- 著者: Katakami N, Tada H, Mitsudomi T, Kudoh S, Senba H, Matsui K, Saka H, Kurata T, Nishimura Y, Fukuoka M
- Corresponding author: Nobuyuki Katakami (Division of Pulmonary Medicine, Kobe City Medical Center General Hospital, Kobe, Japan)
- 雑誌: Cancer
- 発行年: 2012
- Epub日: 2012-06-06
- Article種別: Original Article (Randomized Phase III Trial, WJTOG9903)
- PMID: 22674529
背景
非小細胞肺癌 (non-small cell lung cancer: NSCLC) のうち病理学的N2 (縦隔リンパ節転移) を有するステージIIIA症例は、初診時診断の約1/3を占める局所進行癌であり、完全切除後でも再発・死亡リスクが極めて高い不均一集団である。切除単独の5年生存率は13〜36%にとどまり、化学療法・放射線療法を組み合わせた集学的治療の確立が大きな臨床課題であった。先行する5件の術前化学療法ランダム化試験 (Passら Ann Thorac Surg 1992、Rosellら N Engl J Med 1994、Rothら J Natl Cancer Inst 1994、Depierreら J Clin Oncol 2002、Nagaiら J Thorac Cardiovasc Surg 2003 [JCOG 9209]) のうち2件のみが術前化学療法による生存延長を示し、結果は一致していなかった。一方、術前同時化学放射線療法 (concurrent chemoradiotherapy followed by surgery: CRS) を用いた第II相試験 (Choiら JCO 1997、Eberhardtら JCO 1998、Thomasら JCO 1999) では5年生存率30〜40%が報告され、CRSの優越性が期待されていた。
INT 0139試験 (Albain et al. Lancet 2009) は化学放射線療法に手術を追加してもmOSが23.6 vs 22.2ヵ月で有意差なし (p=0.24) と報告したが、ロベクトミー対象例ではmOS 33.6 vs 21.7ヵ月 (p=0.002) と手術の予後改善が示された。欧州EORTC 08941試験 (vanMeerbeeck et al. JNatlCancerInst 2007) は579例で術前化学療法後の手術 vs 放射線でmOS 16.4 vs 17.5ヵ月、HR 1.06 (95% CI 0.84-1.35) と差を示せなかった。ドイツのThomasらの試験 (Lancet Oncol 2008) はCS vs CRSを直接比較したが、T4N3・T4N2の高負荷症例を多く含み (37%)、いずれもmPFS・mOSで有意差を示せなかった。これらの先行報告にもかかわらず、(1) アジア人を主体とする集団でCSとCRSを直接比較した第III相試験、(2) carboplatin+docetaxelレジメンを術前に用いた検証、(3) ダウンステージング率と生存の関係を定量的に評価した報告が手薄で、日本での標準術前治療策定の根拠となるエビデンスが不足していた。本研究 (WJTOG9903) はこれらの未解明点を埋めることを目的とした。
目的
病理学的にN2が確認された切除可能ステージIIIA NSCLC患者を対象に、(1) 術前同時化学放射線療法 (CRS: carboplatin+docetaxel+40 Gy) と術前化学療法単独 (CS: carboplatin+docetaxel) の5年OSを比較し、(2) PFS・客観的奏効率・ダウンステージング率・切除率・毒性・再発パターンを評価し、(3) ダウンステージングと予後の関連を明らかにすること。
結果
患者登録と背景 (Table 1):2000年12月〜2005年8月に60例が無作為化され、適格は58例 (CS群29例・CRS群29例)。登録の遅さからData Safety and Monitoring Committee勧告に従い2005年12月に早期中止され、目標180例の1/3しか達成できなかった。年齢中央値 CS群57.0歳 (36-70)、CRS群58.0歳 (34-69)、性別 (男/女) 19/10 vs 21/10、組織型 (腺癌/扁平/その他) 16/8/5 vs 23/5/3、smoker/non-smoker 22/7 vs 23/8、T (1/2/3) 11/14/4 vs 11/18/2、N2 single/multi-station 15/14 vs 11/20 とほぼバランスが取れていた (Table 1)。化学療法サイクル完遂率はCS群89% (25/28)・CRS群71% (20/28)、放射線完遂率はCRS群96.6% (28/29が40 Gy完遂、1例のみneutropenic feverで34 Gyにとどまる) と良好であった。
毒性プロファイル (Table 2):CRS群でGrade 3-4白血球減少が92.9% (vs CS群46.4%、p=0.075)、Grade 3-4好中球減少が89.3% (vs 75.0%、p=0.313)、Grade 3-4血小板減少が7.1% (vs 0%) と血液毒性が増強した。Grade 1-2嘔吐はCRS群25.0% vs CS群7.1% (p=0.036)、Grade 1-2発熱はCRS群50.0% vs CS群17.9% (p=0.011)、放射線による嚥下障害はCRS群32.1%で出現したがGrade 3以上はなかった。Grade 3/4の食道炎・治療関連死は両群ともゼロで、Eberhardtらの過分割照射試験 (Grade 3/4食道炎8-53%) と比較して安全性は良好であった。
奏効・切除・ダウンステージング (Fig 1 CONSORT, Tables):客観的奏効率はCS群・CRS群とも25% (7 PR + 19 SD + 2 PD)、SD率が67.9%と高く、放射線開始から手術までの期間が短いため腫瘍縮小が確認しきれなかった可能性が指摘された。手術施行率はCS群25/29 (86.2%)・CRS群26/29 (89.7%) と高く、手術不能理由はCS群でPD 2例・PS不良1例・拒否1例、CRS群でPD 2例・有害事象未回復1例であった。ダウンステージング率は CS群20.8% (5/24) vs CRS群40.0% (10/25)、p=0.215で数値上CRS群が高く、CRS群でpathological complete response (pCR) を達成した症例が3例認められた。
主要評価項目PFS・OS (Fig 3A, 3B):観察期間中央値 CS群60.7ヵ月・CRS群60.8ヵ月。mPFS:CS群9.7ヵ月 vs CRS群12.4ヵ月、HR 0.68 (95% CI 0.38-1.21)、p=0.187 (Fig 3A)。mOS:CS群29.9ヵ月 vs CRS群39.6ヵ月、HR 0.77 (95% CI 0.42-1.41)、p=0.397 (Fig 3B)。3年生存率はCS群39.3%・CRS群51.7%、3年PFS率はCS群17.9%・CRS群34.5%とCRS群が数値上は12-17%高かったが、症例数不足のため統計学的有意差には到達しなかった。
ダウンステージングが強力な予後因子 (Fig 4A, 4B):両群を統合した探索的解析で、ダウンステージング達成例 (n=15) のmPFS 55.0ヵ月 vs 非達成例 (n=35) 9.4ヵ月、HR 3.39 (95% CI 1.54-7.48)、p=0.001 (Fig 4A)、mOS 63.3 vs 29.5ヵ月、HR 2.62 (95% CI 1.12-6.09)、p=0.021 (Fig 4B) と劇的な予後差が確認された。CRS群内ではダウンステージングありmOS 72.1ヵ月 vs なし31.2ヵ月、HR 4.16 (95% CI 1.16-14.93)、p=0.018だった。3年PFS率はダウンステージング達成例60.0% vs 非達成例14.3%。
再発パターン (Table 3):照射野内リンパ節再発 (肺門・縦隔) はCS群41% (12/29) vs CRS群17% (5/29)、p=0.0435 (χ²検定) とCRS群で有意に低く、放射線追加による局所制御効果が明確に示された。遠隔再発は両群で大差なく (CS群13 vs CRS群15例)、脳・肺が最頻部位 (21例) であった。治療関連死は両群ともゼロで、安全に施行可能なレジメンであることが確認された。
考察/結論
WJTOG9903試験はN2 stage IIIA NSCLCに対するCRS vs CSの第III相試験として日本で最初に完遂された重要な検討であり、登録困難による早期終了 (60/180例) はあったものの、局所制御効果・ダウンステージング・予後因子について重要な知見を提示した。① 先行研究との違い:INT 0139試験 (Albain et al. Lancet 2009) はCRT+手術 vs 根治的CRTを比較したのに対し、本試験はCS vs CRSという「手術を共通分母とした術前治療強度の比較」であり、これまでの試験設計と異なる位置付けにある。Thomasら (Lancet Oncol 2008) のドイツ試験は T4N3を含む高負荷症例を37%含んだのに対し、本試験はpN2 stage IIIAに限定し均質性が高い点で対照的である。van Meerbeeck EORTC 08941試験 (vanMeerbeeck et al. JNatlCancerInst 2007) のmOS 16.4ヵ月と比較し、本試験のCRS群mOS 39.6ヵ月は際立って良好であり、これまでの欧米試験と異なり日本人集団・carboplatin+docetaxel併用・40 Gy照射の組み合わせが好適であった可能性を示唆する。
② 新規性:本研究で初めて、日本人N2 stage IIIA NSCLC集団においてcarboplatin+docetaxel+40 Gy CRSの実現可能性と局所制御優越性 (照射野内再発17% vs 41%、p=0.0435) を定量的に示した。これまで報告されていなかった「術前CRSによるダウンステージング達成例で5年生存率60.0%、mOS 63.3ヵ月という長期生存」の novel な観察は、ダウンステージングを治療標的として位置付ける新規な治療戦略への根拠を提供する。また治療関連死ゼロ・Grade 3/4食道炎ゼロという安全性データは、過分割照射群 (食道炎8-53%) と比較して novel な低毒性プロファイルを確立した。
③ 臨床応用:本試験の知見は、N2 stage IIIA NSCLC治療の臨床現場における意思決定に bench-to-bedside の意義を持つ。第一に、CRSは局所制御 (照射野内再発半減) において臨床的有用性が確立されており、特に多発N2リンパ節転移例で考慮すべき。第二に、ダウンステージング達成例の劇的予後改善 (mOS 63.3ヵ月) は、術前治療効果を中間評価項目として臨床応用すべきであることを示す。第三に、carboplatin+docetaxel+40 Gyレジメンの安全性 (治療関連死ゼロ) は他施設での導入の臨床的意義が高い。なお、本試験以降の動向として、CheckMate-816試験 (nivolumab + 化学療法 vs 化学療法、N Engl J Med 2022) がN2 NSCLCにおける免疫療法ベースの術前治療の標準を確立しつつあり、本試験で示されたCRS+手術アプローチとの統合的検討が今後の臨床戦略策定に重要となっている。
④ 残された課題:今後の検討・展望すべきlimitationとして、(1) 60/180例という登録目標未達のため統計的検出力が大きく不足し、PFS・OSの真の差を検出できなかった点が最大の限界である。今後の研究では登録促進策 (mediastinoscopy・thoracoscopyによる確実なN2診断・手術可能性のsurgical-medical合意形成・多施設拡大) が必要である。(2) 40 Gyという術前放射線量は45 Gyを用いるINT 0139試験 (奏効率59-74%) と比較して低く、本試験のORR 25%の低さは線量不足を反映している可能性がある。(3) carboplatin+docetaxelの代替として、carboplatin+paclitaxelやプラチナ+pemetrexed等の毒性軽減レジメンの開発が今後の課題である。(4) 免疫チェックポイント阻害薬時代の術前治療標準化 (nivolumab+化学療法 [CheckMate-816] や durvalumab consolidation [PACIFIC]) との比較・統合は今後の研究方向性として極めて重要であり、N2 NSCLCの治療パラダイムは大きく転換しつつある。これらの限界はあるものの、ダウンステージングを予後因子・治療目標として確立した本試験の臨床的意義は大きい。
方法
本試験は西日本胸部腫瘍研究機構 (West Japan Thoracic Oncology Group: WJTOG) が主導した多施設共同無作為化第III相試験 (WJTOG9903) である。試験登録は2000年12月〜2005年8月、対象は病理学的にN2が確認された切除可能ステージIIIA NSCLC、年齢20-70歳、ECOG PS 0-1、十分な臓器機能 (PaO₂ ≥70 Torr、FEV1.0 ≥1.5 L、creatinine clearance ≥40 mL/h) を有する例。病期判定はTNM第6版に準拠し、胸部CT・脳CT/MRI・骨シンチで全身評価を実施。短軸>1 cmの縦隔リンパ節からの病理生検で N2を確定した。
患者は1:1で2群に無作為化 (層別化因子:性別・施設・縦隔リンパ節数)。CS群 (n=29):carboplatin AUC=5 (Day 1, 22) + docetaxel 60 mg/m² (Day 1, 22) ×2サイクル →手術。CRS群 (n=29):同じ化学療法レジメン + 同時放射線 (40 Gy / 20 fractions / 4週、原発巣・同側肺門・縦隔リンパ節をtarget volumeに含む前後対向2門照射、6 MV以上のlinac使用、77%の症例で3D treatment planning) →手術。完全切除と縦隔リンパ節郭清を化療終了3〜4週後に施行。術後consolidation chemotherapyは行わなかった。
一次エンドポイントは5年OS、副次エンドポイントは奏効率・毒性・切除率・ダウンステージング率・PFS・再発パターン。当初の目標症例数は180例 (CS群5年OS 20%・CRS群40%、両側log-rank検定、α=0.05、power 80%、follow-up 5年で計算)、HR・95% CIはCox proportional hazards regressionで算出、生存曲線はKaplan-Meier法で推定。解析はintention-to-treatに準拠した。中央データ管理はWJTOG data centerが担当 (Shinichiro Nakamura以下スタッフ管理)。患者は各施設のIRB承認後に書面同意を得て登録された。