• 著者: Alexander Drilon, Salvatore Siena, Sai-Hong Ignatius Ou, Myung-Ju Ahn, Lee J, Todd M. Bauer, Anna F. Farago, Jennifer J. Wheler, Stephen V. Liu, Robert Doebele, Laura Giannetta, Giulio Cerea, Giordana Marrapese, Marco Schirru, Alessio Amatu, Katia Bencardino, Luca Palmeri, Andrea Sartore-Bianchi, Angelo Vanzulli, Silvia Cresta, Sergio Damian, Mirella Duca, Filippo G. De Braud, Elena Ardini, Guo Li, James Christiansen, Pratik Selaru, Dafang Luo, Christian Rolfo, Alice T. Shaw
  • Corresponding author: Alexander Drilon (Memorial Sloan Kettering Cancer Center, New York, NY)
  • 雑誌: Cancer Discovery
  • 発行年: 2017
  • Epub日: 2017-01-11
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 28183697

背景

NTRK1/2/3 (TRKA/B/Cをコード)、ROS1、ALKの融合遺伝子は、非小細胞肺癌 (NSCLC) や大腸癌、乳腺類似分泌癌、甲状腺癌、肉腫、脳腫瘍など、多様な固形腫瘍における強力な発癌ドライバーとして同定されている。特にALKおよびROS1再構成NSCLCでは、クリゾチニブ、セリチニブ、アレクチニブといった分子標的薬が承認されており、劇的な奏効率と無増悪生存期間 (PFS) の改善が確立されていることは、Solomon et alやShaw et alなどの先行研究で報告されている。

NTRK融合遺伝子は、腫瘍型横断的 (tumor-agnostic) な発癌ドライバーとして近年注目を集めている。MASC (mammary analogue secretory carcinoma; 乳腺類似分泌癌) などではNTRK融合の頻度が高いが、肺癌や大腸癌などでは低頻度ながら絶対数は多いことが知られている。これらの融合遺伝子に対する標的治療薬の開発は、個別化医療の進展において極めて重要である。しかし、これらの融合遺伝子を標的とする治療薬は、その多様な腫瘍種における有効性や安全性プロファイル、特に中枢神経系 (CNS) 転移に対する効果については、まだ十分に確立されていない点が課題として残されていた。

脳転移は進行固形腫瘍患者の重要な合併症であり、患者のQOLを著しく低下させ、予後不良因子となる。しかし、多くの分子標的薬は血液脳関門 (BBB) 通過性が不十分であるため、CNS病変の制御が困難であった。このため、CNS転移を有する患者に対する有効な治療選択肢が不足しており、BBBを通過しCNS病変にも効果を示す薬剤の開発が強く望まれていた。

エントレクチニブは経口投与可能な強力なATP競合型チロシンキナーゼ阻害薬であり、TRKA/B/C、ROS1、ALKに対し低ないしサブナノモルのIC50値 (それぞれ1.7、0.1、0.1、0.2、1.6 nmol/L) を持つ。さらに、エントレクチニブはBBB通過性を持つよう設計された唯一のpan-TRK阻害薬として開発が進められてきた。これまでの研究では、これらの融合遺伝子を標的とする薬剤のCNS活性に関する包括的なデータが不足しており、本研究はそのギャップを埋めることを目指した。このように、多様な固形腫瘍における有効性や安全性プロファイル、特にCNS病変に対する効果については、まだ十分に確立されていないという課題が残されており、臨床におけるデータが圧倒的に不足しているという知識ギャップが存在していた。

目的

本研究の目的は、NTRK1/2/3、ROS1、ALK融合遺伝子陽性の進行固形腫瘍患者(活動性CNS病変を有する患者を含む)を対象とした2つの第I相試験、ALKA-372-001 (以下、ALKA試験) およびSTARTRK-1試験の統合解析を実施し、エントレクチニブの安全性プロファイル、最大耐用量 (MTD)、推奨第II相用量 (RP2D)、および抗腫瘍活性を評価することである。特に、腫瘍型横断的な有効性と、CNS病変に対する頭蓋内活性の有無を詳細に検討することを目的とした。また、先行するチロシンキナーゼ阻害薬 (TKI) 治療歴の有無がエントレクチニブの奏効に与える影響についても評価する。本研究は、エントレクチニブがこれらの融合遺伝子を有する固形腫瘍患者に対する新たな治療選択肢となり得るかを検証する上で重要なステップとなる。

結果

安全性プロファイルとMTD/RP2Dの決定: 統合解析の対象となった119例の患者全体(ALKA試験: n=54、STARTRK-1試験: n=65)において、最も頻繁に報告された治療関連有害事象 (AE) は、疲労/倦怠感46% (n=55/119、Grade 3は4%)、味覚異常42% (n=50/119)、感覚異常29% (n=34/119)、悪心28% (n=33/119)、筋肉痛23% (n=27/119) であった (Table 2)。これらのAEの大部分はGrade 1または2の軽度であり、用量調節により可逆的に回復した。用量減量は15% (n=18/119) の患者で実施された。STARTRK-1試験の800 mg/日用量レベルでは、Grade 3の認知障害とGrade 3の疲労という2件のDLTが発生した。さらに、800 mg用量レベルで1例の患者にGrade 4の好酸球性心筋炎が発生したが、この患者は投与中止後に完全に回復した。治療関連死亡は報告されなかった。RP2Dは、体表面積 (BSA) 基準400 mg/m²に相当する600 mg固定用量/日に設定された。

エントレクチニブの薬物動態プロファイル: エントレクチニブのPK解析では、定常状態における平均血漿トラフ濃度 (Ctrough) は1,590 nmol/Lであり、動物腫瘍モデルで完全な腫瘍抑制が得られた血漿タンパク結合補正トラフ濃度の4倍以上を達成した (Figure 1)。血漿半減期は20〜22時間と推定され、1日1回の連続投与レジメンに適していることが示された。定常状態は連続投与開始後2週間以内に到達し、約2倍の蓄積が観察された。絶食下投与(ALKA試験のスケジュールA)では、曝露量(CmaxおよびAUC)は100〜800 mg/m²の用量範囲で用量比例的に増加したが、1,200 mg/m²または1,600 mg/m²のより高用量では顕著な曝露量の増加は観察されなかった。摂食下投与(スケジュールBおよびC、STARTRK-1試験)では、曝露量は用量比例的ではない増加を示した。

TKI未治療の標的遺伝子融合陽性例における抗腫瘍活性: 119例の全患者のうち、NTRK1/2/3、ROS1、またはALK遺伝子再構成を有する患者は60例であった。これらのうち、TKI未治療でRP2Dに相当する治療曝露を達成した用量で治療された「Phase II-eligible population」は30例であり、25例が評価可能であった (Table 3)。NTRK1/2/3融合陽性患者3例(SQSTM1-NTRK1 [sequestosome 1-NTRK1] 再構成NSCLC、ETV6-NTRK3再構成MASC、LMNA-NTRK1再構成大腸癌)すべてで奏効が確認され、ORRは100% (95% CI 44-100) であった。ROS1融合陽性患者14例ではORR 86% (95% CI 60-96) を示し、2例の完全奏効 (CR) が含まれた。これらのROS1融合陽性患者のほとんどはROS1再構成NSCLCであった。ALK融合陽性患者7例ではORR 57% (95% CI 25-84) を示し、NSCLC、腎細胞癌、大腸癌のALK融合患者で奏効が確認された (Figure 2)。一方、NTRK1/2/3、ROS1、またはALK融合遺伝子を持たない患者では、ALK F1245V変異神経芽細胞腫の1例で8.3ヶ月のPRが認められたことを除き、客観的奏効は観察されなかった。また、ROS1またはALK阻害薬による前治療歴のあるROS1/ALK融合陽性患者25例では、エントレクチニブによる奏効は認められなかった。

奏効の持続性と生存データの解析: エントレクチニブによる初期奏効は、治療開始後サイクル1(4週目)またはサイクル2(8週目)で確認された。奏効は持続的であり、ROS1再構成肺癌の1例ではデータカットオフ時点まで32ヶ月間、継続的な臨床的恩恵が観察された (Figure 3)。ROS1再構成癌におけるDOR中央値は17.4ヶ月 (95% CI 12.7-not reached)、ALK再構成癌では7.4ヶ月 (95% CI 3.7-not reached) であった。NTRK融合陽性患者3例のDORはそれぞれ2.6ヶ月、4.6ヶ月、15.1ヶ月(データカットオフ時点で継続中)であった。追跡期間中央値15ヶ月において、NTRK1/2/3融合陽性患者(n=4)のPFS中央値は未到達 (95% CI 3.6-not reached)、ROS1融合陽性患者(n=14)では19.0ヶ月 (95% CI 6.5-not reached)、ALK融合陽性患者(n=7)では8.3ヶ月 (95% CI 4.6-12) であった。全25例の患者におけるOS中央値は未到達 (95% CI 19-not reached) であり、12ヶ月生存率は89.4% (95% CI 75.5-100) であった。

中枢神経系病変に対する頭蓋内活性: 「Phase II-eligible population」25例中8例 (32%) が、エントレクチニブ治療開始前に脳への原発性または転移性病変を有していた。これらの患者のうち5例 (63%) で頭蓋内奏効が認められた。内訳は、NTRK1再構成NSCLC 1例、ROS1再構成NSCLC 2例、ALK再構成NSCLC 1例、ALK再構成大腸癌1例であった。奏効した患者のうち4例は脳への放射線治療歴があった。特に、SQSTM1-NTRK1再構成NSCLC患者では、ベースラインで15〜20個の脳転移病変が確認され、前照射歴がないにもかかわらず、エントレクチニブにより完全な頭蓋内奏効が達成され、データカットオフ時点(15ヶ月)まで継続していた (Figure 4)。この症例は、エントレクチニブのBBB通過能力とCNS標的活性を明確に実証するものであった。また、BCAN-NTRK1 (brevican-NTRK1) 再構成神経膠腫瘍の患者では、RECISTによる安定疾患であったが、三次元体積評価により総腫瘍量の60%減少が示され、運動失調や複視の改善を伴う臨床的奏効が認められた。

考察/結論

本試験は、エントレクチニブがNTRK/ROS1/ALK融合遺伝子陽性固形腫瘍に対して、腫瘍型横断的に有効かつ安全であることを初めて統合的に実証した第I相試験として画期的な位置づけを持つ。本研究で三つの主要な特徴が確認された。第一に、複数のがん腫にわたる高い客観的奏効率 (ORR) であり、NTRK融合陽性腫瘍で100%、ROS1融合陽性腫瘍で86%という強力な抗腫瘍活性を示した。第二に、活動性CNS転移を有する患者の63%で頭蓋内奏効が認められ、特にSQSTM1-NTRK1再構成NSCLC患者では完全頭蓋内奏効が達成されたことから、エントレクチニブの優れた血液脳関門 (BBB) 通過性とCNS標的活性が実証された。第三に、治療関連有害事象の大部分がGrade 1/2であり、用量調節により可逆的に回復したことから、良好な忍容性プロファイルが確認された。味覚異常、感覚神経障害、認知機能の変化、体重増加といった特定の有害事象は、TRK受容体阻害に起因するオンターゲット毒性と考えられている。

先行研究との違い: 既存のALK/ROS1阻害薬であるクリゾチニブは、TRKA/Bに対するIC50値がそれぞれ580 nmol/Lおよび399 nmol/Lと高く、実質的なTRK阻害活性を持たないことがZou et alで報告されている。本研究は、クリゾチニブ前治療歴のあるNTRK3融合患者1例が「Phase II-eligible population」に分類されたが、これはクリゾチニブがTRKを十分に阻害しないという知見と一致する。また、本研究でROS1/ALK阻害薬による前治療歴のある患者(n=25)ではエントレクチニブによる奏効が認められなかったことは、先行TKI治療後に生じる獲得耐性変異に対するクロス耐性を示唆しており、これまでの知見と対照的な結果である。

新規性: 本研究で初めて、NTRK融合遺伝子が腫瘍型を問わず臨床的に治療可能なドライバーであることを、複数の異なる固形腫瘍(NSCLC、MASC、大腸癌など)において統合的に実証した。これは、NTRK融合遺伝子を標的とする治療薬の開発における重要な概念実証となる。また、エントレクチニブがCNS転移に対して高い奏効を示すことも新規の知見であり、特に未照射の多数の脳転移を有する患者で完全頭蓋内奏効を達成したことは、これまでの治療薬では困難であったCNS病変の制御に新たな可能性を開くものである。

臨床応用: 本試験で得られたデータは、エントレクチニブがNTRK/ROS1/ALK融合遺伝子陽性固形腫瘍患者に対する重要な治療選択肢となり得ることを強く示唆する。特に、CNS転移を有する患者において、エントレクチニブが頭蓋内活性を示すことは、臨床現場における大きな臨床的有用性を持つ。この結果に基づき、エントレクチニブはNTRK融合陽性固形腫瘍(腫瘍型横断的適応)およびROS1融合陽性NSCLCに対して承認された。これは、稀なゲノム異常を有する患者に対する「バスケット試験」デザインの有用性を示す好例であり、分子標的治療薬の迅速な承認を促進するモデルとなる。

残された課題: 今後の検討課題として、NTRK融合遺伝子における耐性メカニズム(例:NTRK G595R、G667Cなどのsolvent front変異)の包括的な解析と、それらを克服する次世代TRK阻害薬の開発が挙げられる。また、NTRK融合遺伝子の亜型による応答差の解明や、CNS疾患を有する患者に対する最適な治療シーケンシング戦略の確立も今後の重要な研究方向性であり、本研究におけるlimitationを克服するための鍵となる。

方法

本研究は、NTRK1/2/3、ROS1、またはALK分子異常を有する局所進行または転移性固形腫瘍患者を対象とした2つの国際共同第I相試験、ALKA試験(EudraCT 2012-000148-88、イタリア2施設)およびSTARTRK-1試験(NCT02097810、米国、韓国、スペインの10施設)の統合解析である。ALKA試験は2012年10月から2015年11月まで、STARTRK-1試験は2014年7月から2016年2月まで患者を登録した。

患者は標準的な3+3用量漸増デザインに従い、エントレクチニブの漸増用量レベルに順次割り付けられた。エントレクチニブは経口投与され、疾患進行、許容できない毒性の発現、または同意撤回まで投与が継続された。絶食下および摂食下、体表面積 (BSA) ベースおよび固定用量、ならびに間欠投与および連続日次投与レジメンが評価された。ALKA試験では、3つの投与レジメン(スケジュールA:絶食下、4日投与/3日休薬を28日中21日、スケジュールB:摂食下、連続日次投与、スケジュールC:摂食下、4日投与/3日休薬)が評価された。STARTRK-1試験では、全患者が摂食下での連続日次投与レジメンを受けた。

両試験の開始用量は100 mg/m²であった。各用量レベルで少なくとも3人の患者がサイクル1(ALKAでは28日目、STARTRK-1では42日目)を通して用量制限毒性 (DLT) についてモニタリングされた。DLTは、NCI CTCAE v4.03に基づき、グレード2以上の中枢神経系毒性、グレード3以上の非血液学的毒性、グレード3以上かつ7日以上持続する血液学的毒性(発熱性好中球減少症を含む)と定義された。MTDは、サイクル1におけるDLTが33%未満の患者で関連する最高用量と定義された。MTDに達しなかった場合、RP2Dは安全性、忍容性、薬物動態 (PK) データに基づいて選択された。

対象患者は、組織学的または細胞学的に確認された再発または難治性の進行/転移性固形腫瘍を有し、代替の有効な標準治療がないか、標準治療が不適切または忍容できないと判断された患者であった。ECOGパフォーマンスステータスは2以下、予想余命は3ヶ月以上、十分な臓器機能を有することが条件とされた。安定した無症状のCNS病変を有する患者も適格とされた。

NTRK1/2/3、ROS1、またはALK分子異常は、免疫組織化学 (IHC)、FISH、またはRNA/DNAベースの方法(次世代シーケンシング (NGS)、NanoStringなど)を用いて、各施設または第三者の商業診断プロバイダーによって検出された。

安全性評価は、初回投与から最終投与後30日まで、または薬剤関連毒性が解消または安定するまで実施された。PK解析のための血漿サンプルは、サイクル1を通して様々な時点で採取され、液体クロマトグラフィー-タンデム質量分析法を用いてエントレクチニブおよびその代謝物の分析が行われた。PKパラメータには、最大血漿中濃度 (Cmax)、24時間後血漿中濃度であるC24h (concentration at 24 hours)、最大血漿中濃度到達時間 (Tmax)、有効半減期 (t1/2)、および血漿中濃度-時間曲線下面積 (AUC) が含まれた。

腫瘍評価は、CT/MRIを用いてサイクル2終了時およびその後8週間ごとに実施された。RECIST v1.1に基づき、腫瘍奏効が評価された。統計解析では、エントレクチニブを少なくとも1回投与された全患者が有効性および安全性解析に含まれた。遺伝子融合の証拠がある患者はサブセットとして解析された。客観的奏効は、初回奏効確認後4週間以上持続する確認された完全奏効 (CR) または部分奏効 (PR) と定義された。客観的奏効率 (ORR) は、ベースラインで測定可能病変を有する患者集団における奏効者の割合として算出された。カプラン・マイヤー (Kaplan-Meier) 法を用いて、奏効期間 (DOR)、無増悪生存期間 (PFS)、および全生存期間 (OS) の中央値、25パーセンタイル、75パーセンタイルが推定され、対応する95%信頼区間 (CI) が示された。両試験の安全性および有効性解析のデータカットオフ日は2016年9月20日であった。