• 著者: Kato H, Ichinose Y, Ohta M, Hata E, Tsubota N, Tada H, Watanabe Y, Wada H, Tsuboi M, Hamajima N, Ohta M, Japan Lung Cancer Research Group on Postsurgical Adjuvant Chemotherapy
  • Corresponding author: Yukito Ichinose, MD (National Kyushu Cancer Center, Fukuoka, Japan)
  • 雑誌: New England Journal of Medicine
  • 発行年: 2004
  • Epub日: 2004-04-22
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 15102997

背景

日本において肺腺癌は肺癌全体の約56%を占め、完全切除された病理Stage I (T1N0M0またはT2N0M0) の患者においても再発リスクが依然として問題であった。術後補助化学療法は、再発を抑制し、全生存期間 (OS) を改善する可能性のある治療戦略として注目されてきた。先行する西日本外科研究グループ (WJSG) が実施した多施設共同ランダム化比較試験では、切除後非小細胞肺癌 (NSCLC) 全体を対象とした術後ウラシル・テガフール (UFT) 投与により、OSが有意に延長することが示された (Wada et al. JClinOncol 1996)。この試験の5年OS率はUFT群で64%に対し対照群で49%であり、p=0.02と有意差が認められた。この試験のサブグループ解析では、扁平上皮癌に対する有効性は認められなかったものの、腺癌、特にStage Iの患者でUFTによる利益が大きいことが示唆された。しかし、このWJSGの試験はStage I-IIIの全組織型を対象とした混合集団での解析であり、腺癌Stage Iに限定した大規模なランダム化比較試験 (RCT) は当時存在せず、この領域には明確な知識のギャップが残されていた。

UFTは、5-フルオロウラシル (5-FU) のプロドラッグであるテガフールと、5-FUの分解酵素であるジヒドロピリミジンデヒドロゲナーゼ (DPD) を競合的に阻害するウラシルを1:4のモル比で配合した経口抗癌剤である。ウラシルがDPDを阻害することで、5-FUの血中濃度が持続的に維持される。5-FUは用量依存性ではなく時間依存性の薬剤であるため、長期にわたる経口投与が可能なUFTの特性は、術後補助療法として理想的な薬剤特性を有すると考えられていた。さらに、UFTとその代謝物がマウスモデルにおいて腫瘍血管新生を抑制することが報告されており、長期投与による抗血管新生効果がOS改善に寄与する可能性も示唆されていた。

本試験は、この未解明な領域を解決することを目的として、日本肺癌外科研究グループ (Japan Lung Cancer Research Group) が設計・実施した。完全切除された病理Stage I肺腺癌患者に特化し、術後UFT補助療法の有効性と安全性を大規模なRCTで検証することは、当時の臨床現場における重要な課題であった。特に、Wada et al. JClinOncol 1996の報告は、UFTの有効性を示唆するものであったが、対象患者の層別化が十分ではなかったため、より詳細な解析が求められていた。先行研究では、シスプラチンベースの補助化学療法が非小細胞肺癌のOSを改善する可能性が示唆されていたが (Schiller et al. NEnglJMed 2002)、Stage I腺癌に特化した大規模なエビデンスは不足しており、低毒性で長期投与が可能な経口薬であるUFTの役割は未確立であった。

目的

本研究の主要な目的は、完全切除された病理Stage I (T1N0M0またはT2N0M0、1986年AJCC分類) 肺腺癌患者において、術後2年間の経口UFT (テガフール換算250mg/m²/日) 投与が、観察のみと比較して全生存期間 (OS) を有意に改善するかどうかを検証することである。副次的な目的として、UFT投与がcancer-free survival (CFS) を改善するか、およびUFTの安全性プロファイルを評価することであった。特に、腫瘍のTカテゴリーや腫瘍径によるUFTの効果の違いを詳細に解析し、術後補助療法の適切な適応患者群を特定することも重要な目的の一つであった。本試験は、先行研究で示唆された腺癌Stage I患者におけるUFTの有効性を、より大規模かつ特異的な集団で確認し、臨床的エビデンスを確立することを目指した。本試験は、術後補助化学療法の適応をより精密化するための重要な知見を提供することを意図している。

結果

主要エンドポイント: 全生存期間 (OS) の全体解析: 全患者集団において、UFT術後補助療法はOSを有意に改善した。追跡期間中央値73ヶ月の時点で、UFT群では65例、観察群では89例の死亡が確認された。5年OS率はUFT群で88% (95% CI 85-91%)、観察群で85% (95% CI 82-89%) であり、層別ログランク検定により統計的に有意な差が認められた (p=0.04)。無作為化された全999例を対象とした感度解析でも同様の有意差が維持された (p=0.047)。Cox多変量解析では、UFT投与による死亡のハザード比 (HR) は0.72 (95% CI 0.53-1.00, p=0.05) であり、UFT群で死亡リスクが28%低下することが示された。年齢 (≥65歳のHR 2.02, 95% CI 1.46-2.80, p<0.001)、性別 (女性のHR 0.66, 95% CI 0.48-0.91, p=0.01)、Tカテゴリー (T2のHR 1.95, 95% CI 1.41-2.69, p<0.001) も独立した予後因子として確認された (Table 1, Figure 1A)。

Tカテゴリーおよび腫瘍径別サブグループ解析におけるOS改善: 事前設定された交互作用解析により、UFTの有効性はTカテゴリーおよび腫瘍径によって異なることが示された (Figure 2)。T2N0腺癌患者 (n=263) において、UFT群の5年OS率は85% (95% CI 79-91%) であったのに対し、観察群では74% (95% CI 66-81%) であり、絶対差は11ポイントであった。この差はログランク検定で統計的に非常に有意であり (p=0.005)、T2N0病変の患者においてUFTが明確な生存利益をもたらすことを示した (Figure 1B)。一方、T1N0腺癌患者 (n=716) では、UFT群の5年OS率は89%、観察群では90%と、OSに有意な差は認められなかった (UFT群のHRは約1.00) (Figure 1C)。腫瘍径別の解析でも同様の傾向が確認され、腫瘍径が2cm以下の群ではUFT群89% vs 観察群91%、2-3cmの群では89% vs 86%、3cm超の群では85% vs 74%と、腫瘍径が大きいほどUFTの利益が顕著であった。この結果は、UFTの有効性が特定の生物学的因子に関連している可能性を示唆している。

Cancer-free survival (CFS) および再発パターン: 再発または二次癌の発生率は、UFT群で23% (111/491例)、観察群で26% (129/488例) であった (Table 3)。T2病変の患者では、UFT群で33% (42/129例)、観察群で40% (53/134例) に再発または二次癌が認められた。しかし、CFSにおける両群間の差は統計的有意差には達しなかった (層別ログランク検定 p=0.25)。また、再発または二次癌診断後の生存期間も両群間で有意差はなかった (ログランク検定 p=0.14)。UFT群の1年および2年生存率はそれぞれ65%および50%、観察群では65%および42%であった。この結果は、UFTのOS改善効果が、再発予防だけでなく、再発後の生存期間への影響も含む可能性を示唆している。

安全性プロファイルとコンプライアンス: UFT群の482例で安全性が評価された結果、Grade 3の有害事象はわずか10例 (2%) に発生したのみであり、Grade 4の有害事象は認められなかった (Table 2)。治療関連死は0例であった。主な有害事象は軽微であり、食欲不振 (Grade 1: 9%, Grade 2: 8%)、悪心嘔吐 (Grade 1: 10%, Grade 2: 3%)、下痢 (Grade 1: 2%, Grade 2: 1%)、白血球減少 (Grade 1: 2%, Grade 2: 1%) などであった。肝機能障害 (AST/ALT上昇) はGrade 1-2がそれぞれ6%・2%であったが、臨床的な影響は軽微であった。この極めて低い毒性プロファイルは、2年間の長期経口補助療法として特筆すべき安全性を示している。2年間のUFT投与完遂率は61% (95% CI 57-66%) であった。投与中止の主な理由は有害事象 (123例)、患者の判断 (52例)、医師の判断 (34例) であった。有害事象による中止が最多であったが、その多くは軽微なものであり、毒性の重篤度と投与中止の直接的な相関は弱かった。

考察/結論

先行研究との違い: 本試験は、先行するWJSGの試験や他の小規模試験が非小細胞肺癌全体を対象としていたのに対し、病理Stage Iの肺腺癌に特化した大規模なランダム化比較試験として実施された点で、これまでの研究と異なる。特に、腫瘍径やTカテゴリーとの交互作用解析により、T2N0病変 (腫瘍径3cm超を含む) の患者にUFTの明確な利益が集中し、T1N0病変 (特に2cm以下の小腺癌) では利益が認められないという明確な治療効果の勾配を、本研究で初めて大規模試験で示したことは画期的である。この結果は、術後補助療法の適応を層別化する上で重要な知見を提供し、その後の臨床ガイドラインに大きな影響を与えた。

新規性: 本研究で初めて、完全切除された病理Stage I肺腺癌患者において、術後UFT補助療法が全生存期間を有意に改善することを示した。特に、T2N0病変の患者における5年OS率の11ポイント改善 (UFT群85% vs 観察群74%、p=0.005) は、この集団におけるUFTの新規な有効性を明確に確立した。また、UFTの極めて低い毒性プロファイル (Grade 3有害事象2%) は、長期経口補助療法としての実用性を裏付ける新規な発見であった。

臨床応用: 本試験の結果は、日本の肺癌診療ガイドラインにおいて、Stage IB (T2N0) 腺癌に対する術後UFT2年投与を推奨する主要な根拠となった。UFTの低毒性プロファイルは、術後患者のQOLへの影響を最小限に抑え、高齢者や腎機能低下例、白金製剤の使用が困難な患者に対する代替補助療法として臨床現場で重要な選択肢を提供した。5-FUが時間依存性の薬剤であること、およびUFTの抗血管新生作用がマウスモデルで示されていることから、2年間の長期連日投与という治療戦略は、従来の短期間のシスプラチン系補助療法とは異なる生物学的アプローチとして臨床的意義を持つ。

残された課題: 本試験はT2N0腺癌での利益を示したが、現代の病理分類 (第8版TNM分類におけるT1a-T1c/T2a-T2bの細分化) への対応や、EGFR変異ステータスとの関連については検討されていない。CTスクリーニングの普及により小腺癌の発見が増加している現状を反映した、より詳細なサブグループ解析や再評価が今後の検討課題として残されている。また、免疫チェックポイント阻害薬やドライバー変異に対する分子標的治療薬が普及した現代において、術後UFTとこれらの新規治療薬との組み合わせ戦略に関するエビデンスは存在せず、将来的な研究の方向性として検討が必要である。

方法

本研究は、日本全国の多施設で実施された無作為化オープンラベル対照試験であり、Taiho Pharmaceuticalの支援を受けて行われた。本試験は、完全切除された病理Stage I肺腺癌患者を対象とした第III相臨床試験としてデザインされた。

適格基準: 1994年1月から1997年3月にかけて患者が登録された。適格患者は、病理学的にStage I (T1N0M0またはT2N0M0、1986年AJCC分類) の肺腺癌で、完全切除術を受けた者であった。年齢は45歳から75歳、Eastern Cooperative Oncology Group (ECOG) Performance Status (PS) は0-2、術前抗癌治療歴なし、白血球数 ≥ 4,000/mm³、血小板数 ≥ 10万/mm³、ヘモグロビン値 ≥ 100g/L、肝機能 (AST/ALT) が正常上限の2倍以内であることが求められた。日本の肺癌学会の規則に従い、腫瘍径が3cmを超えるか、または臓側胸膜に露出している腫瘍はT2と分類された。

登録と無作為化: 合計999例の患者が電話またはFAX (facsimile) による中央登録システムを通じて1:1の比率でUFT群と観察群に無作為に割り付けられた。無作為化は、Tカテゴリー (T1 vs T2)、年齢 (<65歳 vs ≥65歳)、性別で層別化された。登録後、20例が適格性違反により解析から除外され、最終的にUFT群491例、観察群488例が解析対象となった。

治療: UFT群の患者は、術後4週以内にUFT (ウラシル・テガフール、テガフール100mg + ウラシル224mgカプセル) の経口投与を開始した。投与量はテガフール換算で250mg/m²/日であり、ほとんどの患者は1日2回、食前に2カプセルを2年間継続して服用した。Grade 2の有害事象が発生した場合は、用量を200mg/m²に減量し、Grade 3以上の有害事象または特定の血液学的・肝機能異常が発生した場合は投与を中止した。

主要エンドポイントと統計解析: 主要エンドポイントは全生存期間 (OS) であり、層別ログランク検定 (stratified log-rank test) を用いて評価された。副次エンドポイントはcancer-free survival (CFS) および安全性であった。検出力計算は、観察群の5年OS率を83%、UFT群のハザード比 (HR) を0.67と仮定して行われ、当初518例の症例数から984例に拡大された。中間解析は独立モニタリング委員会によって監視され、Haybittle-Peto境界 (P<0.001) が早期終了の基準として用いられた。多変量解析にはCox比例ハザードモデル (Cox proportional-hazards model) が使用された。すべての統計計算にはSASソフトウェアパッケージ (バージョン6.09) が使用され、P値が0.05以下の場合に統計的有意差ありと判断された。本試験はUMIN試験登録システムに登録されていないが、当時の臨床試験の慣例に従い実施された。

追跡: 術後2年間は3ヶ月ごと、その後は6ヶ月ごとに経過観察が行われた。これには身体診察、血算、生化学検査、腫瘍マーカー、胸部X線検査が含まれた。胸腹部および脳のCTスキャンは、術後2年間は6ヶ月ごと、その後3年間は少なくとも2回実施された。観察群の追跡期間中央値は73ヶ月、UFT群は72ヶ月であった。