• 著者: Malhotra J, Mhango G, Gomez JE, Smith C, Galsky MD, Strauss GM, Wisnivesky JP
  • Corresponding author: Jyoti Malhotra (Tisch Cancer Institute, Icahn School of Medicine at Mount Sinai, New York, USA)
  • 雑誌: Annals of Oncology
  • 発行年: 2015
  • Epub日: N/A
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 25600562

背景

非小細胞肺癌 (NSCLC) の早期診断と外科的切除は長期生存を可能にする唯一の根治手段であるが、早期のNSCLCであっても30〜35%の患者が再発により死亡し、初回再発の65〜75%は遠隔転移として顕在化することが報告されている。これらの再発の高頻度と分布パターンは、早期疾患における全身療法の潜在的役割を強く示唆する。Stage II〜IIIA NSCLCに対するプラチナベース術後補助化学療法による全生存期間 (OS) の改善効果は、IALT (Arriagada et al. NEnglJMed 2004)、ANITA (Douillard et al. LancetOncol 2006)、JBR.10 (Winton et al. NEnglJMed 2005)などの大規模ランダム化比較試験 (RCT) およびLACEプール解析 (Pignon et al. JClinOncol 2008)によって確立されている。しかし、Stage I疾患 (T2N0M0) における補助化学療法の役割については依然として議論の余地が大きい。

腫瘍径4cm以上のT2N0病変に焦点を当てた唯一の専用RCTであるCALGB 9633試験 (Strauss et al. JClinOncol 2008) (パクリタキセル+カルボプラチン4サイクル vs. 観察) では、OS全体に有意差は認められなかった (ハザード比 [HR] 0.83、90%信頼区間 [CI]: 0.64〜1.08) ものの、腫瘍径4cm以上のサブグループ196名では死亡リスクが31%低下し、無病生存期間 (DFS) でも31%の有意な改善が認められた。JBR.10試験 (Butts et al. JClinOncol 2010) (482名、ビノレルビン+シスプラチン) でも、腫瘍径4cm以上 (n=120) のサブグループで5年生存率が観察群59%に対して化学療法群79%と臨床的に意義のある差が示されたが、サブグループの症例数不足のため統計的有意差には達しなかった。一方、LACEプール解析ではStage IA・IBのいずれにも一貫した有益性は示されなかったが、腫瘍径が大きい症例に対する副次解析で潜在的ベネフィットの存在が示唆されていた。26試験のメタ解析では、Stage IBの5年生存率がプラチナベース補助療法により75%から78%へと改善することが報告されている。

これらのRCTの対象は若年でパフォーマンスステータスが良好な患者に偏るため、その結果の高齢者への外挿性には疑問が残る。特に、Stage Iで腫瘍径4cm以上の高齢患者は、再発リスクを抱えながらも余命が短く、補助化学療法の長期的なベネフィットと短期的な毒性リスクのバランスを慎重に検討する必要がある。この領域における大規模な人口ベースの研究はこれまで不足しており、実臨床における高齢患者の治療選択に関するエビデンスは未確立であった。本研究は、SEER-Medicare連結データベースという人口ベースの大規模コホートを用い、65歳以上のT2N0 NSCLCで腫瘍径4cm以上の患者における術後補助化学療法および術後放射線療法 (PORT) の生存への影響と重篤有害事象の発生率を、傾向スコア逆確率重み付け法により検討することで、この知識ギャップを埋めることを目的とした。

目的

本研究の目的は、65歳以上の高齢者における腫瘍径4cm以上のStage I NSCLC (T2N0M0) 患者を対象として、肺葉切除後の治療選択肢である (1) プラチナベース術後補助化学療法、(2) PORT (± 補助化学療法)、(3) 手術単独の3治療群の全生存期間 (OS) および入院を要する重篤有害事象の発生率を、傾向スコア解析により比較することである。特に、高齢患者における補助化学療法の有効性と安全性のバランスを評価し、実臨床における治療ガイドラインの策定に資するエビデンスを提供することを目指した。また、年齢層別および併存疾患別のサブグループ解析を通じて、補助化学療法のベネフィットが特定の患者集団で異なる可能性についても検討した。

結果

コホート構成と患者背景: SEER-Medicareデータベースから、切除されたStage I NSCLCで腫瘍径4cm以上の患者3,289名が特定された (Supplementary Figure 2)。これらの患者のうち、2,776名 (84%) が手術単独、302名 (9%) が肺葉切除後にプラチナベース術後補助化学療法、211名 (7%) がPORT (± 補助化学療法) を受けた。平均追跡期間はKaplan-Meier法で54か月 (95% CI: 51〜56か月) であった。術後補助化学療法群は手術単独群と比較して若年者の割合が高く (70歳未満が32.5% vs. 23.3%、80歳以上は5.6% vs. 15.4%、p<0.0001)、2005年以降の診断例の比率も73.5%と高かった (手術単独32.5%、PORT 20.4%、p<0.0001)。術後合併症の頻度は補助化学療法群29.1% vs. 手術単独37.9% (p=0.01)、術後入院期間が14日を超える割合も補助化学療法群6.3% vs. 手術単独11.6% (p=0.01) と、補助化学療法群で術後経過が良好な患者に偏る選択バイアスが存在することが示唆された (Table 1)。腫瘍の平均径は手術単独5.6±2.4cm、補助化学療法5.9±2.2cm、PORT 5.8±1.9cmでほぼ同等であった (p=0.07)。摘出リンパ節数は補助化学療法群で9.2±7.6、PORT群で6.6±5.6、手術単独群で8.5±7.1とPORT群でやや少なかった (p=0.0002)。組織型は腺癌が約50%、扁平上皮癌が約40%で3群間の有意差はなく (p=0.53)、上葉腫瘍が約半数を占めた。

全生存期間への影響 (主要解析): 傾向スコア逆確率重み付けを用いたCox回帰解析において、術後補助化学療法は手術単独に比べてOSを有意に改善し、ハザード比は0.82 (95% CI: 0.68〜0.98, p<0.0001) で約18%の死亡リスク低下に相当した (Table 2)。6か月OSは手術単独群92.5%に対し補助化学療法群96.0%であり、初期6か月の早期死亡リスク増加は認められなかった。これはLACEプール解析で報告された「補助化学療法は最初の6か月に治療関連合併症で死亡を増やす」という所見とは異なるパターンであった。一方、PORT (± 補助化学療法) は手術単独に比べてOSを有意に悪化させ、HRは1.91 (95% CI: 1.64〜2.23, p<0.0001) と約91%の死亡リスク増加に相当した。3群比較のp値は<0.0001であった。

年齢層別・併存疾患別サブグループ解析: 年齢層別解析では、80歳未満 (n=1,946) のサブグループで補助化学療法が手術単独に対してHR 0.73 (95% CI: 0.58〜0.91) と明確な生存改善を示した (Table 2)。一方、80歳以上 (n=1,343) のサブグループではHR 0.88 (95% CI: 0.64〜1.23) と統計的有意差には達しなかった。ただし、年齢の交互作用p値は0.35であり、年齢間で統計的に有意な異質性は検出されなかった。併存疾患スコア別解析でも交互作用は非有意 (p=0.38) であり、comorbidity score <1.5でHR 0.84 (95% CI: 0.68〜1.03)、≥1.5でHR 0.72 (95% CI: 0.48〜1.08) と、いずれも点推定値は改善方向であった。PORTに関しては、いずれのサブグループでも一貫して予後悪化と関連 (80歳未満HR 1.84、80歳以上HR 2.10) しており、患者背景にかかわらず有害であった。

重篤有害事象の発生率: 手術後2〜6か月における重篤有害事象 (入院を要するもの) の少なくとも1件発生率は、手術単独群10.3% (286/2,776名)、補助化学療法群20.9% (63/302名)、PORT群30.8% (65/211名) であった (Table 3)。少なくとも1つの重篤有害事象の発生に対する調整オッズ比 (OR) は、補助化学療法群で2.0 (95% CI: 1.4〜3.0)、PORT群で3.8 (95% CI: 2.6〜5.5) と、いずれも手術単独に比べて有意に高かった。2件以上の重篤有害事象に対するORは補助化学療法群2.7 (95% CI: 1.4〜5.2)、PORT群4.1 (95% CI: 2.1〜8.2) であり、3件以上では補助化学療法群6.3 (95% CI: 2.1〜19.3)、PORT群9.1 (95% CI: 2.5〜32.9) と多発毒性のリスクが顕著であった。

個別有害事象のプロファイル: 補助化学療法群で頻度が高かった有害事象は貧血 (6.3%) と脱水 (5.3%) であった (Table 3)。個別事象の調整オッズ比 (vs. 手術単独群) では、好中球減少による入院リスクが最も顕著でOR 21.2 (95% CI: 5.8〜76.6) に達し、脱水もOR 3.4 (95% CI: 1.8〜6.4) で有意に増加した。一方、発熱・血小板減少・貧血・悪心嘔吐・腎機能障害・肺臓炎の入院ORは1.4〜4.0で95% CIがほぼ1を跨ぐか有意でなく、過剰な懸念は不要であった。PORT群では放射線特異的毒性が際立ち、貧血OR 2.6 (95% CI: 1.5〜4.5)、血小板減少OR 14.6 (95% CI: 2.9〜74.2)、脱水OR 4.4 (95% CI: 2.3〜8.4)、肺臓炎OR 6.1 (95% CI: 3.3〜11.3)、食道炎OR 8.5 (95% CI: 2.7〜26.7) と多臓器にわたる毒性増加を示した。心血管・呼吸器合併症による入院 (手術後2〜6か月) の発生率は3群間で有意差なく、手術単独14.2%、補助化学療法10.3%、PORT 13.3% (p=0.17、調整p=0.74) であり、補助化学療法に伴う循環器・呼吸器毒性の過剰増加は認められなかった。

経時的トレンド: 2000年以降に治療された患者ほど、少なくとも1件の重篤有害事象を経験する頻度が高い傾向が両治療群で観察された (Supplementary Table 3)。これは支持療法の進歩よりも、より高齢で併存疾患を有する患者へのアクセス拡大、有害事象の認識・報告の精緻化、毒性閾値の低下などが寄与している可能性が示唆された。

考察/結論

先行研究との違い: 本研究は、65歳以上の高齢者におけるStage I NSCLC (T2N0、腫瘍径4cm以上) に対する術後補助化学療法の効果を、SEER-Medicareデータベースから得られた3,289名の人口ベース大規模コホートで包括的に検討した初の研究である。主要知見として、補助化学療法が約18%の死亡リスク低下 (HR 0.82, 95% CI: 0.68〜0.98) と関連することを示し、これはCALGB 9633試験 (Strauss et al. JClinOncol 2008)の腫瘍径4cm以上サブグループで観察された31%の死亡リスク低下と方向性として一致した。JBR.10試験 (Butts et al. JClinOncol 2010)の腫瘍径4cm以上サブグループにおける5年生存率の改善 (観察群59% vs. 化学療法群79%) や、Stage IB全体での26試験メタ解析 (75% → 78%) とも整合的である。一方で、LACEプール解析 (Pignon et al. JClinOncol 2008)が指摘した「補助化学療法による初期6か月の死亡率増加」は本研究では確認されず、6か月OSは補助化学療法群で96.0%と手術単独群 (92.5%) を上回った。これは、実臨床における自然な患者選別 (術後合併症のある患者には補助化学療法が施行されにくい) と傾向スコア調整の組み合わせが、毒性関連早期死亡の影響を希釈した可能性を示唆する。IALT (Arriagada et al. NEnglJMed 2004)・ANITA (Douillard et al. LancetOncol 2006)・LACEがStage I疾患に対する一貫した有益性を示せなかった背景には、Stage Iサブグループに対する検出力不足と腫瘍径4cm以上に限定した解析の欠如があり、本研究はその間隙を埋めるエビデンスとして位置づけられる。

新規性: 本研究で初めて、高齢者におけるStage I NSCLC (T2N0、腫瘍径4cm以上) に対するプラチナベース術後補助化学療法の生存利益と有害事象プロファイルを、大規模な人口ベースデータを用いて詳細に評価した。特に、実臨床における高齢患者の治療選択に関するエビデンスが不足していた中で、本研究は補助化学療法が死亡リスクを低減する可能性を新規に示した。また、PORTがN0病変の高齢患者において一貫して予後悪化と関連することを示した点も新規性がある。

臨床応用: 本研究は、65歳以上の高齢Stage I NSCLC (T2N0、腫瘍径4cm以上) 患者に対するプラチナベース術後補助化学療法が、重篤有害事象の増加 (約2倍) を伴うものの、OSの改善 (HR 0.82、約18%の死亡リスク低下) と関連することを大規模コホートで示した。臨床家は、特に80歳未満で全身状態良好な患者に対しては、補助化学療法を能動的な治療選択肢として議論すべきである。年齢層別解析では80歳未満で生存改善が明確 (HR 0.73) であったのに対し、80歳以上では有意な改善が示されなかった (HR 0.88)。ただし、交互作用p値が0.35と非有意であり、サブグループの症例数不足が検出力に影響した可能性が高い。70歳以上でも補助化学療法が実行可能であるとするFruhらのプール解析 (2008) との整合性を踏まえると、80歳以上であってもベネフィットを完全に否定するエビデンスとは見なせない。有害事象については、補助化学療法群で重篤有害事象発生率が手術単独群の約2倍 (20.9% vs. 10.3%) であり、特に好中球減少リスクがOR 21.2と顕著に上昇したが、これは若年患者を対象としたCALGB 9633などのRCTで報告された有害事象プロファイルと同水準であり、高齢者に固有の過剰毒性が生じているわけではないと解釈された。心血管・呼吸器合併症入院率に有意差がなかったことは、しばしば臨床現場で過大評価される心毒性・肺毒性への懸念を相対化する所見である。PORTは有害性が示されており、N0病変へのroutine applicationは支持されない。

残された課題: 本研究の限界として、第一に、観察研究固有の治療選択バイアスがあり、傾向スコア逆確率重み付けで既知の交絡因子を調整しているが、performance status・切除縁状態・喫煙状況の詳細・腫瘍分化度などの未測定変数による残余交絡は排除できない。第二に、補助化学療法群 (n=302) およびPORT群 (n=211) は手術単独群 (n=2,776) に比べて症例数が少なく、特に高齢層 (≥80歳) のサブグループ解析における検出力は限定的である。第三に、HMO加入者およびMedicare Part B未加入者は除外されており、これら集団への一般化には注意を要する。第四に、診断年 (2000年以前 vs. 以降) による治療パターン (PORT減少・補助化学療法増加) の大きな変化が解釈に影響しうるが、診断年は傾向スコアモデルに組み込まれている。今後の検討課題として、(1) 80歳以上の超高齢者に対する補助化学療法の精緻なリスク・ベネフィット評価、(2) カルボプラチンベース単剤レジメンなどの低毒性レジメンとの比較、(3) オシメルチニブ等の術後標的療法時代における高齢Stage I患者の治療体系の再定義、(4) 免疫療法時代における周術期治療への組み込みの可能性、などが挙げられる。

方法

研究デザインと対象患者の特定: 本研究は、SEER (Surveillance, Epidemiology, and End Results) registry を Medicare claims に連結したデータベースから、1992年から2009年の間に診断された患者を対象とした後ろ向きコホート研究である。対象患者は、65歳以上で、localizedかつnode-negativeのNSCLC (T2N0M0) であり、腫瘍径が4cm以上で肺葉切除を受けた者と定義された。Health maintenance organization (HMO) 加入者およびMedicare Part B (外来) 未加入者は、クレームデータが不完全であるため除外された。その他の除外基準はFigure 1に示されている。患者の人口統計学的情報および癌関連情報はSEER-Medicareデータベースから取得した。併存疾患は、Charlson comorbidity indexの肺癌特異的重み付け版を用いて評価した。術後在宅医療サービス利用は、機能状態不良の代理指標として扱われた。術後30日以内の合併症発生および術後入院期間の延長 (>14日) は、Medicare claimsのバリデートされたアルゴリズムを用いて抽出し、これらは傾向スコアモデルにダミー変数として組み込まれた。

治療群の定義: 術後補助化学療法群は、手術後3か月以内のMedicare claimsにプラチナベース化学療法コードが含まれる患者と定義された。PORTは、手術後90日以内の放射線照射としてSEERデータおよびMedicare claimsから確認された。患者は、(1) 手術単独、(2) 術後補助化学療法、(3) PORT (± 補助化学療法) の3治療群に分類された。

アウトカム評価: 主要エンドポイントは全生存期間 (OS) であり、手術日から死亡日 (または2011年12月15日にcensoring) までの期間として定義された。副次エンドポイントは、手術後2〜6か月における重篤有害事象 (入院を要するもの) の発生率とした。これらの有害事象はMedicare入院ファイルから評価された。

統計解析: 3治療群間のベースライン特性の比較には、分散分析またはカイ二乗検定が適切に応じて用いられた。治療選択バイアスを最小化するため、傾向スコア (各治療群への割り付け確率) が計算された。傾向スコアは、社会人口統計学的特性、診断ステージング、術前検査、併存疾患、癌診断年、癌関連因子、および術後合併症や長期入院の有無などの共変量を含む名義回帰モデルを用いて算出された (Supplementary tables 1 & 2, Supplementary Figure 1)。各患者には、実際に受けた治療の傾向スコアの逆数を確率重み (inverse probability weighting) として割り当てた。OSの比較には、傾向スコア逆確率重み付けを調整したCox比例ハザードモデルが用いられた。重篤有害事象の比較には、傾向スコア逆確率重み付けを調整したロジスティック回帰分析が用いられた。全ての解析はSASおよびSTATA統計ソフトウェアを用いて実施され、両側p値が使用された。本研究はIcahn School of Medicine at Mount SinaiのInstitutional Review Boardにより免除とされた。