- 著者: Sweeney CJ, Zhu J, Sandler AB, Schiller J, Belani CP, Langer C, Krook J, Harrington D, Johnson DH
- Corresponding author: Johnson DH (Vanderbilt University Medical School, Nashville, TN)
- 雑誌: Cancer
- 発行年: 2001
- Epub日: N/A
- Article種別: Original Article (Phase III 試験サブグループ最終解析)
- PMID: 11745199
背景
進行非小細胞肺がん (non-small cell lung cancer, NSCLC) に対する cisplatin ベースの化学療法は、最善支持療法 (best supportive care, BSC) と比較して全生存期間 (overall survival, OS) を改善し、有意な緩和効果をもたらすことが複数のランダム化試験で確立されてきた (Rapp et al. JClinOncol 1988)。1990 年代後半には cisplatin への gemcitabine、vinorelbine、paclitaxel 追加が cisplatin 単剤や古典的組み合わせより生存改善をもたらすことが相次いで報告され (NSCLC_Collaborative_Group et al. BrMedJ 1995)、これらの知見を受けて Eastern Cooperative Oncology Group (ECOG) は Study E1594 として cisplatin+paclitaxel を標準腕とし、gemcitabine、docetaxel、carboplatin を加えた 3 つの実験腕との 4 腕比較第 III 相試験を設計した。
しかしこれらの進歩は ECOG performance status (PS) が 0-1 の患者に限られているとの懸念が早くから存在した。ECOG の cisplatin ベース 5 試験 1,960 例の後ろ向き解析では PS=2 の中央 OS が 3.3 ヶ月と、PS=1 (6.4 ヶ月) および PS=0 (9.4 ヶ月) より有意に短く (p<0.05)、Southwest Oncology Group の多変量解析でも PS は OS の独立した予後因子であることが示されていた (Albain et al. JClinOncol 1991)。またランダム化試験の後ろ向きレビューから PS=2 患者では化学療法毒性が利益を上回るとも信じられており、多くの協同グループ試験が PS=2 を除外基準としてきた。
このような状況のなか E1594 試験は従来の ECOG 方針を変更して PS=2 患者を組み入れ可能とし、最初の 50 例登録後に毒性をモニタリングする特別規定を設けた。支持療法の改善と新規レジメンの忍容性向上への期待が根拠であった。しかし 1997 年 3 月のデータモニタリング委員会が実質的な毒性率を観察して継続監視を勧告し、同年 8 月に 66 例登録時点で過剰な有害事象との判断から登録が中止された。PS=2 進行 NSCLC に対して化学療法が有効かつ許容可能かどうか、また 4 種レジメンの中でどれが適切かを前向きデータとして示すという gap in knowledge が不足していた状態において、本論文はこの PS=2 サブグループの最終解析を報告するものである。
目的
ECOG Study E1594 (Phase III 多施設無作為化試験) の PS=2 サブグループにおいて、4 種プラチナ系化学療法ダブレット [PC (paclitaxel+cisplatin) / GC (gemcitabine+cisplatin) / DC (docetaxel+cisplatin) / PCb (paclitaxel+carboplatin)] の有効性 (奏効率・OS・無増悪期間) と安全性 (Grade 3-4 毒性・治療関連死) を前向きに評価し、PS=2 の進行 NSCLC 患者への最適なレジメンと治療アプローチの方向性を検討すること。
結果
患者背景と各腕の分布: 64 例の評価可能患者の中央年齢は 63.6 歳 (範囲 42-79 歳) であった (Table 2)。男性 56%、女性 44%。Stage IV が 81% を占め、Stage IIIB は 19% にとどまった。体重減少 ≥10% は全体の 27% に認められ、脳転移保有率は全体 13% (PC 11%、GC 15%、DC 17%、PCb 7%) であった。腕別の中央年齢は PC 60.6 歳、GC 68.5 歳、DC 65.2 歳、PCb 61.6 歳と GC 腕が最高齢であった。GC 腕では女性比率が 54% と他腕 (33-39%) より高く、Stage IV 比率も 69% と他腕 (83-87%) より低い傾向があり、ベースライン特性の偏りが成績解釈に影響しうる点として留意が必要である。腕別の n は PC 18 例、GC 13 例、DC 18 例、PCb 15 例と比較的少数であった。
血液毒性と発熱性好中球減少症: Grade 3-4 血液毒性は全腕で高頻度に認められた (Table 3)。Grade 3-4 好中球減少 (ANC 低下) の頻度は PC 60%、GC 58%、DC 59%、PCb 47% で、platinum doublet による骨髄抑制の高さが示された。白血球減少 (WBC) は PC 45%、GC 41%、DC 47%、PCb 20% と PCb 腕で最低であった。貧血 (Grade 3-4) は PC 25%、GC 33%、DC 6%、PCb 20%。血小板減少 (Grade 3-4) は GC 腕で 50% と突出して高く、他腕 (PC 0%、DC 0%、PCb 7%) と対照的であった。発熱性好中球減少は DC 腕で 12% と最も高率で、致死例を含んでいた (PC 5%、GC・PCb 各 0%)。腕間の血液毒性に統計的有意差は認められなかった。
非血液毒性と治療関連死: Grade 3-4 非血液毒性の腕間差は血液毒性より顕著であった (Table 4)。PCb 腕では Grade 3-4 悪心/嘔吐および下痢がともに 0% であり、他のすべての腕との比較で非血液毒性全体が有意に低かった (p=0.0032)。PC 腕では Grade 3 悪心 33%、Grade 3-4 嘔吐 40%、Grade 3 神経障害 15%。GC 腕では Grade 4 嘔吐 42%、Grade 3-4 腎障害 24% で、治療開始 2 日後に発症した腎不全による死亡 1 例を含み、剖検では gemcitabine 関連の HUS (hemolytic uremic syndrome: 溶血性尿毒症症候群) 様の微小血管障害像が認められた。DC 腕では Grade 3-4 嘔吐 41%、Grade 4 下痢 18%、Grade 3-4 肺毒性 12% (致死例含む)、Grade 3 神経障害 18%。神経障害 (Grade 3) は PC 15%、GC 13%、DC 18%、PCb 20% とすべての腕で認められ、腕間差はなかった。試験全体で 5 例 (68 例中 7.35%) が治療中に死亡したが (Table 5)、そのうち治療関連死と判定されたのは GC 腕の腎不全 1 例と DC 腕の gram 陰性菌敗血症 1 例の 2 例 (3%) のみであった。残り 3 例 (GC 腕: 精神状態悪化・痙攣; DC 腕: 喀血; DC 腕: DVT (deep venous thrombosis: 深部静脈血栓症) に伴う呼吸不全) は脳転移・血栓塞栓症・喀血という病勢進行に起因する死亡であった。
奏効率と無増悪期間: 64 例の全体奏効率 (overall response rate, ORR) は 14% (95% CI 5.6-22.6%) であり、CR は全腕で 0% であった (Table 6)。腕別 PR は PC 17% (3/18 例、95% CI 3.4-39.6%)、GC 23% (3/13 例、95% CI 5.5-57.2%)、DC 6% (1/18 例、95% CI 1.0-27.3%)、PCb 13% (2/15 例、95% CI 1.7-40.5%) であり、腕間に統計的有意差はなかった。全体の中央 TTP は 1.7 ヶ月 (範囲 0.2-21.4 ヶ月) と極めて短く、多くの患者が早期に病勢進行を来たした。腕別 TTP は GC 4.6 ヶ月 (範囲 0.4-14.6 ヶ月、n=13) が最長で、PC 1.4 ヶ月 (n=21)、DC 1.4 ヶ月 (n=19)、PCb 1.5 ヶ月 (n=15) と他腕より長い傾向があったが、腕間差は統計的有意ではなかった。
全生存期間と PS=0-1 との比較: intent-to-treat 解析による全 68 例の中央 OS は 4.1 ヶ月 (範囲 0.2-31.0 ヶ月)、1 年生存率 19.1% であった (Table 6、Fig. 1)。腕別中央 OS は GC 7.9 ヶ月 (範囲 0.4-16.2 ヶ月、n=13)・PC 7.0 ヶ月 (範囲 0.5-29 ヶ月、n=21) が相対的に長く、PCb 4.6 ヶ月 (範囲 0.9-13.3 ヶ月、n=15)・DC 2.3 ヶ月 (範囲 0.2-31 ヶ月、n=19) が短かった。1 年生存率は GC 38.5%・PC 19%・PCb 13.3%・DC 10.5% の順。log-rank 検定による腕間比較では PC 腕 7.0 ヶ月 vs DC 腕 2.3 ヶ月 (p=0.036) のみ統計的有意差を認め、GC 腕 7.9 ヶ月 vs PCb 腕 4.6 ヶ月 の差は有意ではなかった。PS=0-1 患者 (E1594 本試験) との毒性比較では、Grade 3-4 最大毒性の発生率に PS=2 対 PS=0-1 全体の Fisher exact 検定で有意差はなかった (p=0.126)。PS=0-1 の Grade 3-4 毒性発生率は PC 腕 20-68% (n=295)、GC 腕 20-69% (n=290)、DC 腕 22-61% (n=295)、PCb 腕 28-53% (n=289) であり、PS=2 患者の発生率 (30-67%) と重複する範囲であった。各腕の PS=0-1 における治療中死亡率 (PC・GC 各 4%、DC 6%、PCb 3%) も PS=2 の 7.35% と比較して著明な差を示さなかった。
考察/結論
本研究は ECOG Study E1594 の PS=2 サブグループ最終解析であり、全体中央 OS 4.1 ヶ月・ORR 14% という不良な転帰を前向きデータとして確認した。これは ECOG 過去 5 試験の後ろ向き解析 (PS=2 の中央 OS 3.3 ヶ月) とほぼ一致し、これまでの研究で示されていた予後不良の実態と整合する。
既存報告との相違と毒性の帰属: 本研究で最も注目される知見は、PS=2 患者の毒性プロファイルが PS=0-1 患者と統計的に差異なかった点 (p=0.126) である。これは「PS=2 患者は毒性に対してより脆弱」という臨床的先入観とは対照的な発見であり、従来の懸念に再考を促す新規の視点を提供した。5 例の治療中死亡のうち真の治療関連死は 2 例 (3%) のみで、残り 3 例は脳転移・血栓塞栓症・喀血という病勢進行起因の合併症であった。すなわち PS=2 患者の高い有害事象率の大部分は化学療法毒性ではなく、PS=2 という状態に随伴する基礎疾患の重篤さ (comorbidity) を反映していると考えられる。この解釈は PS=2 患者に対する化学療法の適否を個別に評価する際の重要な臨床的意義を持つ。
レジメン比較と臨床応用: DC レジメンは中央 OS 2.3 ヶ月・1 年生存率 10.5% と全腕中最も不良であり、PC 対 DC 間で log-rank 有意差を示した (p=0.036)。PS=2 患者に DC を用いることは支持されない。GC レジメンは数値上最良の成績 (中央 OS 7.9 ヶ月、ORR 23%、1 年生存率 38.5%) を示したが、n=13 と症例数が最少であり、女性比率が高く Stage IV 比率が低いというベースライン偏りが成績を有利に見せた可能性がある。臨床応用上 GC の高成績を過大評価することは危険であり大規模な検証が必要である。一方 PCb は中央 OS 4.6 ヶ月と GC・PC より劣るものの、非血液毒性が有意に低い (p=0.0032) という独自のリスク-ベネフィット特性を持ち、忍容性を重視する PS=2 患者への実用的な選択肢として位置づけられる。ただし統計的検出力の低さから、標準治療としての推奨を正式に行うことは困難である。
今後の検討と残された課題: 本研究の最大の limitation は症例数 68 例という小規模性であり、各腕 n=13-21 程度では腕間の有意差検出力が著しく低い。本試験の知見を受け ECOG は PS=2 専用の無作為化 Phase II 試験を開始した (PCb: paclitaxel 200 mg/m² + carboplatin AUC 6; 減量 GC: gemcitabine 1000 mg/m² Days 1, 8 + cisplatin 60 mg/m² Day 1)。残された課題として、①化学療法対 BSC の生存・緩和効果の比較、②単剤療法対 doublet の優劣 (vinorelbine・gemcitabine 等の非白金系単剤を含む)、③標的生物学的療法 (targeted therapy) の役割、④comorbidity の具体的な予後への影響が挙げられる。また非白金系 doublet (gemcitabine+vinorelbine) やさらなる減量レジメンの評価も future research として重要である。PS=2 患者はその多様性から均一なアプローチが困難であり、標準治療として単一レジメンを推奨するためには PS=2 を主対象とした十分なサンプルサイズの前向き試験が不可欠である。
方法
試験デザインと対象患者: E1594 は 1996 年 10 月開始・1999 年 5 月終了の ECOG 主導多施設無作為化 Phase III 試験。対象は組織学的に確認された Stage IIIB (胸水を伴う) または Stage IV NSCLC。主要な適格基準として、ECOG PS ≤2、前治療化学療法なし、適切な血液学的機能 (好中球絶対数 >2000/mm³、血小板 >100,000/mm³)、腎機能 (クレアチニン <1.5 mg/dL)、肝機能 (AST <5×正常上限、ビリルビン <正常上限) を要求した。脳転移は手術または放射線療法で管理済みのものは適格とした。本解析の PS=2 サブグループとして 68 例が登録され、うち 64 例が毒性・奏効の評価対象となった (同意撤回 1 例、登録後心筋梗塞 1 例、化学療法投与前死亡 1 例、登録締め切り後登録 1 例を除外)。
治療レジメン (Table 1): 4 腕に無作為に割り付けられた。PC 腕: paclitaxel 135 mg/m² 24 時間持続投与 Day 1 + cisplatin 75 mg/m² Day 2、21 日毎。GC 腕: cisplatin 100 mg/m² Day 1 + gemcitabine 1 g/m² Days 1, 8, 15、28 日毎。DC 腕: docetaxel 75 mg/m² + cisplatin 75 mg/m² Day 1、21 日毎 (アルカリフォスファターゼが 5×正常上限かつ AST が 1.6-5.0×正常上限の場合は docetaxel を 55 mg/m² に減量)。PCb 腕: paclitaxel 225 mg/m² 3 時間投与 + carboplatin AUC 6 Day 1、21 日毎。paclitaxel 使用腕では dexamethasone 20 mg 経口 (投与 12・6 時間前)、cimetidine 300 mg および diphenhydramine 50 mg 静注 (投与 1 時間前) を前投薬として実施した。
評価項目と統計手法: 奏効は NCI Common Toxicity Criteria に準拠して評価した。Complete response (CR) は 4 週以上持続する全病変消失、partial response (PR) は全測定病変の積和 ≥50% 減少が 4 週以上持続かつ新病変なし、progressive disease (PD) は測定病変 ≥25% 増大として定義した。TTP (time to progression) と OS は治療開始日からの intent-to-treat 解析で算出した。統計手法: 奏効率の腕間比較に Fisher exact 検定、OS の比較に log-rank 検定を用いた。すべての検定は両側検定とした。PS=2 と PS=0-1 の毒性比較も同様に Fisher exact 検定で行った。