• 著者: Basak EA, Koolen SLW, Hurkmans DP, Schreurs MWJ, Bins S, Oomen-de Hoop E, Wijkhuijs AJM, den Besten I, Sleijfer S, Debets R, van der Veldt AAM, Aerts JGJV, Mathijssen RHJ
  • Corresponding author: Edwin A. Basak (Dept. of Medical Oncology, Erasmus MC Cancer Institute, Rotterdam, the Netherlands)
  • 雑誌: European Journal of Cancer
  • 発行年: 2019
  • Epub日: 2019-01-14
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 30654225

背景

Nivolumab は programmed cell death protein 1 (PD-1) を標的とする human IgG4 monoclonal antibody であり、既治療進行非小細胞肺がん (NSCLC) における標準治療として確立されている。大規模第III相試験である Borghaei et al. NEnglJMed 2015 では非扁平上皮癌において docetaxel に対する全生存期間 (OS) の有意な延長が示され、同様に Brahmer et al. NEnglJMed 2015 においても扁平上皮癌における有効性が証明された。初期の第I相試験である Topalian et al. NEnglJMed 2012 では、0.1 mg/kg から 10 mg/kg までの用量漸増において末梢血 CD3+ T細胞上の PD-1 receptor occupancy (受容体占有率) が 0.3 mg/kg 以上の用量で飽和に達することが報告された。しかし、PD-1 占有率が飽和しているにもかかわらず、1 mg/kg 投与群 (奏効率 3%) と比較して 3 mg/kg 投与群 (奏効率 24%) で良好な治療反応性が得られるという矛盾が存在し、単純な受容体占有率のみでは説明できない exposure-dependent (曝露依存的) な作用機序の存在が示唆されていた。

他の抗体薬、例えば trastuzumab や cetuximab、あるいは ipilimumab 等では血中薬物濃度と治療効果の明確な相関関係 (exposure-response relationship) が報告されている。しかし、nivolumab においては実臨床における患者個別の薬物動態 (PK) パラメータと臨床アウトカムとの詳細な関連性について、単一コホートでの系統的な前向き検証データが手薄であり、実臨床の多様な患者背景における曝露量と有効性・安全性の相関関係は依然として未解明のままであった。さらに、がん悪液質 (cancer cachexia) に伴う catabolic clearance (異化クリアランス) の亢進が pembrolizumab の血中濃度低下および OS 短縮の交絡因子 (confounder) になる可能性が Turner et al. ClinCancerRes 2018 により指摘されており、nivolumab においても同様の現象が起きているのかを検証するためのデータが不足していた。したがって、同一用量 (3 mg/kg) 投与下における患者間 PK 変動 (inter-patient PK variability) と治療反応性、生存期間、および毒性発現との関連を前向きに評価する臨床研究が強く求められていた。このように、実臨床における詳細な曝露反応関係の解明には依然として大きな knowledge gap が存在し、検証データが決定的に不足していた。

目的

本研究の目的は、既治療進行 NSCLC 患者を対象に、標準治療である nivolumab (3 mg/kg、2週毎) 投与開始後の複数タイムポイント (投与2週、4週、10週時点) における血中トラフ濃度 (Ctrough) を前向きに測定・評価し、RECIST v1.1 に基づく最良総合効果 (BOR)、全生存期間 (OS)、無増悪生存期間 (PFS)、および Grade 3 以上の有害事象 (毒性) 発現率との相関性を系統的に解析することで、実臨床における nivolumab の exposure-response relationship (曝露反応関係) の有無を明らかにすることである。

結果

患者背景と治療効果: 本研究には合計 84 例が登録され、RECIST 評価不能であった 4 例および初回投与後に早期中止し血清サンプルが未回収であった 4 例を除く、計 76 例が評価対象となった (Table 1)。患者の平均年齢は 63 ± 8.9 歳、男性が 46 例 (61%)、女性が 30 例 (39%) であった。WHO Performance Status (PS) は 0-1 が 56 例 (73%) を占め、組織型は腺癌 (adenocarcinoma) が 50 例 (66%)、扁平上皮癌 (squamous cell carcinoma) が 23 例 (30%)、大細胞癌 (large cell carcinoma) が 3 例 (4%) であった。前治療ライン数は 1 ラインが 60 例 (79%)、2 ラインが 14 例 (18%)、3 ラインが 2 例 (3%) であり、全例がプラチナ製剤併用化学療法の既治療であった。中央値 246 日 (IQR 127-379 日) の追跡期間において、BOR の内訳は PR が 15 例 (20%)、SD が 28 例 (37%)、PD が 33 例 (43%) であった。また、治療期間中に Grade 3 以上の重篤な有害事象を呈した患者は 15 例 (20%) であった (Table 1)。

Nivolumab 曝露量と最良総合効果 (BOR) の相関: 各測定タイムポイントにおいて、治療反応群と非反応群との間で nivolumab の幾何平均血中トラフ濃度 (Ctrough) に極めて顕著な有意差が認められた (Fig 1, Fig 2)。投与2週時点 (Week 2) において、PR 群の幾何平均 Ctrough は 27.4 μg/mL (95% CI 22.3-33.6) であり、PD 群の 18.7 μg/mL (95% CI 16.7-20.9) と比較して 47% 有意に高値であった (95% CI 34-61%, p=0.001)。また、PR 群は SD 群の 21.0 μg/mL (95% CI 18.6-23.7) と比較しても 30% 有意に高値であった (95% CI 20-42%, p=0.034)。投与4週時点 (Week 4) においては、PR 群の幾何平均 Ctrough は 46.2 μg/mL (95% CI 37.4-57.0) であり、PD 群の 30.2 μg/mL (95% CI 25.0-36.4) と比較して 53% 有意に高値であった (95% CI 50-57%, p=0.008)。PR 群は SD 群の 33.0 μg/mL (95% CI 28.3-38.5) に対しても 40% 有意に高値であった (95% CI 32-48%, p=0.047)。さらに投与10週時点 (Week 10) においては、PR 群の幾何平均 Ctrough は 79.4 μg/mL (95% CI 60.7-103.8) に達し、PD 群の 45.8 μg/mL (95% CI 35.6-58.9) と比較して 73% 有意に高値であった (95% CI 71-76%, p=0.002)。SD 群の幾何平均 Ctrough は 62.5 μg/mL (95% CI 54.9-71.3) であり、PD 群と比較して 36% 有意に高値であった (95% CI 21-54%, p=0.048)。このように、治療開始初期から奏効群において一貫して高い曝露量が維持されており、タイムポイントが進むにつれて奏効群と進行群の濃度乖離が拡大する傾向が示された (Fig 2)。

Nivolumab 曝露量と生存期間 (OS/PFS) の相関: 投与4週時点の血中トラフ濃度の中央値をもとに、患者を高曝露群 (High-exposure) と低曝露群 (Low-exposure) の 2 群に分けて生存解析を行った (Fig 3)。高曝露群における全生存期間 (OS) の中央値は未到達 (not reached) であったのに対し、低曝露群における OS 中央値は 306 日であり、高曝露群において OS が劇的かつ有意に延長していることが示された。高曝露群は低曝露群と比較して、死亡リスクが有意に低下した (HR 0.38, 95% CI 0.20-0.74, p=0.001) (Fig 3a)。一方、無増悪生存期間 (PFS) の中央値は、高曝露群で 189 vs 低曝露群で 77 days であり、統計学的有意差には至らなかったものの、高曝露群で良好な傾向が認められた (HR 0.61, 95% CI 0.36-1.03, p=0.061) (Fig 3b)。

Nivolumab 曝露量と重篤な毒性 (Grade ≥3) の相関: 治療期間中に Grade 3 以上の重篤な毒性を発現した群 (n=15) と、Grade 2 以下の軽度〜中等度の毒性にとどまった群 (n=61) との間で、血中トラフ濃度を比較した (Fig 4)。Week 2 における両群間の濃度差は 4% (95% CI 3-5%, p=0.732)、Week 4 における差は 21% (95% CI 20-23%, p=0.216)、Week 10 における差は 20% (95% CI 12-32%, p=0.413) であり、いずれのタイムポイントにおいても重篤な毒性の発現と血中薬物濃度との間に有意な相関関係は認められなかった。

血中薬物濃度の性差: 投与4週時点において、男性患者 (n=46) の幾何平均 Ctrough は 30.4 μg/mL であったのに対し、女性患者 (n=30) では 41.3 μg/mL であり、女性において有意に高い曝露量が示された (p=0.005)。なお、Week 2 および Week 10 時点においては、性別による有意な濃度差は検出されなかった。

考察/結論

本研究は、実臨床の進行 NSCLC 患者において、同一用量 (3 mg/kg) の nivolumab 投与下における血中トラフ濃度 (Ctrough) と臨床アウトカムとの関連性を前向きに評価し、明確な exposure-response relationship (曝露反応関係) が存在することを初めて prospective に示した重要な報告である。

先行研究との違い: 本研究の結果は、従来の第I相試験 Topalian et al. NEnglJMed 2012 や、複数の臨床試験データを統合したポピュレーション PK 解析において「nivolumab の有効性および安全性は 0.3-10 mg/kg の用量範囲でほぼ平坦 (flat) である」と報告されていた知見と対照的である。先行研究が異なる「投与用量」の間での比較であったのに対し、本研究は「同一用量内における患者間の PK 変動」に着目した点で大きく異なる。末梢血中の PD-1 受容体占有率は低濃度 (10 μg/mL 以上) で飽和するものの、実際の腫瘍組織内への抗体移行性や、標的を介した消失 (target-mediated clearance)、あるいは全身の免疫動態を反映する個別患者の PK 変動が、最終的な治療効果を決定づけている可能性を示唆している。

新規性: 本研究は、実臨床コホートにおいて治療開始初期 (Week 2, Week 4) の血中トラフ濃度が、その後の最良総合効果 (BOR) および全生存期間 (OS) と強力に相関することを前向きに実証した。特に、治療反応群 (PR) では投与2週時点で既に非反応群 (PD) より 47% も血中濃度が高く、この初期曝露量の差が生存期間の延長に直結しているという事実は、これまで報告されていない新規の知見である。

臨床応用: 本知見は、がん免疫療法における個別化医療の推進に大きく貢献する。臨床的意義として、治療開始初期の血中濃度測定に基づく Therapeutic Drug Monitoring (TDM) の導入や、初期曝露量を迅速に高めるための「初回倍量投与 (loading dose strategy)」の合理性が提示される。Nivolumab は半減期が長いため定常状態に達するまでに時間を要するが、初回に高用量を投与することで、早期に有効血中濃度を達成し、初期進行を防ぐことができると考えられる。また、がん悪液質によるクリアランス亢進が疑われる低体重・高リスク患者において、PK ガイド下の用量調節を行う bench-to-bedside のアプローチが期待される。

残された課題: 本研究にはいくつかの limitation が存在する。第一に、単一施設での実施であり、評価可能症例数が 76 例と比較的少数であること。第二に、多変量解析が実施されておらず、腫瘍量 (tumor burden) や前治療ライン数、悪液質の有無などの交絡因子が十分に調整されていないこと。第三に、治療効果が高い患者ほど全身状態が良好でクリアランスが低いため血中濃度が高くなるという「因果の逆転 (reverse causality)」の可能性を完全には排除できないことである。今後の検討課題として、初期 loading dose の有無を検証する前向きランダム化比較試験の実施や、体組成 (骨格筋量など) を考慮した PK 解析、および現在標準的に用いられている固定用量 (240 mg/480 mg flat dosing) における exposure-response relationship の再検証が必要である。

方法

本研究は、オランダの Erasmus MC Cancer Institute において実施された前向き単施設観察薬物動態試験である。オランダ試験登録 (Dutch Trial Registry) に NTR7015 として登録された臨床試験 (prospective observational cohort study) であり、2016年5月5日から2017年8月1日までに、二次治療として nivolumab (3 mg/kg、2週毎) の投与を開始した Stage IV の NSCLC 患者を連続登録した。データカットオフ日は2017年11月1日とした。

血中薬物濃度の測定のため、各サイクル (2週間隔) の nivolumab 点滴静注直前に末梢血 4 mL を採取し、遠心分離により血清を得て、次回投与直前の血中トラフ濃度 (Ctrough) とした。血清中 nivolumab 濃度の測定には、自施設で開発・バリデーションを完了した enzyme-linked immunosorbent assay (ELISA) 法を用いた。具体的には、96-well EIA/RIA microtiter plate にキャプチャー抗原として recombinant human PD-1 Fc chimera を 0.1 μg/mL でコーティングし、4℃で一晩静置した。洗浄後、1% BSA/0.05% Tween 20 を含む PBS でブロッキングを行い、1:4000 に希釈した患者血清サンプルおよび 25 から 0.20 ng/mL の範囲で調製したキャリブレーション標準溶液を加えて室温で2時間振盪培養した。検出抗体には Human IgG4-HRP を 0.2 μg/mL で使用し、tetramethylbenzidine 検出基質により発色させ、VersaMax Tunable microplate reader を用いて 450 nm (570 nm で波長補正) の吸光度を測定した。濃度算出には 5-parameter logistic curve fit を用いた。

画像効果判定は、Eisenhauer et al. EurJCancer 2009 に規定された RECIST v1.1 に基づき、最良総合効果 (BOR) を progressive disease (PD)、stable disease (SD)、partial response (PR) に分類した。効果判定のための最小追跡期間は 90 日とし、PR の確定判定 (confirmation) は必須としなかった。有害事象は CTCAE v4.03 を用いて評価した。

統計解析の主要な endpoint として、投与2週、4週、10週時点の Ctrough を対数変換し、BOR 群間 (PR vs SD vs PD) の幾何平均濃度の比較を analysis of variance (ANOVA) および post hoc Tukey honest significant difference (HSD) 検定を用いて実施した。等分散性は Levene’s test で確認した。Grade 3 以上の毒性発現有無による 2 群間の濃度比較には independent samples t-test を用いた。投与遅延 (dose delay) が発生した患者については、該当タイムポイント以降の PK データを解析から除外した。OS および PFS の解析では、各タイムポイント (主に steady state に近い week 4) の Ctrough 中央値をもとに患者を上位 50% (High-exposure 群) と下位 50% (Low-exposure 群) に 2 分割し、Kaplan-Meier 法による生存曲線を描画し、log-rank test を用いて比較した。また、生存期間に対するハザード比 (HR) の算出および多変量解析の予備的検討として Cox proportional hazards モデルを考慮した。すべての統計解析は R v3.3.1 および IBM SPSS Statistics v24 を使用し、両側 p<0.05 を有意差ありと定義した。本観察研究では事前に固定された sample size calculation は行わず、対象期間中の連続症例を組み入れた。