• 著者: D. Planchard, S. Popat, K. Kerr, S. Novello, E. F. Smit, C. Faivre-Finn, T. S. Mok, M. Reck, P. E. Van Schil, M. D. Hellmann, S. Peters; on behalf of the ESMO Guidelines Committee
  • Corresponding author: ESMO Guidelines Committee (ESMO Head Office, Lugano, Switzerland)
  • 雑誌: Annals of Oncology
  • 発行年: 2018
  • Epub日: 2018-10-03
  • Article種別: Clinical Practice Guideline
  • PMID: 30285222

背景

非小細胞肺癌 (NSCLC) は肺癌全体の 80%–90% を占め、世界的に極めて高い死亡率を示す疾患である。2012年の統計では、男性において最も頻繁に診断される癌であり、世界で推定 1.2 百万件の新規症例が発生した Jemal et al. CACancerJClin 2011。女性においても、先進国では癌死因の第1位、発展途上国では第2位となっており、特に欧州では女性の死亡率が上昇傾向にある。肺癌の主要な原因は喫煙であり、WHOの推定では年間 1.59 百万人の肺癌死のうち 71% が喫煙に起因する。しかし、生涯非喫煙者の肺癌死は年間約 50 万人に達し、特にアジア諸国で非喫煙者 NSCLC の割合が増加している。これにより、「非喫煙関連肺癌」が特定の分子・遺伝的特性を持つ独立した疾患概念として認識されるようになった。

過去 15 年間で、NSCLC の診療パラダイムは劇的な変容を遂げた。かつての組織型のみに基づく細胞傷害性化学療法から、EGFR、ALK、ROS1、BRAF V600E などのドライバー変異を標的とする「分子診断駆動の個別化治療」、および PD-L1 発現を指標とする「免疫チェックポイント阻害剤 (ICI)」を軸とする多層的な治療戦略へと移行した。例えば、EGFR 変異陽性例に対する TKI (tyrosine kinase inhibitor) の導入は、予後を劇的に改善させた Lynch et al. NEnglJMed 2004 Paez et al. Science 2004。また、PD-L1 高発現患者に対するペムブロリズマブ単剤療法の有効性が示され、一次治療の選択肢を大きく変えた Reck et al. NEnglJMed 2016

しかし、こうした急速な進展の一方で、臨床現場には多くの課題が残されていた。まず、限られた組織検体から複数の分子診断を行うための最適なプロトコルが未確立であり、組織の効率的な利用が急務であった。また、TKI 耐性後の T790M 変異の評価や、PD-L1 低発現・陰性例に対する最適な ICI 戦略、さらに腫瘍変異負荷 (TMB) などの新規バイオマーカーの臨床的役割については依然として未解明な部分が多く、エビデンスに基づいた統一的な指針が不足していた。特に、ICI 治療における偽進行 (pseudoprogression) の評価基準は controversial な点があり、標準化された評価方法が不十分であった。このような背景から、最新のエビデンスを統合し、診断から治療、経過観察までを包括的に提示する更新版ガイドラインが必要とされていた。

目的

本ガイドラインの目的は、転移性 NSCLC 患者に対する診断、病理・分子診断、病期分類、全身療法 (一次治療、維持療法、耐性後治療)、局所療法、支持療法、および経過観察に関する標準的な診療指針を、ESMO のエビデンスレベル (I–V) と推奨グレード (A–E) に基づいて体系的に提示することである。

具体的には、急速に進化する分子標的治療と免疫療法の選択肢を統合し、患者を適切に層別化するための治療アルゴリズムを構築することを目指す。特に、EGFR、ALK、ROS1、BRAF V600E といった必須のドライバー変異検査の基準を明確にし、PD-L1 発現レベルに応じた ICI の選択基準を提示することで、臨床医が多職種カンファレンスにおいて一貫した意思決定を行える参照枠組みを提供することを目的とする。また、欧州における薬剤承認状況を反映させ、地域的な治療格差を最小限に抑えつつ、患者の生存期間の延長と QoL (Quality of Life) の向上に寄与する包括的な推奨事項を策定することを意図している。

結果

診断および組織病理学的アプローチ: 診断には多職種チームによるアプローチが不可欠であり、高ボリュームセンターでの管理は生存率向上に寄与することが示された。低侵襲手技として、気管支鏡 (診断率 65%–88%)、EBUS (endobronchial ultrasound: 75%–85%)、CT下経胸壁針生検 (診断率 >88%) が推奨される。組織診断は WHO 分類に基づき、腺癌、扁平上皮癌、NSCLC-NOS (not otherwise specified) に分類する。特に、TTF1 および p40 などの限定的な免疫染色パネルを用いることで、NSCLC-NOS の比率を 10% 未満に抑えることが推奨されている [IV, A] (Table 4)。

必須分子診断とドライバー変異の検出: 進行非扁平上皮 NSCLC において、EGFR 変異、ALK 再構成、ROS1 再構成の検査は必須である [I, A]。EGFR 変異は Caucasian で 10%–20% に認められ、Exon 19 欠失と L858R 置換が約 90% を占める。検査は Exon 18–21 をカバーすることが推奨される [III, B]。ALK 診断において、IHC (immunohistochemistry) は FISH (fluorescence in situ hybridization) の同等な代替法として承認された [I, A]。ROS1 再構成は 1%–4% に認められ、FISH が標準的な検出法である [III, A]。BRAF V600E 変異 (頻度 約 2%) の検査も、BRAF/MEK 阻害剤の承認に伴い必須化されており [II, A]、次世代シーケンシング (NGS) による一括検出が効率的な方法として推奨される [III, A] (Table 1)。

PD-L1 発現に基づく一次治療の選択: PD-L1 IHC 検査はすべての進行 NSCLC 患者で必須である [I, A]。TPS (Tumor Proportion Score) 50% の EGFR/ALK 陰性例に対し、ペムブロリズマブ単剤療法が推奨される。KEYNOTE-024 試験において、ペムブロリズマブ群は化学療法群に対し、ORR 45% vs 28% と有意な改善を示した [I, A; ESMO-MCBS v1.1 score: 5]。一方、PD-L1 < 50% の非扁平上皮癌では、ペムブロリズマブ + ペメトレキセド + プラチナ併用療法が標準的な選択肢となり、KEYNOTE-189 試験で OS HR 0.49 (95% CI 0.38–0.64, p<0.001) と改善した [I, A; ESMO-MCBS v1.1 score: 4]。

扁平上皮癌および高 TMB 患者への戦略: 扁平上皮癌では、カルボプラチン + パクリタキセル (または nab-パクリタキセル) ペムブロリズマブが推奨される。KEYNOTE-407 試験では、併用群で OS HR 0.64 (mOS 15.9 vs 11.3 ヶ月, p=0.0008) と有意な改善が認められた [I, A]。また、腫瘍変異負荷 (TMB) が高い患者 ( 10 mutations/Mb) に対しては、ニボルマブ + イピリムマブ併用療法が選択肢となる。CheckMate 227 試験において、高 TMB 群の PFS は HR 0.58 (97.5% CI 0.41–0.81, p<0.001) と有意に改善し、1年 PFS 率も 42.6% vs 13.2% と大幅に向上した [I, A]。

EGFR-TKI 耐性後の治療アルゴリズム: EGFR-TKI 耐性時には T790M 変異検査が必須である [I, A]。T790M 陽性例にはオシメルチニブが推奨され、AURA3 試験において mPFS 10.2 vs 4.4 ヶ月 (HR 0.30, 95% CI 0.23–0.41, p<0.0001) と有意な改善を示した [I, A; ESMO-MCBS v1.1 score: 4] (Figure 4)。T790M 陰性例にはプラチナベースの化学療法が推奨される [I, A]。また、cfDNA による血中検査は T790M 検出に有用だが、陰性例では組織再検が強く推奨される [II, A]。

ALK および ROS1 標的治療の有効性: ALK 再構成陽性例では、アレクチニブがクリゾチニブに対し優れた PFS を示した。ALEX 試験において、アレクチニブ群の mPFS は 34.8 ヶ月であり、クリゾチニブ群の 10.9 ヶ月に対し有意に延長した [I, A] (Figure 5)。また、クリゾチニブ耐性後の ALK 陽性例には、アレクチニブやセリチニブが推奨され、いずれも化学療法より優れた PFS を示した (例: アレクチニブ mPFS 9.6 vs 1.4 ヶ月, HR 0.15, p<0.001) [I, A]。ROS1 再構成陽性例には、一次または二次治療としてクリゾチニブが推奨される [III, A]。

高齢者および PS 不良患者へのアプローチ: 70 歳以上の高齢者で PS 0–2 かつ臓器機能が良好な場合、カルボプラチンベースのダブレット化学療法が推奨される [I, A]。13 件の RCT (n=1705) の解析で、プラチナ併用は非プラチナ療法に対し OS HR 0.76 (95% CI 0.69–0.85) と有意に改善した。PS 2 の患者においても、化学療法は BSC (best supportive care) に対し生存期間を延長し QoL を改善することが示されており、プラチナベースの併用療法が考慮される [I, A]。ICI については、PS 2 患者でのデータは不十分だが、選択肢として考慮可能である [III, B]。

考察/結論

本 2018 年版 ESMO ガイドラインは、転移性 NSCLC の診療における精密医療への完全な移行を反映しており、診断と治療の双方に重要なパラダイムシフトをもたらした。

先行研究との違い: 従来のガイドラインと異なり、本指針ではドライバー変異検査の必須範囲を EGFR、ALK、ROS1 に加え、BRAF V600E まで拡大した点が対照的である。また、ICI を単なる二次治療ではなく、PD-L1 発現レベルに基づいた一次治療の標準的な選択肢として明確に組み込んだ点は、これまでの推奨からの大きな転換である。特に、PD-L1 50% 例への単剤療法と、PD-L1 < 50% 例への ICI 併用化学療法の使い分けを具体化した。

新規性: 本研究で初めて、ALK IHC が FISH と同等の代替法として承認されたことは、日常臨床における検査の簡便化と迅速化に寄与する新規の知見である。また、第 3 世代 EGFR TKI であるオシメルチニブを用いた T790M 耐性アルゴリズムを確立し、耐性後の組織再検と分子診断の重要性を強調した点は、これまで報告されていなかった体系的な治療経路を提示したと言える。さらに、限られた組織検体を効率的に利用するための「two parallel testing streams」という概念を導入し、検査の優先順位を明確にした点は極めて実用的である。

臨床応用: 本ガイドラインの推奨事項は、精密医療時代の NSCLC 標準診療の参照枠組みとして、臨床現場での意思決定に直結する。特に、欧州での承認状況を反映し、ベバシズマブやラムシルマブ、ニンテダニブなどの薬剤を適切に配置した包括的な勧告となっており、臨床的有用性は高い。分子診断の徹底と、それに基づく個別化治療の適用は、不必要な化学療法を避け、患者の予後を最大化させることに寄与すると考えられる。

残された課題: 今後の検討課題として、(a) 複数のドライバー変異が共存する co-mutation 例への対応、(b) TMB などの新規バイオマーカーをどのように治療選択に統合するか、(c) ICI 長期奏効例における治療継続期間の最適化、(d) Oligometastatic 病変に対する局所療法の役割の明確化、(e) RET, MET exon 14, HER2 などの稀なドライバー変異に対する特異的標的治療のエビデンス蓄積、が挙げられる。これらの limitation を克服するためのさらなる研究が、次世代のガイドライン改訂に不可欠である。

方法

本ガイドラインは、ESMO Guidelines Committee による合意形成型クリニカルガイドラインとして作成された。広範な文献レビューに基づき、各推奨事項は ESMO の標準的なエビデンスレベル (I–V) と推奨グレード (A–E) で評価された。エビデンスレベル I はランダム化比較試験 (RCT) のメタアナリシスまたは大規模 RCT を指し、グレード A は強力なエビデンスに基づく強力な推奨を示す。

治療アルゴリズムの策定にあたり、組織型 (扁平上皮 vs 非扁平上皮)、分子病理学的特性、患者の PS (Performance Status)、年齢、併存疾患、および患者の意向を統合的に考慮した。特に、免疫チェックポイント阻害剤の一次治療導入に関しては、KEYNOTE-024 (NCT02574078)、KEYNOTE-189 (NCT02578680)、IMpower150 などの大規模 RCT の結果を詳細に評価した。これらの試験では、主要評価項目として PFS および OS が設定され、統計解析にはコックス比例ハザードモデル (Cox proportional hazards model) とログランク検定 (log-rank test) が用いられ、HR (hazard ratio) および 95% CI (confidence interval) が算出されている。

また、新規治療法の臨床的有用性を定量的に評価するため、ESMO-MCBS (Magnitude of Clinical Benefit Scale) v1.1 スコアが導入された。これにより、単なる統計的有意差だけでなく、臨床的な利益の大きさを客観的に判断し、推奨グレードの決定に反映させた。診断における奏効評価は RECIST v1.1 を標準として採用したが、ICI 治療における偽進行を考慮し、irRECIST (immune-related RECIST) や iRECIST などの免疫療法特異的な評価基準の役割についても検討した。

分子診断の推奨については、各バイオマーカーに対する治療薬の EMA 承認状況と臨床的有用性に基づき、必須検査と推奨検査を分類した。特に、限られた組織量で最大限の情報を得るため、NGS (next-generation sequencing) の導入に関する推奨事項を整理し、内部バリデーションおよび外部精度管理 (external quality assurance) の重要性を強調した。