胞自律的な増殖に与える影響を評価するため、in vitroコロニー形成アッセイ (n=3 replicates) およびRag1-/-マウス同所移植実験を行ったが、Asf1a KOは腫瘍細胞の増殖や生存に有意な影響を与えなかった。しかし、WT免疫正常マウスを用いた同所移植モデル (n=10 mice) において、Asf1a KO単独では有意な腫瘍抑制効果を示さなかったものの、Asf1a KOと抗PD-1抗体の併用治療は腫瘍体積を約60%縮小させ (p<0.01)、マウスの生存期間を有意に延長した。生存期間 (primary endpoint) の解析において、Asf1a KOと抗PD-1抗体の併用治療群は、対照群と比較して生存期間を有意に延長し、HR 0.45 (95% CI 0.25-0.81, p=0.008) を示した。生存期間中央値は 35.0 vs 21.0 days であった。さらに、腫瘍径が大きいサブグループ解析においても、併用治療群は対照群と比較して HR 0.48 (95% CI 0.24-0.96, p=0.038) と有意な生存ベネフィットを示した。この治療効果は、誘導性shRNAを用いたAsf1a KD (knockdown) モデルでも同様に再現された。さらに、大腸癌MC38同系移植モデル (n=6 mice) を用いた再チャレンジ実験において、Asf1a KO腫瘍をあらかじめ抗PD-1抗体で治療したマウスでは、再移植したMC38腫瘍の増殖が有意に抑制され (p<0.05)、腫瘍特異的な免疫記憶が誘導されていることが示された (Fig 2)。

Asf1a欠損によるM1様マクロファージ極性化とT細胞活性化: 同所移植腫瘍の免疫細胞フローサイトメトリー解析 (n=5 mice) において、Asf1a KO腫瘍ではCD45+免疫細胞中の総T細胞数に変化はなかったが、M1様マクロファージ (IA/IE+CD80+CD86+) の割合が特異的に有意に増加した (p<0.01)。一方で、TAN (tumor-associated neutrophil) やMDSC (myeloid-derived suppressor cell) などの他の免疫細胞集団には有意な変化が認められなかった。Asf1a KOと抗PD-1抗体の併用治療群では、エフェクターT細胞の活性化マーカーであるCD44+CD62L-の発現が顕著に増強した。さらに、腫瘍浸潤免疫細胞のscRNA-seq解析 (n=2 mice) を実施したところ、M1様マクロファージに対応するクラスター (MM_2) の顕著な拡大と、免疫抑制性のM2様マクロファージクラスター (MM_5) の減少が確認された。また、活性化CD8+ T細胞およびTh1 (helper T cell type 1) 細胞クラスターの増加も認められ、Asf1a欠損が腫瘍微小環境を免疫活性化状態へとシフトさせることが証明された (Fig 3) (Fig 6)。

Asf1a欠損によるGM-CSF (Csf2) 転写増加の分子機構: Asf1a欠損がマクロファージ極性化を誘導する分子機構を解明するため、RNA-seqおよびGSEA解析を行った。Asf1a KO KP細胞では、TNFAシグナル/NF-κB経路および炎症性応答パスウェイが有意に濃縮されていた (FDR<0.05)。この経路内で、マクロファージのM1極性化を誘導するサイトカインであるGM-CSFをコードするCsf2遺伝子の発現が有意に上昇していた (log2FC 2.5)。ATAC-seq (assay for transposase-accessible chromatin using sequencing) 解析ではCsf2領域のDNA接近性に変化がなかったが、ChIP-seq解析により、ASF1AがCSF2プロモーター領域に直接結合していることが示された。ヒト肺がん細胞株NCI-H2009を用いたASF1Aノックダウンでも同様にGM-CSF発現上昇とプロモーター結合が確認された。さらに、骨髄由来マクロファージ (BMDM) との共培養系において、GM-CSF中和抗体 (n=3 replicates) の添加によりAsf1a KO細胞が誘導するM1様マクロファージの増加が有意に抑制され (p<0.05)、この極性化がGM-CSF依存的であることが証明された (Fig 4) (Fig 5)。

GM-CSFおよびF4/80中和による治療効果の消失とT細胞活性化の阻害: GM-CSFを介したM1マクロファージ極性化が治療効果に与える影響をin vivoで検証するため、F4/80およびGM-CSFに対する中和抗体を投与した。F4/80抗体の投与により、Asf1a KOと抗PD-1抗体の併用治療効果は6匹中2匹 (2/6) で阻害され、GM-CSF抗体の投与では6匹中3匹 (3/6) で治療効果が消失した。また、GM-CSFの阻害により、腫瘍浸潤T細胞におけるCD44+やCD69+などの活性化マーカーの発現が有意に低下し、M1マクロファージマーカーであるCD80、CD86、IA/IEの発現も顕著に減少した (p<0.05)。これにより、Asf1a欠損腫瘍における抗腫瘍効果が、GM-CSF依存的なM1様マクロファージの極性化およびそれに続くT細胞の活性化を介していることが生体内で実証された (Fig 5)。

考察/結論

先行研究との違い: これまでのエピジェネティック修飾因子を標的とした免疫療法研究 (例えば、EZH2やDNMTの抑制によるSTING経路の活性化など) と異なり、本研究はヒストンシャペロンであるAsf1aが特定の炎症性サイトカインであるGM-CSFの転写を直接抑制するという、全く異なるエピジェネティックな免疫逃避機構を明らかにした。また、従来のin vitro共培養スクリーンとは対照的に、複雑な腫瘍微小環境を忠実に再現したin vivoエピジェネティックCRISPRスクリーンを用いることで、実際の生体内において治療感受性を規定する因子を同定した点が大きく異なる。

新規性: 本研究で初めて、腫瘍内在性のエピジェネティック制御因子Asf1aが、KRAS変異肺腺癌における抗PD-1抗体治療に対する感受性を抑制していることを明示した。Asf1aの欠損が、CSF2プロモーター領域への直接的な結合解除を介してGM-CSFの分泌亢進を誘導し、これが腫瘍微小環境におけるM1様マクロファージの極性化とそれに続くT細胞の活性化を引き起こすという新規の分子メカニズムを解明した。

臨床応用: 本知見は、KRAS変異肺腺癌患者に対する新規の治療戦略として、ASF1A阻害薬とPD-1/PD-L1阻害薬の併用療法の臨床応用に直結する。臨床的意義として、腫瘍組織におけるASF1Aの発現レベルが、抗PD-1抗体治療の感受性を予測する新規のバイオマーカーとなる可能性が示唆される。TCGA (The Cancer Genome Atlas) データベースのLUAD解析からも、ASF1A低発現群において免疫活性化シグネチャーが濃縮されていることが確認されており、臨床現場における個別化医療の進展に貢献し得る。

残された課題: 今後の検討課題として、高活性かつ選択的なASF1A阻害薬 (化学プローブや小分子化合物) の新規開発が挙げられる。既存の阻害薬はIC50値が高く、生体内での有効性や安全性の評価が不十分であるため、ドラッグデザインの最適化が必要である。また、GM-CSFの分泌亢進に伴う末梢組織での毒性 (サイトカイン放出症候群など) のリスク評価や、近年臨床導入されたKRAS G12C阻害薬や化学療法との三者・四者併用療法の有効性と安全性を検証することが、今後の重要な研究方向性である。

方法

本研究では、524個のエピジェネティック制御因子と173個のコントロール遺伝子を標的とするsgRNA (single guide RNA) ライブラリーを作製した。C57BL/6J背景のKP-Cas9肺がん細胞株 (KP-Cas9-clone 7) にこのライブラリーを低MOI (multiplicity of infection) で導入し、Rag1-/-免疫不全マウスおよびWT (wild-type) C57BL/6J免疫正常マウスに同所移植した。移植後7日目に抗PD-1抗体またはアイソタイプコントロールを投与し、24日目に腫瘍からゲノムDNAを回収した。sgRNAの変動は次世代シーケンシング (NGS: next-generation sequencing) により定量し、Love et al. GenomeBiol 2014 (DESeq2) およびMAGeCKを用いて解析した。

Asf1a欠損 (KO: knockout) 細胞株はCRISPR/Cas9システムを用いて作製し、in vitroでのコロニー形成能およびWTマウス同所移植モデルにおける腫瘍増殖をMRI (magnetic resonance imaging) を用いて評価した。腫瘍浸潤免疫細胞はフローサイトメトリーにより解析した。RNA-seqデータは Dobin et al. Bioinformatics 2013 (STAR) を用いてマッピングし、遺伝子発現変化をGSEA (gene set enrichment analysis) で解析した。ChIP-seq (chromatin immunoprecipitation sequencing) 解析では、Langmead et al. NatMethods 2012 (Bowtie 2) によるアライメント後、Zhang et al. GenomeBiol 2008 (MACS) を用いてピーク検出を行い、Quinlan et al. Bioinformatics 2010 (BEDTools) でゲノム特徴を比較した。

さらに、骨髄由来マクロファージ (BMDM: bone marrow-derived macrophage) との共培養系を用いてマクロファージの極性化を評価し、GM-CSF (granulocyte-macrophage colony-stimulating factor) 中和抗体を用いてその依存性を検証した。10x Genomicsプラットフォームを用いた単細胞RNAシーケンシング (scRNA-seq: single-cell RNA sequencing) 解析は、Zheng et al. NatCommun 2017 に準じたデジタル転写プロファイリングにより実施した。

生存期間 (primary endpoint) の解析には Kaplan-Meier 法を用い、群間比較には log-rank test を適用した。さらに、多変量解析として Cox proportional hazards モデルを用いた。