- 著者: Tamura Y, Fujiwara Y, Yamamoto N, Nokihara H, Horinouchi H, Kanda S, Goto Y, Kubo E, Kitahara S, Tsuruoka K, Tsuta K, Ohe Y
- Corresponding author: Yutaka Fujiwara (Department of Thoracic Oncology, National Cancer Center Hospital, Tokyo, Japan)
- 雑誌: BMC Research Notes
- 発行年: 2015
- Epub日: 2015-11-27
- Article種別: Original Article
- PMID: 26682906
背景
肺多形癌 [PPC (pulmonary pleomorphic carcinoma)] は、低分化な腺癌、扁平上皮癌、または大細胞癌に、紡錘細胞や巨細胞からなる肉腫様成分が少なくとも10%以上混在する、極めて稀な非小細胞肺癌 [NSCLC (non-small cell lung cancer)] の亜型である。全NSCLCにおけるPPCの発生頻度は0.1%から0.4%程度と極めて低く、その希少性ゆえに大規模な臨床試験の実施が困難であった。Fishback et al. (1994) や Mochizuki et al. (2008) などの先行研究において、PPCは通常のNSCLCと比較して極めて攻撃的な臨床経過をたどり、早期に遠隔転移を来しやすく予後不良であることが示されている。
さらに、PPCは従来のプラチナ製剤併用化学療法などの細胞傷害性化学療法に対して高度な治療抵抗性を示すことが、Bae et al. (2007) などの複数の小規模な後方視的解析から報告されていた。近年、NSCLC領域においては、EGFR (epidermal growth factor receptor) 遺伝子変異やALK (anaplastic lymphoma kinase) 融合遺伝子などのドライバー遺伝子変異の同定と、それに対応する分子標的治療薬の導入により治療成績が劇的に向上している。PPCにおけるEGFR遺伝子変異の頻度は15%から20%程度と報告されているものの、腫瘍内不均一性 (intratumor heterogeneity) の存在、すなわち上皮成分と肉腫様成分の間で遺伝子変異プロファイルが異なる可能性が指摘されていた。このため、PPCに対するEGFRチロシンキナーゼ阻害薬 (tyrosine kinase inhibitor: TKI) の有効性は一過性かつ限定的であると考えられており、最適な治療戦略は未確立のままであった。
これまで、PPCにおける細胞傷害性化学療法の客観的奏効率を体系的に検証した報告や、EGFR、KRAS、ALKなどの主要なドライバー遺伝子変異を統合的に評価した報告は決定的に不足していた。特に、PPCの腫瘍内におけるEGFR変異タンパクの組織学的な局在や発現分布を、変異特異的抗体を用いて詳細に評価した研究は手薄であり、実臨床における治療選択の大きな課題が残されている。したがって、進行期PPC患者における最適な薬物治療アルゴリズムを構築するためのエビデンスが不足しており、治療開発における大きなgap in knowledgeが存在していた。
目的
本研究の目的は、進行または術後再発の肺多形癌 (PPC) 患者を対象として、以下の3点を明らかにすることである。第一に、一次治療としての細胞傷害性化学療法および分子標的治療 (EGFR-TKI) の客観的奏効率 (objective response rate: ORR)、無増悪生存期間 (progression-free survival: PFS)、および全生存期間 (overall survival: OS) を後方視的に評価し、その臨床的有効性を定量化することである。第二に、利用可能な腫瘍組織検体を用いて、EGFR遺伝子変異、KRAS遺伝子変異、およびALK融合タンパク発現の頻度を統合的に調査し、PPCにおける分子標的治療の標的となり得るドライバー遺伝子変異の分布を解明することである。第三に、EGFR変異陽性例において、EGFR変異特異的抗体を用いた免疫組織化学 (immunohistochemistry: IHC) 染色を行い、上皮成分と肉腫様成分における変異タンパクの発現分布を比較することで、PPCにおける腫瘍内不均一性とクローン進化のプロセスを病理組織学的に検証することである。
結果
患者背景と病理組織学的特徴 (n=16): 解析対象となったのは、1998年1月から2010年4月に国立がん研究センター中央病院においてPPCと病理診断された65例のうち、進行または再発期に全身化学療法 (n=13) または同時化学放射線療法 (n=3) を受けた連続する16例である。年齢中央値は61歳 (範囲 43-77歳)、男性10例 (62.5%)、女性6例 (37.5%) であった。喫煙歴は喫煙者12例 (75.0%)、非喫煙者4例 (25.0%) で、喫煙者の累積喫煙量は中央値 45.5 pack-years (範囲 17-124 pack-years) であった。ECOG-PS (Eastern Cooperative Oncology Group Performance Status) は、PS 0が3例 (18.8%)、PS 1が10例 (62.5%)、PS 2が3例 (18.8%) であった。臨床病期は術後再発10例 (62.5%)、初発 stage IV 4例 (25.0%)、stage IIIA 2例 (12.5%) であった。病理組織学的には、上皮成分として腺癌が7例 (43.8%) と最多で、次いで大細胞癌4例 (25.0%)、扁平上皮癌2例 (12.5%)、NSCLC-NOS 2例 (12.5%)、腺扁平上皮癌1例 (6.3%) であった。肉腫様成分は紡錘細胞・巨細胞混在が14例 (87.5%)、巨細胞単独が2例 (12.5%) であった (Table 1)。
分子プロファイル: EGFR/KRAS変異とALK発現 (n=14): 患者背景を踏まえ、次に分子生物学的プロファイルを示す。腫瘍組織が利用可能であった14例を対象に遺伝子解析を実施した。EGFR変異は2例 (14.3%) に同定され、患者No.2 (腺扁平上皮癌・紡錘細胞優位) においてexon 19欠失変異、患者No.15 (大細胞癌・紡錘細胞優位) においてexon 21 L858R変異がそれぞれ検出された。EGFR変異陽性2例はともに非喫煙者 (Smoking index = 0) であった。一方、KRAS変異は3例 (21.4%) で認められ、これら3例はすべて喫煙者であった。ALK免疫組織化学陽性例は0例 (0%) であった (Table 2)。さらに、EGFR変異陽性の患者No.2において、変異特異的抗体を用いたIHC染色を実施した結果、腺癌成分 (Fig 1a)、扁平上皮癌成分 (Fig 1b)、肉腫様成分 (Fig 1c) のいずれにおいても変異EGFRタンパクの陽性発現が確認された。これはEGFR変異が上皮成分・肉腫様成分を問わず均一に分布することを示す重要な知見であった。
細胞傷害性化学療法の有効性 (一次治療・二次治療): 進行または再発期の13例のうち、n=11例が一次治療として細胞傷害性化学療法を受けた (CBDCA+PTX 5例、CDDP+GEM 2例、DTX単剤 2例、CBDCA+ETP 1例、gefitinib 1例)。一次細胞傷害性化学療法を受けた患者において、客観的奏効 (CR または PR) を達成した症例は0例であり、奏効率 (ORR) は0%であった。一次化学療法全患者を通じたPFS中央値は1.5ヵ月 (95% CI 0.6-2.5)、OS中央値は7.2ヵ月 (95% CI 1.4-10.3) であった (Table 3)。治療モダリティ別に奏効率を比較すると、一次細胞傷害性化学療法群 (n=11) のORR 0% (95%CI: 0.0-28.5) vs 同時化学放射線療法群 (n=3) のORR 100% (95%CI: 29.2-100.0) と、両群間に顕著な差が認められた (Fisher’s exact test, p=0.018)。この対照的な結果は、進行期PPCにおける全身化学療法の著明な治療抵抗性を定量的に示している。例外として、患者No.6は二次治療のdocetaxel (DTX) でPRを達成 (PFS 0.7ヵ月後にPDとなり二次治療へ) した。また、EGFR野生型の患者No.13は術後小腸再発に対する切除術後にCDDP+GEM 4サイクルを施行後、ヒラーリンパ節・骨転移を含む病変においてPFS 109.2ヵ月の長期病勢安定 (SD) を達成し、最終確認時も生存中であった。
分子標的治療および同時化学放射線療法の有効性: EGFR exon 19欠失変異陽性の患者No.2 (69歳、女性、非喫煙者、術後縦隔リンパ節再発) に対してゲフィチニブ (gefitinib) を投与したところ、縦隔リンパ節 (#4R) の著明縮小を伴う完全奏効 (CR) が得られ、PFS 35.1ヵ月・OS 53.9ヵ月の長期効果が確認された (Fig 2)。患者はその後、血痰を理由に自己判断でゲフィチニブを中止し、2ヵ月後に縦隔リンパ節および胸椎転移が出現した。一方、EGFR L858R変異陽性の患者No.15は同時化学放射線療法後に急速な多発脳転移・癌性髄膜炎を発症し、全身状態悪化によりEGFR-TKIは導入されず緩和ケアへ移行した。局所進行または局所再発を対象とした同時化学放射線療法 (CDDP+VNR+胸部放射線照射、n=3) では、3例全例でPRが得られORRは100%であった。うち患者No.16 (stage IIIA、非喫煙者) はPFS 65.4ヵ月・OS 65.4ヵ月の長期無増悪生存を維持し最終確認時も生存中であった (Table 3)。
考察/結論
本研究は、極めて稀で予後不良な肺多形癌 [PPC (pulmonary pleomorphic carcinoma)] に対する細胞傷害性化学療法および分子標的治療の有効性を、詳細な病理組織学的・分子生物学的評価とともに検証した後方視的検討である。以下に、先行研究との相違・本研究の新規性・臨床的示唆・今後の課題の順に考察する。
先行研究との違い: 本研究における一次細胞傷害性化学療法のORRが0%、PFS中央値が1.5ヵ月という結果は、PPCが従来の化学療法に対して極めて高い抵抗性を示すとした既報の報告 (Kaira et al. JThoracOncol 2010) と整合する。しかし、Kairaらの先行研究においては「PPCにおけるEGFR変異は上皮成分のみに存在し、肉腫様成分には存在しない」と報告され、これがEGFR-TKIに対する不応性や一過性の効果の原因と推測されていた。これに対し本研究では変異特異的抗体を用いたIHC解析により、上皮成分 (腺癌・扁平上皮癌) と肉腫様成分の両方にEGFR変異タンパクが均一に発現していることを病理組織学的に実証した。この知見は既報とは対照的であり、EGFR変異がPPCの腫瘍発生における極めて初期の段階で獲得されるクローナルな変異であることを示唆しており、NSCLCのゲノム進化の初期段階でEGFR変異が生じるとした Govindan et al. Cell 2012 の知見とも合致する。また、本研究で示したCDDP+GEM療法後の長期SD例 (109.2ヵ月) は、gemcitabineに高感受性を示すPPCサブセットが存在する可能性を提示するものであり、hENT1 (human equilibrative nucleoside transporter 1) の高発現との関連を論じたTamiya et al. の報告とも整合する。
新規性: 本研究は、EGFR変異 (exon 19欠失) を有する進行期PPC患者において、ゲフィチニブ治療により35ヵ月を超える長期の完全奏効 (CR) および約54ヵ月の長期生存が得られた事実を、これまで報告されていない新規の定量的臨床経過として示した。さらに、変異特異的EGFR抗体を用いたIHC染色により、PPC内の異なる組織成分 (腺癌・扁平上皮癌・肉腫様成分) における変異タンパク発現の均一性を新規に実証した点は、PPCのクローン起源と腫瘍生物学的特性の理解を深める重要な知見である。腫瘍発生の多段階過程においてEGFR変異が初期クローナルイベントとして獲得されるという腫瘍進化モデル (deBruin et al. Science 2014) は、本研究の組織学的所見と理論的に整合する。
臨床応用: 本研究の知見は、日常の臨床現場におけるPPCの治療戦略に直結する。第一に、PPCは化学療法抵抗性で予後不良な組織型と一括して諦めるべきではなく、診断時にEGFR変異などのドライバー遺伝子スクリーニングを確実に実施すべきである。これは、ALK陽性NSCLCにおいてクリゾチニブが劇的な効果を示した治療パラダイム (Solomon et al. NEnglJMed 2014) と同様に、個別化医療の臨床的意義を裏付けるものである。第二に、切除不能な局所進行PPCに対しては、同時化学放射線療法 (CDDP+VNR+TRT) が高い奏効率 (100%) と長期生存をもたらす可能性があり、積極的な局所治療の臨床応用を検討すべきである。第三に、CDDP+GEM療法による長期SD例の存在は、gemcitabineを含むレジメンが一部の症例で高い有効性を発揮しうることを示唆し、PPCに対する治療選択肢の幅を広げる可能性がある。
残された課題: 本研究の主たるlimitationは、単一施設の後方視的解析であり、n=16という極めて小規模なサンプルサイズにとどまる点である。また、10例の再発例において再発時の再生検が実施されておらず、治療導入時における腫瘍内不均一性やクローン進化の動的変化を十分に追跡できていない。残された課題として、次世代シーケンシングを用いた包括的なゲノムプロファイリングにより、MET exon 14 skipping変異やBRAF変異など、PPCにおける他の希少ドライバー遺伝子の関与を解明することが挙げられる。今後の研究では、より大規模な多施設前向きレジストリを構築し、PPCに対するドライバー遺伝子陽性例への分子標的治療の有効性をより確実なエビデンスとして確立するための検討が望まれる。
方法
本研究は、国立がん研究センター中央病院 (東京) において、1998年1月から2010年4月までの期間に組織学的にPPCと診断された65例の患者データベースを基盤とした単施設後方視的コホート研究 (retrospective cohort study) である。このうち、進行期または再発期に全身化学療法 (n=13) または同時化学放射線療法 (n=3) を受けた連続する16例を最終的な解析対象とした。PPCの組織学的診断は2004年版の世界保健機関 (WHO) 分類に準拠し、光学顕微鏡所見およびIHC染色により確認した。すべての症例の病理組織標本は、当院の専門病理医1名 (K.T.) によって再レビューが実施された。
遺伝子解析として、パラフィン包埋 (FFPE) 腫瘍組織から抽出したDNAを用い、EGFR遺伝子の活性化変異 (exon 19欠失変異およびexon 21 L858R一点変異) およびKRAS遺伝子 (exon 2 codon 12/13) 変異の有無を評価した。検出には、LCGreen (lightcycler green) を用いたHRM (high-resolution melting) 法を適用し、LightCyclerシステム上で解析を行った。ALK融合遺伝子の有無については、ALK特異的モノクローナル抗体 (5A4, Abcam, 1:40) を用いたIHC染色により評価し、EnVision-FLEXシステムを用いてシグナルを検出した。
さらに、EGFR遺伝子変異陽性と判定された症例については、腫瘍内不均一性を評価するため、EGFR変異特異的抗体を用いたIHC染色を実施した。使用した一次抗体は、exon 19欠失変異特異的抗体 (clone 6B6, Cell Signaling Technology, 1:100) およびL858R変異特異的抗体 (clone 43B2, Cell Signaling Technology, 1:200) である。これにより、同一腫瘍内の腺癌成分、扁平上皮癌成分、および肉腫様 (紡錘細胞・巨細胞) 成分における変異タンパクの発現パターンを詳細に比較した。
臨床病期はUICC (International Union Against Cancer) 臨床病期分類第7版に基づいて再評価し、治療効果判定における主要なendpointであるPFSおよびOS、ならびにORRの定義は、RECIST (Response Evaluation Criteria in Solid Tumors) ガイドラインバージョン1.1 (Eisenhauer et al. EurJCancer 2009) に準拠して実施した。生存時間解析におけるPFSおよびOSの算出にはKaplan-Meier法を用い、生存曲線の群間比較にはlog-rank検定 (log-rank test) を適用した。カテゴリカル変数の比較にはFisherの正確確率検定 (Fisher’s exact test) またはχ二乗検定を用い、統計学的有意基準はp<0.05とした。統計解析ソフトウェアにはSTATA version 12 (StataCorp LP) を使用した。