- 著者: David S. Hong, Steven G. DuBois, Shivaani Kummar, Anna F. Farago, Catherine M. Albert, Kristoffer S. Rohrberg, Cornelis M. van Tilburg, Ramamoorthy Nagasubramanian, Jordan D. Berlin, Noah Federman, Leo Mascarenhas, Birgit Geoerger, Afshin Dowlati, Alberto S. Pappo, Stefan Bielack, François Doz, Ray McDermott, Jyoti D. Patel, Russell J. Schilder, Makoto Tahara, Stefan M. Pfister, Olaf Witt, Marc Ladanyi, Erin R. Rudzinski, Shivani Nanda, Barrett H. Childs, Theodore W. Laetsch, David M. Hyman, Alexander Drilon
- Corresponding author: Alexander Drilon (Memorial Sloan Kettering Cancer Center, New York, NY, USA)
- 雑誌: Lancet Oncology
- 発行年: 2020
- Epub日: 2020-02-24
- Article種別: Original Article
- PMID: 32105622
背景
NTRK1/2/3遺伝子融合は、それぞれTRKA/B/C受容体型チロシンキナーゼの構成的活性化を引き起こし、細胞の異常な増殖と生存を強力に促進する。これらの融合遺伝子は、乳児型線維肉腫、分泌性乳癌、唾液腺のMASC (mammary analogue secretory carcinoma; 乳腺類似分泌癌) などの希少腫瘍において90%以上の極めて高い頻度で検出される一方、非小細胞肺癌 (NSCLC)、大腸癌、乳癌、黒色腫などの一般的な固形腫瘍でも低頻度ながら存在することが知られている。TRK融合は、DNAまたはRNAベースの次世代シーケンシング (NGS)、蛍光in situハイブリダイゼーション (FISH)、免疫組織化学 (IHC) などによって同定可能である。NTRK融合陽性腫瘍の診断と治療に関するガイドラインは進化途上であり、先行研究である Cocco et al. NatRevClinOncol 2018 がNTRK融合の臨床的重要性を強調している。
Larotrectinibは、高度に選択的な経口pan-TRK阻害薬であり、NTRK融合陽性固形腫瘍に対する初の腫瘍横断的 (tumor-agnostic) 適応薬として、2018年11月に米国食品医薬品局 (FDA) により、また2019年9月には欧州医薬品庁 (EMA) により承認された。この承認は、当初の55例の患者を対象とした解析結果に基づいていた。先行研究である Drilon et al. NEnglJMed 2018 は、larotrectinibの初期の極めて高い有効性と良好な安全性を報告したが、その時点では長期的なアウトカムデータが不足していた。この初期データセットでは、larotrectinibの奏効持続性に関する完全な特性評価、より一般的な腫瘍型 (例: NSCLC、大腸癌、黒色腫) における有効性の詳細な評価、および小児患者を含む長期安全性の包括的なプロファイルが不足していた。特に、奏効期間中央値 (DoR) および無増悪生存期間 (PFS) 中央値が未到達であったため、larotrectinibの真の長期的な臨床的有用性を確立するためには、より長い追跡期間と拡大された患者コホートを用いた解析が不可欠であるという課題が残されていた。
さらに、多標的TRK阻害薬entrectinibの統合解析である Drilon et al. CancerDiscov 2017 も報告されていたが、larotrectinibとの直接比較データは不足しており、それぞれの薬剤の最適な適用範囲を明確にする必要があった。これらの知識ギャップを埋め、larotrectinibの広範な臨床的有用性を確立することが本研究の背景にある。本研究は、TRK融合陽性固形腫瘍の治療におけるlarotrectinibの役割をさらに明確にし、その長期的な有効性と安全性を確立することで、臨床現場でのNTRK融合検査の重要性を強調することを目的とした。このように、拡大コホートにおける長期的な治療効果の持続性や詳細な安全性プロファイルについては依然として未解明な部分が多く、より詳細な検証のためのデータが不足しているという課題が残されていた。
目的
本研究の目的は、larotrectinibの3つの第1/2相臨床試験 (成人を対象とした第1相試験、小児を対象とした第1/2相試験、青年および成人を対象とした第2相バスケット試験) の統合解析を実施し、TRK融合陽性固形腫瘍患者におけるlarotrectinibの有効性および長期安全性を包括的に評価することである。具体的には、初回承認時の55例のデータセットに104例を追加した計159例のTRK融合陽性固形腫瘍患者を対象に、客観的奏効率 (ORR)、奏効持続期間 (DoR)、無増悪生存期間 (PFS)、および全生存期間 (OS) を評価し、larotrectinibの腫瘍横断的な活性と疾患制御の持続性をより詳細に特性化する。
さらに、TRK融合の有無にかかわらずlarotrectinibを投与された260例の拡大安全性解析集団を用いて、larotrectinibの長期安全性プロファイルを確立し、新たな安全性シグナルの有無を確認することも目的とした。これにより、larotrectinibの臨床的有用性と長期投与の実現可能性に関する包括的なエビデンスを提供することを目指した。また、ベースライン時に脳転移を有する患者におけるlarotrectinibの有効性についても事後探索的解析を通じて評価し、中枢神経系 (CNS) における活性の可能性を探ることも目的とした。これらの目的を達成することで、TRK融合がlarotrectinibに高度に反応する固形腫瘍のユニークな分子サブグループを定義し、長期投与が可能であることを裏付けることを目指した。
結果
患者背景と多様なコホート構成: 2014年5月1日から2019年2月19日までの期間に、TRK融合陽性固形腫瘍患者159例がlarotrectinibの治療を受けた (Figure 1)。患者の年齢は1ヶ月未満から84歳までと幅広く、中央値は43.0歳 (IQR 6.5-61) であった。年齢層の内訳は、小児 (<18歳) が33% (n=52)、成人 (18〜64歳) が48% (n=77)、高齢者 (≥65歳) が19% (n=30) であった。腫瘍型は多岐にわたり、軟部組織肉腫 (乳児型線維肉腫29例、GIST [gastrointestinal stromal tumour; 消化管間質腫瘍] 4例、その他36例) が全体の44%を占め、次いで甲状腺癌16% (n=26)、唾液腺癌13% (n=21)、肺癌8% (n=12)、大腸癌5% (n=8) などが認められた (Table 1)。最も頻繁に検出されたNTRK融合遺伝子はNTRK3 (55%) とNTRK1 (40%) であった。前治療歴については、治療歴なしが22% (n=35)、1ラインが30% (n=48)、2ラインが21% (n=34)、3ライン以上が26% (n=42) であった。データカットオフ時点で、159例中102例 (64%) が治療を継続中であった。
主要有効性評価と奏効持続性: 評価可能であった153例において、治験責任医師評価による客観的奏効率 (ORR) は79% (95% CI 72-85) であった (Table 2)。内訳は、完全奏効 (CR) が16% (n=24)、部分奏効 (PR) が63% (n=97) であった。安定病変 (SD) は12% (n=19)、病勢進行 (PD) は6% (n=9) であった。奏効までの期間中央値は1.8ヶ月 (IQR 1.7-1.9) と迅速であり、初回プロトコル規定の8週目評価と一致した。確認された奏効を示した108例における奏効期間中央値 (DoR) は35.2ヶ月 (95% CI 22.8-NE) であり、12ヶ月時点での奏効継続率は80% (95% CI 71-89) と推定された (Figure 3A)。最長の奏効は44.2ヶ月以上継続しており、larotrectinibの長期にわたる疾患制御能力が示された。原発解析セットの55例における探索的解析でも、DoR中央値は35.2ヶ月 (95% CI 21.2-NE) と、全体集団と類似した長期的な有効性が確認された。
無増悪生存期間および全生存期間の解析: 全患者159例における無増悪生存期間中央値 (PFS) は28.3ヶ月 (95% CI 22.1-NE) であり、12ヶ月時点でのPFS率は67% (95% CI 58-76) であった (Figure 3B)。全生存期間中央値 (OS) は44.4ヶ月 (95% CI 36.5-NE) であり、12ヶ月時点でのOS率は88% (95% CI 83-94) と推定された。原発解析セットの55例におけるPFS中央値は25.8ヶ月 (95% CI 9.9-NE) であった。なお、本研究の主要エンドポイントおよび主要な生存期間解析において、対照群とのハザード比 (HR) を算出する2群比較は単群試験のため実施されていないが、長期追跡における生存期間および病勢制御の極めて高い持続性が実証された。
腫瘍型別および年齢層別の治療効果: Larotrectinibは、様々な腫瘍型において高い奏効率を示した (Table 3)。特に、乳児型線維肉腫では96% (27/28例)、GISTでは100% (4/4例)、その他の軟部組織肉腫では81% (29/36例)、唾液腺癌では90% (18/20例) と非常に高い奏効率が認められた。甲状腺癌では79% (19/24例)、肺癌では75% (9/12例) の奏効率であった。大腸癌では50% (4/8例)、黒色腫では43% (3/7例) の奏効率であった。年齢層別に見ると、成人患者 (18歳以上) でのORRは73% (74/102例)、小児患者 (<18歳) でのORRは92% (47/51例) であり、年齢に関わらずlarotrectinibの腫瘍横断的な抗腫瘍活性が確認された (Figure 2)。
脳転移患者における活性と安全性: ベースライン時に脳転移を有していた患者は13例 (8%) であった。このうち評価可能であった12例の事後探索的解析では、9例 (75%) で奏効が認められた。頭蓋内病変が測定可能であった3例のうち、1例で完全奏効、1例で部分奏効 (標的病変サイズ46%縮小)、1例で安定病変 (標的病変サイズ14%縮小) が認められた。安全性解析集団 (n=260) において、larotrectinib関連のGrade 3またはGrade 4の有害事象はそれぞれ33例 (13%) および2例 (<1%) と低頻度であった (Table 4)。最も一般的なGrade 3/4のlarotrectinib関連有害事象は、アラニンアミノトランスフェラーゼ増加 (n=8, 3%)、貧血 (n=6, 2%)、好中球数減少 (n=5, 2%) であった。治療関連死は認められず、治療関連有害事象による用量減量は8% (n=22/260)、治療中止は2% (n=6/260) と低率であった。
考察/結論
先行研究との違い: 本拡大解析は、larotrectinibの腫瘍横断的活性を、約3倍に拡大された患者コホートで確認し、奏効期間中央値35.2ヶ月 (95% CI 22.8-NE) および無増悪生存期間中央値28.3ヶ月 (95% CI 22.1-NE) という卓越した疾患制御の持続性を初めて完全に実証した。この長期奏効持続性は、EGFR変異陽性NSCLCにおける Soria et al. NEnglJMed 2018、ROS1融合陽性NSCLCにおける Shaw et al. NEnglJMed 2014、未治療ALK融合陽性NSCLCにおける Peters et al. NEnglJMed 2017 などの他のTKIの成績と広く比較しうるものであり、TRK融合がlarotrectinibに高度に反応する固形腫瘍のユニークな分子サブグループを定義することを示唆している。同時期に報告された多標的TRK阻害薬entrectinibの統合解析である Drilon et al. CancerDiscov 2017 とは対照的であり、larotrectinibの方が高いORRと著明に長い奏効持続性を示した。これは、larotrectinibがより選択的なTRK阻害薬であることに起因すると考えられる。
新規性: 本研究で初めて、larotrectinibの奏効期間中央値と無増悪生存期間中央値が完全に到達し、その長期的な疾患制御の持続性が明確に示されたことは新規の知見である。これにより、larotrectinibが単なる高奏効率の薬剤に留まらず、長期にわたる疾患制御を提供し、患者の生活の質向上に貢献しうる可能性が示された。また、これまで報告されていない多様な希少腫瘍型におけるlarotrectinibの有効性も確認された。特に、乳児型線維肉腫における96%という高い奏効率は、小児腫瘍治療におけるlarotrectinibの重要な役割を強調するものである。
臨床応用: Larotrectinibの良好な安全性プロファイルは、長期投与の臨床現場における実現可能性を強く支持する。Grade 3/4の治療関連有害事象が13%と非常に低率であり、治療関連死が認められず、投与中止率も2%に過ぎないことは、患者が長期にわたり治療を継続できることを意味する。特に、小児患者における良好な安全性は、乳児型線維肉腫などの小児NTRK融合陽性腫瘍の治療パラダイムを大きく変革する臨床的意義を持つ。これらの結果は、NTRK融合のルーチン検査 (特にRNA-NGSを含む包括的遺伝子検査) の臨床現場への実装を強く支持する。TRK融合陽性腫瘍は希少であるため、包括的な分子診断によって患者を特定し、larotrectinibのような標的治療薬を早期に導入することが重要である。
残された課題: 耐性機構として、NTRKキナーゼドメイン変異 (例: TRKA G595R、TRKC G623R) やバイパス経路活性化が報告されており、これらに対する次世代TRK阻害薬の早期臨床データがon-target耐性変異の克服可能性を示している。今後の検討課題として、これらの耐性機構を克服する治療戦略の開発と、larotrectinib治療後の患者における耐性メカニズムのより詳細な解明が残されている。また、本研究は単群試験の統合解析であり、比較対照群がない点がlimitationである。しかし、TRK融合陽性癌の希少性と他の有効な治療選択肢が限られている現状を考慮すると、無作為化比較試験の実施は倫理的に困難であると考えられる。今後、より多くの患者データが蓄積されることで、希少腫瘍型におけるlarotrectinibの有効性がさらに明確になることが期待される。
方法
本解析は、3つの多施設共同非盲検臨床試験 (NCT02122913、NCT02637687、NCT02576431) の統合データに基づいている。適格基準は、生後1ヶ月以上の患者で、局所進行または転移性の非CNS原発TRK融合陽性固形腫瘍を有し、RECIST 1.1に基づく測定可能病変が存在することであった。利用可能な場合は、標準治療歴がある患者も含まれた。症候性ではない限り、治療済みおよび未治療の脳転移を有する患者も適格とされた。ただし、原発性CNS腫瘍の患者は本解析から除外された。
TRK融合の同定は、次世代シーケンシング (NGS)、FISH、または逆転写PCR (RT-PCR) など、各施設で実施された分子検査によって行われた。乳児型線維肉腫の患者では、ETV6 break-apart FISH陽性に基づくTRK融合も許容された。これは、乳児型線維肉腫においてNTRK3がETV6の唯一の融合パートナーとして報告されており、ETV6-NTRK3融合の頻度が高いことに基づく。
Larotrectinibは、成人患者には主に100 mgを1日2回、小児患者には100 mg/m² (最大100 mg) を1日2回、連続28日サイクルで経口投与された。治療は病勢進行、患者の試験中止、または許容できない有害事象の発生まで継続された。病勢進行後も、治験責任医師の判断で臨床的ベネフィットが継続すると判断された場合、治療継続が許可される場合があった。例えば、単一病変の無症候性RECIST進行患者は、局所療法が可能な場合、放射線療法または手術を受けることができ、他の部位での疾患制御が継続していればlarotrectinib治療を継続した。外科的切除により局所制御が達成され、治療が中止された患者でも、病勢進行後にlarotrectinibの再開が許可される場合があった。
主要評価項目は、治験責任医師評価による客観的奏効率 (ORR) であり、RECIST 1.1基準 (Eisenhauer et al. EurJCancer 2009) に従ってintention-to-treat解析で評価された。副次評価項目には、奏効期間 (DoR)、無増悪生存期間 (PFS)、全生存期間 (OS)、および奏効までの期間が含まれた。腫瘍評価は、ベースライン時、その後1年間は8週ごと、それ以降は12週ごと (小児患者では2年後からは6ヶ月ごと) にCT、PET、またはMRIを用いて行われた。奏効は、初回奏効基準を満たした後、少なくとも28日後の再スキャンで確認された。病理学的完全奏効 (病変の完全消失と陰性マージン) は完全奏効と見なされた。
安全性評価集団は、TRK融合の有無にかかわらず、larotrectinibを少なくとも1回投与された260例の患者で構成された。有害事象は、NCI-CTCAE (National Cancer Institute Common Terminology Criteria for Adverse Events) version 4.03に従って評価された。統計解析にはSAS version 9.4が用いられ、ORRの95%信頼区間 (CI) はClopper-Pearson法を用いて計算された。時間依存性エンドポイント (DoR、PFS、OS) の割合は、カプラン・マイヤー (Kaplan-Meier) 法を用いて記述的に要約され、95% CIはGreenwoodの公式を用いて計算された。ベースライン時に脳転移を有する患者における奏効の評価は、事後探索的サブグループ解析として実施された。データカットオフ日は2019年2月19日であった。