- 著者: Hung JJ, Yeh YC, Jeng WJ, Chien HC, Wu YC, Chou TY, Hsu WH
- Corresponding author: Jung-Jyh Hung (Division of Thoracic Surgery, Taipei Veterans General Hospital, Taiwan)
- 雑誌: Journal of Thoracic Oncology
- 発行年: 2015
- Epub日: N/A
- Article種別: Original Article
- PMID: 26291011
背景
肺癌は世界的にがん関連死の主要な原因であり、切除可能な早期の非小細胞肺癌(NSCLC)では外科的切除が標準治療として確立されている。しかし、完全切除後の腫瘍再発は治療失敗の最も一般的な原因であり、Stage I NSCLC における術後再発率は 22% から 38% に達することが知られている。再発後生存期間(PRS; postrecurrence survival)に関連する予後因子を明らかにする試みはこれまでにも行われており、無病生存期間(DFI; disease-free interval)の短縮、再発後治療の有無、転移臓器の種類などが PRS の予後指標として報告されてきた(Sugimura et al. AnnThoracSurg 2007)。著者らの先行研究では、完全切除 Stage I NSCLC における局所再発後の PRS を解析し、再発後の外科的治療が PRS を有意に改善することを報告した(Hung et al. Thorax 2009)。続いて同グループは、遠隔転移後の PRS においても DFI と再発後治療が独立した予後因子であることを明らかにした(Hung et al. Thorax 2010)。
しかし、これらの先行研究の多くは腺癌と扁平上皮癌を区別せずに解析を行っていた。両組織型は分子背景、薬剤感受性、転移パターンが大きく異なるにもかかわらず、腺癌特異的な PRS 予後因子に関するエビデンスは手薄であり、明確な知識ギャップ(knowledge gap)が存在していた。さらに、2011 年に IASLC/ATS/ERS(International Association for the Study of Lung Cancer/American Thoracic Society/European Respiratory Society)が提唱した新肺腺癌分類(Travis et al. JThoracOncol 2011)は、lepidic、acinar、papillary、micropapillary、solid の predominant pattern を 5% 単位で半定量評価する系統的分類体系であり、術後再発や生存に対して高い予後予測能を持つことが示されていた。著者らは同分類に基づく micropapillary/solid 優位パターンが Stage I 腺癌の再発リスクおよび生存において重要な独立予後因子であることをすでに示していたが(Hung et al. JClinOncol 2014)、同分類が切除後再発例の PRS 予後に与える影響についてはこれまで検討されておらず、臨床現場におけるデータが不足していた。腺癌に特化した PRS 解析において、この組織学的特性を組み込んだ詳細な検証が求められていた。
目的
本研究の目的は、完全切除後に再発をきたした肺腺癌患者における再発後生存期間(PRS)の予後因子および予測因子をレトロスペクティブコホート(retrospective cohort)において包括的に解析することである。特に、2011 年の IASLC/ATS/ERS 新肺腺癌分類における predominant pattern(最優位組織型)が再発後の生存期間に与える影響を評価し、再発後の治療戦略立案に資する臨床的指標を確立することを目指した。
結果
全体コホートの臨床病理学的背景と再発パターン: 対象となった再発肺腺癌 179 例の平均年齢は 66.0 ± 11.3 歳であり、男性が 102 例(57.0%)、女性が 77 例(43.0%)であった。術式は肺葉切除(lobectomy)が 157 例(87.7%)と大部分を占めていた(Table 1)。病理学的 predominant pattern の内訳は、acinar が 47 例(26.3%)、papillary が 43 例(24.0%)、micropapillary が 54 例(30.2%)、solid が 35 例(19.5%)であった。再発までの期間(DFI)の中央値は 18.0 ヶ月であった。再発パターンは、局所再発のみが 25 例(14.0%)、遠隔転移のみが 56 例(31.2%)、局所および遠隔再発の両者を有したのが 81 例(45.3%)、不明が 17 例(9.5%)であった(Table 2)。遠隔転移臓器として最も頻度が高かったのは対側肺で 70 例(39.1%)であり、次いで脳が 60 例(33.5%)、骨が 56 例(31.3%)であった。全体コホート 179 例における中央観察期間は 47.3 ヶ月であり、最終観察時点で 90 例(50.3%)が生存、88 例(49.3%)が死亡、1 例(0.6%)が生存ステータス不明であった。コホート全体の 2 年 PRS 率は 65.2%、5 年 PRS 率は 29.8% であった(Fig. 1)。
全体コホートにおける PRS の多変量予後解析: 全体コホート 179 例を対象とした単変量解析において、N2 病期(vs N0/N1, p=0.006)、TNM Stage III(vs Stage I/II, p=0.020)、micropapillary/solid 優位パターン群(vs acinar/papillary, p=0.009)、骨転移の存在(p=0.036)、および肝転移の存在(p=0.033)が PRS 悪化の有意な予後因子として同定された(Table 3)。多変量 Cox 比例ハザード解析の結果、micropapillary/solid 優位パターン群は acinar/papillary 群と比較して、独立した有意な PRS 悪化因子であることが示された。そのハザード比は HR 2.615 (95% CI 1.395-4.901, p=0.003) であった。また、再発後治療の施行は極めて強力な予後改善因子であり、無治療群を基準とした場合、手術を伴う治療(HR 0.053; 95% CI 0.014-0.199; p<0.001)および化学療法・放射線療法・EGFR-TKI 療法(HR 0.122; 95% CI 0.040-0.368; p<0.001)のいずれも有意に良好な PRS と関連していた。さらに、初回手術後の術後補助化学療法(adjuvant chemotherapy)の施行歴も、多変量解析において独立した PRS 改善因子として抽出された(HR 0.441; 95% CI 0.210-0.926; p=0.030)。
再発後治療施行コホートにおける予測因子解析: 再発後無治療の 5 例および治療状況不明の 15 例を除外した、実際に再発後治療を施行された 159 例のサブグループにおいて解析を行った(Table 4)。この治療施行コホート(n=159)を対象とした多変量解析において、micropapillary/solid 優位パターン群は、acinar/papillary 群と比較して唯一の独立した有意な予後不良因子として同定され、HR 2.570 (95% CI 1.357-4.865, p=0.004) を示した(Fig. 2)。再発後の外科的切除の施行は PRS 改善の有意な傾向を示したものの、統計的有意差には至らなかった(HR 0.449; 95% CI 0.191-1.057; p=0.067)。また、単変量解析で有意であった EGFR-TKI 療法の施行(p=0.044)は、多変量解析では有意性を失った(HR 0.891; 95% CI 0.463-1.713; p=0.728)。
組織型と再発形式および治療内容の相関: acinar/papillary 優位群(n=81)と micropapillary/solid 優位群(n=78)の間で、再発時の臨床的特徴を比較した。局所再発のみをきたした割合は、acinar/papillary 群で 11.1%(9/81 例) vs micropapillary/solid 群で 17.9%(14/78 例)であり、両群間に有意差を認めなかった(p=0.907)。また、単一臓器のみに再発をきたした割合も、acinar/papillary 群で 51.9%(42/81 例) vs micropapillary/solid 群で 51.3%(40/78 例)と、転移臓器数においても有意な分布の差はなかった(p=0.732)。さらに、再発後に選択された治療法(手術、化学療法、放射線療法、EGFR-TKI 療法の各施行率)についても、両群間で統計学的な偏りは検出されなかった。
考察/結論
本研究は、完全切除後の肺腺癌再発症例において、2011 年の IASLC/ATS/ERS 新腺癌分類に基づく病理組織学的最優位パターン(predominant pattern)が、再発後生存期間(PRS)に与える影響を初めて明らかにした画期的な報告である。
先行研究との違い: 従来の切除後 NSCLC 再発例を対象とした予後解析において、PRS を規定する主要な因子は DFI の長さや再発後治療の有無、転移臓器の部位であり、腫瘍の組織学的サブタイプが PRS に影響を与えるか否かについては一貫した見解が得られていなかった。著者らの過去の Stage I NSCLC を対象とした検討(Hung et al. Thorax 2009、Hung et al. Thorax 2010)においても、組織型などの生物学的因子は PRS の独立した予後因子としては抽出されなかった。これに対し、本研究は腺癌に特化し、詳細な半定量病理評価を導入した点でこれまでの報告と異なり、micropapillary/solid 優位パターンが DFI や初期病期を凌駕する強力な予後不良因子であることを突き止めた。また、Shimada らの報告(Chest 2013)や Song らの報告(Eur J Cardiothorac Surg 2014)が Stage I 症例のみに限定されていたのに対し、本研究は Stage I から III までの幅広い切除後再発腺癌を対象としており、より実臨床に即した包括的な検証となっている点が対照的である。
新規性: 本研究は、IASLC/ATS/ERS 分類における micropapillary/solid 優位パターンが、切除肺腺癌患者の再発後生存における独立した予後不良因子であることを本研究で初めて新規に示した。これまで同分類は、初期手術後の無再発生存期間や全生存期間の予測因子として広く検証されてきたが、再発をきたした後の進行期における治療成績や生存(PRS)との関連を証明した報告は存在せず、これまで報告されていない。切除標本から得られる最優位組織型という客観的な病理情報が、再発後の腫瘍の生物学的悪性度や治療抵抗性を強く反映しているという事実は、極めて新規性の高い知見である。
臨床応用: 本研究の知見は、再発後の治療計画における個別化医療の推進、すなわち臨床応用に大きく寄与する。初回手術時の病理診断で micropapillary または solid 優位型と判定された症例が再発した場合には、通常の acinar/papillary 優位型に比べて PRS が著しく不良であるため、より強力な全身化学療法や、切除可能病変に対する積極的なメタスタセクトミー(転移巣切除術)を含む集学的治療を早期から導入する臨床的有用性が示唆される。また、多変量解析において術後補助化学療法の施行歴が良好な PRS と独立して相関していたことは、初期治療における補助療法の介入効果が、再発後の腫瘍制御や宿主の生存維持に対しても持続的な好影響をもたらす可能性を示しており、臨床現場における初期治療選択の重要性を再認識させるものである。
残された課題: 本研究にはいくつかの limitation が存在する。第一に、単一施設におけるレトロスペクティブ研究であるため、症例選択バイアスや時代に伴う再発後治療の変遷によるバイアスが避けられない。第二に、EGFR 遺伝子変異ステータスのデータが全体の 27.0% でしか得られておらず、EGFR-TKI 療法の効果や EGFR 変異の有無が PRS に与える影響を十分に補正できていない点が挙げられる。第三に、対側肺転移と二次原発肺癌の鑑別が生検未施行例において臨床経過に依存しているため、分類の誤りが完全に排除できていない可能性がある。今後の検討課題として、micropapillary/solid パターンが示す高い浸潤能や薬剤耐性の分子生物学的メカズムの解明が必要である。さらに、本病理分類を層別化因子として組み込んだ多施設共同のプロスペクティブ研究や、再発後の積極的治療介入の意義を検証するランダム化比較試験の実施など、更なる検討が望まれる。
方法
本研究は、2004 年 1 月から 2010 年 12 月の間に台北退役軍人総合病院(Taipei Veterans General Hospital)において肺腺癌の完全切除(R0 切除)を受けた 590 例を対象としたレトロスペクティブコホート(retrospective cohort)研究である。術前化学療法(ネオアジュバント療法)施行例および初診時 Stage IV 症例は除外した。590 例中 186 例(31.5%)が切除後に再発をきたし、このうち lepidic 優位型と判定された 7 例(少数例であり、かつ 5 例で完全なフォローアップが得られなかったため)を除外した最終的な 179 例を解析対象コホートとした。病期分類は AJCC/UICC TNM 分類第 7 版に準拠した。
病理組織学的評価においては、切切除標本の全スライドを対象とし、IASLC/ATS/ERS 分類に基づいて lepidic、acinar、papillary、micropapillary、solid の各組織パターンを 5% 単位で半定量的に評価し、最も占有割合の高いパターンを predominant pattern(最優位組織型)と定義した。腫瘍径 3 cm 以下の症例では腫瘍全体を、3 cm を超える症例では 1 cm ごとに少なくとも 1 枚以上の切片を追加して詳細に評価した。再発後の転移臓器の同定や、二次原発肺癌との鑑別には Girard らの病理学的・臨床的基準を適用した。
主要評価項目(primary endpoint)は再発後生存期間(PRS)とし、再発確認日から死亡または最終フォローアップ日までの期間と定義した。統計解析では、Kaplan-Meier 法を用いて生存曲線を記述し、群間比較にはログランク検定(log-rank test)を用いた。単変量解析および多変量解析には Cox 比例ハザードモデル(Cox proportional hazards model)を用い、単変量解析で p < 0.1 であった変数を多変量解析モデルに投入した。また、年齢、性別、術後補助療法、再発パターンについては、p 値にかかわらず調整変数として多変量解析に含めた。すべての統計的検定は両側検定とし、p < 0.05 をもって統計的有意差ありと判定した。解析には SPSS version 20(IBM, Armonk, NY)を使用した。