• 著者: Pless M, Stupp R, Ris HB, Stahel RA, Wolf M, Pirker R, Mayer R, Frueh M, Habicht J, Zippelius A, Rischewski J, Ochsenbein A, Schmid RA, Matzinger O, Neutralization O, Prasad M, Peters S
  • Corresponding author: Miklos Pless, MD (Kantonsspital Winterthur, Switzerland); Solange Peters, MD (CHUV, Lausanne, Switzerland)
  • 雑誌: Lancet
  • 発行年: 2015
  • Epub日: N/A
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 26275735

背景

Stage IIIA/N2非小細胞肺癌 (NSCLC) は、治癒が期待できる最も進行した病期とされ、集学的治療の対象となってきた。しかし、その最適な治療戦略については長年にわたり議論が続いていた。主要な治療選択肢として、根治的同時化学放射線療法 (CRT) 単独、術前 (導入) 化学療法後の手術、そして術前化学放射線療法 (三者療法) の3つが存在した。導入化学療法後の手術の有効性は、NSCLC et al. Lancet 2014による個別患者データメタ解析などで確立されていたが、術前化学療法に放射線療法を加える三者療法の価値は不明確であった。この点において、最適な治療戦略に関する知識ギャップが存在していた。

術前放射線療法は、腫瘍および縦隔リンパ節の縮小 (ダウンステージング) を促進し、R0切除率を高める可能性が示唆されていた。実際、複数のPhase 2試験では、術前化学放射線療法が有望な結果を示していた (Albain et al. 1995, Stupp et al. 2009, Stamatis et al. 1999)。しかし、その一方で、術後肺合併症や手術死亡率の増加リスクも懸念されており、その臨床的意義は確立されていなかった。特に、Albain et al. Lancet 2009によるINT 0139試験では、化学放射線療法後の手術群と根治的化学放射線療法単独群で生存期間に有意差がなく、特に肺全摘術を受けた患者で術後死亡率が高いことが問題視された。この結果は、術前放射線療法の追加が必ずしも生存利益に繋がらない可能性を示唆しており、その役割については依然としてcontroversialな状況であった。

このような背景から、Stage IIIA/N2 NSCLCに対する術前化学放射線療法の優越性を検証する大規模なランダム化Phase 3試験が必要とされていた。SAKK 16/00試験 (Swiss Group for Clinical Cancer Research) は、2001年から2012年にかけて患者登録を行い、この問いに答えることを目的とした。同時期に日本 (WJTOG9903、Katakami et al. Cancer 2012) やフランス (IFCT-0101、Girard et al. 2010) でも類似の試験が実施されたが、いずれも患者登録の遅れにより早期終了を余儀なくされ、SAKK 16/00試験が最大規模の完了した試験として、この領域における重要なギャップを埋める役割を担った。術前化学療法に放射線療法を追加することで、局所制御の改善が期待される一方で、全身毒性や手術合併症の増加が懸念されており、そのバランスを評価することが喫緊の課題であった。既存のデータだけでは、三者療法の長期的な生存利益に関するエビデンスが不足していた。

目的

本SAKK 16/00試験の主要目的は、病理学的に確認されたStage IIIA/N2非小細胞肺癌 (NSCLC) 患者において、シスプラチンおよびドセタキセルを用いた3サイクルの導入化学療法単独と比較し、同化学療法後に放射線療法 (44Gy/22分割) を追加した化学放射線療法が、イベントフリー生存期間 (EFS) を有意に改善するかどうかを評価することであった。

副次目的としては、両治療群間での全生存期間 (OS)、術後30日死亡率を含む手術施行率、R0切除率、客観的奏効率 (ORR)、縦隔リンパ節陰性化率、病理学的完全奏効 (pCR) 率、毒性プロファイル、および再発パターン(局所再発 vs 遠隔転移)を比較検討することが含まれた。また、PETステージングの予測的・予後的価値、および放射線療法の費用対効果比も評価項目とされた。本試験は、術前化学療法に放射線療法を追加する三者療法が、代替エンドポイントだけでなく、最終的な生存アウトカムを改善するという仮説を検証することを意図していた。

結果

本試験は、独立データモニタリング委員会 (IDMC) の勧告により、第3回中間解析時にフューティリティ境界 (futility boundary) を超えたため、134イベント発生時点で早期中止された。最終追跡期間中央値は52.4ヶ月 (四分位範囲 [IQR] 32.0〜85.2) であった。

主要エンドポイント (イベントフリー生存期間 [EFS]): 化学放射線療法群のEFS中央値は12.8ヶ月 (95% CI 9.7〜22.9) であったのに対し、化学療法群では11.6ヶ月 (95% CI 8.4〜15.2) であり、両群間に有意差は認められなかった (HR 1.10, 95% CI 0.80〜1.52, p=0.67)。Per-protocol解析においても、化学放射線療法群のEFS中央値は22.0ヶ月、化学療法群は15.4ヶ月であり、有意な差はなかった (HR 1.1, p=0.59)。EFSの最初のイベントの内訳では、化学放射線療法群で死亡が13% (n=11)、局所再発が15% (n=17) であったのに対し、化学療法群では死亡が8% (n=7)、局所再発が28% (n=32) であった。脳再発は両群合わせて32例 (14%) に認められ、その他の一般的な再発部位は肺 (n=22) および副腎 (n=8) であった。これらの結果はFigure 2に示されている。

全生存期間 (OS): 追跡終了時までに130例の死亡が確認され、化学放射線療法群で66例、化学療法群で64例であった。OS中央値は、化学放射線療法群で37.1ヶ月 (95% CI 22.6〜50.0) であったのに対し、化学療法群では26.2ヶ月 (95% CI 19.9〜52.1) であり、統計的に有意な差は認められなかった (HR 1.00, 95% CI 0.70〜1.40)。5年OS率は、化学放射線療法群で約40%、化学療法群で約44%であった。Per-protocol解析においても、化学放射線療法群のOS中央値は49.5ヶ月、化学療法群は33.5ヶ月であり、有意な差はなかった (HR 1.1)。OSに関するカプラン・マイヤー曲線もFigure 2に示されている。

腫瘍応答率および病理学的所見: 化学療法後の客観的奏効率 (ORR) は、化学放射線療法群で51% (95% CI 41.5〜60.5)、化学療法群で44% (95% CI 34.4〜52.5) であり、この時点では有意差はなかった (p=0.240)。しかし、放射線療法後 (化学放射線療法群のみ評価可能) のORRは61% (95% CI 51.8〜69.5) であり、化学療法群の44%と比較して有意に高かった (p=0.012)。これはTable 4に詳細が示されている。 手術施行率は、化学放射線療法群で85% (99/117例)、化学療法群で82% (94/115例) であった。手術が実施されなかった主な理由は、疾患進行 (化学放射線療法群7例、化学療法群12例) であった。 R0切除率は、化学放射線療法群で91% (90/99例) と、化学療法群の81% (76/94例) と比較して数値的に高かったが、統計的有意差は認められなかった (p=0.06)。縦隔リンパ節のダウンステージング (pN0/N1) は、化学放射線療法群で64% (63/99例)、化学療法群で53% (50/94例) に認められた。病理学的完全奏効 (pCR) は、化学放射線療法群で16% (16/99例)、化学療法群で12% (11/94例) であった。肺全摘術の施行率は、化学放射線療法群で25%、化学療法群で20%と類似していた (Table 5)。

安全性および術後合併症: 化学療法3サイクルの完遂率は、化学放射線療法群で92%、化学療法群で90%であった。Grade 3/4の毒性発現率は、化学放射線療法群で45% (n=49/110)、化学療法群で60% (n=73/121) であった (Table 2)。カルボプラチンへの変更は、主に腎毒性または聴力障害のため、化学放射線療法群で18%、化学療法群で17%の患者で必要とされた。ドセタキセルの減量は、化学放射線療法群で15%、化学療法群で16%の患者で実施された。放射線療法に関連するGrade 3の嚥下障害は、化学放射線療法群の7% (n=7/98) に認められた (Table 3)。術後30日死亡率は、化学放射線療法群で0% (0/99例) であったのに対し、化学療法群では3% (3/94例) であり、右肺全摘術2例、右肺葉切除術1例が含まれた。術後合併症の発生率に両群間で有意な差は認められなかった。

考察/結論

SAKK 16/00試験は、Stage IIIA/N2 NSCLCに対する術前導入化学療法に放射線療法を追加しても、主要エンドポイントであるイベントフリー生存期間 (EFS) および全生存期間 (OS) を有意に改善しないことを、世界最大規模のPhase 3試験として明確に示した。この結果は、術前放射線療法が客観的奏効率、縦隔リンパ節陰性化率、R0切除率といった代替エンドポイントを統計的または数値的に改善するにもかかわらず、生存期間の延長には結びつかないという重要な知見を提供する。これは、集学的局所進行NSCLCの文脈において、「代替エンドポイントの改善が必ずしも生存延長に直結しない」という命題を実証した点で、方法論的に重要な意義を持つ。

本試験の最も注目すべき所見は、術前放射線療法なしの化学療法単独後に手術を行う群 (化学療法群) でも、OS中央値が26.2ヶ月という良好な成績が得られた点である。これは、シスプラチンとドセタキセルを用いた第3世代導入化学療法と手術という2モダリティの組み合わせのみで、Stage IIIA/N2 NSCLC患者に対して十分な治療成績が得られることを示唆している。術後30日死亡率が化学放射線療法群で0%、化学療法群で3%と低かったことは、慎重な患者選択と集学的チームによる周術期管理の重要性を示している。Albain et al. Lancet 2009によるINT 0139試験では、化学放射線療法後の手術群と根治的化学放射線療法単独群で生存優越性が示されなかったが、これは肺全摘術例での術後死亡率の高さが問題であった。本試験では肺全摘術の割合が23〜25%と類似していたにもかかわらず、術後死亡率が低く抑えられた点は特筆すべきである。

先行研究との違い: 本研究の結果は、Katakami et al. Cancer 2012によるWJTOG9903試験やGirard et al. (2010)によるIFCT-0101試験など、同時期に実施された類似の試験が早期終了したものの、同様に術前化学放射線療法の優位性を示さなかったことと一致する。これらの複数の試験が一致して、術前化学療法への放射線療法追加が生存アウトカムを改善しないことを示唆している点は、これまでの知見と対照的ではないが、その知見を補強するものである。

新規性: 本研究は、Stage IIIA/N2 NSCLCに対する術前化学療法と手術の組み合わせが、放射線療法を追加した三者療法に劣らないことを、大規模なPhase 3試験で初めて明確に示した。これにより、手術適応のある患者に対する術前放射線療法のルーティン化には根拠がないことが確立された。これは、これまで報告されていない大規模なエビデンスを提供する点で新規性がある。

臨床応用: 本知見は、Stage IIIA/N2 NSCLCの臨床現場における治療選択に直接的な影響を与える。すなわち、手術可能なStage IIIA/N2 NSCLC患者に対しては、術前化学療法と手術の二者療法が標準治療として十分であり、放射線療法を追加する三者療法が必須ではないことを示唆する。これは、放射線療法による追加の毒性や合併症のリスクを考慮すると、患者にとってより負担の少ない治療選択肢を提供できる可能性を示している点で、臨床的意義は大きい。

残された課題: 本試験にはいくつかのlimitationがある。第一に、放射線療法線量が44Gy/22分割と、他の試験と比較して低めであった点である。ただし、これは生物学的等価線量で通常分割の48〜50Gyに相当すると考えられる。第二に、放射線療法が化学療法と同時ではなく逐次投与された点である。これは毒性軽減と手術遅延回避のためであったが、同時化学放射線療法がより効果的である可能性も指摘されている (Auperin et al. 2010)。しかし、手術を伴う三者療法において、同時化学放射線療法が逐次投与よりも優れているという明確なデータは不足している。第三に、試験の早期終了により、統計的検出力が完全に発揮されなかった可能性がある。しかし、ハザード比が1.0付近であったことから、効果の欠如が統計的検出力不足よりも主要な要因であると考えられる。第四に、Stage IIIA/N2の定義に幅があり、bulkyな多段階N2リンパ節転移を含む異質な患者集団であったことも考慮すべきである。今後の検討課題として、免疫療法時代における最適な治療戦略の確立が挙げられる。現在、術前化学療法に免疫チェックポイント阻害薬を追加するネオアジュバント免疫化学療法 (例: CheckMate-816試験) が新たなパラダイムとして登場しており、本試験はその前段階として「最良の化学療法と手術」という基盤を確立した歴史的な位置づけを持つ。術前免疫療法追加の有効性評価が進行中であり (例: SAKK 16/14試験)、これらの結果が今後の治療ガイドラインを形成することになるだろう。

方法

本研究は、スイス、ドイツ、セルビアの23施設で実施された多施設共同非盲検無作為化Phase 3試験 (SAKK 16/00、ClinicalTrials.gov登録番号 NCT00030771) である。対象患者は、TNM第6版に基づき病理学的に確認されたStage IIIA/N2 NSCLC (T1-3N2M0) で、PET-CTおよび脳MRIによる病期診断、縦隔鏡検査、超音波気管支鏡 (EBUS: endobronchial ultrasonography)、または気管支鏡下経気管支針生検によるN2リンパ節転移の病理学的証明が必須とされた。N2リンパ節が非生検可能であった場合でも、直径1cm超でPET陽性、かつN3リンパ節がPET陰性であれば適格とされた。ECOGパフォーマンスステータス0〜1、年齢18〜75歳、局所基準で許容可能な肺機能および心機能を有する手術適格患者が組み入れられた。

患者は、化学放射線療法群と化学療法単独群に1:1の比率で無作為に割り付けられた。層別化因子は、実施施設、縦隔リンパ節の腫瘤径 (5cm未満 vs 5cm以上)、および過去6ヶ月間の体重減少 (5%以上 vs 5%未満) であった。

治療プロトコル:

  • 化学療法: 両群ともに、シスプラチン100mg/m²とドセタキセル85mg/m²を3週間ごとに3サイクル静脈内投与した。好中球コロニー刺激因子 (G-CSF) の予防投与は必須であった。腎機能障害、聴力障害、末梢神経障害が発生した場合は、シスプラチンをカルボプラチン (AUC 6) に変更することが可能であった。ドセタキセルの減量は、肝機能障害、Grade 3の下痢、またはGrade 1を超える末梢神経障害の場合に可能であった。
  • 放射線療法 (化学放射線療法群のみ): 化学療法最終サイクルの21〜28日後に開始された。44Gyを22分割で3週間かけて照射し、同時ブースト法が用いられた。放射線治療計画は、導入化学療法後のCTスキャン結果に基づいて行われた。脊髄線量は36Gy未満に制限された。放射線治療の品質管理のため、各施設から3名のランダムな患者の治療計画が中央でレビューされた。
  • 手術: 化学放射線療法群では放射線療法終了後21〜28日、化学療法群では最終化学療法サイクル終了後21日後に、全例で腫瘍切除と系統的リンパ節郭清を含む手術が予定された。化学療法群でR1またはR2切除となった患者には、術後放射線療法が許容された。

評価項目: 主要エンドポイントはイベントフリー生存期間 (EFS) であり、無作為化から再発、進行、二次がん、または死亡のいずれか早い方までの期間と定義された。副次エンドポイントは、全生存期間 (OS)、術後30日死亡率、R0切除率、客観的奏効率、縦隔リンパ節陰性化率、毒性、および再発パターンであった。

統計解析: EFSの主要評価項目について、化学放射線療法群でEFS中央値が18ヶ月、化学療法群で12ヶ月と仮定し、6ヶ月の改善を検出するために、両側ログランク検定で有意水準5%、検出力80%で208イベント/240患者が必要と計算された。3回の中間解析が計画され、Lan-DeMetsのO’Brien-Fleming境界に基づく早期中止規定が設定された。解析はintention-to-treat (ITT) 原則に基づき実施された。毒性は、少なくとも1回の治験化学療法を受けた患者を対象とした安全性集団で評価された。イベントフリー生存期間および全生存期間の推定にはカプラン・マイヤー法が用いられ、群間比較にはログランク検定が使用された。ハザード比 (HR) および95%信頼区間 (CI) はコックス回帰モデルで算出された。奏効率、手術施行率、その他の二値変数の比較にはフィッシャーの正確検定が用いられた。