- 著者: J.P. Sculier, J.J. Lafitte, M. Paesmans, J. Lecomte, C.G. Alexopoulos, O. Van Cutsem, V. Giner, A. Efremidis, M.C. Berchier, T. Collon, A.P. Meert, A. Scherpereel, V. Ninane, G. Koumakis, M.M. Vaslamatzis, N. Leclercq, T. Berghmans (European Lung Cancer Working Party)
- Corresponding author: J.P. Sculier (Institut Jules Bordet, Brussels, Belgium)
- 雑誌: European Respiratory Journal
- 発行年: 2007
- Epub日: N/A
- Article種別: Original Article
- PMID: 17690124
背景
進行非小細胞肺がん (NSCLC: non-small cell lung cancer) 患者において、全身状態を示す指標である PS (performance status) は、生存期間を予測する極めて強力な独立予後因子である。特に Karnofsky PS 60-70 (ECOG (Eastern Cooperative Oncology Group) PS 2相当) の患者は予後不良群に分類され、治療方針の決定が困難な対象として知られている。歴史的に、進行NSCLCに対する多剤併用化学療法の有用性は多くの臨床試験で示されてきたが、PS 2の患者における安全性と有効性については議論が続いてきた。例えば、ECOG 1594試験の解析結果を報告した Sweeney et al. Cancer 2001 では、PS 2の患者に対するシスプラチンベースの強力な多剤併用化学療法が 7.6% という極めて高い毒性死亡率をもたらしたことが示され、これを受けて多くの臨床試験から PS 2患者が除外されるようになった。また、Schiller et al. NEnglJMed 2002 などの大規模第III相試験においても、PS 2患者の登録制限や早期中止が相次ぎ、標準的な治療開発の対象から外されてきた経緯がある。さらに、Albain et al. JClinOncol 1991 や Hoang et al. JClinOncol 2005 などの予後因子解析でも、PS 不良は一貫して生存期間の短縮と関連する独立した不良因子として同定されている。しかしながら、実臨床においては進行NSCLC患者の約 20% が PS 2 (Karnofsky PS 60-70) の状態で受診しており、これらの患者に対する最適な治療アプローチは依然として未解明であり、臨床現場における大きな課題となっている。米国臨床腫瘍学会 (ASCO: American Society of Clinical Oncology) のガイドライン等では単剤化学療法や緩和ケアが推奨されているものの、シスプラチンベースの併用化学療法がもたらす潜在的な臨床的改善効果についてのデータは圧倒的に不足している。特に、治療によって PS 自体が改善し、良好な状態へと移行する患者の割合やその予後への影響については、前向き試験のデータを用いた詳細な検証が手薄であり、大きな gap が残されている。このように、Poor PS患者における強力な化学療法の是非は依然として controversial であり、エビデンスが著しく不足しているのが現状である。
目的
本研究の目的は、ELCWP (European Lung Cancer Working Party) が実施した前向きランダム化第III相臨床試験である ELCWP 01995 プロトコルの登録患者データを後方視的に解析し、Karnofsky PS 60-70 (Poor PS) を有する進行NSCLC患者に対するシスプラチンベースの3剤併用化学療法である GIP (gemcitabine + ifosfamide + cisplatin) 療法の有効性と安全性を評価することである。特に、化学療法によって Poor PS から Good PS (Karnofsky PS 80-100) への臨床的改善が得られるか、またその改善が生存期間にどのように寄与するかを明らかにすることを目的とする。さらに、治療関連毒性、特に毒性死亡のリスクを Good PS 群と比較検証し、Poor PS 患者における強力な化学療法の妥当性を総合的に評価する。
結果
患者背景と初期治療完遂率の比較: 登録された485例の適格患者のうち、Good PS群 (Karnofsky PS 80-100) は 79.8% (n=387)、Poor PS群 (Karnofsky PS 60-70) は 20.2% (n=98) であった。治療開始前の背景因子を比較すると、Poor PS群では Good PS群と比較して、5%以上の体重減少 (58% vs 37%, p<0.001)、貧血 (36% vs 22%, p=0.008)、および白血球数 10,000/mm³ 以上の白血球増多 (58% vs 38%, p<0.001) を合併している割合が有意に高かった (Table 1)。予定された3サイクルの導入化学療法を完遂できた割合は、Good PS群で 88.6% (343/387例) であったのに対し、Poor PS群では 68.4% (67/98例) に留まり、Poor PS群において治療完遂率が有意に低いことが示された (p<0.001) (Table 2)。治療を完遂できなかった主な理由には、腫瘍進行、早期死亡、および重篤な治療関連毒性が含まれていた。
化学療法に対する治療奏効率と病勢コントロール率の差異: 導入化学療法である GIP 療法に対する客観的奏効率 (ORR: objective response rate) は、Good PS群で 38% (147/387例) であったのに対し、Poor PS群では 28% (27/98例) であり、統計的な有意差には至らないものの、Good PS群で高い傾向が認められた (p=0.06) (Table 2)。さらに、奏効 (PR: partial response) と病勢安定 (SD: stable disease) を合わせた病勢コントロール率 (DCR: disease control rate) を比較すると、Good PS群では 64% (246/387例) であったのに対し、Poor PS群では 44% (43/98例) と、Good PS群において有意に優れた病勢制御が得られていることが明らかになった (p=0.001) (Table 2)。この結果は、全身状態の不良な患者において、腫瘍の制御自体がより困難であることを示している。
Poor PS患者における全身状態の臨床的改善: 本研究の重要な知見として、初期に Poor PS (Karnofsky PS 60-70) であった患者のうち、化学療法中に Good PS (Karnofsky PS 80-100) への臨床的改善を達成した割合は、評価可能であった63例中16例で 25% (95% CI 15-38%) に達した。この臨床的改善率は腫瘍の治療効果と密接に関連しており、化学療法奏効例 (n=26) では 38% (10/26例) が改善したのに対し、病勢安定例 (n=15) では 20% (3/15例)、病勢進行例 (n=22) では 14% (3/22例) の改善率であった (p=0.05)。また、改善に要する期間についても、奏効例では非奏効例よりも迅速に PS が改善する傾向がみられ、奏効例における累積改善率は1サイクル後に 12%、2サイクル後に 31%、3サイクル後に 38% と段階的に上昇した。
生存期間の解析と独立予後因子の同定: 全登録患者485例における生存期間中央値 (mOS: median overall survival) は 8.7ヶ月 (95% CI 7.7-9.8) であった。Karnofsky PS ≤70 の Poor PS群における mOS は 5.5ヶ月 (95% CI 4.0-6.9) であり、Karnofsky PS ≥80 の Good PS群における mOS の 10.2ヶ月 (95% CI 9.0-11.3) と比較して有意に短縮していた (p<0.001) (Table 4)。多変量解析の結果、Karnofsky PS ≥80 は生存期間に対する独立した良好な予後因子として同定され、ハザード比 (HR) は 0.60 (95% CI 0.47-0.78, p<0.001) であった。また、女性であることも独立した良好な予後因子であった (HR 0.70 (95% CI 0.54-0.91, p=0.008))。一方で、独立した不良な予後因子として、5%以上の体重減少 (HR 1.26 (95% CI 1.03-1.54, p=0.03))、白血球増多 (HR 1.34 (95% CI 1.09-1.65, p=0.006))、および貧血 (HR 1.67 (95% CI 1.32-2.11, p<0.001)) が抽出された。
奏効例における初期PS別の生存期間比較: 化学療法に対して客観的奏効が得られた患者のみを対象として、奏効確認後の生存期間を初期 PS 別に比較した。その結果、初期に Poor PS であった奏効群 (n=27) の生存期間中央値は 49週 (95% CI 17-81) であったのに対し、初期に Good PS であった奏効群 (n=147) では 51週 (95% CI 41-61) であり、両群間に統計学的な有意差は認められなかった (p=0.47)。この知見は、初期の全身状態が不良であっても、化学療法によって腫瘍縮小が得られた患者においては、初期から全身状態が良好であった患者と同等の長期的な生存ベネフィットを享受できる可能性を示唆している。
治療関連毒性と毒性死亡率の比較: 治療中に観察された Grade 3-4 の主な毒性は血液毒性であり、好中球減少 (Poor PS群 71% vs Good PS群 70%, p=1.00) や白血球減少 (Poor PS群 73% vs Good PS群 64%, p=0.14) の発現率には両群間で有意差はみられなかった (Table 5)。しかしながら、治療関連の毒性死亡率は、Poor PS群で 9.2% (9/98例) であり、Good PS群の 2.1% (8/387例) と比較して有意に高頻度であった (p=0.002) (Table 2)。毒性死の具体的な死因としては、好中球減少性発熱に伴う重症感染症 (7例) のほか、突然の心停止 (3例)、肺塞栓症 (2例)、心不全 (1例)、心筋梗塞 (1例) などの心血管系および血管塞栓性イベントが Poor PS群において顕著に多く認められた (Table 5)。
考察/結論
本研究は、Karnofsky PS 60-70 (ECOG PS 2相当) の予後不良な進行NSCLC患者に対するシスプラチンベースの強力な3剤併用化学療法である GIP 療法の臨床的有用性と安全性を、大規模な前向き試験データを用いて後方視的に検証したものである。
先行研究との違い: PS 2患者に対する化学療法は、過剰な毒性死を報告した Sweeney et al. Cancer 2001 の報告以降、多くの臨床試験において除外基準とされてきた。また、ASCOガイドライン等では単剤療法が推奨されてきた。これまでの消極的な治療アプローチと異なり、本研究ではシスプラチンベースの強力な併用化学療法が、Poor PS患者においても一定の割合で全身状態の劇的な改善をもたらすことを示した。これは、単剤療法とカルボプラチン併用療法を比較して併用療法の優位性を示した Lilenbaum et al. JClinOncol 2005 の知見をさらに支持し、プラチナ製剤併用療法の意義を再評価するものである。
新規性: 本研究は、化学療法によって Poor PS 患者の 25% (95% CI 15-38%) が Good PS (Karnofsky PS 80-100) へと改善することを本研究で初めて定量的に明らかにした。特に、治療に奏効した患者においては、初期の PS が不良であっても、初期から PS が良好であった患者と同等の生存期間 (mOS 約49週 vs 51週, p=0.47) を得られるという極めて重要な事実を提示した。この知見は、Poor PS の原因が腫瘍そのものに起因する場合、強力な化学療法による迅速な腫瘍縮小が全身状態の劇的な回復に直結することを示す新規の証拠である。
臨床応用: 本研究の成果は、実臨床における治療選択に重要な臨床的意義を持つ。臨床現場においては、PS 2患者に対して一律に化学療法を回避したり、低用量の単剤療法のみを選択したりする傾向があるが、心肺機能や臓器予備能が保たれている患者に対しては、シスプラチンベースの併用化学療法を治療選択肢として積極的に考慮すべきであることを示唆している。特に、腫瘍随伴症状や腫瘍による局所圧迫などが原因で PS が低下している患者においては、強力な化学療法による「clinical benefit」を最大化できる可能性がある。
残された課題: 一方で、本研究における最大の limitation であり、残された課題として残されているのは、Poor PS群における 9.2% という極めて高い治療関連死亡率である。この値は Good PS群の 2.1% と比較して有意に高く、特に心血管系イベントや感染症による死亡が目立った。したがって、実臨床への応用においては、治療開始前に個々の患者の心肺予備能や血栓塞栓症リスクを厳格に評価するスクリーニング法の確立が必須である。また、Langer et al. JClinOncol 2007 などで検証されているような、毒性を低減しつつ有効性を維持した「less intense」なプラチナベース併用療法の開発や、個別化医療の推進が今後の検討課題である。
方法
本研究は、2000年1月から2004年2月までに ELCWP が実施した前向きランダム化臨床試験 (プロトコル識別子: ELCWP 01995、本試験はNCT番号(NCT12345678など)が一般化する以前に開始された第III相試験である) に登録された進行NSCLC患者493例のうち、適格と判断された485例を対象とした後方視的コホート研究 (retrospective cohort study) である。対象患者の選択基準は、組織学的に確認された切除不能な Stage IV または Stage IIIB (悪性胸水を伴う) のNSCLCであり、化学療法の治療歴がないこと、および初期の Karnofsky PS が 60以上であることとされた。 治療プロトコルとして、すべての患者は導入療法として GIP (gemcitabine + ifosfamide + cisplatin) 療法を3サイクル受けるよう計画された。GIP 療法の具体的な投与スケジュールは、gemcitabine 1 g/m² (day 1, 8)、ifosfamide 3 g/m² (day 1)、および cisplatin 50 mg/m² (day 1) であり、これを3週間ごとに繰り返した。3サイクルの導入療法後に病勢進行 (PD: progressive disease) が認められない患者は、さらに GIP 療法を3サイクル継続する群と、paclitaxel 225 mg/m² を3サイクル投与する群にランダム化された。 主要評価項目 (primary endpoint) は、逐次アプローチによる生存期間の改善効果であったが、本サブグループ解析においては、初期の Karnofsky PS に基づき、Good PS 群 (Karnofsky PS 80-100、n=387) と Poor PS 群 (Karnofsky PS 60-70、n=98) の2群に分類し、Poor PS群における臨床的改善率を評価した。 統計解析においては、生存期間の推定に Kaplan-Meier 法を用い、生存曲線の比較には log-rank test を適用した。また、比率の比較には chi-square test または Fisher’s exact test を用いた。生存期間に対する独立した予後因子の探索、および治療効果の調整には、Cox proportional hazards モデルを用いた多変量解析を実施した。また、客観的奏効に対する予測因子の同定にはロジスティック回帰モデルを用いた。本試験の設計において、特定のハザード比を検出するためのサンプルサイズ設計 (sample size calculation) が事前に行われ、十分な検出力を担保する患者数が登録された。すべての統計学的検定は両側検定とし、p<0.05 をもって有意差ありと判定した。