• 著者: Watanabe S, Nakagawa K, Suzuki K, Takamochi K, Ito H, Okami J, Aokage K, Saji H, Yoshioka H, Zenke Y, Aoki T, Tsutani Y, Okada M
  • Corresponding author: Shun-ichi Watanabe, MD (Department of Thoracic Surgery, National Cancer Center Hospital, Tokyo, Japan)
  • 雑誌: Japanese Journal of Clinical Oncology
  • 発行年: 2017
  • Epub日: 2017-09-23
  • Article種別: Review Article
  • PMID: 29136212

背景

Stage III非小細胞肺癌 (NSCLC) は、局所進行病変と潜在的な微小遠隔転移の両方を伴う極めて複雑な病態である。手術単独での治療成績は極めて不良であり、特にStage IIIA-N2患者における手術単独の5年生存率は極めて低いことがMartini et al. (1987) によって報告されている。肺癌は多くの国で癌関連死の主要な原因であり、診断時にStage IIIである患者の割合が高い。このため、局所病変と全身の微小転移の両方を制御するために、手術に化学療法および/または放射線療法を組み合わせた集学的治療の発展が不可欠であった。

1990年代から2000年代にかけて、術前 (neoadjuvant/induction) 化学療法、術後 (adjuvant) 化学療法、および術後放射線療法 (PORT) に関する多数のランダム化比較試験 (RCT) とメタ解析が実施されてきた。これらの研究により、特にStage IIからIIIAの患者において、補助化学療法の有効性が徐々に確立されていった。しかし、最適な治療戦略、特にcN2疾患に対するアプローチについては、依然として議論が続いており、最適な治療選択基準が未解明なまま残されていた。切除不能なN2病変に対する根治的化学放射線療法 (CRT) と、切除可能なN2病変に対する術前化学療法後の手術という二つの主要なアプローチのどちらが優れているかについては、日本においても日本臨床腫瘍研究グループ (JCOG) の胸部外科学習グループが指針策定に向けたエビデンス整理を進めていた。

本稿は、そのJCOGの著者らによるLevel Iエビデンスの系統的レビューであり、Stage III NSCLCに対する集学的治療の進化と、各治療モダリティの役割、適応、および限界を包括的に評価することを目的としている。特に、Pignon et al. JClinOncol 2008が示した補助化学療法の利益と、PORTのN2病変に対する選択的有用性、術前治療のコンプライアンス上の利点に焦点を当て、当時の最新エビデンスを統合的に提示している。過去の多くの研究では、治療レジメンの多様性、対象集団の不均一性、および症例数の不足により、一貫した結論が得られないことが課題として残されており、特にStage IIIA-N2患者における最適な治療戦略に関するエビデンスが著しく不足していた。NSCLCMetaAnalyses et al. BMJ 1995NSCLC et al. Lancet 2014などの先行研究は、化学療法の役割を部分的に明らかにしてきたが、本レビューはこれらの課題を克服し、大規模なメタ解析の結果に基づいて、より明確な治療指針を導き出すことを目指している。

目的

本レビューの目的は、Stage III NSCLCに対するneoadjuvant (術前) 化学療法、induction化学放射線療法 (CRT)、補助 (術後) 化学療法、および補助放射線療法 (PORT) の主要なPhase II/III RCTおよびメタ解析の成績を体系的にまとめ、各治療モダリティの適応、有効性、限界、および残された課題を整理することである。特に、術前治療と術後治療の比較、N2病変に対する最適な治療戦略、および放射線療法の役割について、当時の最新エビデンスに基づいて包括的な評価を行うことを目指した。また、JCOG Lung Cancer Surgical Study Group (LCSSG) の視点から、日本国内での手術集学的治療の実態と国際的なエビデンスを統合し、今後の治療戦略の方向性を示すことも目的としている。

結果

術前化学療法による生存利益の確立: 術前化学療法後の手術と手術単独を比較したPhase III試験は、1990年代からの9試験で混在した結果を示している (Table 1)。初期のRoth et al. (1994、n=60、Stage IIIA) では、CDDP (cisplatin) + ETP (etoposide) + CPA (cyclophosphamide) 後の手術群が手術単独群に対し、36ヶ月全生存率 (OS) で56% vs 15% (p=0.018) と有意な利益を示した。Rosell et al. (1994、n=60、Stage IIIA) も、CDDP + IFO (ifosfamide) + MMC (mitomycin) 後の手術群で60ヶ月OSが17% vs 0% (p=0.005) と顕著な利益を報告した。しかし、その後の大規模多施設試験では、Gilligan et al. (2007、n=519、Stage IB-IIIA) の36ヶ月OSが44% vs 45% (p=0.86)、Pisters et al. (2010、n=354、Stage IB-IIIA、CBDCA (carboplatin) + PAC (paclitaxel)) の60ヶ月OSが42% vs 33% (p=0.11) と、生存利益が統計学的に有意には示されなかった。これらの個別試験で結果が混在した理由として、対象集団の不均一性、症例数の少なさ、および化学療法レジメンの多様性が挙げられる。しかし、NSCLC et al. Lancet 2014による15 RCT・n=2385の個人データメタ解析では、術前化学療法のOS利益としてHR 0.87 (95% CI 0.78-0.96, p=0.007) が示され、5年絶対生存利益は5% (40%から45%へ) であった。第3世代薬剤を用いたPhase II試験 (Table 2) では、奏効率が39-74% (多くの試験で60%超)、中央値OSが15.9-33.0ヶ月と良好な成績が報告されたが、標準レジメンは確立されていない。

Induction CRTのcN2疾患における生存利益欠如と上肺溝腫瘍への例外的有用性: 化学療法単独とinduction CRTを比較した直接比較試験が複数実施された。Pless et al. Lancet 2015 (Phase III) は、n=232 (Stage IIIA/N2) を対象にCRT群 (n=117) vs 化学療法単独群 (n=115) に無作為化し、主要評価項目であるイベントフリー生存期間 (EFS) は、CRT群で12.8ヶ月 (95% CI 9.7-22.9) vs 化学療法単独群で11.6ヶ月 (95% CI 8.4-15.2, p=0.67) と有意差はなく、放射線追加の利益は否定された。Shah et al. (2012) のメタ解析 (7試験) でも、ランダム化試験のメタ解析でHR 0.93 (p=0.81) と放射線追加の生存利益がないことが確認された。一方、上肺溝腫瘍 (SST: superior sulcus tumor) へのinduction CRTは異なる状況を示した。SWOG 9416 Phase II試験 (Rusch et al. 2007) では、n=110のT3-4N0-1 (T3-4およびN0-1の病期分類) NSCLC-SST患者に対し、シスプラチン+エトポシド+放射線45Gy後の手術を実施した結果、n=88 (80%) が開胸に至り、n=83 (76%) が完全切除を達成した。病理学的完全奏効 (pCR) または微小残存病変が切除標本の56% (n=61) に認められ、全患者での5年OSは44%、完全切除後では54%という画期的な成績を示した。JCOG 9806 Phase II試験 (Kunitoh et al. 2008) でも、n=76のSST患者に対し、マイトマイシン+ビンデシン+CDDP+放射線45Gy後の手術を実施し、完全切除率68%、5年OS 56%という同様に良好な結果が得られた。一般的なcN2疾患では、induction CRT vs 化学療法単独でOSの差がない一方、大規模試験 (INT0139 Phase III: Albain et al. Lancet 2009、n=429) では、CRT±手術で全体OSに差はなかった (20.3 vs 21.7ヶ月、p=NS) が、無増悪生存期間 (PFS) は手術群が有意に良好であった (5年PFS 27.2% vs 20.3%、p<0.05)。ただし、肺全摘を受けた患者で外科的死亡率が26%という高い手術合併症が問題となった (Table 3)。

補助化学療法におけるLACEメタアナリシスによる確立されたエビデンス: 1995年のNSCLCMetaAnalyses et al. BMJ 1995 (14試験、adjuvant化学療法) は統計学的有意差を示さなかったが (HR 0.87、p=0.08)、その後の大規模RCTが相次いで有意なOS利益を示した (Table 4)。主要試験の個別成績として、IALT (2004、シスプラチン系adjuvant) は、全StageでHR 0.86 (95% CI 0.76-0.98)、特にStage IIIでHR 0.79 (95% CI 0.66-0.95) の利益を示した。Douillard et al. LancetOncol 2006 (ANITA試験、ビノレルビン+シスプラチン) は、全StageでHR 0.80 (95% CI 0.66-0.96)、Stage IIIでHR 0.60 (95% CI 0.44-0.82) という顕著な利益を報告した。Winton et al. NEnglJMed 2005 (JBR.10試験、ビノレルビン+シスプラチン) は、Stage IIでHR 0.59 (95% CI 0.42-0.85) の利益を示した。Kato et al. NEnglJMed 2004はStage IでHR 0.71 (95% CI 0.52-0.98) という利益を示した。Strauss et al. JClinOncol 2008 (CALGB9633試験、Stage IB) はHR 0.80 (95% CI 0.60-1.07) と有意差なし。Pignon et al. JClinOncol 2008 (LACEメタ解析、5大試験・n=4584) では、全体でHR 0.89 (95% CI 0.82-0.96) 、5年OS絶対利益5.4%が示された。Stage別解析では、Stage IIでHR 0.83 (95% CI 0.73-0.95)、Stage IIIでHR 0.83 (95% CI 0.72-0.94) と有意な利益を示した。

術後放射線療法 (PORT) のN2疾患への選択的適応: PORT Meta-analysis Trialists Group (1998、9試験・n=2128) は、PORTが相対的死亡リスクを21%増加させ、2年OSで絶対損失7% (55%から48%へ) と有害効果を報告した。特にStage I/II (N0-N1) での有害性が著明であり、N2には明確な有害/有益エビデンスなしという結論であった。しかし、SEER (Surveillance, Epidemiology, and End Results) データベース解析 (Lally et al. 2006、n=7465、1988-2002年PORT患者) では、N0 (HR 1.1176、p=0.0435) およびN1 (HR 1.097、p=0.0196) でのPORT有害効果が確認されたが、N2では有意なOS改善効果 (HR 0.8555、p=0.0077) が示された。Douillard et al. LancetOncol 2006のサブ解析でも、pN2患者にPORTを加えることで5年OSが51% (PORT+CT) vs 40% (CT単独) と良好な転帰が示されたのに対し、pN1患者ではPORT+CT 34% vs CT単独36%とPORTが有害であった。

Induction CT vs Adjuvant CTの直接比較: Felip et al. JClinOncol 2010 (NATCH試験、n=624、Stage I-II/IIIA T3N1) では、術前CT群、adjuvant CT群、手術単独群の3群間で予後に統計学的有意差は認められなかった。しかし、術前化学療法のコンプライアンス (80%以上が全量投与完了) はadjuvant CTより明らかに優れており、実施可能性の面では術前化学療法が有利である。Stage III-N2専用の術前CT vs adjuvant CT of 直接比較Phase III試験は実施されておらず、両者の優劣は未解決のままである。

考察/結論

Stage III NSCLCに対する集学的治療において、術後補助化学療法 (シスプラチン系) はStage II〜IIIA患者にOSで5%の絶対利益 (LACEメタアナリシス: HR 0.89 (95% CI 0.82-0.96)) をもたらし、特にStage IIIA (N2) での利益が明確である (ANITA N2サブ解析: HR 0.60 (95% CI 0.44-0.82))。この結果が、Stage II〜IIIの完全切除例に対するシスプラチン系adjuvant CTの標準化を根拠づけた。術前化学療法のメタ解析 (HR 0.87 (95% CI 0.78-0.96)、5年利益5%) も術後化学療法と同等のOS利益を示しており、コンプライアンス上の利点 (80%以上が計画量投与完了) と術前の腫瘍縮小効果による完全切除率向上が付加的なメリットである。

先行研究との違い: 本レビューは、術前化学療法と術後化学療法の直接比較に関する大規模なエビデンスが不足していた状況において、両者のメタ解析結果を詳細に比較し、同等の生存利益があることを示した点で、従来の個別の試験結果を統合する試みと対照的である。特に、術前化学療法のコンプライアンスの優位性を強調した点は、臨床現場での治療選択に新たな視点を提供する。

新規性: Induction CRTの生存上乗せ効果はPless Phase III試験やShahメタ解析で否定されており、一般的なcN2疾患においては放射線追加の利益がないことが示された。しかし、上肺溝腫瘍 (SST、T3-4N0-1) という特定の臨床状況に限って、三者集学的治療が明確な利益をもたらすことがSWOG 9416 (5年OS 44%) およびJCOG 9806 (5年OS 56%) で示された点は、このサブグループにおける治療戦略の新規性を確立した。本研究で初めて、これらの異なる治療モダリティの相対的な利点と限界を包括的に整理した。

臨床応用: PORTについては、N2疾患での選択的適用が支持される (ANITA N2サブ解析、SEER N2解析) 一方で、N1疾患での有害性が明確であり、適用患者の層別化が極めて重要である。縦隔リンパ節のdownstaging (ypN0-1: 術前治療後の病理学的縦隔リンパ節消失) がN2切除後の転帰を規定するため、induction後の切除を判断するにあたり、ypN0-1達成の確認が優先されるべきである。これらの知見は、Stage III NSCLC患者に対する個別化された治療戦略の臨床応用を促進する。

残された課題: 本稿は免疫療法・分子標的薬時代以前のエビデンスを体系化した論文であるが、Stage III NSCLCの集学的治療の土台として現在でも参照されるべき基礎的レビューである。残された課題として、cN0-1 pN2疾患に対する分子標的薬や免疫療法を組み合わせた補助化学療法の探索、およびcN2疾患に対するinduction治療後の手術適応基準のさらなる細分化が挙げられる。また、術前化学療法と術後化学療法のどちらがStage III-N2患者において真に優れているかを直接比較する大規模多施設RCTの実施が今後の重要な研究方向性である。

方法

本研究は、Stage III NSCLCに対する術前・術後治療に関する系統的文献レビューである。著者らは、neoadjuvant化学療法に関するPhase III試験9件、第3世代薬剤を用いたinduction化学療法に関するPhase II試験7件、induction CRT後の手術に関するPhase II/III試験5件、adjuvant化学療法に関するPhase III試験7件、およびPORTに関するメタ解析、SEERデータベース解析、ANITA試験のサブ解析を網羅的に検索し、その結果を集計した。

主要なメタ解析としては、以下のものが参照された。

  • NSCLC et al. Lancet 2014による術前化学療法に関するメタ解析 (15 RCT、n=2385)。
  • Pignon et al. JClinOncol 2008による補助化学療法に関するプール解析 (5大試験、n=4584)。
  • NSCLC Meta-analyses Collaborative Group (2010) による補助化学療法に関するメタ解析 (34試験、n=8447)。
  • PORT Meta-analysis Trialists Group (1998) によるPORTに関するメタ解析 (9試験、n=2128)。

文献検索は、PubMed、Embase、Cochrane Libraryなどの主要な医学データベースを用いて実施された。検索キーワードには、「non-small cell lung cancer」「Stage III」「neoadjuvant chemotherapy」「adjuvant chemotherapy」「induction chemoradiotherapy」「postoperative radiotherapy」などが含まれた。抽出された論文は、各治療モダリティの有効性、安全性、および生存アウトカムに関するデータに基づいて評価された。本レビューでは、各試験のinclusion criteriaおよびexclusion criteriaを考慮し、エビデンスレベルの高いRCTを中心に評価対象とした。

著者らはJCOG Lung Cancer Surgical Study Group (LCSSG) を代表しており、日本国内での手術集学的治療の実態と国際エビデンスの統合が本稿の特色である。統計手法については、各原著論文で用いられたハザード比 (HR)、95%信頼区間 (CI)、p値、生存率などが引用され、比較検討された。特に、カプラン・マイヤー (Kaplan-Meier) 法による生存曲線解析やログランク (log-rank) 検定の結果が重視された。本レビューは、Stage III NSCLCの治療におけるエビデンスのギャップを特定し、将来の研究方向性を示すことを意図している。