• 著者: Negrao MV, Skoulidis F, Montesion M, Schulze K, Bara I, Shen V, Xu H, Hu S, Sui D, Elamin YY, Le X, Goldberg ME, Murugesan K, Wu CJ, Zhang J, Barreto DS, Robichaux JP, Reuben A, Cascone T, Gay CM, Mitchell KG, Hong L, Rinsurongkawong W, Roth JA, Swisher SG, Lee J, Tsao A, Papadimitrakopoulou V, Gibbons DL, Glisson BS, Singal G, Miller VA, Alexander B, Frampton G, Albacker LA, Shames D, Zhang J, Heymach JV
  • Corresponding author: John V. Heymach, MD, PhD (MD Anderson Cancer Center, Houston, TX, USA); Jianjun Zhang, MD, PhD (MD Anderson Cancer Center, Houston, TX, USA)
  • 雑誌: Journal for ImmunoTherapy of Cancer
  • 発行年: 2021
  • Epub日: N/A
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 34376553

背景

非小細胞肺癌 (NSCLC) におけるドライバー遺伝子変異 (EGFR、KRAS、ALK、ROS1、HER2、BRAF、MET、RET) は、それぞれ異なる臨床的および免疫学的特性を持つことが知られている。しかし、これらの変異タイプ別に腫瘍変異負荷 (TMB)、PD-L1発現、および免疫チェックポイント阻害薬 (ICB) 治療アウトカムを系統的に比較した大規模データはこれまで不足していた。特に、EGFR変異NSCLCではICBの有効性が低いことが複数の研究で示されているが、BRAF、MET、ROS1などの他のドライバー変異におけるICB応答性は未解明な点が多かった。また、同一のドライバー変異サブグループ内において、ICBアウトカムを規定するTMB、PD-L1、腫瘍微小環境などの分子特性に関する詳細な解析も不足していた。例えば、Rizvi et al. Science 2015Hellmann et al. NEnglJMed 2018はTMBとICB応答性の関連を示唆しているが、ドライバー変異との複合的な影響についてはさらなる検討が必要であった。Reck et al. NEnglJMed 2016Garon et al. NEnglJMed 2015などの先行研究ではPD-L1発現とICB効果の関連が示されているが、ドライバー変異との詳細な相互作用については知識のギャップが残されている。本研究は、この知識のギャップを埋めることを目的としている。

目的

本研究の目的は、NSCLC患者の大規模コホートを用いて、ドライバー遺伝子変異がTMB、PD-L1発現、およびICB治療アウトカムに与える影響を包括的に評価することである。具体的には、ドライバー変異別のTMBおよびPD-L1発現を定量化し、MD Anderson Cancer Center (MDACC) およびClinico-Genomic Database (CGDB) コホート (合計n=1066) を用いて、各変異サブグループにおけるICB治療の無増悪生存期間 (PFS)、全生存期間 (OS)、および客観的奏効率 (ORR) を比較し、変異特異的なICB応答性を明らかにすることを目指した。本研究は、特定のドライバー変異を有するNSCLC患者に対するICB治療の臨床的有用性を評価する後ろ向きコホート研究としてデザインされた。

結果

ドライバー変異別のTMBプロファイル: FMIバイオマーカーコホート (n=4017) の解析により、ドライバー変異の種類によってTMBが大きく異なることが示された (Figure 2C)。KRAS変異腫瘍のTMB中央値は7.8 mutations/Mbであった。これに対し、BRAF non-V600E変異腫瘍は9.6 mutations/Mbと有意に高いTMBを示した (p=0.003)。一方、ALK (n=194)、EGFR classic (n=732)、HER2 (n=105)、RET (n=54)、ROS1 (n=55) 変異腫瘍は、いずれもTMB中央値が3 mutations/Mb未満と極めて低かった (全てp<0.001 vs KRAS)。この結果は、特定のドライバー遺伝子変異の存在が低いTMBと強く相関することを示唆しており、これらの変異を有する腫瘍では免疫原性が低い可能性が考えられる。

ドライバー変異別のPD-L1発現プロファイル: PD-L1高発現 (TPS ≥50%) の割合もドライバー変異によって異なった (Figure 2B)。BRAF V600E変異腫瘍では48.3%と高いPD-L1高発現率を示した。MET exon 14スキッピング変異腫瘍では55.2%と最も高いPD-L1高発現率が観察された。一方、EGFR classic、EGFR exon 20、およびHER2変異腫瘍では、PD-L1高発現率はそれぞれ19%、20%、20%と低く、KRAS変異腫瘍 (37%) と比較して有意に低かった (全てp<0.05)。ALK、ROS1、RET融合遺伝子を有する腫瘍では、PD-L1高発現率がそれぞれ34%、42%、37%と比較的高い傾向にあった (Figure 2A)。

ICB治療アウトカムのドライバー変異別比較 (MDACCコホート): MDACCコホート (n=172) において、BRAF変異群はICB治療に対して最も良好なアウトカムを示した (Figure 1A)。BRAF変異腫瘍のPFS中央値は7.4ヶ月であり、KRAS変異腫瘍の2.8ヶ月と比較して有意に延長していた (HR 0.36, 95% CI 0.14-0.88, p=0.026)。また、BRAF変異群のORRは62%であり、KRAS変異群の24%と比較して高かった (Figure 1C)。OS中央値はBRAF変異群で35.6ヶ月、KRAS変異群で16.8ヶ月であった (HR 0.65, 95% CI 0.26-1.63, p=0.363)。 対照的に、EGFR classic変異腫瘍はICB治療で最も不良なアウトカムを示し、PFS中央値は1.8ヶ月と最短であった。OS中央値は11.3ヶ月であり、KRAS変異腫瘍と比較して有意に短かった (HR 2.01, 95% CI 1.22-3.31, p=0.006) (Figure 1B)。HER2変異腫瘍もEGFR classic変異腫瘍と同様にPFS中央値1.9ヶ月と不良な結果であった。ALK、ROS1、RET融合遺伝子およびMET exon 14スキッピング変異を有する腫瘍も、多くが進行性疾患 (progressive disease) を示し、全般的にICBに対する応答は不良であった。

ICB治療アウトカムのドライバー変異別比較 (CGDBコホート): CGDBコホート (n=894) の解析結果もMDACCコホートと一致する傾向を示した (Figure 1D, E)。BRAF V600E変異腫瘍のPFS中央値は9.8ヶ月、OS中央値は20.8ヶ月であり、KRAS変異腫瘍 (PFS 3.7ヶ月、OS 16.8ヶ月) と比較して良好な傾向が認められた。BRAF non-V600E変異腫瘍のPFS中央値は5.4ヶ月であり、V600E変異腫瘍よりは短いが、KRAS変異腫瘍よりは良好な傾向を示した。MET exon 14スキッピング変異腫瘍のPFS中央値は2.7ヶ月であり、KRAS変異腫瘍との有意な差は認められなかった (HR 1.13, 95% CI 0.69-1.84, p=0.59)。

多変量解析によるICB治療PFSの予測因子 (CGDBコホート): CGDBコホートにおける多変量解析では、BRAF V600E変異 (HR 0.58, 95% CI 0.35-0.98, p=0.041)、PD-L1陽性発現 (HR 0.57, 95% CI 0.35-0.92, p=0.022)、および高TMB (≥10 mutations/Mb) (HR 0.66, 95% CI 0.53-0.82, p<0.001) が独立してICB治療におけるPFS延長と関連することが示された (Supplementary Table S1A)。この結果は、BRAF V600E変異がTMBやPD-L1発現とは独立した有利な予測因子である可能性を示唆している。

考察/結論

本後ろ向き大規模解析は、NSCLCにおけるドライバー遺伝子変異の種類によってICB治療アウトカムが著しく異なることを明らかにした。特に、BRAF V600E変異を有するNSCLC患者は、KRAS変異患者と比較してICB治療から最も優れた臨床的利益を得られることを本研究で初めて系統的に示した。MDACCコホートではPFS中央値7.4ヶ月 (KRAS 2.8ヶ月, HR 0.36, 95% CI 0.14-0.88, p=0.026)、ORR 62%と、BRAF V600E変異腫瘍が著しく良好なICBアウトカムを示した。この優れた利益は、BRAF V600E変異腫瘍の高いTMB (9.6 mutations/Mb vs KRAS 7.8 mutations/Mb) と高いPD-L1発現率 (48.3%) によって部分的に説明可能である。この知見は、BRAF V600E変異を有する患者におけるICBの適応選択に強力な根拠を提供するものであり、臨床応用への意義は大きい。

一方、EGFR、HER2、ALK、ROS1、RET、MET変異を有する腫瘍では、TMBが極めて低い (<3 mutations/Mb) ことが確認され、ICB治療アウトカムも不良であった。これらのドライバー変異を有する患者へのICB単剤投与は適切でなく、分子標的薬などの他の標準治療が優先されるべきという既存の臨床推奨を支持する。興味深いことに、ALKおよびROS1融合遺伝子を有する腫瘍ではPD-L1 TPS≥50%の割合が比較的高かったにもかかわらず、ICBアウトカムは不良であった。この結果は、PD-L1発現がICB有効性の代替バイオマーカーとして機能しない変異特異的なパターンが存在することを示唆しており、これまで報告されていない新規の知見である。これは、TMBやPD-L1発現とは異なる、ドライバー変異特異的な要因がICB感受性に影響を与える可能性を示唆する。

本研究は、これまでの報告と異なり、BRAF変異NSCLCにおけるICBの優位性を大規模コホートで明確に示した点で新規性がある。Rizvi et al. JClinOncol 2018などの先行研究はTMBやPD-L1の予測的価値を示しているが、ドライバー変異ごとの詳細な比較は不足していた。

残された課題として、本研究は後ろ向き研究であるため、選択バイアスや後続治療の不均一性といったlimitationがある。特に、MDACCコホートではTMBデータが利用できず、CGDBコホートではPD-L1ステータスが欠損している患者が多かったため、各ドライバー変異グループ内でのTMBやPD-L1の予測性能を詳細に解析する能力が制限された。また、特定の遺伝子変異グループ (例: BRAF変異群) の患者数が少なかったため、V600Eとnon-V600E間の比較を十分に検証できなかった。今後の検討課題として、これらの限界を克服するための前向き検証試験や、ICBと化学療法併用時のドライバー変異の影響を評価する研究が必要である。

方法

本研究は後ろ向き観察研究として実施された。解析対象コホートは以下の3つである。

  1. FMIバイオマーカーコホート (n=4017): Foundation Medicine社 (FMI) のFoundationCOREデータベースから得られたNSCLC患者の分子データ(ドライバー変異、TMB、PD-L1発現)を解析し、変異とバイオマーカーの関連を評価した。
  2. MDACC臨床コホート (n=172): MD Anderson Cancer Center (MDACC) のGEMINIデータベースから、ドライバー変異を有する進行NSCLC患者で、2014年1月から2018年5月の間に単剤ICB治療(ペムブロリズマブ、ニボルマブ、アテゾリズマブ、デュルバルマブ)を受けた患者を抽出した。中央値追跡期間は29.1ヶ月 (95% CI 26.2-33.6) であった。
  3. CGDB免疫療法コホート (n=894): Flatiron Health-Foundation Medicine Inc Clinico-Genomic Database (CGDB) から、ドライバー変異を有する進行NSCLC患者で、2011年1月から2018年12月の間に単剤ICB治療を受けた患者を抽出した。中央値追跡期間は17.8ヶ月 (95% CI 15.6-19.8) であった。

対象としたドライバー変異は、KRAS (参照群)、EGFR classic (exon 19欠失/L858R)、EGFR exon 20、BRAF V600E、BRAF non-V600E、HER2、ALK、ROS1、RET、MET exon 14スキッピング変異であった。TMBはFoundationOne CDxアッセイによりmutations/Mbで定量化され、高TMBは≥10 mutations/Mbと定義された。PD-L1発現は免疫組織化学 (IHC) (22C3/SP263) により腫瘍細胞のPD-L1陽性率 (TPS) で評価され、陽性 (≥1%) および高発現 (≥50%) に分類された。主要アウトカムはPFS、OS、ORRであり、KRAS変異群を参照として、ログランク検定およびCox比例ハザードモデルを用いた多変量解析により比較された。MDACCコホートではRECIST V.1.1に基づく最良奏効が評価された。統計解析にはGraphPad Prism V.7.0、IBM SPSS Statistics V.24.0、SAS、RStudio V.3.5.5が用いられ、p値≤0.05を有意とした。本研究はMDACC IRB (Institutional Review Board) の承認を得て実施された。