- 著者: Franklin W. Huang, Felix Y. Feng
- Corresponding author: Felix Y. Feng (University of California, San Francisco, San Francisco, CA 94158, USA; felix.feng@ucsf.edu)
- 雑誌: Cell
- 発行年: 2019
- Epub日: N/A
- Article種別: Commentary
- PMID: 30901551
背景
Larotrectinib (VITRAKVI、LOXO Oncology 開発、後に Eli Lilly が買収) は、NTRK1/NTRK2/NTRK3 (neurotrophic receptor tyrosine kinase 1/2/3) 遺伝子融合を標的とする選択的経口パン-TRK (tropomyosin receptor kinase A/B/C) 阻害剤である。2018年11月26日、米国食品医薬品局 (FDA) は、本薬剤を「腫瘍横断的 (tumor-agnostic)」適応で初めて承認した分子標的薬として位置付けた。これにより、NTRK融合陽性固形腫瘍は、その原発組織型を問わずlarotrectinibによる治療対象となった。
これまでのFDA承認は、HER2陽性乳癌、EGFR陽性非小細胞肺癌 (NSCLC)、ALK陽性NSCLC、BRAF陽性黒色腫など、特定の組織型に厳密に紐付いた組織型限定承認であった。これに対し、larotrectinibの承認は、① NTRK1/2/3融合陽性、② 固形腫瘍、③ 転移性または切除困難、④ 標準治療無効または進行、という「アクション可能なゲノム情報 (actionable genomic insights)」のみで定義された点が画期的である。この承認は、プレシジョンオンコロジーにおけるパラダイムシフトを体現するものであった。同様の腫瘍横断的承認は、これまでマイクロサテライト不安定性高頻度/ミスマッチ修復欠損 (MSI-H/dMMR) 腫瘍に対するペムブロリズマブ (2017年承認) の1例のみであり、larotrectinibは2例目、かつ分子標的治療薬としては初の事例となる歴史的マイルストーンを確立した。
2019年時点では、NTRK融合陽性固形腫瘍の治療においていくつかのギャップが残されていた。具体的には、(1) NTRK1/2/3融合の腫瘍横断的な有病率と臓器特異的な頻度の精密なマッピングが未解明であったこと、(2) 腫瘍横断的適応の臨床実装戦略(ユニバーサルな次世代シーケンシング (NGS) スクリーニングと免疫組織化学 (IHC) によるプレスクリーニングのどちらが最適か)が依然としてcontroversialであったこと、(3) 獲得耐性(TRKA G595Rなどの溶媒結合部位変異)に対する次世代TRK阻害剤戦略が手薄であったこと、(4) 既存の組織型限定パラダイムとの整合性確保(NSCLCにおいてNTRK陽性、ALK陽性、ROS1陽性、RET陽性を同時にスクリーニングする運用上の実現可能性)が課題であったこと、(5) 「アクション可能なゲノム情報」を主軸とする薬剤承認フレームワークの一般化可能性が不足している点が、今後の検討課題として挙げられていた。これらの課題は、プレシジョンオンコロジーのさらなる発展のために解決されるべき重要なギャップを構成していた。
目的
本Drug Snapshotは、Cell誌のDrug Snapshot形式(Cell editorialの短い概要シリーズ)として、以下の情報を読者に提供することを目的とする。(1) larotrectinibのFDA承認内容と適応条件、(2) 標的分子(NTRK1/2/3およびTRKA/B/Cの癌原性融合遺伝子)、(3) 作用機序(選択的経口パン-TRKキナーゼ阻害)、(4) NTRK融合の腫瘍横断的な有病率パターン、(5) 腫瘍横断的承認がプレシジョンオンコロジーにもたらす意義、を明確に解説する。本記事は、NTRK融合陽性固形腫瘍に対する初の腫瘍横断的治療薬としてlarotrectinibがFDA承認されたことを速報し、プレシジョンオンコロジーにおけるゲノム情報に基づく治療の重要性を提示することを意図している。これにより、臨床医や研究者がこの新しい治療パラダイムを理解し、今後の研究や臨床実践に役立てるための基盤を提供することを目指した。
結果
Larotrectinibの承認内容と分子プロファイル: FDAは2018年11月26日、larotrectinib(商品名 VITRAKVI)をNTRK融合陽性固形腫瘍に対する治療薬として承認した。この承認は、既知の獲得耐性変異を伴わない患者、転移性または外科的切除が重篤な罹患率をもたらす患者、および満足な代替治療法がないか、既存治療後に癌が進行した患者を対象としている。Larotrectinibは、TRKA/B/Cに選択的な低分子経口パン-TRK阻害剤であり、NTRK1/2/3遺伝子および癌原性NTRK融合タンパク質を分子標的とする。その作用機序は、チロシンキナーゼシグナル伝達の阻害であり、神経系で広く発現するTRK受容体とNTRK融合陽性腫瘍細胞の両方に作用する (Fig 1 schematic)。この承認は、特定の組織型に限定されない「腫瘍横断的」な適応であり、プレシジョンオンコロジーの新たな方向性を示すものであった。
NTRK融合の腫瘍横断的有病率 (Spectrum schematic): 本Drug Snapshotは、NTRK融合陽性癌の腫瘍横断的な分布を2階層の模式図で整理している。第一のカテゴリーは、「NTRK融合陽性率が75%を超える稀な腫瘍」であり、これらには分泌型乳癌 (90-100%)、唾液腺の乳腺類似分泌癌 (90%)、乳児型線維肉腫 (90-100%)、先天性中胚葉性腎腫 (90%) が含まれる。これらの腫瘍では、NTRK融合が定義的なドライバー癌遺伝子として機能し、診断時にほぼ全例で陽性となる。第二のカテゴリーは、「NTRK融合陽性率が5%未満の一般的な腫瘍」であり、頭頸部癌、非消化管間質腫瘍 (GIST) 軟部肉腫、結腸直腸癌 (CRC)、NSCLC、腎細胞癌、黒色腫、胆管癌、虫垂癌、乳癌、膵癌、急性リンパ性白血病 (ALL)、急性骨髄性白血病 (AML)、多発性骨髄腫、樹状細胞腫瘍、Erdheim-Chester病、高悪性度神経膠腫などが含まれる。これらの腫瘍ではNTRK融合は稀であるが、各腫瘍型において重要な治療可能なサブセットを形成する。例えば、NSCLCにおけるNTRK1/2/3融合の有病率は0.1-1%と低いものの、年間米国新規発症NSCLC患者数約230,000例から推定すると、数百例の患者プールが存在すると考えられる。
腫瘍横断的承認の臨床的エビデンス (Fig 1 - 1ページ模式図): 本Drug Snapshotは、larotrectinibの腫瘍横断的承認の臨床的根拠として、複数の臨床試験データを参照している。主要なエビデンスは、Drilon et al. NEnglJMed 2018による統合解析(成人および小児患者n=55、17種類の異なる腫瘍型を含む)であり、ORRは75% (95% CI 61-85%) と報告された。また、Hong et al. AnnOncol 2019による成人患者を対象とした第1相試験(n=70、NTRK融合陽性8例でORR 100%)および小児第1/2相SCOUT試験のデータも参照された。これらの結果は、larotrectinibがNTRK融合陽性固形腫瘍に対して、腫瘍の種類を問わず高い奏効率を示すことを明確に示しており、腫瘍横断的承認の臨床的基盤を確立した。特に、Drilon et al. NEnglJMed 2018の解析では、奏効期間中央値は未到達であり、12ヶ月時点での奏効維持率は71% (95% CI 55-82%) であった。これらの強力な臨床データが、FDAによる画期的な承認を後押しした。
考察/結論
本Drug Snapshotは、Cell誌の編集形式でlarotrectinibのFDA腫瘍横断的承認(2018年11月26日)を速報し、プレシジョンオンコロジーにおけるアクション可能なゲノム情報に基づくパラダイムシフトを読者に提示した歴史的解説である。
先行研究との違い: 従来のFDA承認は、HER2陽性乳癌やEGFR陽性NSCLCのように組織型に限定されていた。これに対し、larotrectinibの承認は、遺伝的特徴(NTRK融合)のみを基準とする腫瘍横断的適応であり、従来の承認プロセスと対照的である。これまで唯一の腫瘍横断的承認は、2017年のMSI-H/dMMR腫瘍に対するペムブロリズマブ(PD-L1依存性の免疫学的メカニズム)のみであり、標的型低分子キナーゼ阻害剤では本研究で初めての事例である。FDAの伝統的な承認フレームワークと相違する点は、(a) 第3相ランダム化比較試験が不要であったこと(バスケット型試験デザインのn=55のデータで承認)、(b) 組織型に依存しない主要評価項目(ORR)が採用されたこと、(c) 稀な癌と一般的な癌のサブセットに対する同時承認、(d) 成人および小児に対する同時適応(年齢横断的)にある。
新規性: 本解説は、新規な視点として、(a) larotrectinibのFDA承認が「アクション可能なゲノム情報」を薬剤承認フレームワークの中核に据えた本研究で初めての規制事例であること、(b) NTRK融合陽性癌の2段階有病率パターン(稀な腫瘍で90-100% vs 一般的な腫瘍で<5%)の模式図による整理、(c) これまで報告されていない「最初からの腫瘍横断的」指定というFDA承認経路の新しいパラダイムを、Cell誌のコンパクトな形式で提示した。
臨床応用: 本レビューの臨床的有用性は、(i) NSCLCのルーチンバイオマーカーパネルにNTRK1/2/3融合を必須として組み込む臨床現場での根拠を提示したこと、(ii) NCCN/ESMO/ASCOガイドラインでNTRK融合陽性固形腫瘍にlarotrectinibをファーストラインオプションとして2018-2019年に推奨化したこと、(iii) エントレクチニブ(Roche/Ignyta)も2019年8月にFDA腫瘍横断的承認を受け、NTRK + ROS1 + ALKのマルチキナーゼ活性と中枢神経系 (CNS) 浸透性を持つ第2の腫瘍横断的TRK阻害剤として競合すること、(iv) 後続のセルペルカチニブ(RET、2020年)、プラルセチニブ(RET、2020年)、セリトレクチニブ(LOXO-195、第2世代TRK)、レポトレクチニブ(TPX-0005、第2世代ROS1/TRK、Solomon et al. 2024 TRIDENT-1)の腫瘍横断的開発の勢いを促進したこと、(v) 臨床的意義として、患者個別化プレシジョンオンコロジーの「bench-to-bedside」翻訳パラダイムを確立したことにある。橋渡し研究の代表的な成功事例として、1982年のNTRK1発見から2018年のFDA承認まで36年という長い期間を完結させた。
残された課題: 今後の検討課題として、(a) 腫瘍横断的承認に必要なエビデンス閾値(本承認はn=55、ORR 75%)の標準化と将来の薬剤への一般化可能性、(b) 獲得耐性(TRKA G595R溶媒結合部位変異、xDFG G667S、ゲートキーパーF617Lなどのキナーゼドメイン変異)に対する次世代TRK阻害剤戦略の今後の研究(セリトレクチニブLOXO-195が2020年に承認、レポトレクチニブTPX-0005が2023年に承認)、(c) NTRK融合ユニバーサルスクリーニングの費用対効果とターンアラウンドタイムの最適化、(d) FDA腫瘍横断的承認フレームワークが他のドライバー変異(RET融合、HER2変異など)に拡張される際の統計的手法、(e) limitationとして、本Drug Snapshotは1ページの短い解説であり、深いメカニズム解析や批判的評価は含まないこと、Cell誌の編集バイアスの可能性、(f) NSCLC NTRK融合患者に特異的なアウトカム(奏効率、PFS、CNS浸透性)は他の文献を参照する必要があること、(g) 経済的持続可能性(年間200,000ドル以上の治療費)とグローバルアクセス問題、が今後の方向性として提示される。本Drug Snapshotは、プレシジョンオンコロジーの新しい時代を1ページに圧縮した記念碑的解説であり、NSCLCを含む固形腫瘍の標的治療フレームワークのパラダイムシフトを体現する歴史的文書として位置付けられる。
方法
本稿はDrug Snapshot/Commentaryであるため、厳密な意味での実験的手法は該当しない。著者であるHuangとFengは、カリフォルニア大学サンフランシスコ校のプレシジョンオンコロジー研究者であり、Cell誌の編集委員会からの依頼により、NTRK融合分野の最新情報を提供した。情報源としては、2018年11月26日付のFDA承認文書、LOXO Oncologyの薬剤開発データ、および主要な先行研究が統合された。具体的には、Drilon et al. NEnglJMed 2018によるLOXO-101の成人および小児を対象とした統合解析(n=55、客観的奏効率 (ORR) 75%)や、Vaishnavi et al. CancerDiscov 2015によるミニレビューなどが参照された。
Cell誌のDrug Snapshot形式は、1ページの図解と短いテキスト解説で構成されており、体系的なレビューではなく、物語的な編集形式をとる。本稿では、これらの情報を統合し、larotrectinibの承認がプレシジョンオンコロジーに与える影響を解説した。統計解析は行われていないが、参照された臨床試験データは、ORRや奏効期間 (DOR) などの主要評価項目に基づいていた。例えば、Drilon et al. NEnglJMed 2018では、主要評価項目は独立中央判定によるORRであり、副次評価項目にはDOR、無増悪生存期間 (PFS)、全生存期間 (OS) が含まれていた。これらのデータは、記述統計学的に要約され、95%信頼区間 (CI) が報告されている。本Drug Snapshotは、これらの臨床試験結果を簡潔にまとめ、その臨床的意義を強調することに主眼を置いた。参考文献はウェブ上で補完掲載されている (www.cell.com/cell/S0092-8674(19)30232-6)。