- 著者: Robert C. Doebele, Alexander Drilon, Luis Paz-Ares, Salvatore Siena, Alice T. Shaw, Anna F. Farago, Collin M. Blakely, Takashi Seto, Byung Chul Cho, Diego Tosi, Benjamin Besse, et al.
- Corresponding author: George D. Demetri (Dana-Farber Cancer Institute, Harvard Medical School, Boston, MA)
- 雑誌: Lancet Oncology
- 発行年: 2020
- Epub日: 2019-12-11
- Article種別: Original Article
- PMID: 31838007
背景
NTRK1/2/3遺伝子融合はTRKA/B/Cキナーゼの構成的活性化をもたらし、肉腫、非小細胞肺癌 (NSCLC)、乳頭型甲状腺癌、乳腺分泌癌 (MASC: mammary analogue secretory carcinoma) など多様な腫瘍型でドライバー変異として機能する。全固形腫瘍の約0.3%に検出されるが、乳児型線維肉腫や分泌性乳癌では90%以上と頻度が高く、NSCLCや大腸癌では5%未満と腫瘍型によって大きく異なることが報告されている Vaishnavi et al. CancerDiscov 2015。
これまで、TRK阻害薬としてlarotrectinibが2018年11月に腫瘍型横断的治療薬として初の米国食品医薬品局 (FDA) 承認を得たが Drilon et al. NEnglJMed 2018、その中枢神経系 (CNS) 透過性の証拠は限定的であり、頭蓋内奏効の詳細については未解明な点が多かった。このため、CNS転移を有するNTRK融合陽性腫瘍患者に対する有効な治療法には依然として不足があった。
Entrectinibは、血液脳関門 (BBB) 透過性を特性として設計されたTRKA/B/C、ROS1、ALKの強力な阻害薬であり (平均IC50 0.002 μM)、動物実験では脳/血液濃度比0.43〜1.90の高いCNS移行性が示されていた Menichincheri et al. JMedChem 2016。先行する第1相試験 (ALKA-372-001、STARTRK-1) では、NTRK融合陽性腫瘍に対する抗腫瘍活性と良好な安全性が確認されており Drilon et al. CancerDiscov 2017、特にNSCLC患者において著明な頭蓋内活性も報告されていた Farago et al. JThoracOncol 2015。しかし、これらの試験は小規模であり、多様なNTRK融合陽性固形腫瘍患者におけるentrectinibの包括的な有効性と安全性プロファイル、特にCNS活性に関する詳細なデータは不足していた。
目的
本研究の目的は、3つの第1-2相試験 (ALKA-372-001、STARTRK-1、STARTRK-2) の統合解析を通じて、TRK阻害薬未治療のNTRK融合陽性進行固形腫瘍成人患者に対するentrectinibの有効性 (全身奏効率、奏効期間、CNS活性) と安全性を包括的に評価することである。これにより、entrectinibがCNS転移を含む多様な腫瘍タイプにおいて、臨床的に意義のある治療選択肢となり得るかを検証する。
結果
患者背景:多様な腫瘍型を含むNTRK融合陽性固形腫瘍54例: 有効性評価対象集団はNTRK融合陽性固形腫瘍患者54例で構成され、追跡期間中央値は12.9ヶ月 (IQR 8.77-18.76) であった。患者の年齢中央値は58歳 (IQR 48-67)、女性が59% (n=32)、白人が80% (n=43) を占めた (Table 1)。腫瘍型は肉腫13例 (24%)、NSCLC 10例 (19%)、MASC 7例 (13%)、乳癌6例 (11%)、甲状腺癌5例 (9%)、大腸癌4例 (7%) の順に多く、計10種類の腫瘍タイプと19種類の組織型が含まれた。最も頻繁に検出された遺伝子融合はETV6-NTRK3 (46%、n=25) であり、次いでTPM3-NTRK1 (7%、n=4) およびTPR-NTRK1 (7%、n=4) であった。前治療歴は、治療歴なしが37% (n=20)、1ラインが20% (n=11)、2ラインが26% (n=14) と多様な患者が含まれていた。ベースラインでCNS転移を有する患者は12例 (22%) であった (Table 1)。
主要有効性:ORR 57% (95% CI 43.2-70.8)、PFS中央値11.2ヶ月 (95% CI 8.0-14.9): BICRにより、有効性評価対象54例中31例 (57%) が客観的奏効を達成した。内訳は完全奏効 (CR) が4例 (7%)、部分奏効 (PR) が27例 (50%) であった。9例 (17%) が安定病変 (SD) を示し、疾患コントロール率は74%であった (Table 2)。奏効期間中央値は10.4ヶ月 (95% CI 7.1-推定不能) であり、持続的な奏効が確認された (Figure 1B, 1C)。無増悪生存期間 (PFS) 中央値は11.2ヶ月 (95% CI 8.0-14.9) であった (Figure 2A)。全生存期間 (OS) 中央値は21ヶ月 (95% CI 14.9-推定不能) であり、データカットオフ時点で16例 (30%) が死亡していた (Figure 2B)。腫瘍型別の奏効率は、MASCで86% (6/7例)、乳癌で83% (5/6例)、NSCLCで70% (7/10例)、膵癌で67% (2/3例)、肉腫で46% (6/13例)、大腸癌で25% (1/4例)、甲状腺癌で20% (1/5例) と、多様な腫瘍タイプで抗腫瘍活性が認められた (Figure 1A)。NTRK1融合陽性患者 (59%、13/22例) とNTRK3融合陽性患者 (58%、18/31例) で同等の奏効率が得られた。
CNS活性:頭蓋内奏効率55% (95% CI 23.4-83.3) という特徴的エビデンス: ベースラインでCNS転移を有すると治験責任医師が評価した12例 (22%) のうち、BICRにより6例 (50%) がPRを達成し、4例 (33%) がSDを示した (Figure 3A, Table 2)。BICRにより脳転移が確認された11例 (20%) のうち、6例 (55%、95% CI 23.4-83.3) が頭蓋内奏効を達成した (Figure 3B)。頭蓋内DoR中央値は推定不能 (95% CI 5.0-推定不能) であった。頭蓋内PFS中央値は14ヶ月 (95% CI 5.1-推定不能) であった。CNS転移を有する群と有さない群の全身奏効率は同等 (50% vs 60%) であり、CNS転移の有無がentrectinibの全身活性に影響しないことが示された (Table 2)。全有効性評価対象集団54例中17例がCNS増悪イベントを経験し、CNS増悪までの期間中央値は17ヶ月 (95% CI 14.3-推定不能) であった。
安全性:管理可能なプロファイル: NTRK融合陽性患者68例の安全性評価集団において、Grade 3/4の治療関連有害事象は体重増加が7例 (10%)、貧血が8例 (12%) で最多であった (Table 3)。治療関連死は認められなかった。Grade 1-2の頻度が高い有害事象は、味覚異常47%、便秘28%、倦怠感28%、下痢27%、浮腫24%、浮動性めまい24%であった。治療中止は21例 (31%)、減量は27例 (40%) で発生した。減量の主な原因は貧血 (7%)、クレアチニン上昇 (6%)、倦怠感 (6%) であった。全体安全性評価集団 (n=355) においても、最も頻繁に報告されたGrade 3/4の治療関連有害事象は、体重増加 (5%、n=18) と貧血 (5%、n=16) であり、NTRK融合陽性集団と一貫した安全性プロファイルを示した。
考察/結論
先行研究との違い: 本統合解析は、entrectinibがNTRK1/3融合陽性の多様な固形腫瘍型に対して57% (95% CI 43.2-70.8) という高いORRと11.2ヶ月 (95% CI 8.0-14.9) のPFS中央値を達成し、特にCNS転移例でも55% (95% CI 23.4-83.3) の頭蓋内奏効率を示すことを明確に実証した。この頭蓋内活性は、先行研究で報告されたlarotrectinibのCNS透過性の証拠が限定的であったことと対照的であり、NTRK融合陽性腫瘍で脳転移を伴う患者に対してentrectinibが有効な治療選択肢となることを支持する。
新規性: 本研究で初めて、entrectinibの高いCNS移行性 (動物実験で脳/血液比0.43-1.90) が実際の臨床データにおける頭蓋内奏効として実証されたことは新規性が高い。この知見は、NTRK融合陽性腫瘍患者、特にCNS転移を有する患者に対する治療戦略に大きな臨床的意義をもたらす。
臨床応用: 2019年8月、本統合解析のデータに基づきentrectinibはNTRK融合陽性固形腫瘍に対してFDA加速承認を取得した。同時にROS1融合陽性NSCLCへの承認も付与され、larotrectinibとともに、組織型横断的 (tumor-agnostic) 治療パラダイムの確立に貢献し、固形腫瘍の包括的遺伝子検査 (NTRK融合を含む) の臨床実装を推進する根拠となった。管理可能な安全性プロファイル (Grade 3-4の主な有害事象は体重増加10%・貧血12%) は長期投与を支持する。
残された課題: 残された課題として、本解析は比較対照群のない単群試験の統合解析であり、患者数が比較的少ないというlimitationがある。稀な腫瘍タイプであるため大規模な第3相試験の実施は困難であるが、今後の検討課題として、TRK阻害薬耐性機構 (キナーゼドメイン変異:TRKA G595R、TRKC G623Rなど) への対応策として次世代TRK阻害薬 (LOXO-195/repotrectinibなど) の開発が進行中である。これらの薬剤は、既存のTRK阻害薬に耐性を示す患者に対する新たな治療選択肢となる可能性があり、今後の研究が期待される。
方法
本統合解析は、3つの進行中の第1相または第2相臨床試験 (ALKA-372-001: EudraCT 2012-000148-88、STARTRK-1: NCT02097810、STARTRK-2: NCT02568267) の主要データセットを統合して構築された。ALKA-372-001は2012年10月26日から2018年3月27日まで、STARTRK-1は2014年8月7日から2018年5月10日まで、STARTRK-2は2015年11月19日から登録が開始され、データカットオフ日である2018年5月31日時点では全ての試験が継続中であった。
適格基準は、18歳以上の成人患者で、ECOGパフォーマンスステータスが0-2、転移性または局所進行のNTRK1/2/3遺伝子融合陽性固形腫瘍を有し、TRK阻害薬による前治療がないこと、および推奨用量である600 mg/日以上のentrectinib経口投与を受けていることとした。また、RECIST 1.1基準による測定可能病変の存在が必須であった。NTRK融合の検出は、ローカル検査 (FISH、qPCR、DNAベース/RNAベース次世代シーケンシング: DNA-/RNA-NGS) または中央検査 (RNA-NGS; Trailblaze Pharos) で確認された。
主要評価項目は、盲検独立中央判定 (BICR) による客観的奏効率 (ORR) と奏効期間 (DoR) であった。副次評価項目には、無増悪生存期間 (PFS)、全生存期間 (OS)、臨床的有益率 (CBR)、およびベースラインでCNS転移を有する患者における頭蓋内奏効率が含まれた。安全性評価集団は、NTRK融合陽性患者68例と、小児試験 (STARTRK-NG) を含む全患者355例で構成された。統計解析にはSAS (バージョン9.3以上) が使用され、時間-イベントエンドポイントの推定にはカプラン・マイヤー法が用いられた。客観的奏効の割合は、Clopper-Pearsonの正確95%信頼区間 (CI) とともに要約された。