• 著者: Facchinetti F, Mazzaschi G, Barbieri F, Passiglia F, Mazzoni F, Berardi R et al.; Tiseo M (corresponding)
  • Corresponding author: Francesco Facchinetti, MD (INSERM U981, Gustave Roussy Cancer Campus, Villejuif, France; University of Parma, Italy)
  • 雑誌: European Journal of Cancer
  • 発行年: 2020
  • Epub日: 2020-03-25
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 32220780

背景

進行非小細胞肺癌 (NSCLC) の治療は、免疫チェックポイント阻害薬 (ICI) の導入により大きく変革された。特に、PD-L1腫瘍細胞比率 (TPS) が50%以上の進行NSCLCに対する1次治療として、抗PD-1抗体であるペムブロリズマブは、プラチナ製剤ベースの化学療法と比較して優れた全生存期間 (OS) を示した Reck et al. NEnglJMed 2016。KEYNOTE-024試験では、客観的奏効率 (ORR) が44.8% vs 27.8%、無増悪生存期間 (PFS) 中央値が10.3 vs 6ヶ月、OS中央値が26.3 vs 14.2ヶ月と、ペムブロリズマブの優位性が確立され、良好な毒性プロファイルも相まって、PD-L1 TPS≥50%かつEGFR変異・ALK転座陰性の進行NSCLC患者に対する1次治療の標準薬として承認された Garon et al. JClinOncol 2019

しかし、これらの主要なランダム化比較試験は、Eastern Cooperative Oncology Group Performance Status (ECOG PS) が0〜1の患者に限定されており、実臨床で約20〜30%を占めるPS 2患者は一貫して除外されてきた。PS 2患者は、一般的に予後不良であり、ICIの有効性に関するエビデンスが不足していることが課題であった。既存のガイドラインも、PS 2 NSCLC患者に対する1次治療としてのペムブロリズマブ投与について直接的に言及しておらず Planchard et al. AnnOncol 2018、この集団における有効性と安全性に関するデータが不足していた。

PS 2という分類は均質ではないことが知られている。機能低下の原因として、広範な転移、高い腫瘍量、全身性炎症などの「疾患負荷」によるものと、心血管疾患、慢性呼吸器疾患、神経疾患などの癌以外の「併存疾患 (コモービディティ)」によるものが混在する。これらの異なる原因は、免疫学的背景や免疫療法への反応性に根本的な違いをもたらす可能性がある。例えば、疾患負荷が高い場合は、免疫療法が奏効するまでの時間的猶予が乏しく、癌悪液質によるペムブロリズマブのクリアランス増大が血中濃度を低下させる可能性も指摘されている (Turner et al. Clin Cancer Res 2018)。一方で、コモービディティによるPS 2では、腫瘍に対する免疫応答が保持されている可能性があり、免疫療法がより効果を発揮するかもしれない。

PS 2患者に対するICIのリアルワールドデータは蓄積されつつあったが (Velcheti et al. Immunotherapy 2019でPS 2 n=103の「time on treatment」1.9ヶ月)、PS 2の原因を明示的に区別し、その転帰への影響を系統的に評価した研究はこれまで存在しなかった。この「PS 2の質的層別化」という概念こそが、本GOIRC-2018-01研究の最大の独自性であり、PS 2患者における免疫療法の適切な患者選択のための重要な知識ギャップを埋めるものである。

目的

本研究の主要目的は、PD-L1 TPS≥50%を有するECOG PS 2の進行NSCLC患者において、1次治療としてのペムブロリズマブ単剤療法の有効性、特に6ヶ月無増悪率 (6-months PFR) をリアルワールドデータを用いて評価することである。副次目的として、全生存期間 (OS)、無増悪生存期間 (PFS)、客観的奏効率 (ORR)、病勢コントロール率 (DCR)、および安全性を評価する。

さらに、本研究の核心的な目的は、PS 2の原因が患者の転帰に与える影響を探索的に検討することである。具体的には、PS 2の原因を「コモービディティ (併存疾患)」と「疾患負荷 (癌そのもの)」に層別化し、それぞれの群におけるペムブロリズマブの有効性および生存期間の差異を解析する。これにより、PS 2患者の中でも免疫療法の恩恵を受けやすいサブグループを特定し、より個別化された治療戦略の確立に貢献することを目指す。また、年齢、喫煙歴、病理組織型、PD-L1発現レベル、ペムブロリズマブ投与前の抗菌薬・ステロイド使用、放射線治療歴などの臨床病理学的因子が、治療反応性および生存転帰に与える影響についても評価する。

結果

全体的アウトカム (主要エンドポイント): 全体集団153例におけるペムブロリズマブ1次治療の有効性は、6ヶ月PFRが27% (95% CI 21-35%) であった。これは、事前に設定された悲観シナリオ (30%) をわずかに下回り、楽観シナリオ (60%) および中間シナリオ (45%) を大幅に下回る結果であった。中央値PFSは2.4ヶ月 (95% CI 1.6-2.5)、中央値OSは3.0ヶ月 (95% CI 2.4-3.5) であった。12ヶ月OS率は29%、24ヶ月OS率は8%であった (Figure 1)。客観的奏効率 (ORR) は21% (完全奏効 [CR] 1%, 部分奏効 [PR] 20%)、病勢コントロール率 (DCR) は37%であった。病勢進行 (PD) は63%の患者で認められ、その半数 (n=49) は初回CT評価前の臨床的増悪または死亡であった。これらの結果は、KEYNOTE-024試験 (PS 0-1患者、mOS 26.3ヶ月) と比較して大幅に不良であり、PS 2患者における免疫単剤療法の全般的な有効性の限界を示唆する。

PS 2原因による層別化解析: 本研究の最も重要な発見は、PS 2の原因によって治療転帰が劇的に異なることであった。コモービディティ群 (n=41) では、6ヶ月PFRが49%であったのに対し、疾患負荷群 (n=112) では19%と有意に低かった (p<0.001)。PFS中央値はコモービディティ群で5.6ヶ月 (95% CI 0.0-13.4) であったのに対し、疾患負荷群では1.8ヶ月 (95% CI 1.4-2.1) と有意に短かった (HR 0.5, 95% CI 0.3-0.8, p=0.001)。同様に、OS中央値はコモービディティ群で11.8ヶ月 (95% CI 0.0-26.0) であったのに対し、疾患負荷群では2.8ヶ月 (95% CI 2.1-3.4) と大幅に短く、4倍以上の差が認められた (HR 0.5, 95% CI 0.3-0.7, p=0.001) (Figure 2)。この生存期間の差異は、全追跡期間にわたって一貫して観察された。PD-L1 TPS別の解析では、TPS 50-74%群のmOSは2.1ヶ月、TPS≥75%群のmOSは4.7ヶ月であったが、いずれのPD-L1層においても、コモービディティ群の転帰が疾患負荷群を大きく上回る傾向が確認された。

多変量解析による独立予測因子: 単変量解析で有意であった因子 (PS 2の原因、ペムブロリズマブ前2ヶ月以内の抗菌薬使用、ステロイド使用、ペムブロリズマブ前の放射線治療) を多変量Coxモデルに投入した結果、PFSおよびOSの両方において独立して有意な唯一の因子は「PS 2の原因 (コモービディティ vs 疾患負荷)」であった。PFSに対するHRは0.5 (95% CI 0.3-0.8, p=0.005)、OSに対するHRも0.5 (95% CI 0.3-0.8, p=0.005) であった (Table 3)。ペムブロリズマブ前の放射線治療はPFSに対しては独立して有意な因子であった (HR 0.6, 95% CI 0.4-0.9, p=0.036) が、OSでは有意ではなかった。ステロイド使用はOSに対して独立して有意な負の予後因子であった (HR 0.6, 95% CI 0.4-0.9, p=0.013) が、PFSでは有意ではなかった。抗菌薬使用は多変量解析では有意な因子とならなかった。PD-L1 TPS (50-74% vs ≥75%) は、単変量解析で傾向が認められたにもかかわらず、多変量解析では独立した予測因子とはならなかった。これは、PS 2の原因という因子がPD-L1発現レベルの情報よりも強力な予後予測力を持つ可能性を示唆する。

安全性プロファイル: 全体153例中、免疫関連有害事象 (irAE) は29% (n=44) の患者で発現した。Grade 3〜4のirAEは6% (n=9) であった。コモービディティ群と疾患負荷群の間でirAEの発現率に有意な差は認められなかった (両群ともに29%)。主なirAEは甲状腺機能低下症 (12%)、肺炎 (8%)、肝機能障害 (5%)、皮膚炎 (4%) であった。重篤なirAEとして、Grade 4筋炎、Grade 4肝機能障害、Grade 3辺縁系脳炎が各1例、および肺毒性による死亡が2例記録された。毒性による投与中止率は5%であった。全体として、PS 2患者における毒性プロファイルは、PS 0-1の主要試験と概ね同等であり、安全性に関する著明な懸念は認められなかった。

考察/結論

本GOIRC-2018-01研究は、ECOG PS 2の進行NSCLC患者における1次ペムブロリズマブの有効性が、PS 2の「原因」によって劇的に異なることを初めて多変量解析で実証した画期的な報告である。コモービディティ群 (n=41) のmOS 11.8ヶ月は疾患負荷群 (n=112) の2.8ヶ月を4倍以上上回り、両者の差異はPFS (HR 0.5, 95% CI 0.3-0.8, p=0.001) やORRでも一貫していた。この結果は、PS 2の原因がPFSとOSの唯一の独立した予測因子であることを示し、PS 2の質的層別化が免疫療法の恩恵を受ける患者選択に不可欠であることを実証した。

先行研究との違い: これまでのPS 2患者を対象とした免疫療法に関する先行研究では、一貫して不良な転帰が報告されてきた。例えば、CheckMate 171試験 (Popat et al. Ann Oncol 2017) でPS 2患者のmOSが5.2ヶ月と中間的な成績であったことや、PePS2試験で1次治療PS 2への免疫療法が9例のみで奏効なし (mOS 6.8ヶ月) という不良成績であったことは、本研究で示されたように、コモービディティ群と疾患負荷群が混在した集団の平均を反映していると考えられる。本研究は、PS 2の原因を明確に層別化することで、これまで一括りにされてきたPS 2患者集団の異質性を明らかにし、免疫療法の有効性をより詳細に理解する新たな枠組みを提供した点で、これまでの報告と大きく異なる。

新規性: 本研究で初めて、ECOG PS 2の質的層別化が、PD-L1 TPS≥50%の進行NSCLC患者における1次ペムブロリズマブの有効性を予測する上で、PD-L1発現レベルや他の臨床因子よりも強力な独立した予測因子であることを新規に同定した。特に、コモービディティによるPS 2患者では、標準的なPS 0-1患者に匹敵する、あるいはそれに近い良好な生存期間が達成されうることを示した点は、これまで報告されていない重要な知見である。

臨床応用: 本知見は、PS 2患者に対する免疫療法の臨床応用において極めて重要な含意を持つ。第一に、PS 2患者を一括して「免疫療法不適応」と判断することは誤りであり、PS 2の原因を詳細に評価することが必須である。第二に、コモービディティによるPS 2でPD-L1 TPS≥50%の患者には、積極的な1次ペムブロリズマブ単剤療法を検討してよい。第三に、疾患負荷によるPS 2患者には、ペムブロリズマブ単剤療法では極めて不良な転帰となるため、化学免疫療法への早期移行、あるいは支持療法を優先的に検討すべきである。LDH高値や肝転移の存在などの客観的指標が、疾患負荷の代替マーカーとなりうる可能性も示唆される。

残された課題: 本研究にはいくつかのlimitationが残されている。第一に、後向き観察研究であるため、選択バイアスや交絡因子の影響を完全に排除することはできない。第二に、PS 2の原因分類が担当医の後向き評価に依存しており、その再現性の確認が困難である。第三に、コモービディティ群の患者数 (n=41) が比較的少数であり、結果が過大評価されているリスクも考慮する必要がある。第四に、PD-L1値を連続変数として解析したり、ROS1/KRASなどの分子情報を含めたりする詳細な解析は行われていない。最後に、化学療法との比較群がないため、ペムブロリズマブ単剤の絶対的な有効性を評価することはできない。今後の検討課題として、PS 2の原因を前向きに層別化した大規模な臨床試験を実施し、本知見の妥当性を検証することが必要である。この層別化アプローチは、PS 2患者における免疫療法評価の新たな方法論的枠組みを提示した意義は大きい。

方法

本研究は、GOIRC-2018-01として実施された多施設後向きコホート研究であり、イタリア国内の21施設が参加した。対象患者は、2017年7月から2018年12月の期間に、進行期 (Stage IIIB/CまたはIV) NSCLC、PD-L1 TPS≥50% (局所施設での免疫組織化学的評価、22C3, SP263, 28-8, E1L3Nクローンを使用)、ECOG PS 2、EGFR変異およびALK転座陰性であり、1次治療としてペムブロリズマブ200 mgを3週間に1回、少なくとも1コース投与された患者が連続的に収集された。合計153例の患者が登録された。

患者のベースライン特性は、年齢中央値70歳 (範囲38〜85歳)、男性71% (n=108)、腺がん77% (n=118)、Stage IV 94% (n=144) であった。PD-L1発現レベルは、50〜74%が46% (n=71)、75〜100%が34% (n=52) であった。

PS 2原因の分類: 各患者のPS 2の主原因は、担当医によるカルテの後向きレビューに基づいて評価された。PS 2の原因は以下の2群に分類された。「コモービディティ群 (comorbidity-PS2)」は、心血管疾患、慢性呼吸器疾患、神経疾患などの非癌性疾患が主因である患者 (n=41, 27%)。「疾患負荷群 (disease burden-PS2)」は、肺癌そのもの (広範な転移、腫瘍量、全身性炎症など) が主因である患者 (n=112, 73%)。両原因が混在する5例は、ペムブロリズマブ開始時点での臨床状態への影響が大きいと判断され、疾患負荷群に分類された。

統計解析: 主要評価項目は、治療開始後6ヶ月時点での無増悪率 (6-months PFR) とされた。事前に3つのシナリオ (楽観的: 60%、中間: 45%、悲観的: 30%) を設定し、目標とする6-months PFRを評価した。OSおよびPFSは、Kaplan-Meier法を用いて推定された。PFSは初回ペムブロリズマブ投与日から放射線学的/臨床的増悪またはあらゆる原因による死亡までの期間と定義され、OSは初回投与日からあらゆる原因による死亡までの期間と定義された。サブグループ間のPFSおよびOSの統計的差異は、ログランク検定 (Mantel-Cox) を用いて評価された。潜在的な予後因子を特定するため、単変量および多変量Cox比例ハザード回帰モデルが用いられ、ハザード比 (HR)、95%信頼区間 (95% CI)、およびp値が算出された。多変量モデルには、単変量解析で統計的に有意であった共変量が含まれた。カテゴリカル変数の比較にはフィッシャーの正確検定が用いられた。統計的有意性の閾値はp値0.05と設定された。データカットオフ日は2019年9月30日であり、中央値追跡期間は18.2ヶ月であった。本研究は、参加施設の倫理委員会によって承認され、データ記録時に生存している患者からはインフォームドコンセントが取得された。