- 著者: Atagi S, Kawahara M, Yokoyama A, Okamoto H, Yamamoto N, Ohe Y, Sawa T, Ishikura S, Shibata T, Fukuda H, Saijo N, Tamura T (JCOG Lung Cancer Study Group を代表して)
- Corresponding author: Shinji Atagi, MD (National Hospital Organization Kinki-chuo Chest Medical Center, Osaka, Japan; s-atagi@kch.hosp.go.jp)
- 雑誌: Lancet Oncology
- 発行年: 2012
- Epub日: 2012-06-05
- Article種別: Original Article
- PMID: 22622008
背景
局所進行非小細胞肺がん (NSCLC) Stage III の標準治療は、非高齢患者においてシスプラチンベースの同時化学放射線療法 (concurrent chemoradiotherapy: CRT) が確立されている。Curran et al. JNatlCancerInst 2011 や JCOG 9516 試験 (Furuse et al. J Clin Oncol 1999) は、concurrent CRT が sequential CRT を上回ることを示し、非高齢患者における標準治療としての地位を確立した。
しかし、高齢者 (特に70歳以上) における治療戦略には複数の課題が存在した。第一に、高齢患者は臓器機能の低下、合併症の増加、および体力的脆弱性のため、シスプラチンベースの通常量CRTに対する忍容性が低い傾向にある。このため、多くの臨床試験から高齢者が系統的に除外されてきた経緯がある。例えば、Hutchins et al. (N Engl J Med 1999) は、65歳以上の患者が癌治療試験において過小評価されていることを指摘している。第二に、高齢者Stage III NSCLCに対して放射線単独療法 (RT) とCRTを直接比較した前向きランダム化試験はこれまで実施されておらず、その有効性に関するエビデンスが不足していた。後方視的サブグループ解析からは一貫しない結果が得られており、高齢者におけるRT単独療法とCRTの真の比較は未解明な臨床的課題であった。この領域におけるエビデンスの不足が、本試験の実施を強く促す要因となった。
本試験 (JCOG0301) に先行して、同様のデザインを持つJCOG9812試験 (Atagi et al. Jpn J Clin Oncol 2005) が実施されたが、放射線治療ガイドラインのプロトコル違反 (4例での治療関連死) により早期に中断された。この経験から、JCOG0301試験では放射線品質保証プログラムを大幅に強化し、照射野のプロトコル遵守を徹底した上で再試験が計画された。
低用量カルボプラチンは、シスプラチンのアナログでありながら、腎毒性、神経毒性、悪心嘔吐が軽度であるという利点を持つ。さらに、カルボプラチンは放射線増感作用を有することが知られており、高齢患者への適用が期待された。先行する第II相試験 (Atagi et al. Jpn J Clin Oncol 2000) では、カルボプラチンの毎日投与法が、週1回投与や5日間投与と比較して、より優れた放射線増感効果を示す可能性が示唆されていた。これらの背景から、JCOG0301試験は、高齢者Stage III NSCLC患者における低用量カルボプラチン併用胸部放射線療法の有効性と安全性を検証することを目的として計画された。Gridelli et al. JClinOncol 2007 も高齢者肺がんの治療戦略の重要性を強調しており、本研究は高齢者における治療選択肢のギャップを埋めることを目指した。
目的
本試験の目的は、71歳以上の未治療Stage III NSCLC患者を対象に、低用量カルボプラチン (30 mg/m²/日) 同時胸部放射線療法 (60 Gy/30分割) が、放射線単独療法 (60 Gy/30分割) と比較して、全生存期間 (OS) を有意に改善するかどうかを検証することであった。主要エンドポイントはOSとし、副次エンドポイントとして、無増悪生存期間 (PFS)、奏効率 (RR)、再発部位、および毒性プロファイルを評価することを目的とした。特に、高齢者における同時化学放射線療法の忍容性と安全性、および放射線増感剤としての低用量カルボプラチンの役割を明らかにすることも重要な目的であった。本試験は、高齢者における局所進行NSCLCの標準治療を確立するための、前向きランダム化比較試験として設計された。
結果
患者背景と治療完遂率: 2003年9月1日から2010年5月27日までに、27施設から200名の患者が登録された (CRT群100例、RT群100例)。3名の患者が適格基準を満たさず、有効性解析から除外された (CRT群1例、RT群2例)。最終的に、有効性解析にはCRT群99例、RT群98例の計197例が組み入れられた。両群間で年齢中央値 (77歳)、性別、PS、病期、組織型、合併症などの患者特性はバランスが取れていた (Table 1)。治療完遂率はCRT群で88.0% (88/100例)、RT群で93.0% (93/100例) と許容範囲内であった。放射線品質保証データは200例中180例でレビューされ、144例が完全に評価可能であった。許容できない放射線治療プロトコル違反は、評価可能症例の11例 (7.6%) で認められた。
主要エンドポイント (全生存期間: OS): 第2回中間解析は、患者登録完了から10ヵ月後の2010年11月に実施された。この時点で、打ち切り症例の追跡期間中央値は19.4ヵ月 (IQR 10.3-33.5) であった。CRT群のOS中央値は22.4ヵ月 (95% CI 16.5-33.6ヵ月) であったのに対し、RT単独群では16.9ヵ月 (95% CI 13.4-20.3ヵ月) であった。CRT群はRT単独群と比較して、OSを有意に改善した (HR 0.68, 95.4% CI 0.47-0.98, 片側log-rank検定 P=0.0179) (Figure 2A)。このP値は、事前に設定された早期中止基準の閾値 (P<0.0231) を下回ったため、データ安全性モニタリング委員会 (DSMC) は試験の早期中断と結果の公表を推奨した。1年OS率はCRT群で70.8% vs RT群で65.2%であり、2年OS率はそれぞれ46.3% vs 35.1%であった。OS解析はランダム化後中央値13.7ヵ月の追跡時点で行われ、197例中115例が死亡した (CRT群53例、RT群62例)。
無増悪生存期間 (PFS) と奏効率 (RR): PFS中央値はCRT群で8.9ヵ月 (95% CI 7.4-10.6ヵ月) であったのに対し、RT単独群では6.8ヵ月 (95% CI 5.6-8.0ヵ月) であった。CRT群はRT単独群と比較して、PFSを有意に延長した (HR 0.66, 95% CI 0.49-0.90, 両側P=0.009) (Figure 2B)。奏効率はCRT群で51.5% (95% CI 41.3-61.7%)、RT単独群で44.9% (95% CI 34.8-55.3%) であり、両群間に有意差は認められなかった (両側P=0.3934)。CRT群では完全奏効 (CR) 0例、部分奏効 (PR) 51例、安定 (SD) 34例、進行 (PD) 8例であった。RT群ではCR 1例、PR 43例、SD 37例、PD 13例であった。
再発パターンとサブグループ解析: 再発パターンは両群で類似しており (Table 2)、CRT群では局所再発31.3%、遠隔転移33.3%、局所+遠隔転移10.1%であったのに対し、RT群ではそれぞれ35.7%、33.7%、13.3%であった。カルボプラチン追加が遠隔転移抑制をもたらす傾向は観察されなかった。Stage IIIAとIIIBのサブグループ解析においても、CRTのOS優位性は一貫して認められ、病期による交互作用は有意でなかった (p=0.52)。PS 0、1、2の各サブグループでも同様にCRT優位の傾向が示された。
安全性プロファイル: Grade 3-4の血液毒性はCRT群で著明に高率であった (Table 3)。好中球減少はCRT群で57.3% (Grade 4: 22.9%) であったのに対し、RT群では0%であった。白血球減少はCRT群で63.5% vs RT群で0%、血小板減少はCRT群で29.2% vs RT群で2.0%であった。Grade 3の感染症はCRT群で12.5% (12/96例) とRT群の4.1% (4/98例) よりも高頻度であった。治療関連死は全体で7例発生し、CRT群で3例 (3.0%)、RT群で4例 (4.0%) であった。死因は肺炎、放射線肺臓炎後の感染症、喀血であり、両群間で差は認められなかった。Grade 3-4の肺臓炎はCRT群で1.0%、RT群で3.1%と、非血液毒性は両群で同程度であり、カルボプラチンによる肺臓炎の増悪は認められなかった。後期肺毒性 (RTOG/EORTC Grade 3-4) もCRT群で6.5%、RT群で5.3%と類似していた。
考察/結論
JCOG0301試験は、71歳以上の高齢者Stage III NSCLC患者において、低用量カルボプラチン同時胸部放射線療法が放射線単独療法と比較して、OS (HR 0.68, 95.4% CI 0.47-0.98, P=0.0179) およびPFS (HR 0.66, 95% CI 0.49-0.90, P=0.009) を有意に改善することを初めてランダム化比較試験で実証した画期的な研究である。
先行研究との違い: 本試験以前は、高齢者Stage III NSCLCに対する標準治療として放射線単独療法が消極的に推奨される傾向にあったが、本研究の結果はこれまでのコンセンサスと異なり、適切に選択された高齢患者 (PS 0-2、臓器機能良好) においてCRTが有意な生存ベネフィットをもたらすことを明確に示した。非高齢患者を対象としたconcurrent vs sequential CRT試験 (例: Curran et al. JNatlCancerInst 2011) で見られたOS改善幅と同程度の改善 (5.5ヵ月) が高齢者でも得られたことは、この集団におけるCRTの有効性が保たれることを示唆する。Langer et al. JNatlCancerInst 2002 も高齢者におけるシスプラチンベース治療の忍容性について言及しているが、本研究は低用量カルボプラチンの有効性を示した点で対照的である。
新規性: 本研究で初めて、高齢者Stage III NSCLC患者において、低用量毎日投与のカルボプラチンが放射線増感剤として機能し、OSとPFSを改善することが示された。これは、シスプラチンによる同様の放射線増感効果を示した先行研究 (Schaake-Koning et al. N Engl J Med 1992) と一致する。過去の週1回カルボプラチン投与試験 (Clamon et al. J Clin Oncol 1999) がOS改善を示せなかったことを踏まえ、毎日投与スケジュールが有効であったことは新規の知見である。
臨床応用: 本試験の結果は、高齢者Stage III NSCLC患者に対する治療戦略に大きな臨床的意義を持つ。これまで治療選択肢が限られていたこの集団において、低用量カルボプラチン併用放射線療法が新たな標準治療の選択肢となり得ることを示唆する。血液毒性の増加は認められたものの、G-CSFなどの支持療法により管理可能であり、重篤な非血液毒性 (特に肺毒性や食道毒性) がRT単独群と同程度であったことから、高齢者における併用療法の忍容性は許容範囲内であると判断される。これにより、適切な患者選択と支持療法のもとで、高齢者にも積極的な治療を提供できる可能性が示された。
残された課題: 本試験の限界として、QOL評価が実施されていない点、早期中断のため長期的な追跡データが未成熟な点、および患者選択が厳格であったこと (PS 0-2かつ臓器機能良好の選択集団) が挙げられる。これらの要因が、より広範な高齢者集団への結果の外挿性を制限する可能性がある。今後の検討課題として、より長期的なOSデータやQOL評価の実施、およびより脆弱な高齢者集団における本治療法の有効性と安全性の検証が挙げられる。また、近年、非高齢患者の根治的CRT後のデュルバルマブ維持療法によるOS改善がPACIFIC試験 (André et al. N Engl J Med 2017) で示されており、高齢者におけるCRT後の免疫療法維持の安全性と有効性を検証する研究が今後の方向性として考えられる。
方法
JCOG0301試験は、多施設共同無作為化第III相試験として実施された。試験登録はUMIN Clinical Trials Registry, number C000000060およびClinicalTrials.gov, number NCT00132665に登録された。登録期間は2003年9月1日から2010年5月27日までで、日本国内の27施設が参加した。
適格基準: 71歳以上の患者が対象とされた。71~74歳の患者は、合併症、ECOGパフォーマンスステータス (PS) 2、または難聴のいずれかを有する場合に適格とされた。75歳以上の患者は、年齢自体がシスプラチンベースの化学療法に適さないと判断され、全例が適格とされた。組織学的または細胞学的に確認されたNSCLC、未治療の切除不能Stage IIIAまたはIIIB疾患 (T3N1M0、対側縦隔転移、全肺無気肺、悪性胸水・心嚢水は除外)、測定可能病変、PS 0-2、PaO2 ≥9.3 kPa、および規定された血球数、肝腎機能が基準値以上であることが求められた。
除外基準: 活動性感染症、間質性肺炎、活動性肺線維症、慢性閉塞性肺疾患 (COPD)、コントロール不良の心疾患、活動性の重複がん、または過去5年以内の他のがん既往を有する患者は除外された。
無作為化: 最小化法 (biased-coin assignment) を用いて、PS (0 vs 1 vs 2)、Stage (IIIA vs IIIB)、および施設を層別因子として、患者をCRT群またはRT単独群に無作為に割り付けた。患者および担当医師は治療割付について盲検化されなかった。
治療:
- CRT群: カルボプラチン 30 mg/m²/日を静脈内投与 (30分間、放射線治療の1時間前、週5日×20日間) と、胸部放射線療法 60 Gy/30分割 (6週間) を同時併用した。カルボプラチン投与は、血球数が規定値を下回った場合に中断された。
- RT単独群: 胸部放射線療法 60 Gy/30分割 (6週間) を実施した。 放射線照射は、まず40 Gyを前後対向2門で原発巣、転移リンパ節、所属リンパ節に照射し、その後20 Gyをブーストとして原発巣と転移リンパ節に追加し、総線量60 Gyとした。放射線品質保証プログラムとして、治療計画書提出と照射確認の集中レビューが実施され、プロトコル遵守が徹底された。
エンドポイント: 主要エンドポイントはOS (無作為化から任意の死因による死亡までの期間) とし、副次エンドポイントは奏効率 (RR)、PFS、再発部位、および毒性 (NCI-CTC v2.0) とした。有効性解析は適格患者集団 (n=197、CRT群99例、RT群98例) で実施され、安全性解析は全治療患者で実施された。
統計解析: OSの検出力は80%に設定され、log-rank検定の片側α=0.05を用いた。OS中央値の想定値はCRT群15ヵ月 vs RT群10ヵ月とし、計画症例数は200例であった。2回の中間解析が予定され、O’Brien-Fleming型のα-spending function (調整済みα=0.0231) を用いて多重比較を調整した。第2回中間解析 (全患者登録後10ヵ月時点) で、事前に設定された早期中止基準に合致したため、試験の早期公表が推奨された。OSおよびPFSはKaplan-Meier法で推定し、ハザード比 (HR) はCox回帰分析で算出した。奏効率はFisherの正確検定で比較した。