• 著者: Stein MK, Prouet P, Martin MG
  • Corresponding author: Matthew K. Stein, MD (West Cancer Center, University of Tennessee Health Science Center, Germantown, TN, USA)
  • 雑誌: JCO Precision Oncology
  • 発行年: 2019
  • Epub日: 2019-08-07
  • Article種別: Case Report
  • PMID: 35100711

背景

非小細胞肺癌(NSCLC)において、STK11変異は患者の約15〜20%に認められ、PD-1/PD-L1阻害薬に対する耐性と関連することが複数の研究で示されている。特に、STK11変異は免疫療法の原発性抵抗性の最も重要な分子決定因子の一つとして認識されており、PD-L1の発現が高い場合であっても、抗PD-1単剤療法の有効性が著しく低下することが報告されている。この現象は、STK11変異が腫瘍微小環境を「cold tumor」(免疫細胞の浸潤が乏しく、STINGシグナルが抑制された状態)へと変化させるためと考えられている。Rizvi et al. JClinOncol 2018は、分子決定因子と免疫チェックポイント阻害薬への反応性を詳細に解析している。

さらに、STK11変異とKRAS変異の共存(STK11/KRAS共変異)は、PD-1/PD-L1阻害薬に対する抵抗性が特に強い「cold tumor」の表現型と関連するとされ、現在の免疫療法では治療が困難なサブグループを形成する。Skoulidis et al. CancerDiscov 2018の研究では、STK11/KRAS共変異を有するKRAS変異陽性肺腺癌患者において、抗PD-1単剤療法の奏効率が著しく低い(客観的奏効率 [ORR] 7.4%)ことが示されており、このサブグループにおける治療成績の改善が喫緊の課題である。また、Arbour et al. ClinCancerRes 2018もKRAS変異陽性NSCLCにおける共変異の影響を報告している。これらの先行研究により、STK11変異が免疫療法抵抗性に関連する重要なバイオマーカーであることが示されているものの、STK11変異陽性、特にKRAS共変異を有する患者に対する効果的な治療戦略は未確立である。従来の治療法では十分な効果が得られないため、新たな治療アプローチが不足している状況である。

このようなPD-1単剤療法に耐性を示す集団に対して、CTLA-4阻害薬(イピリムマブ)を追加した二重免疫チェックポイント阻害療法が代替戦略として検討されている。CTLA-4阻害薬は、T細胞のプライミングを促進し、多様なT細胞クローンの活性化を誘導することで、抗腫瘍免疫を増強する可能性があるためである。しかし、STK11変異陽性NSCLCにおける二重免疫チェックポイント阻害療法の有効性については、まだ十分なデータが不足しており、特にSTK11/KRAS共変異、PD-L1陰性という予後不良因子を複数持つ患者に対する有効性は未解明な点が多い。本報告は、この治療困難なサブグループに対する二重免疫療法の潜在的有用性を示す個別例証拠を提供するものである。

目的

本症例報告の目的は、STK11とKRAS共変異を有し、かつPD-L1陰性の進行肺腺癌患者に対し、ニボルマブと低用量イピリムマブによる二重免疫チェックポイント阻害療法を施行した際の臨床経過と治療効果を詳細に報告することである。この特定の免疫療法抵抗性分子サブタイプにおいて、二重免疫チェックポイント阻害療法が持続的な奏効をもたらす可能性を提示し、今後の臨床試験における評価の必要性を強調することを目的とする。これにより、予後不良とされるSTK11変異陽性KRAS変異陽性PD-L1陰性NSCLC患者に対する新たな治療戦略の確立に向けた基礎的知見を提供することを目指す。

結果

治療開始後の初期奏効: 2018年6月にニボルマブとイピリムマブの併用療法を開始した後、最初の画像評価(治療開始から65日目)で右中葉病変の消失と左副腎転移の縮小が確認され、部分奏効(PR)と判断された。これは、STK11およびKRAS共変異、PD-L1陰性という予後不良因子を持つ患者において、二重免疫チェックポイント阻害療法が早期に抗腫瘍効果を発揮したことを示す。左副腎転移は治療開始65日目で顕著な縮小を示した (Fig 1)。

免疫関連有害事象(irAE)の発生と管理: 治療継続中の2018年7月、患者は症候性の自己免疫性甲状腺機能亢進症(irAE)を発症したため、ニボルマブとイピリムマブの両薬剤が一時的に中断された。甲状腺機能亢進症に対しては、メチマゾールとアテノロールが投与され、症状は管理された。その後、甲状腺機能は甲状腺機能低下症へと移行し、レボチロキシンによる補充療法が開始された。ニボルマブは2018年8月に症状が改善した後に再開され、イピリムマブの2回目の投与は甲状腺機能が正常化した後の2018年9月に実施された。これらのirAEは薬物療法により適切に管理され、Grade 3/4相当の重篤な毒性は認められなかった。irAEの発生は、免疫チェックポイント阻害薬の既知の副作用プロファイルと一致する。

持続的な腫瘍制御と奏効維持: その後の画像評価(治療開始から167日目、240日目、338日目)では、右中葉病変の完全な消失が継続し、左副腎転移も持続的に縮小していることが確認された(Fig 1)。最終報告時点(2019年5月)で、患者は治療開始から35ヶ月以上にわたり持続的な腫瘍制御と奏効を維持しており、治療は継続中であった。これは、予後不良とされる分子プロファイルを持つ患者において、二重免疫チェックポイント阻害療法が長期的な臨床的利益をもたらす可能性を示唆する重要な所見である。この35ヶ月以上の奏効期間は、STK11/KRAS共変異患者における単剤免疫療法のORR 7.4%と比較して顕著な改善である。

バイオマーカープロファイルと治療反応の関連性: 本症例は、PD-L1発現0%(陰性)およびSTK11変異という、免疫療法に対する二重の耐性因子を持つにもかかわらず、TMBが15 mutations/Mbと高値であった。この高TMBが、二重免疫チェックポイント阻害療法に対する奏効の基盤となった可能性が考えられる。Ready et al. JClinOncol 2019によるCheckMate 568試験では、高TMB患者においてニボルマブとイピリムマブの併用療法が単剤療法と比較して優れた効果を示すことが報告されており(高TMB患者におけるPFSのハザード比 [HR] 0.58; 95% CI 0.42-0.81, p<0.001)、本症例の結果はこれと整合する。STK11 R39fsフレームシフト変異は機能喪失型変異として知られており、通常は免疫原性が低い「cold tumor」を形成するとされるが、CTLA-4阻害薬の追加が、このような微小環境の免疫活性化を促進した可能性が示唆される。このR39fs変異は、キナーゼドメイン外の変異であり、STK11タンパク質の機能喪失を引き起こすと考えられる。

考察/結論

本症例は、PD-L1陰性、STK11およびKRAS共変異という、免疫療法に対する「二重耐性」プロファイルを持つにもかかわらず、TMB高値(15 mutations/Mb)の進行肺腺癌患者が、ニボルマブと低用量イピリムマブの二重免疫チェックポイント阻害療法により、35ヶ月以上にわたる持続的な腫瘍制御を達成したことを示した。これは、STK11変異を有するNSCLC患者に対する二重免疫チェックポイント阻害療法の潜在的有用性を示す重要な個別例証拠である。

先行研究との違い: これまでの研究、特にSkoulidis et al. CancerDiscov 2018では、STK11/KRAS共変異NSCLCにおける抗PD-1単剤療法の奏効率が著しく低い(ORR 7.4%)ことが示されており、本症例の持続的な奏効はこれと対照的である。本症例は、TMB高値という因子が、STK11変異による免疫療法耐性を部分的に克服しうる可能性を示唆する。

新規性: 本研究で初めて、STK11/KRAS共変異、PD-L1陰性という極めて予後不良なサブグループにおいて、高TMBを背景としたニボルマブとイピリムマブの併用療法が長期的な奏効をもたらしうることを示した。これは、この特定の分子プロファイルを持つ患者に対する治療選択肢として、二重免疫チェックポイント阻害療法が有効である可能性を新規に提示するものである。

臨床応用: 本知見は、STK11変異陽性KRAS変異陽性PD-L1陰性NSCLC患者において、TMBが高値である場合に二重免疫チェックポイント阻害療法を検討する臨床的意義を示唆する。Ready et al. JClinOncol 2019によるCheckMate 568試験での高TMB患者におけるニボルマブ+イピリムマブの優越性(PFS HR 0.58; 95% CI 0.42-0.81)とも整合し、TMBが抗PD-1/抗CTLA-4二重療法への予測バイオマーカーとして機能する可能性を支持する。

残された課題: ただし、本報告は単一症例であり、STK11変異NSCLCへの二重免疫チェックポイント阻害療法の有用性については、前向き臨床試験による大規模な検証が必要である。今後の検討課題として、KEAP1共変異やSTINGシグナル状態など、さらなる分子特性評価による予測バイオマーカーの同定が挙げられる。また、STK11変異の種類(例:キナーゼドメイン内か外か)が免疫療法の反応性に与える影響についても、さらなる研究が求められる。本症例におけるR39fs(フレームシフト変異)の病原性は、商業用NGSのみでは明確に確認できないというlimitationもある。

方法

本報告は、単一患者の症例報告である。対象患者は70歳女性、喫煙歴があり、2014年に早期乳がんの既往があった。2017年5月に右上葉肺腺癌(Stage IIIA)と診断され、ロボット支援下肺葉切除術を受けた。術後補助化学療法としてシスプラチンとペメトレキセドを2サイクル施行した。2018年4月には左副腎転移によりStage IVへと進展した。

分子プロファイリングはCaris Life Sciences(Irving, TX)により実施され、免疫組織化学(IHC)、腫瘍変異負荷(TMB)、および592遺伝子次世代シーケンシング(NGS)が含まれた。NGSではEGFR、BRAF、MET、HER2、STK11、KEAP1、KRAS、TP53などの遺伝子が解析された。ROS1およびALK融合遺伝子はArcherDX fusion assay(Archer FusionPlex Solid Tumor Kit)を用いて検出された。この分子プロファイリングは、患者の腫瘍の遺伝子変異プロファイルとバイオマーカー状態を包括的に特定することを目的とした。

分子プロファイリング結果:

  • STK11変異: R39fs(フレームシフト変異)がexon 1に同定された。これはキナーゼドメイン外の機能喪失型変異として既報である。
  • KRAS変異: G12A変異が同定された。
  • SMAD4変異: R135X変異が同定された。
  • PD-L1発現: IHC(22C3; Dako)にて0%(陰性)であった。
  • TMB: 15 mutations/Mbと評価され、高値であった。
  • EGFR、ALK、ROS1、BRAF、MET、HER2、KEAP1、TP53変異は陰性であった。

治療プロトコル: 患者は2018年6月より、ニボルマブ3 mg/kgを2週間ごとに静脈内投与、およびイピリムマブ1 mg/kgを6週間ごとに静脈内投与する二重免疫チェックポイント阻害療法を開始した。この治療は、CheckMate 568試験(NCT02659059)で検討されたレジメンに準拠している。治療中の有害事象は定期的に評価され、甲状腺機能を含む血液検査がモニタリングされた。腫瘍反応は、治療開始後定期的に実施されるCTスキャンおよびPET/CTスキャンにより評価された。腫瘍縮小の評価にはRECIST v1.1基準が用いられた。統計解析は記述統計学的手法に限定された。