• 著者: Arbour KC, Jordan E, Kim HR, Dienstag J, Liu YL, Ni A, Karim N, Rizvi H, Zhao L, Riely GJ, Solit DB, Berger MF, Arcila ME, Ladanyi M, Kris MG, Rudin CM, Donoghue MT, Hellmann MD
  • Corresponding author: Gregory J. Riely (Memorial Sloan Kettering Cancer Center, New York, NY, USA)
  • 雑誌: Clinical Cancer Research
  • 発行年: 2018
  • Epub日: 2018-01-02
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 29089357

背景

KRAS変異は非小細胞肺癌 (NSCLC) の約25%に認められる最も頻度の高いドライバー遺伝子変異であるが、KRAS変異NSCLC患者は臨床経過の著しい不均一性を示し、生物学的・臨床的実態が一枚岩でないことが課題であった。KRAS変異自体はEGFRチロシンキナーゼ阻害薬 (TKI) への耐性を示唆するものの、化学療法や免疫チェックポイント阻害薬 (ICI) への反応性の予測因子としては不十分であった。この臨床的異質性の背景にある分子メカニズムの解明は、個別化医療の進展のために不可欠である。

先行研究では、KRAS変異肺腺癌における共変異のパターンが異なる生物学的サブセットを定義する可能性が示唆されてきた。例えば、Skoulidisら (2015年) はRNA発現解析によりKRAS変異肺腺癌をKL (KRAS+STK11)、KP (KRAS+TP53)、KC (KRAS+CDKN2A/B) の3サブグループに分類し、それぞれが異なる生物学的特性を持つことを報告した。しかし、この研究の検討対象は主に早期切除例 (The Cancer Genome Atlas; TCGA) であり、進行癌における臨床予後や治療反応性との関連は未解明な点が残されていた。特に、KEAP1/NFE2L2変異という第4の重要な共変異カテゴリの臨床的意義は、これまで十分に明らかにされていなかった。

近年、免疫チェックポイント阻害薬 (ICI) がKRAS変異NSCLCの治療選択肢として台頭してきたが、その効果は患者間で大きく異なり、有効なバイオマーカーの確立が喫緊の課題であった。PD-L1発現や腫瘍変異量 (TMB) がICIの奏効予測因子として報告されているものの、KRAS変異NSCLCにおける共変異がICIの治療アウトカムに与える影響については、まだ多くの未解明な点が残されていた。特に、KEAP1/NFE2L2変異がNRF2経路の活性化を通じて細胞保護酵素の恒常的発現を誘導し、これが化学療法耐性や免疫回避機構に関与する可能性が前臨床研究で示唆されていたが、その臨床的意義は不足していた。例えば、Rizvi et al. Science 2015Snyder et al. NEnglJMed 2014はTMBとICI奏効の関連を報告しているが、KRAS変異NSCLCにおける共変異の包括的な影響については、さらなる詳細な検討が必要であった。また、Reck et al. NEnglJMed 2016Borghaei et al. NEnglJMed 2015などの主要な臨床試験では、KRAS変異患者のサブグループ解析における共変異の影響は十分に報告されておらず、この知識ギャップを埋めることが求められていた。本研究は、これらのギャップを埋めることを目的とした。

目的

本研究の目的は、Memorial Sloan Kettering Cancer Center (MSKCC) において次世代シーケンシング (NGS) で解析されたKRAS変異進行NSCLC患者コホートにおいて、主要な共変異 (TP53、STK11/LKB1、KEAP1/NFE2L2) の頻度と分布を明らかにすることである。さらに、これらの共変異がプラチナ製剤を含む化学療法および免疫チェックポイント阻害薬に対する治療成績、ならびに全生存期間 (OS) に与える独立した影響を後方視的に解析し、KRAS変異NSCLCにおける臨床的異質性の分子基盤を解明することを目指した。特に、KEAP1/NFE2L2共変異が予後および治療反応性に与える影響を詳細に評価し、新たな予後予測・治療選択バイオマーカーとしての可能性を検証することを目的とした。本研究は、KRAS変異NSCLC患者における個別化医療の推進に資する知見を提供することを目指した。

結果

患者背景と共変異の頻度・分布: MSK-IMPACTによるNGS解析を受けたKRAS変異進行NSCLC患者330例のうち、腺癌が89%を占め、診断時年齢中央値は61歳 (範囲45~80歳) であった (Table 1)。KRAS変異サブタイプではG12Cが44%で最も多く、次いでG12Vが21%、G12Dが13%であった (Figure 1A)。本コホートにおける全患者のOS中央値は17ヶ月 (95% CI 14-25ヶ月) であった。喫煙者が大部分を占めており、現喫煙者11%、元喫煙者82%、非喫煙者7%であった。

最も頻度の高い共変異はTP53が42% (n=138)、STK11が29% (n=95)、KEAP1/NFE2L2が27% (n=93) であった (Table 2)。これらの3つの主要な共変異は主に相互排他的な傾向を示したが、一部の患者では重複も認められた (Figure 1B)。1腫瘍あたりの共変異数の中央値は8種 (範囲0~58) であった。その他、RBM10 (16%)、PTPRD (15%)、SMARCA4 (14%)、ATM (13%) も比較的高頻度に検出された。TP53、STK11、KEAP1/NFE2L2のそれぞれが単独で存在する割合は、TP53単独28%、STK11単独18%、KEAP1/NFE2L2単独17%であり、3変異すべてが共存する例は2%未満と稀であった。

全生存期間 (OS) への影響: 単変量解析では、STK11共変異はOSの有意な短縮と関連した (HR 1.7; 95% CI 1.1-2.4; p=0.002) (Figure 2A)。KRAS単独群のOS中央値21ヶ月に対し、STK11共変異群のOS中央値は12ヶ月であった。KEAP1/NFE2L2共変異もOSの有意な短縮と関連した (HR 2.1; 95% CI 1.4-3.1; p<0.0001) (Figure 2B)。一方、TP53共変異はOSと有意な関連を示さなかった (HR 0.9; p=0.5) (Figure 2C)。多変量Cox比例ハザードモデル (TP53、STK11、KEAP1/NFE2L2、年齢、性別、PS、喫煙歴で補正) では、KEAP1/NFE2L2共変異のみが独立した予後不良因子として確認された (HR 1.96; 95% CI 1.33-2.92; p<0.001) (Table 3)。TP53共変異の多変量HRは1.11 (95% CI 0.75-1.64; p=0.581)、STK11共変異の多変量HRは1.30 (95% CI 0.86-1.97; p=0.216) であり、いずれも有意性を失った。これは、STK11とKEAP1/NFE2L2の一部共存が、単変量解析におけるSTK11の関連の交絡因子であった可能性を示唆する。

プラチナ系化学療法への影響: プラチナ製剤/ペメトレキセド治療を受けた患者群において治療期間 (TTDT) を評価したところ、KEAP1/NFE2L2共変異は化学療法継続期間の有意な短縮と関連した。単変量解析ではHR 1.6 (95% CI 1.1-2.4; p=0.008)、多変量解析ではHR 1.64 (95% CI 1.04-2.59; p=0.03) であった。STK11共変異 (多変量HR 1.28; p=0.26) およびTP53共変異 (多変量HR 0.87; p=0.51) は、プラチナ製剤継続期間と有意な関連を示さなかった。この結果は、KEAP1変異によるNRF2経路の恒常的活性化がDNA損傷修復を亢進させ、シスプラチン耐性の生物学的基盤となるという前臨床データと一致する。

免疫チェックポイント阻害薬 (ICI) への影響: 単剤ICI (ニボルマブまたはペンブロリズマブ) を受けた86例のサブグループにおいて、KEAP1/NFE2L2共変異群はICI開始後のOS中央値が6ヶ月 (n=26) であったのに対し、KEAP1/NFE2L2変異を有さないKRAS単独群ではOS中央値が未到達 (NR; n=60) と著明に短縮した (Figure 3A)。多変量解析では、KEAP1/NFE2L2共変異はICI開始後のOS短縮と独立して関連することが示された (HR 3.54; 95% CI 1.55-8.11; p=0.003)。この関連は、腫瘍変異量 (TMB) とは独立していた (高TMBは長OSと関連: HR 0.9; 95% CI 0.83-0.99; p=0.025)。STK11共変異 (多変量HR 1.56; 95% CI 0.66-3.68; p=0.310) およびTP53共変異 (多変量HR 0.91; 95% CI 0.39-2.13; p=0.826) は、ICI後のOSと有意な関連を示さなかった。PD-L1発現データは利用できなかったため、PD-L1とKEAP1/NFE2L2との関連解析は実施不可能であったが、TMBとの独立性が確認されたことから、KEAP1/NFE2L2によるICI耐性が既知のバイオマーカーとは独立した免疫回避機序による可能性が示唆された。KEAP1/NFE2L2共変異を有さないKRAS単独群60例のICI後のOS中央値はNR (95% CI 18ヶ月~NR) と良好であり、KRAS変異NSCLCにおけるKEAP1/NFE2L2共変異の有無がICI治療の恩恵を予測する重要な層別化因子となりうることが示された。

考察/結論

新規性: 本研究は、KRAS変異NSCLC患者330例を対象とした大規模な後方視的解析により、KEAP1/NFE2L2共変異が化学療法および免疫チェックポイント阻害薬に対する独立した抵抗因子であり、全生存期間を著しく短縮することを初めて臨床的に示した。これは、単なる予後因子に留まらず、治療選択に影響を与える予測因子としての価値を持つことを意味する新規な知見である。

先行研究との違い: 本知見は、KRAS変異NSCLCの臨床的異質性の分子基盤を解明する上で重要な貢献であり、Skoulidisら (2015年) による分子サブグループ分類に具体的な臨床的意義を付与した点で先行研究と異なる。特に、進行・再発NSCLC患者を主対象とした点で、主に早期切除例を扱った先行研究のギャップを埋めるものである。また、Carbone et al. NEnglJMed 2017などの免疫療法に関する研究では共変異の詳細な影響が不明であったが、本研究はKEAP1/NFE2L2共変異がICI治療後のOS短縮と独立して関連することを示した点で、既存の報告とは対照的な知見を提供する。

KEAP1はNRF2の負の制御因子であり、KEAP1/NFE2L2変異はNRF2の核内蓄積を通じて細胞保護酵素群の恒常的発現を誘導する。このNRF2経路の活性化は、白金製剤耐性の生物学的基盤となることが前臨床データで示唆されており、本研究の化学療法継続期間短縮の所見と一致する。さらに、NRF2経路の活性化は、インターフェロン経路の抑制や免疫細胞浸潤の抑制など、免疫応答の調節にも関与することが報告されており、これが免疫療法耐性の分子機構として考えられる。KRAS変異NSCLCにおいてKEAP1/NFE2L2変異の頻度が特に高い (27%) ことは、これらの変異間の協調的な腫瘍促進効果を強く示唆する。

臨床応用: 臨床的示唆として、KRAS変異NSCLCの治療計画においては、KEAP1/NFE2L2共変異ステータスの把握が不可欠である。本論文は、ルーティンNGS検査が潜在的な治療標的だけでなく、予後および予測的価値のあるバイオマーカー情報を提供できることを実証した。後続研究であるCodeBreak 200試験などでも、KEAP1/STK11共変異がKRAS G12C阻害薬 (ソトラシブ) に対する独立した無増悪生存期間短縮因子であることが確認されており、本研究の見解が次世代のKRAS標的治療においても一貫して再現されている。

残された課題: 本研究の残された課題と限界として、単一機関 (MSKCC) の後方視的コホートであること、免疫療法解析がn=86の比較的小規模なサブセットに限定されること、化学療法継続期間 (TTDT) が毒性などによる中断を除外しきれないサロゲートエンドポイントであること、およびPD-L1発現データが得られていないことが挙げられる。PD-L1発現とKEAP1/NFE2L2共変異との関連は今後の検討課題である。今後は、KEAP1/NFE2L2変異を有するKRAS変異NSCLC患者を対象とした前向き多施設試験を実施し、NRF2経路阻害薬を組み合わせた新たな治療戦略の開発が強く求められる。

方法

本研究では、2014年1月から2016年10月の期間にMSKCCにおいてMSK-IMPACTパネル (341、410、または468遺伝子版) を用いた次世代シーケンシング (NGS) 検査を受けたKRAS変異進行・再発NSCLC患者を後方視的に解析した。合計550例のKRAS変異肺癌患者が特定されたが、そのうち転移性または再発性のNSCLC患者330例のみを解析対象とした。患者の診断時年齢中央値は61歳 (範囲45~80歳) であり、組織型は腺癌が89%を占めた。本研究はMSKCCのInstitutional Review Board/Privacy Boardの承認を得て実施された後方視的コホート研究である。

ゲノム解析には、ニューヨーク州保健局の承認を受けたハイブリダイゼーションキャプチャーベースのNGS臨床検査であるMSK-IMPACTアッセイが用いられた。このアッセイは、Cheng et al. JMolDiagn 2015によって詳細に報告されており、341遺伝子 (バージョン1)、410遺伝子 (バージョン2)、または468遺伝子 (バージョン3) を対象とし、体細胞変異、コピー数異常、および特定の融合遺伝子を検出する。本研究では、66検体がバージョン1、250検体がバージョン2、14検体がバージョン3で解析された。腫瘍変異量 (TMB) は、各サンプルの非同義変異数をゲノムカバレッジサイズ (バージョン1で0.98 Mb、バージョン2で1.06 Mb、バージョン3で1.22 Mb) で割って正規化された。

KEAP1とNFE2L2はNRF2経路の同一シグナル軸に属し、その変異が同様の生物学的効果をもたらすことから、いずれかの遺伝子に変異を持つ患者はまとめてKEAP1/NFE2L2共変異群として解析された。共変異の頻度と分布を記述し、最も頻度の高い3つの共変異 (TP53、STK11、KEAP1/NFE2L2) について、全生存期間 (OS)、プラチナ製剤/ペメトレキセド化学療法の治療期間 (TTDT)、および免疫チェックポイント阻害薬 (ICI) 開始後のOSへの影響を評価した。TTDTは、初回プラチナ製剤/ペメトレキセド化学療法レジメン開始日から、患者または医師の判断による治療中止日までの期間と定義された。

OSは、進行期疾患 (ステージIVまたは再発癌) の診断日から死亡または最終フォローアップ日までの期間と定義され、Kaplan-Meier法を用いて推定された。単変量解析にはログランク検定が用いられた。多変量解析では、年齢、性別、ECOGパフォーマンスステータス (PS)、喫煙歴、および腫瘍変異量 (TMB) を共変量として補正したCox比例ハザードモデルが使用された。ICIに対する治療反応性の解析では、MSK-IMPACTでNGS解析を受けた後に単剤ICI (ニボルマブまたはペンブロリズマブ) 治療を受けた86例のサブグループが、施設IRBの承認のもと電子カルテから後方視的に収集された治療情報に基づいて抽出され、解析された。