- 著者: Kaira K, Mouri A, Kato S, Yoshimura K, Kagamu H, Kobayashi K
- Corresponding author: Kyoichi Kaira (Department of Respiratory Medicine, Comprehensive Cancer Center, International Medical Center, Saitama Medical University)
- 雑誌: BMC Cancer
- 発行年: 2020
- Epub日: 2020-10-06
- Article種別: Protocol
- PMID: 33023530
背景
局所進行III期非小細胞肺がん (NSCLC) の標準治療は同時化学放射線療法 (CRT) であり、プラチナ製剤併用療法が広く用いられている。Antonia et al. NEnglJMed 2017 によるPACIFIC試験は、同時化学放射線療法 (CRT: chemoradiotherapy) 後の維持療法として抗PD-L1抗体であるデュルバルマブ (durvalumab) の有効性を証明した。同試験においてデュルバルマブは、無増悪生存期間 (PFS) を大幅に延長し、Antonia et al. NEnglJMed 2018 では全生存期間 (OS) の有意な改善として HR 0.68 (95% CI 0.53-0.87, p<0.001) を示した。これにより、同時CRT後のデュルバルマブ維持療法は世界的な標準治療として確立された。
しかし、PACIFIC試験の対象は主に全身状態指標である ECOG PS (Eastern Cooperative Oncology Group Performance Status) が0または1の全身状態が良好な患者に限定されており、PS 2の患者や75歳以上の高齢者 (PS 0-1) は実質的に除外されていた。これらの患者群は日常臨床において高い割合を占めるにもかかわらず、PS不良や加齢に伴う毒性の懸念から、標準的なシスプラチン併用CRTの適応とならないことが多い。そのため、放射線単独療法が選択されることが多く、その5年生存率は10%未満と極めて不良であり、治療開発が不足している。
日本のガイドラインでは、高齢者 (75歳以上) の局所進行非小細胞肺がん、すなわち LA-NSCLC (locally advanced non-small cell lung cancer) に対して、放射線増感剤として低用量のカルボプラチン (CBDCA: carboplatin) を連日投与するdaily CBDCA併用胸部放射線療法が推奨されている。Atagi et al. LancetOncol 2012 によるJCOG0301試験では、daily CBDCA併用療法が高齢者において良好な忍容性と生存期間の延長を示した。しかし、daily CBDCAによるCRT後に免疫チェックポイント阻害薬 (ICI: immune checkpoint inhibitor) であるデュルバルマブを投与する維持療法の有効性と安全性は未解明であり、臨床現場におけるエビデンスの不足が大きな課題となっていた。
カルボプラチンなどのプラチナ製剤には、がん細胞の免疫原性細胞死を誘導し、腫瘍細胞におけるPD-L1発現を修飾するなどの免疫修飾効果が報告されている (Pardoll et al. NatRevCancer 2012)。また、放射線照射も腫瘍微小環境の免疫活性化を促すため、daily CBDCA併用CRTとデュルバルマブの連続投与は、相乗的な抗腫瘍効果をもたらす合理的な治療戦略と考えられた。
目的
本研究、すなわちNEJ039A (North East Japan Study Group 039A) 試験の目的は、標準的なプラチナダブレット併用CRTの適応とならない、PS 2 (74歳以下) またはPS 0-1 (75歳以上) の未治療Stage III NSCLC患者を対象として、daily CBDCA併用胸部放射線療法後のデュルバルマブ維持療法の有効性および安全性を評価することである。主要評価項目としてデュルバルマブ開始後12ヵ月PFS率を設定し、副次評価項目としてOS、客観的奏効率である ORR (objective response rate)、PFS、治療完遂率、および有害事象を評価する。さらに、探索的評価項目として、末梢血中のT細胞マーカー、すなわちCD62LlowCD4+ T細胞や、制御性T細胞 of CD25+Foxp3+CD4+ (Foxp3: forkhead box P3) T細胞、腫瘍細胞におけるPD-L1発現、および腫瘍遺伝子変異量である TMB (tumor mutational burden) の複合評価による、本療法の効果予測バイオマーカーとしての有用性を検証する。
結果
本論文はプロトコル論文 (Trial in Progress) であり、現時点で治療成績に関する最終結果は得られていない。以下に、本試験のプロトコルで規定された主要な設計、評価基準、および登録計画に関する詳細を述べる。
目標症例数と登録計画の策定: 本試験では、導入CRT開始前の第1登録において n=70 の症例を登録する計画である。その後、CRTを完遂し、デュルバルマブ維持療法の開始基準を満たした症例を対象に第2登録を行い、解析対象となる n=58 の症例を確保することを目指している (Table 1)。この設定は、JCOG0301試験におけるdaily CBDCA併用CRTの治療中止率や病勢進行による脱落率を 20% と想定したことに基づいている。
PS 2患者における安全性とDLT基準: PS 2患者の初期安全性を担保するため、最初の n=6 のPS 2症例において用量制限毒性である DLT (dose limiting toxicity) の評価を行う。DLTは、デュルバルマブ投与開始後8週間の期間中に、Grade 2以上の肺臓炎による治療中断が2回以上発生した場合、またはGrade 3以上の有害事象が発生した場合と定義される。DLT発現症例数が2例未満 (<2例) であれば安全と判断し登録を継続するが、3例以上のDLTが観察された場合は登録を一時中断し、さらに n=6 を追加して計 n=12 で評価を行う。12例中6例以上 (≥6例) でDLTが発生した場合は、PS 2患者の登録を中止する規定となっている (Fig. 2)。
主要評価項目および副次評価項目の統計的閾値設定: 主要評価項目であるデュルバルマブ開始後12ヵ月PFS率において、期待値を 35% 、閾値を 20% と設定している。この統計的根拠として、先行研究であるPACIFIC試験におけるデュルバルマブ維持療法の12ヵ月PFS率 55.9% vs 35.3% (95% CI 51.0-60.6%, p<0.001) と、JCOG0301試験におけるdaily CBDCA併用CRT単独の12ヵ月PFS率約 30% との比較が用いられた。PACIFIC試験では、デュルバルマブ群がプレセボ群に対してPFSを大幅に延長し、16.8 vs 5.6 months、ハザード比は HR 0.52 (95% CI 0.42-0.65, p<0.001) を示し、OSにおいても HR 0.68 (95% CI 0.53-0.87, p<0.001) と有意な改善を示している。また、PS 2患者の1年生存率が約 50% であり、PS 0-1の高齢者 (70.8%) と比較して約 30% 低いという報告に基づき、PFSの閾値を調整している (Table 2)。
考察/結論
先行研究との違い: 本試験は、全身状態が良好な患者 (PS 0-1) を対象としたPACIFIC試験と異なり、日常臨床で治療選択に苦慮する「PS 2の患者」および「75歳以上の高齢者」に焦点を当てている。従来の標準的な同時CRT (シスプラチン併用療法など) はこれらの脆弱な患者群に対して毒性が強く適用困難であったが、本試験では毒性が極めて低いdaily CBDCA併用CRTを前治療として採用している点が対照的である。
新規性: 本研究は、daily CBDCA併用CRT後のデュルバルマブ維持療法の有効性と安全性を前向きに評価する、本研究で初めての臨床試験である。カルボプラチンが持つ免疫修飾効果、すなわち HMGB-1 (high-mobility group protein box-1) やATPの放出、PD-L1発現の調節などと、放射線照射によるアブスコパル効果の相乗作用を、PS不良・高齢者集団において検証する試みはこれまで報告されていない。
臨床応用: 本試験の結果は、高齢化社会が進行する日本におけるLA-NSCLC治療の臨床現場に直接的な影響を与える。現在、PS 2や高齢の患者に対しては放射線単独療法や緩和的治療が選択されることが多く、予後は極めて不良である。本レジメンの有効性と安全性が証明されれば、これまでデュルバルマブの恩恵を受けられなかった脆弱な患者群に対する新たな標準治療として臨床応用され、生存期間の大幅な延長に寄与する臨床的意義を持つ。
残された課題: 本試験は単アームの第II相試験であり、ヒストリカルコントロールとの比較に依存している点が limitation である。また、PS 2という不均一な集団 (腫瘍随伴症状によるPS低下と、併存症によるPS低下) における治療完遂率や毒性の違いをどのように評価するかという点が今後の課題として残された課題である。さらに、探索的バイオマーカーとして計画されている末梢血中T細胞サブセット CD62LlowCD4+ T細胞などの動態解析が、実際の臨床効果とどのように相関するかについても、さらなる検証が必要である。
方法
試験デザインと登録基準 本試験は、日本国内の31施設が参加する non-randomized、前向き、オープンラベルの多施設共同第II相臨床試験である。本試験は、特定臨床研究として実施され、臨床研究実施計画・研究概要公開システムに登録されている (試験ID: jRCTs031190070)。 対象患者は、組織学的に確認された未治療のStage IIIa/IIIb/IIIc NSCLC (UICC第8版) で、根治的放射線療法の適応があり、手術不能な症例である。第1登録基準として、プラチナダブレットによる同時CRTの適応がない患者、すなわち「74歳以下でPS 2」または「75歳以上でPS 0-1」を満たす必要がある。また、主要臓器機能が保たれており、間質性肺疾患の既往や活動性の自己免疫疾患がないことが求められる。
治療プロトコル 導入CRTとして、daily CBDCA 30 mg/m²を胸部放射線照射の1時間前に30分間点滴静注し、最初の20分割 (週5回、計4週間) 投与する。胸部放射線療法は、総線量60 Gyを30分割 (2 Gy/日、週5日、6〜9週間) で照射する。三次元コンフォーマル放射線療法である 3D-CRT (three-dimensional conformal radiotherapy) および強度変調放射線療法である IMRT (intensity-modulated radiotherapy) のいずれも許容される。肺のV20 (20 Gy以上照射される肺体積) は30%未満に制限される。 CRT完了後1〜42日以内に、第2登録基準 (放射線照射40 Gy以上完了、daily CBDCA 10日以上完了、病勢進行なし、Grade 2以上の未解決の毒性なし、全Gradeの肺臓炎なしなど) を満たした症例に対し、デュルバルマブ 10 mg/kgを2週間間隔で最大12ヵ月間点滴静注する。
統計解析計画 主要評価項目であるデュルバルマブ開始後12ヵ月PFS率の算出には、カプラン・マイヤー (Kaplan-Meier) 法を用いる。統計設計において、PACIFIC試験におけるデュルバルマブ群の12ヵ月PFS率55.9% (95% CI 51.0-60.6%) およびJCOG0301試験におけるdaily CBDCA併用CRT単独の12ヵ月PFS率約30%を参考とした。PS 2患者の予後がPS 0-1患者に比べて約30%不良であることを考慮し、本治療の期待12ヵ月PFS率を35%、閾値12ヵ月PFS率を20%と設定した。片側α=0.1、検出力80%のもとで必要な第2登録症例数は53例と算出された。CRT中の病勢進行や毒性による脱落率を20%と見込み、第1登録目標症例数を70例、第2登録目標症例数を58例と設定した。