• 著者: Wada H, Hitomi S, Teramatsu T, West Japan Study Group for Lung Cancer Surgery
  • Corresponding author: Hiromi Wada, MD (Department of Thoracic Surgery, Chest Disease Research Institute, Kyoto University, Kyoto, Japan)
  • 雑誌: Journal of Clinical Oncology
  • 発行年: 1996
  • Epub日: N/A
  • Article種別: Original Article (prospective randomized controlled trial)
  • PMID: 8648356

背景

NSCLC (non-small-cell lung cancer、非小細胞肺癌) に対して外科切除は最も有効な根治治療であるが、完全切除後も遠隔転移を来して長期生存が得られないことが多い。完全切除 Stage I 患者でも 5 年 OS (overall survival、全生存期間) は 60〜70% に留まり、Stage が進むほど予後は不良であった。この「完全切除後の再発リスク」という gap in knowledge を埋めるべく、術後補助放射線・化学療法・免疫療法の有効性が研究されてきたが、いずれも確立された標準治療には至らず、完全切除 NSCLC における最適な術後補助化学療法は未解明であった。

当時の補助化学療法の主流は CDDP (cisplatin、シスプラチン) を主体とした多剤併用療法であった。Holmes et al. の LCSG (Lung Cancer Study Group) 試験では CAP (cyclophosphamide, doxorubicin, and cisplatin) 療法が BCG (Calmette-Guerin bacillus) 療法より生存改善傾向 (P=0.078) を示したが有意差は得られなかった。Feld et al. は Stage I 患者で CAP 療法の有用性を認めなかったと報告し、一方 Niiranen et al. は CAP 療法の有用性を支持するデータを示すなど、既報の成果は一致しておらず、プラチナ系補助化学療法の位置付けは不明確であった。Ohta et al. は Stage III 完全切除 NSCLC を対象に CDDP+VDS (vindesine、ビンデシン) 療法対手術単独を比較した無作為化試験を行い、5 年 OS は CDDP+VDS 群 35% 対手術単独群 41%、3 年 DFS (disease-free survival、無病生存期間) は各群 37%・42% で有意差なしと報告しており、高用量プラチナ系化学療法の術後補助療法としての有効性は手薄で確立されていなかった。

こうした状況の中、CDDP 系高毒性化学療法は免疫能を障害し長期継続が困難なため、低毒性で長期経口投与が可能な薬剤の探索が求められていた。UFT (tegafur/uracil、テガフール+ウラシル配合剤) は経口投与可能な 5-FU (fluorouracil、フルオロウラシル) プロドラッグであり、テガフールが体内で 5-FU に変換されウラシルが 5-FU の異化を阻害することで血中 5-FU 濃度を持続的に維持する仕組みを持つ。UFT は胃癌・頭頸部癌などで臨床応用されており、消化管癌の術後補助化学療法でも研究が進んでいた。しかし、肺癌に対する長期経口フルオロピリミジン (fluoropyrimidine) 投与の有効性は十分に検証されておらず、不足している知見であった。WJSG (West Japan Study Group for Lung Cancer Surgery、西日本外科研究グループ) は第 1 次試験で UFT 長期投与の安全性を確認し、本試験 (第 2 次試験) では完全切除 NSCLC に対する UFT の術後補助化学療法としての有用性を無作為化比較試験により検証した。

目的

完全切除 NSCLC (Stage I-III) を対象に、(1) 術後 CDDP+VDS 後に UFT を 1 年間経口投与する CVUft (cisplatin/vindesine/UFT) 群および (2) UFT 単独を 1 年間経口投与する Uft 群が、(3) 手術単独 (対照群) と比較して 5 年 OS を改善するかを、西日本 37 施設の多施設前向き無作為化比較試験により検証すること。副次的に再発率・再発形式・有害事象を比較することも目的とした。

結果

5 年生存率 (主要エンドポイント):5 年 OS は CVUft 群 60.6%、Uft 群 64.1%、対照群 49.0% であった (Fig 2、n=310)。3 群間の比較では log-rank 検定 P=0.053 (境界域)、generalized Wilcoxon 検定 P=0.044 (有意) であった。Uft 群対対照群の比較では log-rank P=0.022、generalized Wilcoxon P=0.019 といずれも有意差を認め、UFT 単独の 1 年間経口投与による術後補助化学療法が手術単独に対して明確な生存改善効果を示した。CVUft 群対対照群の比較では log-rank P=0.083、generalized Wilcoxon P=0.074 といずれも境界域にとどまり、CDDP+VDS 追加による上乗せ効果は統計的に証明されなかった。また生存改善の程度は CVUft 群 (60.6%) より Uft 群 (64.1%) の方が数値上も優れており、CDDP+VDS の追加が UFT 単独の生存改善を減弱させた可能性が示唆された。このことは短期集中的プラチナ系化学療法の追加が必ずしも長期生存に寄与しないことを示す重要な知見である。

Cox 多変量解析による予後因子評価 (Table 3):Cox 比例ハザードモデルによる多変量解析の結果、病期進行に伴う予後不良の程度が定量化された。pT 因子:HR (hazard ratio、ハザード比) 1.50 (95%CI 1.18-1.91、P=0.001)。pN 因子:HR 1.94 (95%CI 1.57-2.39、P<0.001) — 本試験では pN が最も強力な独立予後因子であった。術後補助化学療法の独立予後効果:CVUft 群 vs 対照群 HR 0.64 (95%CI 0.42-0.97、P=0.037)、Uft 群 vs 対照群 HR 0.55 (95%CI 0.36-0.86、P=0.009)。性別 (HR 0.83、P=0.4)・年齢 (HR 1.15/10 年・P=0.196)・組織型 (腺癌対扁平上皮癌 HR 1.01、P=0.962;腺癌対他 HR 1.21、P=0.626) はいずれも有意な予後因子ではなかった (Table 3)。多変量解析においても UFT 単独群 (HR 0.55) の方が CVUft 群 (HR 0.64) より強い生存改善を示し、CDDP+VDS 追加の無効性が確認された。

有害事象プロファイル (Fig 3):CVUft 群と Uft 群の Grade 1 以上の有害事象発生率を比較した。血液毒性:CVUft 群 29.4% vs Uft 群 11.7% と CVUft 群で有意に高く、CDDP+VDS の骨髄抑制が主因と考えられた。全身倦怠感・食欲不振・悪心/嘔吐の発生率もすべて Uft 群の方が低値であった。UFT 投与に起因する肝機能障害:CVUft 群 9.2%、Uft 群 12.6% と Uft 群でやや高かったが、いずれも UFT 投与継続不能に至るほどの重篤な有害事象はほとんど認められなかった (Fig 3)。UFT 中断期間は 1 ヶ月以内に制限される設計であり、全体として UFT 単独の長期経口投与の忍容性は良好であった。本結果は UFT が免疫能への影響が軽微で QOL (quality of life、生活の質) を維持しながら長期継続投与できるという試験設計の前提と一致した。

再発率および死因内訳 (Fig 4、Fig 5):再発率は CVUft 群 38.6%、Uft 群 39.9%、対照群 42.9% であった (Fig 4)。化学療法群で再発率の低下傾向は認められたが群間差は小さく、術後補助化学療法の効果は再発の絶対的抑制よりも、再発後の死亡への転化を遅らせる形で現れている可能性が示唆された。死因内訳では、癌死亡 (再発) は CVUft 群 31.2%、Uft 群 28.2%、対照群 38.8% と化学療法群で明確に低下しており、Uft 群で最も低かった (Fig 5)。非再発性の他疾患死は CVUft 群 2.8%、Uft 群 1.9%、対照群 5.1% であった。再発率の縮小幅 (約 3〜4%) に比べて癌死亡率の縮小幅 (約 7〜10%) が大きいことは、UFT が微小転移に対して腫瘍増殖を抑制することで致死的進行を遅延させる機序を示唆している。

服薬コンプライアンスと投与量 (Table 2):CVUft 群の CDDP 平均総投与量は 56.5 ± 21.9 mg/m²、VDS 平均総投与量は 6.91 ± 2.56 mg であった。UFT 総投与量は CVUft 群 102.5 ± 59.8 g、Uft 群 116.4 ± 57.2 g であり、両群間に UFT 投与量の有意差はなくコンプライアンスは良好であった (Table 2)。投与期間にも群間差は認められなかった。プロトコール規定の CDDP 1 コース量 50 mg/m² に対し実際の平均投与量 56.5 mg/m² はやや上回っており、プロトコール遵守率は高かった。一方で VDS 用量 (6.91 mg 総量) については現代の標準的な CDDP 系 2 剤併用レジメン (cisplatin+vinorelbine 等) と比較して低用量設定であった可能性があり、CVUft 群での上乗せ効果が示されなかった要因の一つとして後に指摘されている。

考察/結論

本試験は完全切除 NSCLC (Stage I-III) に対して術後 1 年間 UFT 経口単独投与を行うことで、手術単独と比較して統計的に有意な 5 年 OS の改善 (64.1% vs 49.0%、HR 0.55、95%CI 0.36-0.86、P=0.009) が得られることを示した。これまでの研究では CDDP 系高用量多剤併用療法が術後補助療法として検討されてきたが、Ohta et al の CDDP+VDS 対手術単独比較試験が有意差なしを示したこと、Holmes et al の CAP 療法試験が境界域 (P=0.078) に留まったこととは対照的に、本試験における低毒性経口 UFT 単独の長期投与は明確な生存改善をもたらした。これは微小転移に対する 5-FU の時間依存性の持続的抗腫瘍作用、および UFT が免疫能を保ちながら長期投与可能であることが有効性の基盤になっていると考えられる。実際、UFT の経口 AUC (area under the curve) は等モル量の持続点滴静注 5-FU と同等であることが示されており、転移リンパ節内での 5-FU 濃度が非転移リンパ節より高いという組織内分布データも微小転移制御の機序的根拠を支持している。

新規性の観点では、本研究で初めて NSCLC 術後補助化学療法として経口フルオロピリミジン系薬剤の単独長期投与が無作為化比較試験において有意な OS 改善を示した。既報の CDDP 系多剤併用が有意差を証明できなかった状況に対し、より低侵襲・低毒性で患者の免疫能と QOL を維持する新規アプローチが臨床的有効性を確立した点は当時の術後補助化学療法の概念を刷新するものであった。UFT に対する臨床的意義は単なる生存改善にとどまらず、外来での長期経口投与が可能で患者負担が少ないという実用性にある。本試験の知見は後に日本の NSCLC 診療において術後補助化学療法の選択肢として臨床応用が進み、特に Stage I 腺癌に対する UFT adjuvant chemotherapy の標準化に貢献した。本試験と並行して実施されたその後のプラチナ系術後補助化学療法の無作為化試験 — IALT (Arriagada et al. NEnglJMed 2004)、JBR.10 (Winton et al. NEnglJMed 2005)、ANITA (Douillard et al. LancetOncol 2006) — が相次いでシスプラチン系補助化学療法の生存改善を証明し、本試験の見解と相補的な形で NSCLC 術後補助療法のエビデンスが蓄積された。

残された課題は複数存在する。最大の limitation は対象を Stage I〜III と広範に設定した点であり、Stage 別の効果量を個別に検証できていない。本試験の設計では Stage I 低リスク群から Stage IIIA 高リスク群まで混在しており、より恩恵を受ける部分集団の同定が不十分であった。また、CVUft 群での CDDP 用量設定が低すぎた可能性 (50 mg/m²×1 コース) が、CDDP+VDS の上乗せ効果が示されなかった一因として指摘されている。さらに組織型別 (腺癌 vs 扁平上皮癌) やリンパ節転移状況別の効果解析データは正式には提示されておらず、患者選択の精緻化が今後の研究課題として残されている。更なる検討として、より厳密に定義された対象集団 (特に Stage IA vs IB vs II vs IIIA 別) における UFT の用量・投与期間の最適化、および免疫療法時代における補助化学療法の位置付けの再評価が将来の research において重要な課題である。

方法

西日本 37 施設を参加施設とした多施設前向き無作為化 3 アーム比較試験。登録期間:1985 年 12 月〜1988 年 7 月 (NCT 登録なし、ClinicalTrials.gov 創設以前の試験)。

対象:15〜75 歳、癌の既往なし、完全切除原発性 NSCLC Stage I-III の患者。登録数 n=323 (適格解析数 n=310):CVUft 群 n=109、Uft 群 n=103、対照群 n=98。除外 13 例の内訳は癌でない症例・不完全切除・小細胞癌・高齢 (CVUft 群 6 例、Uft 群 5 例、対照群 2 例)。ランダム化:封筒法による中央電話登録にて割付。

治療計画 (Fig 1):CVUft 群は術後 1〜3 週以内に CDDP 50 mg/m² + VDS 2〜3 mg/kg を投与し、さらに VDS 2〜3 mg/kg を 1〜2 週間隔で 2 回追加 (計 3 コース)。その 2 週後から UFT 400 mg/日を 1 年間経口投与した。Uft 群は術後 1〜3 週以内より UFT 400 mg/日を 1 年間経口投与した。対照群は術後補助化学療法なし。有害事象発現時は適切な対処または投与中断を行い、UFT 中断期間は 1 ヶ月以内に制限した。

主要評価項目:5 年 OS の群間比較。副次評価項目:再発率・再発形式・有害事象発生率と重症度。5 年生存率の追跡完遂率 100%。

統計手法:背景因子の群間均一性検定に chi-squared 検定 (X² 検定)・F 検定・H 検定を使用した。生存率は Kaplan-Meier 法で算出し、群間比較に log-rank 検定および generalized Wilcoxon 検定を使用した。予後因子の多変量解析には Cox’s proportional hazards model (Cox 比例ハザードモデル) を使用し、共変量として性・年齢・組織型・pT・pN・術後補助化学療法を投入した。