- 著者: J.J. Hung, Y.C. Yeh, W.J. Jeng, K.J. Wu, B.S. Huang, Y.C. Wu, T.Y. Chou, W.H. Hsu
- Corresponding author: W.H. Hsu (Division of Thoracic Surgery, Department of Surgery, Taipei Veterans General Hospital, Taipei, Taiwan)
- 雑誌: Journal of Clinical Oncology
- 発行年: 2014
- Epub日: 2014-05-05
- Article種別: Original Article
- PMID: 24799473
背景
肺がんは世界的にがん関連死の主要な原因であり、非小細胞肺がん (NSCLC) の早期病期においては外科的切除が主要な治療法である。しかし、切除後も腫瘍再発が治療失敗の最も一般的な原因であり、特にStage IIIA患者の5年生存率は10%から30%に留まることが報告されている。そのため、切除されたNSCLC患者において、再発リスクを層別化し、その後の管理を最適化するための予後因子および予測因子の特定が不可欠である。肺腺癌はNSCLCの最も一般的な組織型であり、その組織学的な不均一性が予後予測を困難にしている。
2011年に、IASLC (International Association for the Study of Lung Cancer)、ATS (American Thoracic Society)、ERS (European Respiratory Society) は、肺腺癌の新しい分類システムを提案した。この分類は、腺癌の組織学的パターン(伏在型 [lepidic]、腺房型 [acinar]、乳頭型 [papillary]、微小乳頭型 [micropapillary]、充実型 [solid])を5%刻みで半定量的に評価し、優位パターンを定義することを推奨している。この新しい分類の予後的意義については、いくつかの研究が報告しているが、パターンの組み合わせによる予後への影響は一定せず、特に再発パターンと組織型の詳細な関係については未解明な点が残されている。例えば、Travis et al. JThoracOncol 2011は新しい分類の概要を示したが、再発パターンとの関連は詳しく検討されていない。また、Devesa et al. IntJCancer 2005は肺がんの組織型トレンドを報告しているが、個々の組織型が再発の様式にどう影響するかについては言及が不足している。さらに、Hung et al. Thorax 2009はStage I NSCLCの局所再発後の生存について報告しているが、IASLC/ATS/ERS分類と再発パターンの関連性については詳細な解析が不足している。
本研究は、完全切除されたStage IからIIIの肺腺癌患者を対象に、IASLC/ATS/ERS分類の優位パターンが再発パターン(特に胸腔内と胸腔外の区別、および局所と遠隔の区別)と患者の全生存期間 (OS)、無再発生存期間 (FFR)、疾患特異的生存期間 (DSS) に与える予測的意義を詳細に解明することを目的とした。特に、高リスク患者を特定し、より積極的な補助化学放射線療法への層別化に資する情報を提供することが、現在の臨床現場において不足している重要な知見であると考えられた。
目的
本研究の目的は、完全切除されたStage IからIIIの肺腺癌患者において、IASLC/ATS/ERS分類に基づく組織学的優位パターンが再発パターン(特に胸腔内再発と胸腔外再発の区別)に与える予測的価値、および全生存期間 (OS)、無再発生存期間 (FFR: freedom from recurrence)、疾患特異的生存期間 (DSS: disease-specific survival) への予後的影響を明らかにすることである。さらに、術後補助化学療法を受けた患者群における充実型優位腺癌の予測的意義を検討し、高リスク患者に対する治療戦略の最適化に貢献する新たな知見を提供することを目指した。これにより、個々の患者の再発リスクと予後をより正確に予測し、個別化された治療アプローチの確立に向けた基礎データを提供することが期待される。特に、微小乳頭型および充実型優位腺癌が再発パターンに与える影響を詳細に解析し、その臨床的意義を評価することを重視した。本研究で得られる予後および予測情報は、高リスク患者に対する積極的な補助化学放射線療法の層別化に貢献する。
結果
患者背景と優位パターン分布: 全573例の患者の追跡期間中央値は47.0ヶ月(範囲0.3〜135.5ヶ月)であった。縦隔リンパ節郭清および/またはサンプリングの中央値は20.0個であった。患者の特性はTable 1に示されている。215例(37.5%)が術後補助化学療法を受け、5例(0.9%)が術後補助放射線療法を、9例(1.6%)が術後補助化学放射線療法を受けた。追跡期間中に425例(74.2%)が生存し、144例(25.1%)が死亡した。5年OSは68.5%、5年FFRは60.6%、5年DSSは78.1%であった。優位パターンの分布は、伏在型35例(6.1%)、腺房型193例(33.7%)、乳頭型155例(27.1%)、微小乳頭型112例(19.5%)、充実型78例(13.6%)であった。優位パターンは、性別 (P < .01)、総腫瘍径 (P < .01)、浸潤部腫瘍径 (P < .01)、T因子 (P < .01)、N因子 (P < .01)、TNM病期 (P < .01)、および臓側胸膜浸潤 (P < .01) と有意に関連していた。特に、充実型と微小乳頭型は、より進行した病期の割合が高い傾向を示した。
再発率と優位パターン: 全体で186例(32.5%)が再発を経験した。微小乳頭型優位腺癌の再発率は50.5%、充実型優位腺癌の再発率は52.2%であり、これらは伏在型(17.6%)、腺房型(27.0%)、乳頭型(31.9%)と比較して有意に高かった (P < .01)。この結果は、高悪性度パターンにおける再発傾向が明確であることを示している (Table 1)。再発までの期間中央値は18.0ヶ月(範囲0.7〜93.4ヶ月)であった。
初回再発パターン(胸腔内 vs 胸腔外): 初回再発部位が特定された140例の患者において、再発パターンを詳細に解析した (Table 2)。微小乳頭型および充実型優位腺癌は、胸腔外のみの初回再発を経験する可能性が有意に高かった (P < .01)。具体的には、微小乳頭型/充実型グループでは胸腔外のみの再発が61.0%であったのに対し、胸腔内のみの再発は37.0%であった。一方、伏在型/腺房型/乳頭型グループでは、胸腔外のみの再発が39.0%に対し、胸腔内のみの再発が63.0%と逆の傾向を示した。局所のみの再発と遠隔転移の比較では、優位パターン間に有意差は認められなかった (P = .48)。
全生存期間 (OS) の予測因子: 単変量解析では、総腫瘍径 (P < .01)、浸潤部腫瘍径 (P < .01)、および優位組織型パターン (P < .01) がOSの有意な予後因子であった (Table 3, Fig 1A)。多変量解析では、浸潤部腫瘍径 (HR 1.4, 95% CI 1.3-1.5, P < .01) と優位パターン群(微小乳頭型/充実型 vs その他)がOSの独立した予後因子として同定された (P = .01)。微小乳頭型優位腺癌のハザード比 (HR) は伏在型と比較して3.2 (95% CI 1.3-8.4, P = .02) であり、充実型優位腺癌のHRは4.9 (95% CI 1.9-12.7, P < .01) であった (Table 4)。
無再発生存期間 (FFR) の予測因子: 単変量解析では、総腫瘍径 (P < .01)、浸潤部腫瘍径 (P < .01)、優位組織型パターン (P < .01) がFFRの有意な予後因子であった (Table 3, Fig 1B)。多変量解析においても、浸潤部腫瘍径 (HR 1.5, 95% CI 1.4-1.6, P < .01) と優位パターン群がFFRの独立した予後因子であった (P = .02)。
疾患特異的生存期間 (DSS) の予測因子: 単変量解析では、総腫瘍径 (P < .01)、浸潤部腫瘍径 (P < .01)、優位組織型パターン (P < .01) がDSSの有意な予後因子であった (Table 3, Fig 1C)。多変量解析では、浸潤部腫瘍径 (HR 1.4, 95% CI 1.3-1.6, P = .01) と優位パターン群がDSSの独立した予後因子として確認された (P < .01)。ブートストラップ解析でも、優位パターン群がOS、FFR、DSSの有意な予後因子であることが安定して示された。
補助化学療法と充実型優位腺癌の予後: 補助化学療法を受けていない患者群では、充実型優位腺癌はOS (P < .01)、FFR (P < .01)、DSS (P < .01) のいずれにおいても不良な予後因子であった (Fig 1G-1I)。補助化学療法を受けた患者群においても、充実型優位腺癌はOSの有意な予後不良因子として認められ (HR 2.2, 95% CI 1.0-4.8, P = .04)、FFRについても有意な傾向が示された (P = .08)。この結果は、現行の標準的なプラチナ系化学療法が、充実型優位腺癌のリスクを完全に軽減できない可能性を示唆している。補助放射線療法を受けた患者群では、新しい分類システムによる有意な予測効果は認められなかった。
考察/結論
本研究は、完全切除されたStage IからIIIの肺腺癌患者において、IASLC/ATS/ERS分類が再発パターンおよび患者生存に対する独立した予後・予測因子であることを明確に示した。特に、微小乳頭型および充実型優位腺癌が、伏在型、腺房型、乳頭型と比較して有意に高い再発率(50%から52%)を示し、かつ初回再発が胸腔外に多いという知見は、重要な臨床的含意を持つ。この胸腔外(遠隔)転移の頻度が高いという事実は、これらの組織型が早期から血行性転移能を有し、局所療法のみでは再発制御に限界があることを強く示唆している。
先行研究との違い: 従来の報告では、IASLC/ATS/ERS分類の予後的意義が示されてきたが、再発パターン、特に胸腔内と胸腔外の初回再発部位との関連を詳細に検討した研究は限られていた。本研究は、この点においてこれまでの研究と異なり、微小乳頭型および充実型優位腺癌が胸腔外初回再発の可能性を著しく高めることを明らかにした。これは、これらの組織型が持つ生物学的特性、すなわち早期からの全身性転移傾向を示唆するものであり、従来の局所再発と遠隔再発の分類だけでは捉えきれない重要な側面である。
新規性: 本研究で初めて、補助化学療法を受けた患者群においても充実型優位腺癌がOSの独立した予後不良因子として残存することを新規に同定した。具体的には、補助化学療法を受けた充実型優位腺癌患者のOSにおけるハザード比は2.2 (95% CI 1.0-4.8, P = .04) であった。この結果は、現行の標準的なプラチナ系化学療法が充実型腺癌の持つ高い悪性度を完全に克服できていない可能性を示唆しており、これまで報告されていない重要な知見である。このことは、充実型優位腺癌に対するより強力な治療戦略、例えば分子標的薬や免疫チェックポイント阻害薬との併用療法、あるいは新規薬剤の開発の必要性を裏付けるものである。
臨床応用: 本知見は、肺腺癌患者の個別化医療における臨床応用において極めて重要である。微小乳頭型および充実型優位腺癌の患者は、術後早期から遠隔転移のリスクが高いことから、より厳格な術後サーベイランス、あるいは標準治療を超える積極的な補助療法(例えば、より強力な化学療法レジメンや、分子標的薬、免疫チェックポイント阻害薬の早期導入)の適応を検討する根拠となる。これらの組織型を持つ患者を早期に特定し、リスクに応じた層別化治療を行うことで、予後改善に繋がる可能性がある。
残された課題: 本研究は単施設の後向き研究であり、観察期間が比較的短い(中央値47ヶ月)というlimitationがある。病理学的評価における施設間差異も課題として残されている。Yoshizawaらによるアメリカ人コホートと比較して、本台湾コホートでは微小乳頭型の頻度(19.5%)が高いことが示されており、アジア人集団における組織型分布の特性を反映している可能性がある。今後の検討課題として、多施設共同による前向きコホート研究での検証が求められる。また、各組織型に最適化された補助治療戦略を評価するための無作為化比較試験の実施が、今後の研究の方向性として重要である。
方法
本研究は、台湾の台北栄民総医院における単施設後向き観察研究として実施された。2004年1月から2010年12月までの期間に、完全切除術を受けた肺腺癌患者の診療記録を遡及的にレビューした。本研究は施設内倫理審査委員会の承認を得て実施された。研究対象とする適格症例は、Stage IからIIIの浸潤性肺腺癌患者とした。除外基準は以下の通りである。Stage IVの患者(新しい分類システムにおける予後予測の潜在的価値が低いと考えられるため)、術前化学療法を受けた患者(術前化学療法が優位パターンに影響を与える可能性があるため)、粘液性腺癌(5例)、コロイド腺癌(2例)、上皮内腺癌(6例)、微小浸潤性腺癌(4例)の計17例。これらの除外基準を適用した結果、最終的に573例の浸潤性腺癌患者が解析対象となった。術前病期診断には、以前に報告されたプロトコルに従い、一部の患者(173例、30.0%)でPETスキャンが利用された。全患者は縦隔リンパ節郭清および/またはサンプリングを伴う肺癌腫瘍の完全切除術を受けた。病期はAmerican Joint Committee on Cancer (AJCC) 病期分類マニュアルおよびInternational Union Against Cancer (UICC) のTNM分類マニュアルに従って決定された。
病理学的評価: 全切除標本はホルマリン固定され、ヘマトキシリン・エオジン (HE) 染色が施された。これらの標本は、2名の病理専門医 (T.Y.C.およびY.C.Y.) によって顕微鏡下に評価された。IASLC/ATS/ERS分類基準に従い、各腫瘍における伏在型、腺房型、乳頭型、微小乳頭型、充実型の各組織学的パターンの割合が5%刻みで記録された。優位パターンは、最も高い割合を占める組織学的成分として定義された。浸潤部腫瘍径は、総腫瘍径に非伏在型成分の割合を乗じることで算出された。
患者フォローアップとアウトカム: 全患者は、以前に報告されたプロトコルに従って外来でフォローアップされた。二次原発性肺がんは、Hung et al. Thorax 2009が提案した基準に基づいて再発性NSCLCと鑑別された。アウトカム指標は、全生存期間 (OS)、無再発生存期間 (FFR)、疾患特異的生存期間 (DSS) とした。OSは手術日から死亡または最終追跡日まで、FFRは手術日から初回再発または最終追跡日まで、DSSは手術日から腫瘍関連死までと定義された。再発パターンは、局所再発対遠隔再発、および胸腔内再発対胸腔外再発に分類された。局所再発は同側胸腔および縦隔内の腫瘍再発、遠隔再発は対側肺または胸腔・縦隔外の腫瘍再発と定義された。胸腔内再発は同側胸腔、縦隔、対側胸腔内の腫瘍再発、胸腔外再発は縦隔および両側胸腔外の腫瘍再発と定義された。初回再発は最初に発見された再発とされ、全体再発はフォローアップ中に確認された全ての再発を指す。局所と遠隔、または胸腔内と胸腔外の両方の再発が3ヶ月以内に確認された場合は、両方の再発として定義された。
統計解析: 各群間のカテゴリ変数および連続変数の比較には、カイ二乗検定、対応のないt検定、または一元配置分散分析が適切に用いられた。OS、FFR、DSSの確率はKaplan-Meier法を用いて算出された。優位パターン群間の比較にはログランク検定が使用された。単変量解析および多変量解析は、IBM SPSS Statisticsバージョン20を用いたCox比例ハザードモデルにより実施された。多変量解析には、T因子、N因子、TNM病期のうち、TNM病期のみが組み込まれた。統計的有意水準はP値が0.05未満と定義された。多変量回帰分析における予測因子の安定性を評価するため、1,000サンプルを用いたブートストラップ解析が実施された。