• 著者: Hoang T, Xu R, Schiller JH, Bonomi P, Johnson DH
  • Corresponding author: Tien Hoang, MD (University of Wisconsin Comprehensive Cancer Center, Madison, WI; txh@medicine.wisc.edu)
  • 雑誌: Journal of Clinical Oncology
  • 発行年: 2005
  • Epub日: N/A
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 15625371

背景

進行非小細胞肺がん(NSCLC)の初回化学療法成績は、患者個々で大きく異なり、一部の患者は数年にわたり生存する一方で、数ヵ月以内に死亡する患者も多い。この多様性は、ドライバー変異、腫瘍微小環境、免疫状態、宿主全身状態など、多因子的差異を反映していると考えられる。

過去数十年にわたり、NSCLCの予後予測因子を同定するための研究が積み重ねられてきた。2003年の米国臨床腫瘍学会(ASCO)ガイドライン更新では、病期とパフォーマンスステータス(PS)が主要な予後因子として認められ、体重減少、性別、乳酸脱水素酵素(LDH)、骨転移、肝転移も重要な因子として位置付けられた。しかし、既存の予後モデルにはいくつかの重要な限界があった。例えば、1986年のEastern Cooperative Oncology Group(ECOG)Finkelsteinモデルは、古い化学療法(シクロホスファミド、ドキソルビシン、ブレオマイシンベース)に基づいており、現在の治療標準とは乖離していた。また、Albain et al. JClinOncol 1991による1991年のSouthwest Oncology Group(SWOG)モデルも、第2世代までの化学療法が対象であり、その後の治療進歩を反映していなかった。さらに、1995年のEuropean Lung Cancer Working Party(ELCWP)Paesmansモデルは、局所進行期から転移例、前治療例が混在した不均一な患者集団を対象としており、結果の解釈に課題が残されていた。これらの先行研究では、当時の治療法に基づく予後因子が報告されていたが、第3世代化学療法レジメンが導入された後の予後モデルは未確立であった。

1990年代後半から、タキサン系薬剤、ゲムシタビン、ビノレルビンと白金製剤を併用する第3世代化学療法が確立され、NSCLC患者の生存成績は改善した(中央値全生存期間(OS)約8-9ヵ月、1年生存率33-35%)。Schiller et al. NEnglJMed 2002Kelly et al. JClinOncol 2001による大規模臨床試験がその有効性を示した。この新しい治療標準に基づいた予後モデルの開発が喫緊の課題であった。癌治療の個別化が進む中で、患者個々の生存確率を定量的に予測し、臨床試験設計の最適化、患者と医師間の予後情報共有、緩和ケア導入のタイミング判断に活用できる実用的なツールの開発が強く求められていた。既存のモデルでは、これらのニーズに応えるには情報が不足しており、より現代的な治療レジメンに対応した、より精度の高い予測モデルの構築が不可欠であった。特に、第3世代化学療法における予後因子を網羅的に評価したモデルはこれまで報告されておらず、この知識ギャップが残されていた。

目的

本研究の目的は、以下の2点である。(1) 第3世代化学療法で治療された化学療法未治療の進行NSCLC患者において、全生存期間(OS)に関連する独立予後因子を多変量解析により同定すること。(2) 同定された因子を用いて、個々の患者の1年および2年生存確率を予測する臨床的ノモグラムを構築し、その予測モデルを内部および外部データセットで検証すること。これにより、臨床現場での意思決定支援および臨床研究計画の最適化に資するツールを提供することを目指した。特に、当時の標準治療である第3世代化学療法レジメンに特化した、より個別化された予後予測モデルを構築し、その有用性を検証することが主要な目的であった。

結果

独立予後因子の同定(多変量Cox解析): 27の治療前臨床変数について単変量Cox解析を実施した結果、15変数が有意な予後不良因子として同定された(p≤0.05)。これらの変数には、男性であること、低いPS(ECOG 1または2)、食欲不振、体重減少、発熱、肺手術歴なし、放射線歴、および転移関連因子(転移部位数≥4、縦隔転移、対側肺転移、骨転移、肝転移、脳転移、皮下転移、その他の臓器転移)が含まれた。特に皮下転移は、単変量解析において最も高いハザード比(HR 2.06)を示した。年齢(70歳以上 vs 70歳未満)、病期(IIIB vs IV)、腫瘍組織型(扁平上皮癌 vs 腺癌 vs 大細胞癌)、および併存疾患は、単変量解析では有意な予後因子ではなかった(Table 3)。

これらの15の有意な変数の中から、多変量ステップワイズCox回帰解析(投入基準 p=0.2、除外基準 p=0.1)を経て、以下の6因子が独立した予後不良因子として同定された(いずれもp<0.05)。これらの因子は、第3世代化学療法で治療された進行NSCLC患者の生存予測において、互いに独立して影響を与えることが示された(Table 4)。

皮下転移の有無: HR 1.88 (95% CI 1.32-2.68, p<0.0001)。これは同定された因子の中で最も強力な独立予後不良因子であった。皮下転移はNSCLC患者全体の約4%にのみ認められる比較的稀な転移形式であるが、その存在は極めて不良な予後と関連することが示された。先行するECOG Finkelsteinモデル(1986年)やELCWP Paesmansモデル(1995年)でも、皮下転移が同様に高いHRを示しており、本研究の結果はこれらの知見を裏付けるものであった。皮下転移を有する患者のOS中央値は、有さない患者と比較して有意に短かった。

食欲不振の有無: HR 1.62 (95% CI 1.40-1.87, p<0.0001)。単変量解析では体重減少(HR 1.36)も有意であったが、多変量解析では食欲不振のみが独立した予後因子として残存した。これは、食欲不振が体重減少よりも早期に、あるいはより直接的に全身状態の悪化を反映する可能性を示唆している。食欲不振を訴える患者は、そうでない患者よりもOSが短縮する傾向が認められた。

パフォーマンスステータス(PS)低下(ECOG 1-2 vs 0): HR 1.46 (95% CI 1.26-1.70, p<0.0001)。PSは、全ての先行モデルで共通して重要な予後因子として認識されており、本研究でもその重要性が再確認された。PSの低下は、患者の全身状態の悪化と治療耐性の低下を反映すると考えられる。PS 0の患者と比較して、PS 1または2の患者は有意に予後が不良であった。

肝転移の有無: HR 1.32 (95% CI 1.13-1.55, p=0.0002)。肝臓はNSCLCの頻度の高い転移部位の一つであり(全体の22%)、肝転移の存在は、腫瘍量の多さや化学療法の薬物代謝への影響など、複数の要因を通じて予後不良と関連すると考えられる。肝転移を有する患者は、そうでない患者と比較してOSが有意に短かった。

転移部位数≥4: HR 1.20 (95% CI 1.04-1.39, p=0.01)。これは腫瘍の全身への播種度合いを反映する指標であり、遠隔転移の個数が多いほど予後が不良であることを示唆している。転移部位が4つ以上の患者は、4つ未満の患者と比較して予後が不良であった。

肺手術歴なし: HR 1.16 (95% CI 1.02-1.33, p=0.02)。この因子は境界域で有意であった。肺手術歴のある患者は、過去に切除可能な局所病変であったものが再燃したケースが多く、手術歴のない患者と比較して、腫瘍の生物学的特性がより緩徐である可能性が考えられる。年齢、性別、組織型、脳転移、骨転移は、多変量解析では有意な予後因子とはならなかった。

全体成績と予後層別化: 合計1,436例の患者における全体成績は、奏効率20%、OS中央値8.2ヵ月、1年生存率33%、2年生存率11%であった。ノモグラムスコアに基づく四分位層別化では、低リスク群(予測1年OS 48%、実測43%)、低中リスク群(予測36%、実測41%)、高中リスク群(予測26%、実測33%)、高リスク群(予測14%、実測15%)と、予測値と実測値が比較的良好に一致し、較正が良好であることが示された(Table 5, Figure 3)。リスク最低群のOS中央値は約14ヵ月であったのに対し、最高群は約4ヵ月と、約3.5倍の差があり、臨床的に意義のある予後層別化が達成された。学習セットの75%と検証セットの25%を用いた内部交差検証後、E1594データセット全例(n=846)を用いた外部検証も実施された。

モデル識別能(c-statistic): E5592学習セットにおけるc-statisticは0.61であり、中等度の識別能を示した。E1594外部検証セットにおけるc-statisticは0.60であり、モデルの外部検証における安定性が確認された。従来のPS単独モデル(c-statistic 0.58)と比較すると、本多変数モデルによる識別能の改善は小さいものの、多変数モデルが提供する付加的な臨床情報はより大きな価値を持つと考えられる。NSCLCの予後予測におけるc-statisticが0.6前後にとどまることは、腫瘍生物学的な不均一性を反映しており、化学療法単独治療の時代においては、これが現実的な上限である可能性が示唆された。

ノモグラムの使用方法と例示: 構築されたノモグラムでは、各予後因子にスコアが付与された(皮下転移=66、PS低下=43、食欲不振=38、肝転移=35、転移部位数≥4=19、肺手術歴なし=15)。患者の各因子の有無に基づいてスコアを合計し、その合計スコアから1年および2年生存率を読み取ることができる(Figure 1)。例えば、PS 1(43点)、食欲不振(38点)、肝転移(35点)、肺手術歴なし(15点)の患者の場合、合計スコアは131点となり、予測1年OSは12%、予測2年OSは1.1%となる(Figure 2)。スコアが0点(全リスク因子なし)の患者では予測1年OSが約48%であるのに対し、最高スコア(全因子陽性)の患者では予測1年OSが約5%と推定され、120点以上のスコア差が予後推定に大きく寄与することが示された。

考察/結論

本研究は、Eastern Cooperative Oncology Group(ECOG)の大規模臨床試験データを活用し、進行非小細胞肺がん(NSCLC)患者の予後を予測するための包括的なノモグラムを構築した点で、方法論的意義が大きい。特に、1990年代後半に確立された第3世代化学療法レジメンで治療された化学療法未治療患者に特化した初の予後予測ツールを提供したことは、当時の臨床実践に適合した重要な進歩であった。

先行研究との違い: 本研究は、Albain et al. JClinOncol 1991のSWOGモデルやELCWP Paesmansモデルなど、従来の予後モデルと比較して、より新しい第3世代化学療法レジメンに特化している点が異なる。また、解析対象患者数(n=1,436)は当時最大規模の進行NSCLC予後モデルコホートであり、統計的信頼性を高めた。従来のモデルでは多様な病期や治療歴の患者が混在していたのに対し、本研究では化学療法未治療、ECOGパフォーマンスステータス(PS)0-2、Stage IVまたは悪性胸水を伴うStage IIIBのみという均一な患者集団に限定したことで、結果の解釈可能性が向上した。

新規性: 本研究で初めて、第3世代化学療法時代の進行NSCLC患者における6つの独立予後不良因子(皮下転移、食欲不振、PS低下、肝転移、転移部位数≥4、肺手術歴なし)を特定し、これらを統合したノモグラムを新規に構築した。特に皮下転移(ハザード比(HR)1.88, 95% CI 1.32-2.68, p<0.0001)が最強の独立予後不良因子として確認されたことは、これまで報告されていない重要な知見である。NSCLCにおける皮下転移は全体の約4%と稀であるが、皮膚・皮下組織への血行性転移は、腫瘍の全身播種能と血管新生能の高さを示す生物学的指標であると考えられる。

臨床応用: 本知見は、第3世代化学療法を受ける進行NSCLC患者の個別予後予測に直結する臨床的有用性を持つ。ノモグラムを用いることで、患者個々の1年および2年生存確率を定量的に予測でき、集団をサブグループに分類する先行モデルよりも優れた個別化予測を可能にする。これにより、臨床現場での治療方針決定、患者と医師間の予後情報共有、臨床試験の層別化因子選定、および緩和ケア導入のタイミング判断に役立つ。例えば、皮下転移を有する患者は極めて予後不良であり、積極的な化学療法のベネフィット・リスク評価や、緩和ケアへの早期移行判断に際して重要な情報となる。

残された課題: 本モデルのc-statisticが0.60-0.61という中等度の識別能にとどまったことは、NSCLCの予後予測における本質的な限界を反映しており、今後の検討課題として残されている。2005年当時は、EGFRやALKなどのドライバー変異に対する分子標的療法や免疫チェックポイント阻害剤が存在せず、化学療法単独治療では、腫瘍の組織学的・分子生物学的な極めて高い不均一性のため、個々の患者の治療反応性を事前に高精度で予測することには構造的な上限があったと考えられる。この点は、今後の研究で分子生物学的マーカーを組み込むことで改善される可能性が残された課題である。また、本研究は後ろ向き研究であり、前向き検証が必要であることもlimitationとして挙げられる。

方法

本研究は、Eastern Cooperative Oncology Group(ECOG)が実施した2件の大規模ランダム化第III相臨床試験(E5592およびE1594)のデータを用いた後ろ向き予後モデル開発・検証試験として実施された。

患者集団とデータセット: 学習データセット(E5592): 1993年から1999年にかけて実施された試験で、エトポシド/シスプラチン群は除外された。対象は、Stage IIIBまたはIVの非小細胞肺がん(NSCLC)患者で、ECOGパフォーマンスステータス(PS)が0-1、かつ化学療法未治療であった。レジメンは、パクリタキセル+シスプラチン、パクリタキセル+カルボプラチン、ビノレルビン+シスプラチンのいずれかであった。最終的に590例が解析対象となった。 検証データセット(E1594): この試験では、シスプラチン+パクリタキセル、シスプラチン+ゲムシタビン、シスプラチン+ドセタキセル、カルボプラチン+パクリタキセルの4つのレジメンに無作為に割り付けられた。対象は、Stage IIIB(悪性胸水を伴う)またはStage IVのNSCLC患者で、PSは0-2であった(ただし、PS 2の患者は試験途中で適格基準から除外された)。最終的に846例が解析対象となった。 合計解析集団は1,436例であった。本研究の対象患者は、転移性または悪性胸水を伴うStage IIIBの均一な集団であり、標準的な第3世代白金製剤ベースのダブルレット化学療法を受けた化学療法未治療患者に限定された。

候補変数: 27の治療前臨床変数(年齢、性別、人種、PS、病期、組織型、腫瘍測定可能性、転移部位、転移臓器数、食欲、体重減少、発熱、肺手術歴、放射線歴、合併症など)が予後因子候補として検討された。これらの変数は、ECOGのデータベースに記録された詳細な臨床情報に基づいていた。

統計的手法:

  1. 単変量Cox回帰分析: まず、各候補変数と生存期間との関連を評価するために、単変量Cox回帰分析が実施された(p≤0.05を有意水準とした)。
  2. 多変量ステップワイズCox回帰分析: 単変量解析で有意であった変数の中から、独立した予後因子を同定するために、多変量ステップワイズCox回帰分析が実施された。変数のモデルへの投入基準はp=0.2、モデルからの除外基準はp=0.1と設定された。
  3. モデル構築と検証: モデル構築は、E5592データセットの75%をランダムにサンプリングした学習データセットを用いて行われた。構築されたモデルは、残りの25%のデータを用いて内部検証された。その後、E1594データセット全例(n=846)を用いて外部検証が実施された。
  4. ノモグラム構築: 同定された独立予後因子に基づき、1年および2年生存確率を予測するノモグラムがSASソフトウェア(SAS Institute, Cary, NC)を用いて構築された。
  5. モデル識別能評価: モデルの識別能は、c-statistic(Harrell’s concordance index)を用いて評価された。c-statisticは、予測生存率と実際の生存イベントの順序がどれだけ一致するかを示す指標であり、0.5はランダムな予測、1.0は完璧な予測を意味する。
  6. 較正(Calibration): ノモグラムの予測生存率と実際の観測生存率との一致度を評価するために、較正プロットが作成された。患者はノモグラムスコアに基づいて四分位群に層別化され、各群における予測生存率と実測生存率が比較された。

全体の奏効率は20%、OS中央値は8.2ヵ月、1年生存率は33%、2年生存率は11%であった。本研究は、NCT番号は付与されていないが、大規模なランダム化第III相試験のデータを用いたretrospective cohort studyとして設計された。