- 著者: David C. Turner, Anna G. Kondic, Keaven M. Anderson, Andrew G. Robinson, Edward B. Garon, Jonathan Wesley Riess, Lokesh Jain, Kapil Mayawala, Jiannan Kang, Scot W. Ebbinghaus, Vikram Sinha, Dinesh P. de Alwis, and Julie A. Stone
- Corresponding author: Julie A. Stone (Merck & Co., Inc.)
- 雑誌: Clinical Cancer Research
- 発行年: 2018
- Epub日: 2018-06-11
- Article種別: Original Article
- PMID: 29891725
背景
抗PD-1抗体ペムブロリズマブの薬物動態 (PK) 解析において、ベースラインクリアランス (CL0) が高い患者ほど全生存期間 (OS) が短いという関連が過去に観察されており、これは薬物曝露量依存的な抗腫瘍効果の存在を示唆するものとして解釈されてきた。しかし、CL0高値の患者は、がん悪液質 (cancer cachexia) や全身炎症に伴う異化亢進状態を反映している可能性が指摘されていた。免疫グロブリンのクリアランスは炎症や栄養不良、悪液質の程度と相関することが生理学的に知られており、CL0とOSの関連が真の薬効を反映するのか、あるいは単なる予後指標との交絡であるのかが、臨床上の重要な未解明な課題であった。
例えば、進行非小細胞肺癌 (NSCLC) 患者におけるペムブロリズマブの用量評価は、既に Chatterjee et al. AnnOncol 2016 が報告しているが、このような交絡因子を考慮した詳細な曝露量-反応 (E-R) 解析は手薄であった。また、PD-L1陽性NSCLCにおけるペムブロリズマブの有効性は Reck et al. NEnglJMed 2016 や Herbst et al. Lancet 2016 によって示されているが、用量とOSの直接的な関係性や、PKパラメータがOSに与える影響の解釈には依然としてギャップが存在していた。特に、ペムブロリズマブの用量設定において、E-R関係の正確な理解は不可欠であるため、この交絡の程度を明らかにすることは喫緊の課題であった。
目的
本研究は、進行黒色腫を対象としたKEYNOTE-002試験および既治療PD-L1陽性NSCLCを対象としたKEYNOTE-010試験におけるペムブロリズマブの曝露量-反応 (E-R) 解析を再検討することを目的とした。具体的には、ベースラインクリアランス (CL0) と全生存期間 (OS) の関連のうち、どの程度が薬効に起因し、どの程度が悪液質関連の異化亢進による交絡であるかを明らかにすることを目指した。また、ペムブロリズマブの用量非依存的なOSが観察される中で、CL0-OS関連の真の解釈を提示し、抗悪性腫瘍モノクローナル抗体 (mAb) におけるE-R関係の評価における交絡の重要性を強調することも目的とした。
結果
ペムブロリズマブの用量非依存的なOS:KEYNOTE-002およびKEYNOTE-010試験において、ペムブロリズマブの2 mg/kg Q3Wと10 mg/kg Q3Wの用量間でOSに有意差は認められなかった。黒色腫患者ではハザード比 (HR) 0.98 (95% CI 0.94-1.02)、NSCLC患者ではHR 0.98 (95% CI 0.95-1.01) であり、これらの信頼区間が重複したことは、検討された5倍の用量範囲内ではペムブロリズマブのOS効果が用量非依存的であることを強く支持する所見であった (Supplementary Fig. S1)。この結果は、曝露量-反応関係がフラットであるという以前のシミュレーション結果と整合する。AUCで層別化したOS曲線も、2 mg/kg群と10 mg/kg群の同じ曝露量四分位間で類似のOSを示し、曝露量-反応関係の欠如を裏付けた (Supplementary Fig. S2, S3)。
未調整CL0とOSの強い関連:未調整解析では、CL0高値群 (上位三分位) はCL0低値群 (下位三分位) と比較してOSが有意に短縮した。NSCLC患者 (KEYNOTE-010) ではHR 2.64 (95% CI 1.94-3.57, P < 0.001)、黒色腫患者 (KEYNOTE-002) ではHR 2.56 (95% CI 1.72-3.80, P < 0.001) と、CL0とOSの間に極めて強い関連が認められた (Figure 1)。CL0が遅い患者では中央値OSが23ヶ月を超えたのに対し、CL0が速い患者では8.4ヶ月 (95% CI 6.4-11.0) であった。このCL0-OSの傾向は、未治療の一次治療NSCLC患者を対象としたKEYNOTE-024試験 (Supplementary Fig. S5) でも同様に観察され、CL0とOSの間の根底にある相関関係が示唆された。CL0の第1四分位と第4四分位の患者間では、OS中央値に15ヶ月以上の差が認められた。
悪液質関連因子調整後のCL0-OS関連の減弱:しかし、ECOG PS、ALB、LDH、BSLD、WTRATE、ALBRATEなどの悪液質関連ベースライン因子および時間依存性共変量で調整すると、CL0-OS関連は大幅に減弱した。NSCLC患者では調整後HR 1.53 (95% CI 0.97-2.41, P = 0.068)、黒色腫患者では調整後HR 1.60 (95% CI 1.04-2.47, P = 0.031) となり、未調整と比較してハザード比が約30-40%低下した (Table 2)。ベースライン因子のみで調整した場合でも、NSCLCでHR 1.88 (95% CI 1.22-2.89, P = 0.004) と有意な減弱が観察されたが、時間依存性の悪液質関連因子を含めたモデルと比較して、CL0-OS関連を完全に説明するには不十分であった。このことは、CL0-OS関連が、薬物曝露量による直接的な効果ではなく、未測定の交絡因子によって駆動されている可能性が高いことを示唆する。
CL0高値群における悪液質指標の悪化:CL0高値の患者は、ベースラインでECOG PS不良、ALB低値、LDH高値、BMI低値、および治療中の体重減少率 (WTRATE) の増加など、悪液質や炎症を示す指標が悪化している傾向が認められた (Table 1)。特に、CL0の第4四分位群では、9週時点での体重減少率ががん悪液質の診断基準とされる5%を超える傾向にあった。これらの患者特性は、CL0高値とOS不良の双方と独立して有意に関連しており、例えばNSCLCにおける多変量Cox解析ではALBRATEのHRが0.2793 (95% CI 0.2117-0.3684)、ALBのHRが0.7030 (95% CI 0.6207-0.7962)、WTRATEのHRが0.7306 (95% CI 0.6467-0.8254) であった (Figure 2)。これは、CL0が患者の全身状態、特に異化亢進状態の代理マーカーとして機能している可能性を示唆する。
ケースコントロール解析の限界と交絡の示唆:KEYNOTE-010データを用いたケースコントロール解析においても、標準的なベースライン因子でマッチングを行った後でもCL0-OS関連の一部が残存した (Figure 3)。これは、観察データにおける全ての交絡因子を完全に制御することの限界を示唆しており、残存する関連が真の薬効を反映するとは断言できない。曝露量-反応曲線は、用量間で比較した場合(フラットな関係)と、各用量内でCL0によって層別化した場合(急峻な関係)とで著しく矛盾する傾向を示した。このことは、CL0-OS関連が、薬物曝露量による直接的な効果ではなく、未測定の交絡因子によって駆動されている可能性が高いことを示唆している。
考察/結論
本研究は、ペムブロリズマブのベースラインクリアランス (CL0) と全生存期間 (OS) の関連が、真の曝露量依存的薬効を示すのではなく、がん悪液質や全身炎症に伴う異化亢進クリアランスという予後指標との交絡を大きく含むことを明らかにした。これまでの曝露量-反応 (E-R) 研究では、未調整のCL0-OS関連をもって用量増量の根拠とする議論があったが、本研究はその前提に再考を促すものである。2 mg/kgから10 mg/kgの用量範囲でOSが同等であるという用量非依存性の観察は、この解釈を強力に支持する。
新規な知見として、CL0高値の患者が悪液質関連の不良な予後因子を多く持つことが示され、免疫グロブリンの新生児Fc受容体 (FcRn) 経路を介した異化亢進が、悪液質状態で亢進するという生理学的機序と整合的である。この現象はペムブロリズマブに特有なものではなく、他の抗悪性腫瘍モノクローナル抗体 (mAb) でも同様のE-Rの交絡パターンが報告されている。例えば、イピリムマブの初期の曝露量-OS関連は、その後の統合解析で用量非依存性が示された Schadendorf et al. JClinOncol 2015。また、トラスツズマブ、ニボルマブ、アテゾリズマブでも同様の現象が示されており、これは本研究の知見がmAbクラス全体に一般化可能であることを示唆する。特に、Ribas et al. LancetOncol 2015 が報告したKEYNOTE-002試験においても、2 mg/kgと10 mg/kgの用量間で有効性に差がないことが示されており、本研究の用量非依存性の結果と一致する。
臨床応用の観点から、本研究は、低クリアランス(良好な栄養・炎症状態)が良好な予後と関連するのは薬物曝露量が多いためではなく、患者の内因性の良好な状態を反映しているに過ぎないことを示唆する。したがって、CL0を治療最適化の標的とすることは適切でない可能性が高い。ペムブロリズマブの2 mg/kg (または固定用量200 mg) が、黒色腫およびNSCLCの治療においてほぼ最大の有効性を提供し、これ以上の曝露量増加がOSを有意に改善しないという結論は、Reck et al. NEnglJMed 2016 や Herbst et al. Lancet 2016 が示した用量非依存的な有効性と整合的である。
残された課題としては、観察データであるため全ての交絡因子を完全に排除できないこと、および異なる癌種(黒色腫・NSCLC)での外挿の問題などが挙げられる。また、ケースコントロール解析のような代替E-R手法を用いても、CL0-OS関連の一部が未解明のまま残存したことは、従来の予後因子では捉えきれない、より精密な異化亢進率の指標としてCL0が機能している可能性を示唆する。今後は、がん悪液質のスペクトラムを捉える明確で標準化されたバイオマーカーの検証が、疾患病期分類、試験の組み入れ/除外基準の精緻化、そしてE-Rのデコンボリューションに大きく貢献すると考えられる。
方法
本解析では、ペムブロリズマブ治療群の患者データとして、進行黒色腫を対象としたKEYNOTE-002試験 (n=340) および既治療PD-L1陽性NSCLCを対象としたKEYNOTE-010試験 (n=804) のデータを用いたPK/PD解析を実施した。さらに、一次治療NSCLCを対象としたKEYNOTE-024試験 (n=152) のデータも検証コホートとして使用された。ドセタキセル単独投与群の患者データ (n=309) も比較対象として含まれた。
まず、ペムブロリズマブの2 mg/kg 3週ごと (Q3W) と10 mg/kg Q3Wという5倍の用量範囲におけるOS差を評価した。薬物動態学的解析では、母集団PKアプローチにより、共変量とパラメータ値の関連性が評価された。曝露量 (血中濃度-時間曲線下面積; AUC) は、初回投与時のクリアランスであるベースラインクリアランス (CL0) を用いてDose/CL0として算出され、2週ごと (Q2W) およびQ3Wの投与間隔を考慮して6週間間隔に正規化された (AUC6weeks,CL0)。感度解析により、結果がモデル構造や曝露量指標の選択に依存しないことが確認された。
次に、CL0とOSの関連を、未調整およびベースライン因子で調整したCox比例ハザードモデルを用いて検討した。調整因子には、既知の予後因子であるECOGパフォーマンスステータス (ECOG PS) (0 vs 1)、血清アルブミン (ALB)、乳酸脱水素酵素 (LDH)、ベースライン標的病変最長径合計 (BSLD)、ボディマス指数 (BMI)、PD-L1発現、BRAF変異状態、血小板数 (PLT)、年齢、性別、癌病期、EGFR感受性変異の有無、組織型などに加え、悪液質関連の時間依存性共変量として治療中の体重変化率 (WTRATE) およびアルブミン変化率 (ALBRATE) が含まれた。これらの時間依存性共変量は、ベースラインからの変化率 (%変化/日) を反映し、追跡期間の潜在的な差を正規化するよう設計された。多変量モデル構築には赤池情報量規準 (AIC) を用いた前方選択法が適用された。
さらに、CL0高値の患者における悪液質指標の分布も評価された。CL0とOSの関連における交絡をより詳細に検討するため、KEYNOTE-010データを用いて、Mahalanobis距離法によるマッチングを用いたケースコントロール曝露量-反応解析も実施された。この方法では、ペムブロリズマブ投与群の患者を、ドセタキセル単独投与群の患者と、AICで選択されたリスク因子に基づいて1:1でマッチングさせた。この解析は、従来のE-R評価における交絡を説明し、曝露量と患者アウトカムの間の真の関係をより明確にするための代替E-R手法として実施された。時間依存性薬物動態 (TDPK) モデルからの早期/後期曝露量指標を用いたE-R解析も同様の結論を導き出した。