• 著者: Drilon A, Laetsch TW, Kummar S, DuBois SG, Lassen UN, Demetri GD, and others (38名)
  • Corresponding author: David M. Hyman, MD (Memorial Sloan Kettering Cancer Center, New York, USA)
  • 雑誌: New England Journal of Medicine
  • 発行年: 2018
  • Epub日: 2018-02-22
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 29466156

背景

NTRK1、NTRK2、NTRK3遺伝子によってコードされるTRKA、TRKB、TRKCは、発生後は主に神経系において痛覚、固有覚、食欲、記憶の調節に関与するチロシンキナーゼである。これらの遺伝子の染色体再構成により、TRKのキナーゼドメインが多様なN末側パートナーと融合した遺伝子変化が、小児から高齢者まであらゆる年齢層の多様な固形腫瘍に生じることが知られている。この融合遺伝子は、構成的かつリガンド非依存性のシグナル活性化を引き起こし、腫瘍のオンコジーン依存を誘導する。NTRK融合は全固形腫瘍の約1%に同定されるが、乳腺分泌癌 (ETV6-NTRK3) や乳児型線維肉腫では高頻度に認められることが報告されている。Stransky et al. NatCommun 2014は、がんにおけるキナーゼ融合のランドスケープを詳細に分析し、TRK融合が多様な腫瘍種に存在することを示した。

従来のマルチキナーゼ阻害薬(例: クリゾチニブ、カボザンチニブ)はTRKを含む複数の標的を阻害するが、その選択性が低いため、TRK固有の毒性と非TRK毒性が混在し、難治性副作用の懸念があった。Katayama et al. SciTranslMed 2012は、ALK融合陽性肺癌におけるクリゾチニブ耐性メカニズムを報告しており、多標的阻害剤の限界を示唆している。また、これまでの分子標的薬は、EGFR変異やBRAF V600E変異などの同一の遺伝子異常が存在する場合でも、腫瘍種によって薬剤感受性が異なることが多かった。例えば、EGFR変異陽性非小細胞肺癌に対するゲフィチニブの有効性は確立されているが、他の腫瘍種では限定的であるとKobayashi et al. NEnglJMed 2005が報告している。同様に、BRAF V600変異に対するベムラフェニブも、悪性黒色腫以外のがん種では有効性が異なることが示されている。

しかし、TRK融合は「腫瘍種を問わない (tumor-agnostic)」ドライバーとして機能し得るという生物学的仮説が提唱されていた。これは、TRK融合が腫瘍の発生と維持に不可欠な単一の分子イベントであるため、その阻害が腫瘍種に関わらず効果を発揮するという考えに基づく。Vaishnavi et al. NatMed 2013は、肺癌におけるNTRK1再構成のオンコジェニックな役割と薬剤感受性を示し、TRK融合が治療標的となり得る可能性を初めて示唆した。このような背景から、高選択的汎TRK阻害薬であるlarotrectinibが開発された。larotrectinibは、TRKA、TRKB、TRKCの3つのTRKタンパク質すべてを強力かつ選択的に阻害する低分子薬である。

NTRK融合遺伝子の同定は、次世代シークエンシング (NGS) やFISHなどの分子プロファイリング技術の進歩により可能となった。これらの技術は、稀な遺伝子異常を持つ患者を特定し、標的療法を適用するための重要なツールである。しかし、TRK融合の頻度が低いため、そのスクリーニング体制の整備は依然として課題であり、多くの施設で包括的な分子プロファイリングが不足している状況が未解明な治療機会の喪失につながる可能性があった。本研究は、このギャップを埋めることを目指し、larotrectinibの有効性と安全性を包括的に評価するものである。

目的

本研究の目的は、成人を対象とした第1相試験、小児を対象とした第1-2相試験、および青少年・成人を対象とした第2相バスケット試験の3つの臨床試験から連続登録された最初の55例を統合解析し、年齢や腫瘍種を問わない (age- and tumor-agnostic) larotrectinibの有効性と安全性を評価することである。具体的には、独立評価委員会 (IRC) によるRECIST v1.1準拠の奏効率 (ORR) を主要エンドポイントとして設定し、奏効期間 (DOR) および無増悪生存期間 (PFS) を副次エンドポイントとして評価した。また、larotrectinibの安全性プロファイルを詳細に解析し、薬剤関連有害事象の発生頻度と重症度を明らかにすることも目的とした。本研究は、TRK融合が腫瘍種を問わない治療標的として機能し得るという「tumor-agnostic therapy」の概念を臨床的に実証することを目的とした。これにより、稀な遺伝子異常を持つ患者に対する新たな治療戦略の確立に貢献することを目指した。

結果

TRK融合陽性固形腫瘍におけるlarotrectinibの奏効: larotrectinibは、TRK融合陽性固形腫瘍患者55例において、独立評価委員会 (IRC) 評価で75% (95% CI 61-85) という顕著な客観的奏効率 (ORR) を示した (Table 2)。内訳は、完全奏効 (CR) が13% (7例)、部分奏効 (PR) が62% (34例) であった。安定 (SD) は13% (7例)、進行 (PD) は9% (5例) であり、4% (2例) は早期の臨床的悪化により評価不能であった。担当医評価によるORRは80% (95% CI 67-90) であり、CR 16%、PR 64%であった。奏効は、17種類のユニークな腫瘍種(乳腺分泌癌12例、その他軟部肉腫11例、乳児型線維肉腫7例、甲状腺腫瘍5例、大腸腫瘍4例、肺腫瘍4例、悪性黒色腫4例、GIST 3例、胆管癌2例など)のすべてにわたって観察された (Figure 1A)。患者年齢は4ヶ月から76歳(中央値45歳)と幅広く、融合遺伝子の種類(NTRK1 45%、NTRK2 2%、NTRK3 53%、14種類の融合パートナー)に関わらず一貫した奏効が確認された (Table 1)。前治療歴は0-1レジメンが49%、2レジメンが16%、3レジメン以上が35%であり、多くが前治療を受けた集団であった。

奏効の持続性と無増悪生存期間: larotrectinibによる奏効は顕著な持続性を示した。中央値8.3ヶ月の追跡期間において、奏効期間 (DOR) 中央値は未達であった (95% CI下限11.1ヶ月) (Figure 2A)。1年時点での奏効継続率は71%であり、6ヶ月時点では83%の奏効が継続していた。無増悪生存期間 (PFS) 中央値も未達であり (中央値追跡9.9ヶ月)、6ヶ月PFS率は73%、1年PFS率は55%であった (Figure 2B)。奏効までの期間中央値は1.8ヶ月 (範囲0.9〜6.4ヶ月) であり、これはプロトコールで規定された最初の腫瘍評価時期(8週)と一致した (Figure 1B)。データカットオフ時点で、奏効を達成した44例中86% (38例) が治療を継続中または根治的切除後であった。局所進行乳児型線維肉腫の小児2例では、larotrectinib治療により腫瘍が十分に縮小し、四肢温存手術が可能となった。病理学的評価で陰性断端 (R0切除) が確認され、これらの患者は治療中止後もそれぞれ4.8ヶ月および6.0ヶ月間、無増悪状態を維持した。最長奏効例は、最初にTRK融合陽性腫瘍として治療された患者であり、27ヶ月時点でも治療継続中であった。

安全性プロファイル: larotrectinibの安全性プロファイルは良好であり、全有害事象1,038件のうち93% (964件) がgrade 1または2であった (Table 3)。薬剤関連有害事象によるlarotrectinibの中止例は認められなかった。Grade 3または4の治療関連有害事象で5%を超えたものは皆無であり、grade 4または5の治療関連有害事象も認められなかった。用量減量は15% (8例) の患者で実施され、主な原因はALT/AST上昇 (4例)、めまい (2例)、好中球減少 (2例) であった。これらの患者では、用量減量後も奏効が維持された。主な有害事象として、ALT/AST上昇 (任意grade 42%、治療関連grade 3: 5%)、疲労 (36%)、嘔吐 (33%)、めまい (31%)、嘔気 (31%) が認められたが、大部分はgrade 1/2であり、管理可能であった。最大耐量 (MTD) は規定されなかった。

一次耐性および獲得耐性機序: 一次耐性(最良効果が進行病変 [PD])は11% (6例) に認められた。このうち1例では、larotrectinib投与前の腫瘍シーケンスにより、前治療のTRK阻害剤に起因するNTRK3 G623R変異が同定された。この変異は、キナーゼドメインのATP結合部位に位置する「ソルベントフロント」変異であり、larotrectinibの結合を立体的に阻害し、その阻害効力を低下させることが知られている。残る5例中3例では、中央機関での汎TRK免疫組織化学 (IHC) 検査が陰性であり、局所検査の偽陽性または融合タンパク質の非発現が示唆され、これが奏効欠如の理由である可能性が考えられた。

獲得耐性は10例で観察され、病勢進行後に再検査された9例すべてでキナーゼドメイン変異が同定された (Table S3)。これらの変異には、ソルベントフロント変異 (NTRK1 G595RまたはNTRK3 G623R; 7例)、ゲートキーパー変異 (NTRK1 F589L; 2例)、およびxDFG変異 (NTRK1 G667SまたはNTRK3 G696A; 2例) が含まれた。xDFG変異はキナーゼ活性化ループの一部に発生し、薬剤結合を立体的に阻害する。これらの変異は、EGFR T790MやALK L1196Mなど、他のキナーゼ阻害剤に対する既知の獲得耐性変異と構造的に並行する位置にあり、次世代TRK阻害剤であるLOXO-195が前臨床的にこれらの変異を克服する活性を持つことが示されていた。3例では複数の獲得耐性変異が同時に検出された。獲得耐性を発現した10例中8例 (80%) は、病勢進行後も臨床的利益のためにlarotrectinib治療を継続した。

考察/結論

本研究は、tumor-agnosticな分子標的療法という概念を、大規模かつ前向きに臨床的に実証した画期的な試験である。これまでの分子標的薬は、EGFR変異やBRAF V600E変異など、同一の遺伝子異常が存在しても腫瘍種によって感受性が異なることが多かったが、larotrectinibはNTRK融合という単一の分子マーカーが存在する限り、17種類の多様な腫瘍種および4ヶ月から76歳までの幅広い年齢層において、均一かつ高い奏効率を示した。この腫瘍横断的な感受性は、TRK融合が真のオンコジーン・ドライバーとして機能し、腫瘍種を超えてオンコジーン依存性を規定するという生物学的仮説を裏付けるものである。本試験のデザイン上の強みは、成人第1相、小児第1-2相、青少年・成人第2相バスケット試験の3試験から55例を連続登録したことにより、小児、青少年、成人の広い年齢層と、乳腺分泌癌や乳児型線維肉腫といった稀少腫瘍を含む多様な腫瘍種を包含できた点にある。

安全性プロファイルは極めて良好であり、最大耐量 (MTD) は規定されず、grade 3/4の治療関連有害事象が5%を超えるものは皆無であった。薬剤関連有害事象による治療中止例がゼロであったことは、larotrectinibの長期投与の実現可能性を強く支持する。また、用量減量が必要となった患者でも奏効が維持された事実は、larotrectinibの治療域の広さを示唆し、忍容性に問題のある患者でも継続治療が可能であることを示唆する。このような腫瘍種に依存しない均一な低毒性は、従来の化学療法や他の分子標的薬と比較して、larotrectinibの患者利便性の高さを際立たせる。

耐性機序として同定されたキナーゼドメイン変異(ソルベントフロント、ゲートキーパー、xDFG)は、他のキナーゼ阻害剤に対する既知の耐性変異と構造的に並行する位置に存在することが示された。この知見は、larotrectinib後の治療戦略を検討する上で重要な臨床的含意を持つ。特に、次世代TRK阻害剤であるLOXO-195が、ソルベントフロント変異などの獲得耐性変異を克服するように設計されているという事実は、larotrectinib治療後に耐性を獲得した患者に対する今後の治療方向性を示すものである。これは新規な治療アプローチであり、これまで報告されていない耐性克服戦略の可能性を示唆する。

残された課題としては、TRK融合の頻度が低いため、対象患者を効率的に同定するための包括的なスクリーニング体制の整備が不可欠である。次世代シークエンシング (NGS) やFISHを含む分子プロファイリング検査の普及が、この治療機会の拡大に直結すると考えられる。また、本研究は比較的短期間の追跡データに基づいているため、larotrectinibの長期的な有効性や安全性、特に小児患者における成長・発達への影響については、今後の検討課題としてさらなる追跡研究が必要である。

結論: 3つの臨床試験の統合解析 (n=55、17腫瘍種) において、larotrectinibはNTRK融合陽性固形腫瘍に対し、IRC評価でORR 75% (95% CI 61-85)、DORおよびPFS中央値未達、1年時点での奏効継続率71%という顕著かつ持続的な抗腫瘍効果を示した。同時に、grade 3/4の治療関連有害事象が5%を超えるものはなく、薬剤関連中止例もゼロという良好な安全性が確認された。本結果は、TRK融合をtumor-agnosticな治療標的とする初の強力な前向き大規模エビデンスとなり、larotrectinibの米国FDAによるtumor-agnostic承認 (2018年11月) の根拠となった。

方法

本統合解析には、larotrectinibの3つの臨床試験(成人対象第1相試験、小児対象第1-2相試験、青少年・成人対象第2相バスケット試験)から、TRK融合陽性固形腫瘍患者55例が連続的に登録された。これらの試験はClinicalTrials.govにNCT02122913、NCT02637687、NCT02576431として登録されている。共通の適格基準として、局所進行または転移性固形腫瘍(非CNS原発)、ECOG PS 0-3、および主要臓器機能の保持が求められた。第2相バスケット試験では、登録前に分子プロファイリングによるTRK融合の確認が必須であったが、第1相試験のTRK融合陽性例は遡及的に統合解析に組み入れられた。

larotrectinibは、成人および体表面積が1 m2以上の小児には100 mgを1日2回経口投与、体表面積が1 m2未満の小児には100 mg/m2を1日2回経口投与された。投与は病勢進行、患者の試験中止、または許容できない有害事象の発生まで継続された。TRK融合の同定は、CLIA認定または同等の施設で実施された次世代シークエンシング (50例) またはFISH (5例) により行われた。

主要エンドポイントは、独立放射線審査委員会 (IRC) によるRECIST v1.1準拠の客観的奏効率 (ORR) であった。55例のサンプルサイズは、仮説ORR 50%に基づき、95%信頼区間 (CI) の下限が30%を棄却できる統計力 (80%) を確保するように設計された。この設計は、以前の標的療法におけるゲノム定義集団の臨床的意義と整合性を持つとされた。副次エンドポイントには、奏効期間 (DOR)、無増悪生存期間 (PFS)、および安全性(Common Terminology Criteria for Adverse Events [CTCAE] v4.0準拠)が含まれた。腫瘍評価はベースライン時、その後1年間は8週間ごと、それ以降は病勢進行まで12週間ごとにCTまたはMRIにより実施された。すべての奏効は、初回奏効から少なくとも4週間後に確認された。

統計解析はintention-to-treat (ITT) 原則に従って実施された。ORRの95%CIはClopper-Pearson法を用いて算出された。奏効期間および無増悪生存期間は、Kaplan-Meier法を用いて推定された。データカットオフは2017年7月17日であった。本研究は、腫瘍の希少性、がん種の固有の異質性、および国際的な規制当局からの助言に基づき、開発プログラムの早期段階で3つの試験からの有効性データを統合する決定がなされた。