• 著者: Doroshow DB, Wei W, Gupta S, Zugazagoitia J, Robbins C, Adamson B, Rimm DL
  • Corresponding author: Deborah B. Doroshow, MD, PhD (Icahn School of Medicine at Mount Sinai, New York, NY, USA)
  • 雑誌: Journal of Thoracic Oncology
  • 発行年: 2021
  • Epub日: 2021-08-26
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 34455068

背景

進行非小細胞肺がん (NSCLC) 患者に対する免疫チェックポイント阻害薬 (ICI) 治療において、プログラム細胞死リガンド1 (PD-L1) の腫瘍細胞における発現レベルを示す腫瘍細胞割合スコア (TPS) は、全生存期間 (OS) 改善を予測するバイオマーカーとして確立されている。特に、PD-L1 TPSが50%以上の患者に対する一次治療としてのペムブロリズマブ単剤療法は、その有効性が複数の臨床試験で示され、広く承認されている。しかし、このPD-L1 TPSの予測的価値が、NSCLCの組織型(非扁平上皮がん vs 扁平上皮がん)によって異なる可能性が、以前から示唆されていた。

例えば、二次治療におけるニボルマブとドセタキセルの比較試験では、PD-L1 TPSは非扁平上皮がん患者の生存期間改善と関連したが、扁平上皮がん患者ではその関連が認められなかったことが報告されている (Borghaei et al. NEnglJMed 2015Brahmer et al. NEnglJMed 2015)。これらの試験は、PD-L1の予測能が組織型によって異なる可能性を示唆していた。一次治療におけるペムブロリズマブ単剤療法の有効性を評価した主要な第III相臨床試験であるKEYNOTE-024(PD-L1 TPS ≥50%の患者を対象)やKEYNOTE-042(PD-L1 TPS ≥1%の患者を対象)では、PD-L1高発現群におけるペムブロリズマブの優越性が示された (Mok et al. Lancet 2019)。しかし、これらの試験は非扁平上皮がんと扁平上皮がんの患者を混合して解析しており、組織型別にPD-L1の予測能の差を系統的に検討する目的でデザインされていなかったため、組織型による効果修飾の有無については明確な結論が得られていなかった。この点において、PD-L1の予測的価値が組織型によって異なる可能性は依然として未解明な課題として残されていた。

実臨床においては、組織型を問わずPD-L1 TPS高値の患者に対してペムブロリズマブ単剤が一次治療として広く使用されている。しかし、扁平上皮がん患者ではPD-L1 TPSが50%以上であっても、非扁平上皮がん患者と比較してペムブロリズマブ単剤の有効性が変動するという臨床的印象が一部で存在した。このため、実世界データ (RWD) を用いた大規模な後ろ向き解析を通じて、PD-L1 TPSの予測的価値が組織型によってどのように異なるのかを検証する必要性が指摘されていた。特に、PD-L1発現と組織型間の交互作用の有無を統計的に評価することは、治療戦略の最適化において重要な情報となるが、この点に関するエビデンスが不足していた。本研究は、この未解明なギャップを埋めることを目的として実施された。

目的

本研究の主要な目的は、Flatiron Health電子健康記録 (EHR) データベースから抽出された実世界データを用いて、一次治療としてペムブロリズマブ単剤療法を受けた進行NSCLC患者 (n=1460) におけるPD-L1 TPSのOS予測能が、非扁平上皮がんと扁平上皮がんの組織型間で異なるかどうかを評価することである。具体的には、PD-L1 TPS高値 (≥50%) と低値 (<50%) の患者群におけるOSの差が、非扁平上皮がんと扁平上皮がんのそれぞれでどのように現れるかを比較した。さらに、PD-L1 TPSと組織型間の統計的に有意な交互作用が存在するかどうかを検定し、組織型がPD-L1 TPSの予測的価値に与える影響を定量的に明らかにすることを目指した。この解析を通じて、扁平上皮NSCLC患者におけるPD-L1 TPSのバイオマーカーとしての限界を評価し、より個別化された治療戦略の確立に資するエビデンスを提供することを目的とした。本研究は、PD-L1の予測的価値が組織型によって異なるという仮説を実臨床データで検証する、後ろ向きコホート研究としてデザインされた。

結果

全体コホートのベースライン特性: 解析対象となったNSCLC患者1460例の平均年齢は72.1歳 (SD 9.6) であった。女性が49.2%、男性が50.8%を占めた。喫煙歴のある患者は93.6%であり、診断時の病期はステージIVが71.6%であった。PD-L1 TPSが50%以上の患者は87.0% (n=1270)、50%未満の患者は13.0% (n=190) であった。組織型別に見ると、非扁平上皮NSCLC患者は1055例 (72.3%)、扁平上皮NSCLC患者は405例 (27.7%) であった。扁平上皮NSCLC患者は非扁平上皮NSCLC患者と比較して、男性が多く (63.5% vs 46.0%)、喫煙歴がある割合が高く (96.3% vs 92.5%)、PD-L1 TPSが50%未満の割合が高かった (19.5% vs 10.5%) (Table 1)。しかし、PD-L1発現レベルで層別化した各組織型グループ内では、年齢、性別、喫煙歴に大きな差は認められなかった。

非扁平上皮NSCLCにおけるPD-L1 TPSとOSの関連: 一般化ガンマモデルによる推定結果では、非扁平上皮NSCLC患者において、PD-L1 TPS高値 (≥50%) はOSの有意な改善と関連していた。PD-L1 TPS高値群のOS中央値は17.1ヶ月 (95% CI 14.5-20.3) であったのに対し、PD-L1 TPS低値 (<50%) 群では8.7ヶ月 (95% CI 6.4-11.8) であった。両群間のOS中央値の差は8.4ヶ月 (95% CI 4.1-12.5) であり、統計的に非常に有意であった (p < 0.001)。この結果は、非扁平上皮NSCLC患者ではPD-L1 TPS高値がペムブロリズマブ単剤一次治療によるOS延長の強力な予測因子であることを示している (Figure 1, Table 2)。

扁平上皮NSCLCにおけるPD-L1 TPSとOSの関連: 対照的に、扁平上皮NSCLC患者においては、PD-L1 TPSとOSの間に統計的に有意な関連は認められなかった。PD-L1 TPS高値 (≥50%) 群のOS中央値は11.6ヶ月 (95% CI 9.6-13.6) であったのに対し、PD-L1 TPS低値 (<50%) 群では9.3ヶ月 (95% CI 6.5-14.0) であった。両群間のOS中央値の差は2.2ヶ月 (95% CI -2.6-5.9) であり、p値は0.283であった。この結果は、扁平上皮NSCLC患者ではPD-L1 TPS高値がペムブロリズマブ単剤一次治療によるOS延長の有意な予測因子ではないことを示唆している (Figure 1, Table 2)。

PD-L1 TPSと組織型間の交互作用: PD-L1 TPSのOS予測能に対する組織型による効果修飾の仮説を検証するため、交互作用検定が実施された。その結果、PD-L1関連のOS中央値の増分差 (PD-L1高値 vs 低値) は、扁平上皮がんと非扁平上皮がんの間で統計的に有意に異なっていた (p = 0.034)。具体的には、非扁平上皮NSCLCではPD-L1高値群が低値群と比較してOS中央値が8.4ヶ月延長したのに対し、扁平上皮NSCLCでは2.2ヶ月の延長にとどまり、この差が統計的に有意であった。この所見は、PD-L1 TPSがOS予測因子として機能する程度が、非扁平上皮NSCLCと扁平上皮NSCLCで統計的に異なることを明確に裏付けている (Table 2)。

無増悪生存期間 (PFS) の解析: 副次解析としてPFSについても検討された。Cox多変量PHモデルを用いた解析では、PD-L1と組織型の交互作用は有意ではなかった (p = 0.539)。このことは、PD-L1 TPSの組織型による予測能の差が、OSにおいてより顕著に現れる可能性を示唆している。PFS中央値のKaplan-Meier推定値は、扁平上皮PD-L1低値群で3.6ヶ月 (95% CI 2.4-5.0)、扁平上皮PD-L1高値群で4.5ヶ月 (95% CI 3.8-5.3) であった。非扁平上皮PD-L1低値群では3.8ヶ月 (95% CI 2.9-4.8)、非扁平上皮PD-L1高値群では6.0ヶ月 (95% CI 5.3-6.7) であった。

考察/結論

本後ろ向き実世界データ解析は、一次治療としてペムブロリズマブ単剤療法を受けた進行NSCLC患者において、PD-L1 TPSのOS予測能が組織型によって大きく異なることを明確に示した。

先行研究との違い: 過去の第III相臨床試験、例えばKEYNOTE-042では、PD-L1発現レベルが高いほどペムブロリズマブの有効性が高まる傾向が示されたが、組織型別の詳細な効果修飾は十分に検討されていなかった。本研究の結果は、非扁平上皮NSCLC患者ではPD-L1 TPS高値がOSの有意な改善を予測する一方で (OS中央値差 +8.4ヶ月、p < 0.001)、扁平上皮NSCLC患者ではその関連が統計的に有意ではないこと (OS中央値差 +2.2ヶ月、p = 0.283) を示し、PD-L1と組織型間の有意な交互作用 (p = 0.034) を初めて実世界データで裏付けた点で、これまでの報告とは異なる重要な知見を提供する。特に、二次治療におけるニボルマブの臨床試験では、PD-L1 TPSの予測的価値が非扁平上皮NSCLCで認められ、扁平上皮NSCLCでは認められなかったことが報告されており、本研究の一次治療ペムブロリズマブ単剤療法のデータも同様の傾向を示した。

新規性: 本研究で初めて、大規模な実世界データを用いて、PD-L1 TPSのOS予測能が非扁平上皮NSCLCと扁平上皮NSCLCで統計的に異なることを明確に示した。この結果は、扁平上皮NSCLCにおいてPD-L1 TPSが50%以上であっても、ペムブロリズマブ単剤の有効性が非扁平上皮NSCLCほど高くない可能性を示唆する。これは、扁平上皮NSCLCの生物学的特性が、PD-L1を介した免疫応答に影響を与える可能性を示唆する新規な知見である。

臨床応用: 本知見は、扁平上皮NSCLC患者の治療戦略を決定する上で重要な臨床的含意を持つ。扁平上皮NSCLCでは、PD-L1 TPSが50%以上であっても、ペムブロリズマブ単剤よりも化学療法との併用療法(例: KEYNOTE-407で有効性が示されたペムブロリズマブ+化学療法 Paz-Ares et al. NEnglJMed 2018)が優先される可能性を支持する。臨床現場において、PD-L1 TPSのみならず、組織型を考慮した個別化された治療選択の重要性を強調するものである。

残された課題: 本研究は後ろ向きRWD研究であるため、いくつかのlimitationが存在する。PD-L1検査の標準化の欠如、後続治療の影響、および未測定の交絡因子(例: 腫瘍変異負荷 (TMB) や腫瘍浸潤リンパ球 (TIL) の状態)が結果に影響を与えた可能性は否定できない。また、PD-L1 TPSが50%未満の患者数が比較的少なかったことも、扁平上皮NSCLCにおけるPD-L1低発現群の解析精度に影響を与えた可能性がある (n=79)。さらに、PD-L1発現は動的かつ不均一なバイオマーカーであることも考慮する必要がある。今後の検討課題として、扁平上皮NSCLCにおける免疫チェックポイント阻害薬の最適化戦略(単剤 vs 化学免疫療法)を前向きに比較する臨床試験が必要である。さらに、組織型によるPD-L1の予測能の差が生じるメカニズムを分子レベルで解明することも、今後の研究方向性として重要である。

方法

本研究は、Flatiron Health電子健康記録 (EHR: electronic health record) データベースを用いた後ろ向き観察研究として実施された。本研究の試験デザインは、一次治療ペムブロリズマブ単剤療法を受けた進行NSCLC患者におけるPD-L1 TPSとOSの関連性を組織型別に評価する後ろ向きコホート研究である。対象患者は、2015年10月から2019年4月の期間に米国各地の地域がん診療所および学術医療センターで治療を受けた進行または転移性NSCLC患者である。

患者選択基準:

  • 進行または転移性NSCLCと診断されていること。
  • 一次治療としてペムブロリズマブ単剤療法を受けていること。
  • 治療開始前にPD-L1検査が実施され、数値結果が記録されていること。
  • EGFR、ALK、ROS1遺伝子変異が陰性であること(除外基準)。

コホート特性: 最終的に、ペムブロリズマブを一次治療として受けたNSCLC患者1460例が解析対象となった。このうち、非扁平上皮NSCLC患者が1055例 (72.3%)、扁平上皮NSCLC患者が405例 (27.7%) であった。

PD-L1 TPSの分類: PD-L1 TPSは、「高値 (≥50%) 」と「低値 (<50%) 」の2つのカテゴリーに二値化された。このカットオフ値は、病理医間のPD-L1 TPS評価の一致度が50%未満のカットオフで低下するという先行研究の知見に基づいている (Rimm et al. JAMAOncol 2017)。複数のPD-L1検査結果がある場合は、ペムブロリズマブ開始日に最も近い結果が採用された。

主要エンドポイント: 主要エンドポイントは、一次治療ペムブロリズマブ開始日から死亡までの実世界全生存期間 (OS) とされた。OSは、患者の最終活動日で打ち切られた。副次エンドポイントは無増悪生存期間 (PFS) であった。

統計解析: ベースライン特性の比較には、カテゴリカル変数に対してピアソンカイ二乗検定またはフィッシャーの正確検定、連続変数に対してスチューデントのt検定が用いられた。OSの推定にはカプラン・マイヤー法が使用された。単変量Cox比例ハザード (PH: proportional hazards) モデルを用いて、多変量モデルに含める有意な共変量 (p < 0.05) を特定した。PH仮定の違反が認められたため、主要解析には一般化ガンマモデルが採用された。このモデルは、OSを組織型 (扁平上皮/非扁平上皮) とPD-L1発現レベル (高値/低値) のサブグループに分け、年齢、性別、診断時の病期、喫煙歴、化学療法前治療歴などの関連する共変量を調整して構築された。

PD-L1 TPSと組織型間の交互作用は、扁平上皮がんと非扁平上皮がんの患者におけるPD-L1関連のOS中央値の増分差 (PD-L1高値 vs 低値) を比較することで評価された。ブートストラップ法を用いて、OS中央値およびPD-L1関連のOS中央値の増分差に対する95%信頼区間 (CI) が推定された。統計的有意水準は両側p値0.05未満と設定された。