• 著者: Kim CG, Hong MH, Kim KH, Seo IH, Ahn BC, Pyo KH, Synn CB, Yoon HI, Shim HS, Lee YI, Choi SJ, Lee YJ, Kim EJ, Kim Y, Kwak JE, Jung J, Park SH, Paik S, Shin EC, Kim HR
  • Corresponding author: Eui-Cheol Shin (Korea Advanced Institute of Science and Technology, Daejeon); Hye Ryun Kim (Yonsei Cancer Center, Yonsei University College of Medicine, Seoul)
  • 雑誌: European Journal of Cancer
  • 発行年: 2021
  • Epub日: 2020-12-07
  • Article種別: Original Article (biomarker discovery and prospective validation study)
  • PMID: 33302114

背景

抗PD-1療法はNSCLC (non-small-cell lung cancer、非小細胞肺がん) の標準治療として確立されており、ニボルマブ (nivolumab) やペムブロリズマブ (pembrolizumab) がプラチナ製剤化学療法に対して優越性を示した (Borghaei et al. NEnglJMed 2015Reck et al. NEnglJMed 2016)。しかし、相当数の患者がDCB (durable clinical benefit、持続的臨床ベネフィット; CR・PRまたはSD>6か月) を得られず、どの患者が抗PD-1療法から恩恵を受けるかを事前に見極めることが急務であった。PD-L1 (programmed death-ligand 1) 発現・TMB (tumor mutational burden、腫瘍変異負荷)・腫瘍内T細胞浸潤・転写シグネチャーなどが予測バイオマーカーとして探索されてきたが、これらは組織生検を要する侵襲的手法であり、かつ治療開始後の免疫応答の動的変化を反映できないという gap in knowledge があった。末梢血は反復採取が容易な非侵襲的リソースであり、抗PD-1療法によるT細胞再活性化を全身レベルで追跡できる手段として期待されてきた (Huang et al. Nature 2017)。PD-1+ (programmed cell death protein 1 陽性) CD8+T細胞は腫瘍反応性クローンを高度に濃縮する集団として知られていたが、NSCLC患者において1サイクル後のその動的変化が治療反応性を予測できるか否かは不足しており、前向き独立コホートでの検証が求められていた。

目的

再発・転移性NSCLC患者において、抗PD-1療法1サイクル後の末梢血PD-1+CD8+T細胞の動的変化がDCB・PFS (progression-free survival、無増悪生存期間)・OS (overall survival、全生存期間) を予測するかを探索コホートと前向き独立検証コホートで評価する。あわせて、PD-1+CD8+T細胞が腫瘍抗原特異的CD8+T細胞のエフェクター機能に与える機能的役割を共培養実験と遺伝子ノックダウン実験により分子学的に解明する。

結果

ベースライン患者背景 (Table 1): 探索コホートn=94・検証コホートn=54の合計148例を解析した。中央年齢65歳 (範囲35-82歳)、男性73.6%、現・元喫煙者65.5%、腺がん66.9%、扁平上皮がん31.1%であった。前治療は化学療法75.0%、分子標的薬12.2%が最多であった。EGFR変異が148例中18例 (12.2%)、ALK転座が3例 (2.0%) に認められ、いずれも腺がんに偏在した。DCBは全体の35.1% (n=52/148) で達成され、両コホート間に有意差はなかった (p=0.480)。PD-L1陽性率が探索コホートで高い (73.5% vs 50.9%、p=0.007) 点を除き、両コホートの患者背景は均衡していた。

PD-1+CD8+T細胞のベースライン表現型 (Fig 1、Fig 2): 治療前末梢血において、PD-1+CD8+T細胞はPD-1-集団と比較してエフェクター・メモリー (CCR7 (CC-chemokine receptor 7)-CD45RA (CD45 isoform A, naive T cell marker)-) 表現型の頻度が有意に高く (p<0.0001)、増殖能マーカーKi-67 (Ki-67 nuclear proliferation antigen)+細胞 (p<0.0001) および活性化マーカーCD38 (CD38 surface antigen)+HLA-DR (HLA-DR, MHC class II activation antigen)+細胞 (p<0.0001) の割合も一貫して高値であった。さらに免疫チェックポイント受容体TIGIT (T cell immunoreceptor with Ig and ITIM domains) およびCTLA-4の発現もPD-1+画分に偏在し、T細胞活性化と疲弊 (exhaustion) の密接な連関が示された。HLA-A2 (human leukocyte antigen serotype A2)+患者 (n=42) においてNY-ESO-1_157-165特異的CD8+T細胞 (Fig 2) でも同様の表現型パターンが確認され、PD-1+CD8+T細胞が腫瘍反応性クローンを高度に濃縮する集団であることが支持された。

探索コホートにおける動的変化の予測能 (n=94、Fig 3): 治療前の末梢血PD-1+CD8+T細胞頻度はDCB達成群と非達成群の間で有意差なく、ベースライン頻度単独での予測は不能であった。一方、1サイクル後にはDCB達成群でPD-1+CD8+T細胞頻度が有意に低下した (p<0.0001)。ROC解析により、CD8+T細胞中のPD-1+細胞頻度の>2%減少が最適カットオフとして同定され (AUC=0.805、p<0.001)、このカットオフはDCBを高い感度・特異度で予測した。Kaplan-Meier生存解析では>2%減少群 vs ≤2%減少群において有意に優れた転帰が示された (95%CI上限いずれも1.0未満): PFS HR=0.323 (95%CI: 0.175-0.599)、OS HR=0.378 (95%CI: 0.204-0.701)。HLA-A2+患者のNY-ESO-1特異的CD8+T細胞でも同様の動的変化パターンが確認された。Cox多変量解析 (PD-L1・Performance Status・年齢を共変量として調整) においても>2%減少は独立した予測因子であり続けた (Table S4、S5)。転移臓器との相関は認められなかった (Table S6)。

前向き検証コホートでの独立検証 (n=54、Fig 4): 前向き試験NCT03486119ニボルマブコホートで独立検証を行った。探索コホートと同様、治療前PD-1+CD8+T細胞頻度はDCBを予測しなかったが、1サイクル後には>2%減少群でDCBが有意に高く (p<0.01)、ROC解析ではAUC=0.896 (p<0.001) と探索コホートを上回る予測精度が示された。Kaplan-Meier解析では>2%減少群 vs ≤2%減少群で一貫して優れた転帰が確認された: PFS HR=0.260 (95%CI: 0.132-0.512)、OS HR=0.341 (95%CI: 0.166-0.700)。Cox多変量解析でも独立した予測因子として確認され (Table S7、S8)、転移臓器との相関はなかった (Table S9)。この結果は両コホート間でPD-L1陽性率に差があるにもかかわらず成立しており、>2%カットオフの堅牢性を示した。

PD-1+CD8+T細胞の腫瘍特異的免疫抑制機能 (Fig 5): 機構的解明として、PD-1+CD8+T細胞とNY-ESO-1特異的CD8+T細胞を共培養すると、HCC1171肺がん細胞に対する標的細胞殺傷能とIFNγ (interferon-gamma)・TNF (tumor necrosis factor) 産生が有意に低下した (p<0.0001、n=5)。一方、PD-1-CD8+T細胞との共培養ではこの抑制効果は認められなかった。さらにPDCD1 (programmed cell death 1 gene) siRNA (small interfering RNA) によってCD8+T細胞のPD-1発現をノックダウンすると、NY-ESO-1特異的CD8+T細胞の細胞傷害能とサイトカイン産生能が有意に回復した (p<0.0001、n=5)。補足解析では、コントロールsiRNA導入CD8+T細胞との共培養後にNY-ESO-1特異的CD8+T細胞表面のPD-1発現が増加したが、PDCD1 siRNA群では認められず、CD8+エクソソームを介したPD-1分子の細胞間転移が抑制機構の一端を担う可能性が示唆された。また探索コホートにおいて治療早期にCD38+PD-1+CD8+T細胞とCD38+細胞頻度の正の相関が確認され (Supplementary Fig. S8)、機能不全を示すPD-1+CD38+サブセットが治療抵抗性に寄与するという既報と整合した。

考察/結論

本研究は末梢血PD-1+CD8+T細胞の1サイクル後動的変化 (>2%減少) が抗PD-1療法の早期応答バイオマーカーとして機能することを、探索コホート (n=94) および前向き独立検証コホート (n=54、NCT03486119) の二重体制で実証した。既存のPD-L1・TMBなどの予測因子は組織生検を要するため侵襲的であり、治療開始後の免疫動態をリアルタイムに反映できないという本質的な限界があった。本手法はこれらと対照的に、末梢血採取と標準的フローサイトメトリーのみで実施可能である。放射線学的評価は治療開始後数か月を要するのに対し、本バイオマーカーは1サイクル (3〜4週) という早期に奏効予測を提供するため、適切なタイミングでの治療切替判断を支援できる点で臨床的有用性が際立つ。

新規な機構的知見として、本研究は初めてPD-1+CD8+T細胞が腫瘍抗原特異的CD8+T細胞のエフェクター機能を能動的に抑制することを直接証明した。PD-1はこれまで主にCD8+T細胞の疲弊マーカーと位置づけられてきたが、本結果はPD-1+CD8+T細胞が免疫抑制の能動的プレーヤーであるという新規のパラダイムを提示する。この解釈は2つの機構的証拠によって支持される。第一に、PDCD1 siRNAによる抑制解除が効果量の有意な回復をもたらした点、第二に、エクソソームを介したPD-1分子の細胞間転移機構が示された点である。これらは循環PD-1+CD8+T細胞の減少がPD-1遮断による免疫抑制解除の代替指標となりうることを示唆する。また、PD-1+FoxP3 (forkhead box P3)-CD4+T細胞が類似した抑制機能を持つという既報との概念的類似性は、PD-1陽性T細胞サブセット全般が免疫制御に多角的に関与するという統合的理解につながる (Thommen et al. NatMed 2018)。さらに、PD-1+CD38+CD8+T細胞が抗PD-1抵抗性を仲介するという既報 (Verma et al. Nat Immunol 2019) との整合性は、このサブセットの機能的異質性が臨床転帰に多面的に影響することを示唆する。

臨床応用の観点では、>2%減少というカットオフは単施設のROC解析で同定されており、外部妥当性の検証が不可欠である。残された課題は3点に整理される。第一に、大規模多施設前向き試験によるカットオフの汎化確認である。第二に、PD-L1・TMBとの複合バイオマーカー戦略への統合であり、相補的な情報を組み合わせることで予測精度のさらなる向上が期待される。第三に、化学免疫療法や抗CTLA-4併用療法など他の治療モダリティへの適用可能性の検証である。また、フローサイトメトリーの施設間標準化もlimitationの一つであり、臨床実装には自動化・簡易測定法の開発が求められる。免疫老化マーカー (CD28-CD57+) が境界域でPFS・OSに関連したものの DCBを予測しなかった点は、T細胞疲弊と免疫老化が独立した機能不全機構であることを示す。今後はこの両者を組み合わせた包括的な末梢血免疫モニタリングが有望な研究の方向性となろう。以上の課題を踏まえつつも、循環PD-1+CD8+T細胞の薬力学的モニタリングは個別化抗PD-1治療最適化の基盤として有望である。

方法

コホート設計: 探索コホートは2016年3月〜2018年8月に再発・転移性NSCLCに対してPD-1阻害薬を1サイクル以上投与された94例。検証コホートはニボルマブ投与のNSCLC患者を前向き登録した臨床試験 (NCT03486119) 参加者54例 (2018年2月〜2018年8月)。両コホートとも治療前および1サイクル後に末梢血を採取し、末梢血単核球 (PBMC、peripheral blood mononuclear cells) をFicoll-Paque密度勾配遠心分離で分離した。

フローサイトメトリー解析: 多色フローサイトメトリー (BD (Becton Dickinson) LSR II (Large Scale Research flow cytometer) システム、FlowJo v10.4.0) でCD8+T細胞の以下マーカーを解析した: PD-1 (ペムブロリズマブ25 μg/mL標識)、CCR7 (CC-chemokine receptor type 7)、CD45RA (CD45 isoform A, a naive T cell surface marker)、Ki-67 (Ki-67 nuclear proliferation antigen)、CD38 (CD38 activation antigen)、HLA-DR (human leukocyte antigen-DR)、TIGIT (T cell immunoreceptor with Ig and ITIM (immunoreceptor tyrosine-based inhibitory motif) domains)、CTLA-4 (cytotoxic T-lymphocyte-associated protein 4)。HLA-A2 (human leukocyte antigen serotype A2) 陽性患者 (n=42) ではPE (phycoerythrin) 標識NY-ESO-1 (New York esophageal squamous cell carcinoma antigen-1, a cancer-testis antigen) _157-165デキストラマーを用いて腫瘍抗原特異的CD8+T細胞を同定した。

治療反応評価: RECIST (Response Evaluation Criteria in Solid Tumors) v1.1に基づきCR (complete response)・PR (partial response)・SD (stable disease)・PD (progressive disease、疾患進行) に分類した。PD-L1発現は22C3 (52例、38.2%) またはSP263 (80例、58.8%) 免疫組織化学 (IHC、immunohistochemistry) アッセイで評価し、TPS (tumor proportion score、腫瘍割合スコア) ≥1%を陽性と定義した。

機能解析: PD-1+/PD-1- CD8+T細胞の免疫抑制能を、NY-ESO-1特異的CD8+T細胞との共培養系 (1:1比率、24時間) で検討した。HCC1171肺がん細胞株 (HLA-A2陽性・PD-L1陽性・PD-L2陰性) を標的とし、細胞傷害活性とIFNγ (interferon-gamma)・TNF (tumor necrosis factor) 産生を計測 (n=5)。PD-1の機能的役割を直接証明するため、PDCD1 (programmed cell death 1 gene, encoding PD-1) 特異的siRNA (small interfering RNA) をNEON (Neon Transfection System, Thermo Fisher Scientific) エレクトロポレーターで自家CD8+T細胞に導入してPD-1発現をノックダウンし、同様の共培養実験を実施した。

統計解析: カテゴリ変数はカイ二乗検定、連続変数は対応のないt検定で比較。PFSおよびOSはKaplan-Meier法で推定しlog-rank検定で比較した。DCB予測能はROC (receiver operating characteristics) 曲線で評価し最適カットオフを同定した。多変量解析はCox比例ハザード回帰を使用しHR (hazard ratio) と95% CI (confidence interval) を算出した (有意水準P<0.05)。DCBへの影響因子はロジスティック回帰でも検討した。