- 著者: David H. Johnson, Joan H. Schiller, Paul A. Bunn Jr
- Corresponding author: David H. Johnson (University of Texas Southwestern Medical Center, Dallas, TX, USA)
- 雑誌: Journal of Clinical Oncology
- 発行年: 2014
- Epub日: 2014-02-24
- Article種別: Review (ASCO 50th Anniversary Special Article)
- PMID: 24567433
背景
肺癌 (lung cancer) は依然として癌死亡原因の第 1 位を占め、米国では年間約 16 万人、世界では約 160 万人が死亡する。1970 年代までの肺癌治療は外科切除と限定的放射線療法が中心で、進行例の OS (overall survival) 中央値は 4-6 ヶ月に留まっていた。1980 年代のシスプラチン (cisplatin) を中心とした化学療法導入により転移性 NSCLC (non-small cell lung cancer) の OS 中央値が支持療法のみと比較して 2-3 ヶ月改善し、1990 年代後半の Schiller らによる 4 群比較試験 (Schiller et al. NEnglJMed 2002) で多くの platinum-based doublet が等価であることが示されたが、OS 中央値の壁 (約 8-10 ヶ月) を突破できない gap in knowledge が長年続いていた。
2004 年の Lynch ら (Lynch et al. NEnglJMed 2004) と Paez ら (Paez et al. Science 2004) による EGFR (epidermal growth factor receptor) 変異の発見は肺癌治療を一変させた。これに続いて 2007 年の Soda らによる ALK (anaplastic lymphoma kinase) 融合の発見、KRAS / BRAF / HER2 / RET / ROS1 / NTRK 等のドライバー変異の同定で NSCLC の分子分類に基づく個別化治療が確立された。並行して 2011 年の NLST (National Lung Screening Trial) で低線量 CT (LDCT: low-dose computed tomography) 検診の有用性が証明され、2010-2013 年には抗 PD-1 (programmed cell death protein 1) / 抗 PD-L1 (programmed death-ligand 1) 抗体による免疫療法が phase I で持続的奏効を示し始めた。
ASCO (American Society of Clinical Oncology) 50 周年の節目に至るまで、(1) 病理分類の現代的アップデート (2011 IASLC/ATS/ERS 共同分類)、(2) スクリーニングのエビデンスベース化、(3) ドライバー変異と TKI (tyrosine kinase inhibitor) の対応関係の体系化、(4) 免疫療法の初期データの位置づけ、(5) 各サブセット (SCLC: small cell lung cancer、扁平上皮癌、腺癌、ドライバー陽性/陰性) ごとの標準治療確立 — の 5 点で統合が不足していた。本論文はこれらを ASCO 創立 50 周年記念企画の一環として総括した。
目的
過去 40 年間の肺癌管理における主要な臨床的進展 (病理分類改訂、低線量 CT 検診、化学療法発展、EGFR / ALK 等ドライバー遺伝子に基づく分子標的療法、免疫療法の台頭) を時系列的・体系的に整理し、現状の標準治療と将来 50 年の課題を論じる。
結果
(1) 病理分類の改訂 (2011 IASLC/ATS/ERS Classification): 2011 年の IASLC (International Association for the Study of Lung Cancer) / ATS (American Thoracic Society) / ERS (European Respiratory Society) 共同分類により腺癌の詳細な亜型分類が確立した。従来の「細気管支肺胞癌 (BAC: bronchioloalveolar carcinoma)」概念が廃止され、「腺癌 in situ (AIS: adenocarcinoma in situ)」「微小浸潤性腺癌 (MIA: minimally invasive adenocarcinoma)」「lepidic / acinar / papillary / micropapillary / solid」サブタイプに再分類。AIS・MIA の 5 年無病生存率は完全切除で 100% 近く。EGFR 変異と ALK 融合は腺癌に限定的であり、LCMC (Lung Cancer Mutation Consortium) 1,000 例コホートでは約 60% にドライバー変異が検出され、NGS (next-generation sequencing) パネル検査が将来標準となる見込みが示された。
(2) 肺癌スクリーニング (NLST): NLST は 55-74 歳・喫煙 ≥30 pack-years の高リスク者 n=53,454 例を LDCT (n=26,722) vs 胸部 X 線 (n=26,732) に無作為割付した landmark trial (Table 1)。LDCT 群で肺癌死亡率 20% 減少 (247 vs 309 死亡/100,000 person-years、P=0.004)、全死亡 6.7% 減少 (P=0.02) を達成。ただし偽陽性率は LDCT 群 96.4% と高く、1 例の肺癌死亡防止のための NNS (number needed to screen) は 320 と算出された。USPSTF (US Preventive Services Task Force) は本試験を根拠に 55-80 歳・喫煙 ≥30 pack-years・禁煙後 15 年以内に対する年次 LDCT を Grade B recommendation として推奨。
(3) SCLC 治療の標準確立: 限局型 SCLC (LD-SCLC: limited-disease) は EP (etoposide+cisplatin) + 同時 BID (twice-daily) 胸部放射線療法 (TRT: thoracic radiotherapy、45 Gy/30 回/3 週) が標準であり (Table 1)、Turrisi 試験は BID vs QD (once-daily) で OS 中央値 23 vs 19 ヶ月、5 年生存率 26% vs 16% (P=0.04) を示した。PCI (prophylactic cranial irradiation、予防的全脳照射、25 Gy/10 分割) は限局型・進展型ともに完全奏効例の生存改善をもたらす。進展型 SCLC (ED-SCLC) は EP / CE (carboplatin+etoposide) が標準で OS 中央値 9-10 ヶ月、ICI (immune checkpoint inhibitor) + 化学療法の Phase III 試験が当時進行中であった。免疫療法はこの段階で ipilimumab + paclitaxel/carboplatin の phase II で示唆的改善に留まっていた。
(4) NSCLC 術後補助化学療法 (I-IIIA 期): LACE meta-analysis (5 試験、n=4,584) はシスプラチンベース術後補助化学療法の OS HR 0.89 (95% CI 0.82-0.96, P=0.005)、5 年絶対生存利益 5.4% を示した (Table 1)。病期別では stage IA で HR 1.40 (有害傾向)、IB で HR 0.93 (中立)、II-III 期で HR 0.83 と利益は II-III 期に集中。Neoadjuvant chemotherapy (術前化学療法) の meta-analysis も同程度の HR 0.84 の OS 利益を示し、術前 vs 術後は等価。CALGB 9633 (stage IB、n=344、carboplatin+paclitaxel vs 観察) は HR 0.83 (P=0.12) と統計的有意差に届かなかったが、腫瘍径 ≥4 cm のサブセットでは HR 0.69 (P=0.043) と利益を示した。
(5) NSCLC Stage IV 化学療法の進展: 1995 年 NSCLC Meta-analysis でプラチナベース化学療法 vs BSC (best supportive care) の OS HR 0.73、1 年生存率 10% 改善。その後多くの platinum-based doublet が OS 中央値 約 8 ヶ月で等価であることが Schiller 4-arm 試験 (Schiller et al. NEnglJMed 2002) で示されたが突破口がなかった (Table 1)。Bevacizumab (抗 VEGF 抗体)+carboplatin+paclitaxel (E4599 試験、n=878) は OS 中央値 12.3 vs 10.3 ヶ月 (HR 0.79, P=0.003) (Sandler et al. NEnglJMed 2006) で非扁平上皮 NSCLC で初めて OS 1 年超を達成。一方 AVAiL 試験では PFS 改善のみで OS 利益なし。Maintenance therapy では pemetrexed continuation maintenance (PARAMOUNT 試験) が non-squamous NSCLC で OS HR 0.78、erlotinib switch maintenance (SATURN 試験) が PFS/OS 改善を示した。
(6) 分子標的療法: EGFR 変異: EGFR 変異 (主に exon 19 deletion または exon 21 L858R 点変異) は腺癌の 10-15% (白人)・40-50% (東アジア人) に検出。Lynch 2004 / Paez 2004 を起点に、IPASS (n=1,217、gefitinib vs CP、EGFR 変異陽性層で PFS HR 0.48, P<0.001) (Mok et al. NEnglJMed 2009)、NEJ002 (Maemondo et al. NEnglJMed 2010)、EURTAC (erlotinib vs platinum-based、PFS HR 0.37, P<0.0001)、OPTIMAL の計 6 Phase III 試験で first-generation EGFR-TKI が PFS で化学療法を上回ることが確立。Afatinib (LUX-Lung 3) も同様の効果。耐性機序として T790M 二次変異 (約 50%)、MET 増幅、HER2 増幅、AXL 過剰発現、SCLC 形質転換が同定され、T790M に選択的な第三世代 TKI の開発が進行中であった。
(7) 分子標的療法: ALK / ROS1 / その他の希少変異: ALK rearrangement (ALK 融合) は NSCLC の 3-7% に検出、若年・never smoker・腺癌で多い。Crizotinib の expanded Phase I (PROFILE 1001) は ORR 約 60%、PFS 中央値約 10 ヶ月 (n=143)。続く Phase III (PROFILE 1014、crizotinib vs platinum-pemetrexed 一次治療) で PFS HR 0.45 を達成。ROS1 rearrangement (NSCLC 1-2%) も crizotinib に感受性 (ORR 約 70%)。BRAF V600E、HER2 exon 20、RET 融合、NTRK 融合等の rare oncogene にも対応する TKI 開発が進行中で、LCMC 1,000 例コホートではドライバー変異を有する患者に molecularly targeted therapy を用いた場合の生存が有意に良好であった。
(8) 免疫療法の台頭 (Phase I 初期データ): 本論文時点 (2013-2014) では抗 PD-1 (nivolumab、lambrolizumab [pembrolizumab]) と抗 PD-L1 抗体の Phase I 試験が初期データを示した段階。Topalian らの抗 PD-1 (nivolumab) Phase I (n=296) は NSCLC で ORR 18% (14/76 例) と従来二次治療の ORR < 10% を上回り、奏効が 1 年以上持続する例が多数報告された (Topalian et al. NEnglJMed 2012)。Brahmer らの抗 PD-L1 (BMS-936559) Phase I でも NSCLC ORR 10% を示した (Brahmer et al. NEnglJMed 2012)。MAGE-A3 (MAGRIT 試験) / BLP25 (Stimuvax) 等のワクチン療法も Phase III で評価中であった。
(9) 高齢者・PS 不良例への治療拡張: 高齢 (≥70 歳) または PS (performance status) 2 患者には carboplatin-based doublet が cisplatin-based より忍容性で優り、Quoix らの Phase III (IFCT-0501、n=451、weekly carboplatin+paclitaxel vs single-agent gemcitabine or vinorelbine) で OS HR 0.64 (P<0.0001) を示した。Single-agent chemotherapy は高齢者の代替として ELVIS 試験 (vinorelbine vs BSC、1999) を起点に確立されていたが、Quoix によりダブレット療法の高齢者への適用拡大が実証された。
考察/結論
本 ASCO 50 周年記念総説は、肺癌治療が過去 40 年間に「symptom-based palliation → cytotoxic chemotherapy → driver-defined targeted therapy → immune checkpoint blockade」という 4 段階のパラダイムシフトを経たことを統合的に提示した点で新規な貢献を果たした。具体的には、(a) 1990 年代までの platinum doublet 時代の OS 中央値 8-10 ヶ月の壁、(b) 2004 年の EGFR 変異発見による分子分類時代の幕開け、(c) 2011 年 NLST と IASLC/ATS/ERS 分類による検診・病理基盤の再構築、(d) 2012 年の抗 PD-1/PD-L1 phase I による免疫療法時代の予感、という 4 つの転換点を明確化した。
これまでの総説と異なる本論文の特徴は: (1) 単一治療モダリティに限定せず screening → diagnosis → staging → treatment → surveillance の全領域を統合したこと、(2) 分子標的療法を「ドライバー仮説」のもとに体系化し、EGFR/ALK/HER2/BRAF/RET/ROS1/NTRK/MET/PIK3CA/AKT1/MAP2K1/NRAS を「actionable oncogene panel」として提示したこと、(3) 免疫療法を独立した治療カテゴリとして明示し、その後 5 年間の飛躍的発展を予告したこと、(4) スクリーニングの cost-effectiveness と偽陽性問題を実装上の課題として明示したことである。本研究で初めて系統的にこれらの進歩を 1 つの体系に統合した意義は大きい。
臨床応用の観点では、(a) 肺癌の包括的初期評価 (組織採取時の NGS パネル検査計画、EGFR / ALK / ROS1 / BRAF 等の同時測定)、(b) 個別化一次治療戦略 (ドライバー陽性 → TKI 優先、ドライバー陰性 → 組織型に応じた化学療法 ± bevacizumab)、(c) 高齢・PS 不良例への carboplatin-based doublet 適用、(d) 限局型 SCLC への EP + BID TRT + PCI 標準確立、(e) LDCT 検診の高リスク群への系統的提供、という 5 つの臨床的含意を提示した。既報の個別試験が各専門領域に分断されていたのに対し、本論文は横断的な実装指針として既報とは異なる貢献をしている。
残された課題として、(1) ドライバー陰性 NSCLC (約 40%、主に KRAS 変異 or unknown) への対応 (本論文時点では化学療法のみ、その後 KRAS G12C 阻害剤 sotorasib/adagrasib が登場)、(2) EGFR-TKI 耐性機序 T790M / MET / HER2 への次世代 TKI 開発 (osimertinib は本論文後 2015 年に登場)、(3) 免疫療法のバイオマーカー (PD-L1 発現、TMB: tumor mutational burden) の標準化、(4) LDCT 検診の偽陽性低減と費用対効果改善、(5) Brain metastasis に対する TKI 浸透性と SRS (stereotactic radiosurgery) の最適統合、(6) 限局型 SCLC への ICI 併用 (ADRIATIC 試験等は本論文後)、(7) 高齢者・PS ≥2 例への ICI 安全性データの蓄積 — これらは今後の研究として継続的な検討課題として残されている。本論説は肺癌診療体系の歴史的整理として現代の臨床医・研究者に羅針盤を提供する。
方法
Review type: Narrative review (ASCO 50th Anniversary Special Article、招待総説)。Search strategy: 系統的レビュー手法は明示されないが、PubMed/MEDLINE 検索により 1970 年代から 2013 年末までの主要 RCT (randomized controlled trial)、phase II 試験、meta-analysis、ガイドラインを統合。Source databases: NLST、LACE (Lung Adjuvant Cisplatin Evaluation) meta-analysis、IPASS、NEJ002、WJTOG3405、EURTAC、OPTIMAL、LUX-Lung 3、Schiller 4-arm 比較、Sandler bevacizumab 試験 (E4599)、AVAiL、PARAMOUNT、PROFILE 1001/1014 等を統合。Inclusion criteria: Phase III RCT を中心とし、ガイドライン化に直結する phase II 試験を contextual に組み込み。Outcome metrics: OS、PFS (progression-free survival)、ORR (objective response rate)、HR (hazard ratio) と 95% CI (confidence interval)、絶対生存利益、QOL (quality of life)。Statistical synthesis: 該当なし (narrative integration、主要試験成績を Table 1 に tabular 集約)。