• 著者: Chaft JE, Hellmann MD, Velez MJ, Travis WD, Rusch VW
  • Corresponding author: Valerie W. Rusch (Thoracic Service, Department of Surgery, Memorial Sloan Kettering Cancer Center, New York, NY)
  • 雑誌: Annals of Thoracic Surgery
  • 発行年: 2017
  • Epub日: N/A
  • Article種別: Case Report
  • PMID: 28838509

背景

PD-1 (programmed cell death protein 1) および PD-L1 (programmed death-ligand 1) を標的とする T細胞チェックポイント阻害薬は、転移性非小細胞肺癌 (NSCLC) 治療に革命をもたらした。具体的には、nivolumab、pembrolizumab、atezolizumab が米国食品医薬品局 (FDA) の承認を得ている。Nivolumab は、CheckMate 017 試験 (Brahmer et al. NEnglJMed 2015、扁平上皮NSCLC) において、ドセタキセルと比較して有意な全生存期間 (OS) の改善を示し、プラチナ製剤治療失敗後の二次治療として承認された。具体的には、CheckMate 017 試験では nivolumab 群がドセタキセル群に対し死亡リスクを 41% 低減し、ハザード比 (HR) は HR 0.59 (95% CI 0.44-0.79, p<0.001) であった。また、CheckMate 057 試験 (Borghaei et al. NEnglJMed 2015、非扁平上皮NSCLC) でも同様に死亡リスクを 27% 低減し、HR 0.73 (95% CI 0.59-0.89, p=0.002) を示した。さらに、Pembrolizumab は KEYNOTE-024 試験 (Reck et al. NEnglJMed 2016) で、PD-L1 腫瘍発現率 (TPS) が 50% 以上の NSCLC 患者において、初回化学療法を凌駕する OS と無増悪生存期間 (PFS) を示し、HR 0.60 (95% CI 0.41-0.89, p=0.005) で一次治療として承認された。

しかし、免疫チェックポイント阻害薬の自己免疫関連有害事象は、無症状から生命を脅かすものまで多岐にわたる。特に間質性肺炎 (pneumonitis) は、CTLA-4 阻害薬や PD-1/PD-L1 阻害薬の投与において重大な懸念事項となる。間質性肺炎の病態生理学的機序は依然として未解明であり、全身麻酔や外科手術が間質性肺炎を誘発・増悪させるのか、あるいは抗 PD-1 療法による他の免疫学的影響が周術期転帰を複雑にするのかは不明であった。

これまで、T細胞チェックポイント阻害薬治療後に肺切除を実施した症例シリーズの報告は皆無であり、この分野には大きな knowledge gap が存在した。具体的には、免疫療法後の手術における安全性プロファイル、技術的実現可能性、画像診断上の奏効と病理学的奏効の乖離、間質性肺炎既往例における周術期ステロイド管理、免疫療法中止から手術までの最適な期間といった側面が完全に手薄であり、外科的アプローチの安全性に関するデータが著しく不足していた。周術期転帰を体系的に記述した連続症例シリーズが不足しており、ネオアジュバント免疫療法の大規模多施設共同試験の開始を控える中で、外科医にとって早期の経験を文書化することが緊緊の課題となっていた。本シリーズは、Memorial Sloan Kettering Cancer Center (MSKCC) における連続症例の初回経験を報告することで、この不足を埋めることを目的としている。

目的

本研究の目的は、MSKCC において、進行 NSCLC に対し抗 PD-1/PD-L1 (± 抗 CTLA-4) 阻害薬を投与後、肺切除術に進んだ連続 5 例の臨床経過と手術転帰を初めて体系的に記述することである。具体的には、以下の点を明らかにすることを目指した。

(i) 各患者の治療レジメン、免疫関連有害事象、手術術式、術後合併症、および最終的な病理学的診断を詳細に評価する。 (ii) 免疫療法最終投与から手術日までの期間を特定し、その安全性と実現可能性を検討する。 (iii) 術前 PET-CT 所見と最終病理学的所見を比較し、画像評価の限界と病理学的評価の重要性を強調する。 (iv) 免疫療法による炎症反応に起因する可能性のある肺門部線維化などの技術的課題の有無とその程度を評価する。 (v) 30 日以内の術後合併症の種類と頻度を記録し、免疫療法後の肺切除の安全性プロファイルを確立する。

これらの知見を通じて、ネオアジュバント免疫療法の実現可能性と、外科医および腫瘍内科医が多角的治療戦略を策定する上での臨床的学習を提供することを目的とした。

結果

患者背景と免疫療法の治療経過: 本研究では、進行 NSCLC に対し抗 PD-1/PD-L1 (± 抗 CTLA-4) 阻害薬治療後に肺切除術を受けた 5 例 (n=5) の連続症例が報告された (Table 1)。患者の年齢中央値は 56 歳 (範囲 52-67 歳) で、全例が重度の喫煙歴 (20-90 pack-years、中央値 60 pack-years) を有していた。免疫療法中止から手術までの期間は 4-21 週 (中央値約 5 週) であった。全 5 例において R0 切除が達成された。

各症例の詳細な臨床経過と病理学的転帰: 56 歳男性の患者 1 (Stage IV 扁平上皮癌) は三次治療として抗 PD-1 単剤療法を受け、1 年間奏効を維持したが、局所進行のため治療中止。PET では 4.2×2.2 cm の舌区腫瘤 (SUVmax 17) と縦隔リンパ節 (SUVmax 4) に残存病変を認め、免疫療法中止から 4 週間後に手術。術式は心膜内左上葉切除、横隔神経切除、およびリンパ節郭清で、病理は ypT3N2 であった。術後合併症はなく、術後 23 ヶ月時点で無病生存している (Table 1)。

2 群比較と病理学的完全奏効: 5 例中 2 例 (40%) で病理学的完全奏効 (pCR、ypT0N0) が得られた。患者 3 (53 歳男性、大細胞神経内分泌癌) は抗 PD-1 + 抗 CTLA-4 併用療法で部分奏効 (PR) を得たが、グレード 2 の間質性肺炎のため治療中止。21 週間の手術間隔を経て右上葉切除を施行し、病理学的に pCR (ypT0N0) を達成した。患者 5 (52 歳女性、低分化 NSCLC) も同併用療法後に pCR (ypT0N0M0) を達成し、術後 2 日目に退院した (Table 1)。

残存病変例と術後合併症: 残存活動性癌を認めた 3 例のうち、患者 4 (62 歳男性、サルコイド様癌・腺癌、ypT1bN0) は術後に 11 日間の遷延性気痻 (air leak) を認めたが、術後 11 日目に退院した。術後 15 ヶ月で縦隔リンパ節と遠隔転移を認め、現在プラチナ製剤ベースの化学療法を受けており、術後 25 ヶ月時点で生存している (Table 1)。

画像診断と病理学的所見の高度な乖離: 患者 2 (67 歳女性、腺癌、ypT2bN0) は PET で SUVmax 45 という極めて高い集積を示す右下葉腫瘤を認めたが、切除標本の病理評価では活動性癌の範囲は限定的であった (Fig 1)。また、患者 3 では PET で高代謝性病変が持続していたにもかかわらず、最終病理では線維化のみで活動性癌細胞は 0% であり、画像上の高代謝が必ずしも活動性癌の存在を意味しないことが示された。これは Wolchok らの免疫関連奏効基準 (Wolchok et al. ClinCancerRes 2009) の知見を外科病理学的に裏付けるものである。

技術的課題としての肺門部線維化: 優れた免疫療法奏効の結果として、一部の患者では密な縦隔・肺門部線維化が発生することが示された。患者 3 では、当初ロボット支援胸腔鏡下手術 (VATS) で開始されたものの、高度な肺門部線維化のため開胸術への移行を余儀なくされた (Fig 2)。非常に技術的難易度の高い肺門部剥離操作を要したが、最終的に安全な R0 切除が完遂された。

考察/結論

先行研究との違い: 過去 30 年間の NSCLC ネオアジュバント療法研究は、主に化学療法と放射線療法 (シスプラチン併用療法 + 45-50 Gy) (Arriagada et al. NEnglJMed 2004 の IALT フレームワークなど) が中心であり、免疫チェックポイント阻害薬を導入療法として使用した切除術の報告は皆無であった。これに対し、本シリーズは抗 PD-1/PD-L1 ± 抗 CTLA-4 療法後の肺切除術に関する初の公表された症例シリーズという歴史的な新規性を持つ。標準的な細胞傷害性化学療法が予測可能な毒性プロファイルを示すことと対照的に、チェックポイント阻害薬の免疫介在性有害事象 (間質性肺炎、甲状腺機能障害、膵機能障害) は、周術期管理に特異的な課題を提示する点が相違する。これまで免疫療法後手術の技術的実現可能性自体が未確立であった状況と対照的に、本シリーズで 5 例全例 R0 切除達成、重大合併症 1 例のみ、40% (2/5 例) の pCR 率が報告されたことは、従来の化学放射線療法ベースのネオアジュバントデータとは異なる結果であり、免疫療法が高い pCR 率を示唆する初回エビデンスを提供する。

新規性: 本研究で初めて、T細胞チェックポイント阻害薬治療後の肺切除術を連続症例として報告した。これまで報告されていない密な肺門部線維化という技術的合併症を初めて記述した点 (患者 3、VATS から開胸への転換、ypT0N0 pCR) や、PET で高代謝性腫瘤が免疫療法後においては活動性癌に対応しないという画像診断と病理学的所見の乖離を初めて外科的に確認した点は新規である。さらに、間質性肺炎既往例における周術期経験的ステロイド継続投与の安全性を実証し、手術間隔が 4-21 週で実現可能であるというタイミングウィンドウを特定した。ypT0N0 pCR が 40% (2/5 例) と高頻度に発生する初回定量報告であり、後の CheckMate 816 や AEGEAN などの大規模 RCT への科学的基盤を確立した歴史的インパクトを持つ。

臨床応用: 本研究の知見は、免疫療法投与中の進行 NSCLC で局所病変のみが残存する場合、根治的切除術を合理的な選択肢として検討可能であることを示しており、臨床現場での意思決定に直結する。臨床的有用性として、手術間隔は 4-8 週が標準的であるが、間質性肺炎既往例ではステロイド漸減完了を待機すべきであること、および周術期に経験的に短期間のステロイドを継続投与することが可能であることが挙げられる。また、免疫療法後の PET SUVmax を活動性癌の指標として過信せず、病理学的評価を必須とすること、肺門部線維化による技術的課題を VATS 開始前に予測し、開胸への転換準備を保持することが重要である。これは、免疫療法を含む多角的治療パラダイムを胸部外科医が安全に遂行するための bench-to-bedside の橋渡しとなる。

残された課題: 今後の検討課題として、本シリーズは n=5 と小規模な単施設観察研究であり、統計的な結論を導き出すことは不可能であるため、大規模前向き試験で安全性と pCR 率の堅牢な検証が必要である。また、最適な術前免疫療法レジメンと期間が未解明であり、周術期ステロイドカバーの最適なプロトコルを検証する今後の方向性が求められる。さらに、肺門部線維化の頻度とリスク因子を特定し、術前予測因子を確立すること、および長期的な再発パターンと生存転帰を追跡し、免疫療法後の肺切除の真の治療効果を評価することが今後の課題である。

方法

研究デザイン: 本研究は、Memorial Sloan Kettering Cancer Center (MSKCC) における単施設レトロスペクティブ連続症例シリーズであり、5 例の患者を対象とした。

患者選択基準: 進行 NSCLC と診断され、抗 PD-1/PD-L1 ± 抗 CTLA-4 阻害薬による治療を受けた後、局所病変が残存し、根治的切除術の対象と判断された連続症例が組み入れられた。本研究は、ネオアジュバント免疫療法試験の周術期管理プロトコル確立に資する初期経験を報告する目的で実施された。

データ収集: 各症例について、詳細な臨床経過をカルテレビューと病理学的再評価により抽出した。収集されたデータには、病期、先行治療、免疫チェックポイント阻害薬のレジメン、自己免疫関連有害事象、術前 PET-CT 所見、手術術式、術後経過、および最終病理学的診断が含まれる。

画像評価: 放射線学的評価は CT および PET スキャンにより実施され、PET では最大標準化摂取量 (SUVmax) が報告された。

病理学的評価: 病理学的評価は、MSKCC の肺癌専門病理医により実施され、病理学的奏効の程度がグレーディングされた。

定義:

  • R0 切除: 腫瘍断端陰性の完全切除と定義された。
  • ypT/ypN: ネオアジュバント治療後の病理学的病期分類 (AJCC TNM 第 7 版) を指す。
  • 手術間隔: 免疫療法最終投与日から手術日までの週数と定義された。
  • 毒性評価: CTCAE (Common Terminology Criteria for Adverse Events) v4 に準拠してグレード 1 から 5 までに分類された。
  • 術後合併症: STS (Society of Thoracic Surgeons) データベース基準に基づき、術後 30 日以内の合併症が記録された。
  • 無病期間: 手術日から再発確認日までの期間と定義され、観察期間のカットオフは 2017 年 3 月であった。

統計解析: コホートサイズが n=5 と小規模であるため、正式な仮説検定は実施せず、記述統計のみを用いた。結果はパーセンテージおよび中央値 (範囲) で要約された。本研究は、大規模なランダム化比較試験 (RCT) である CheckMate 816 (NCT02998528) や AEGEAN (NCT03802240) のような試験デザインとは異なり、初期の安全性と実現可能性を評価するパイロット研究としての位置づけである。統計学的解析には生存期間の評価も含まれるが、記述的な Kaplan-Meier 法の概念に基づき、術後の無病生存期間が月単位で算出された。