• 著者: Hellyer JA, Aredo JV, Das M, Ramchandran K, Padda SK, Neal JW, Wakelee HA
  • Corresponding author: Heather A. Wakelee, MD (Stanford Cancer Institute, Stanford University School of Medicine, Stanford, CA, USA)
  • 雑誌: Journal of Thoracic Oncology
  • 発行年: 2021
  • Epub日: 2021-02-01
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 33539970

背景

切除不能III期非小細胞肺癌 (NSCLC) に対する根治的化学放射線療法 (cCRT) 後の予後は歴史的に不良であり、再発率が高く、全生存期間 (OS) 中央値は17〜29ヶ月と報告されてきた Bradley et al. LancetOncol 2015。2018年に発表されたPACIFIC試験では、cCRT後に最長12ヶ月間のdurvalumab維持療法を追加することで、切除不能III期NSCLC患者の無増悪生存期間 (PFS) およびOSが有意に改善され、治療パラダイムが大きく変化した Antonia et al. NEnglJMed 2017。しかし、臨床現場では全ての患者がdurvalumabから均等に利益を得るわけではないことが明らかになっている。

ドライバー遺伝子変異は治療応答のバイオマーカーとして機能し、転移性NSCLCの個別化治療に利用されている。上皮成長因子受容体 (EGFR) およびヒト上皮成長因子受容体2 (HER2/ERBB2) を含むERBB受容体チロシンキナーゼ (TKR) ファミリーは、細胞増殖と生存に不可欠であり、NSCLCで頻繁に変異が認められ、治療および予後に重要な影響を与えることが知られている。転移性NSCLCにおいて、EGFR変異陽性患者は抗PD-1/PD-L1免疫チェックポイント阻害薬 (ICI) への応答が低いことが確立されており、治療の中心は分子標的薬や細胞傷害性化学療法であった Dong et al. OncoImmunology 2017。ERBB2変異はNSCLCの約4%に認められる比較的稀な変異であるが Stephens et al. Nature 2004、同様に細胞傷害性化学療法やHER2を標的とする薬剤が治療の中心となる。

PACIFIC試験ではEGFR変異陽性患者は少数 (n=43、全体の6%) であり、durvalumab群における4年追跡時点での死亡率が55.8%であったことから、この集団におけるdurvalumabの有効性には疑問が呈されていた Gray et al. JThoracOncol 2020。ERBB2変異に関する詳細な解析はPACIFIC試験では行われておらず、EGFR変異とERBB2変異を統合したERBBファミリー変異がdurvalumabの有効性に与える影響については未解明であった。ERBB受容体ファミリーの変異陽性NSCLCでは、腫瘍微小環境が「免疫砂漠 (immune desert)」状態となり、腫瘍浸潤リンパ球 (TIL) の低浸潤、低い腫瘍変異負荷 (TMB)、低いPD-L1発現が特徴とされることが報告されており、ICIへの応答性が低い可能性が示唆される。このため、ERBBファミリー変異がdurvalumab維持療法の効果に与える影響を明確にすることは、この患者群の最適な治療戦略を確立する上で残された課題であった。

目的

本研究の目的は、切除不能III期NSCLCに対してcCRT後にconsolidation durvalumabを投与された患者において、ERBB2/EGFR変異陽性群とwildtype群の無病生存期間 (DFS) および安全性を比較し、ERBBファミリー変異がdurvalumabの有効性に与える影響を評価することである。

結果

患者背景と腫瘍特性: ERBB2/EGFR変異群 (n=14) とwildtype群 (n=22) の患者背景を比較した (Table 1)。ERBB2/EGFR変異群は平均年齢64歳、女性57%、非喫煙者93%、腺癌86%であった。一方、wildtype群は平均年齢66歳、女性55%、非喫煙者27%、腺癌77%、扁平上皮癌18%であった。喫煙歴において両群間に顕著な差が認められた (ERBB2/EGFR変異群で非喫煙者の割合が有意に高かった)。PD-L1発現に関して、PD-L1 >25%の患者はERBB2/EGFR変異群で50% (7/14例)、wildtype群で36% (8/22例) であり、ERBB2/EGFR変異群でPD-L1高発現の割合がやや高かった。cCRT完了からdurvalumab開始までの期間は、ERBB2/EGFR変異群で中央値32日、wildtype群で中央値21日であった。

無病生存期間 (DFS): 主要評価項目であるDFSは、ERBB2/EGFR変異群で中央値7.5ヶ月であったのに対し、wildtype群では未到達 (NR) であった (HR 2.8, 95% CI 1.02-7.67, p=0.04) (Figure 1)。この結果は、ERBB2/EGFR変異がdurvalumab維持療法におけるDFS短縮の有意な予測因子であることを示している。ERBB2/EGFR変異群のDFS中央値7.5ヶ月は、PACIFIC試験のプラセボ群のPFS中央値5.6ヶ月に近く、durvalumab群のPFS中央値16.8ヶ月とは大きく乖離していた。解析時点では、全生存期間 (OS) データは未成熟であった。

PD-L1発現とDFSの関係: PD-L1発現と治療アウトカムの関係も評価された。全体として、PD-L1 <1%の患者はPD-L1 >1%の患者と比較してDFSが有意に短かった (中央値6.2ヶ月 vs NR, p=0.006)。この傾向はERBB2/EGFR wildtype群でも維持され、PD-L1 <1%の患者のDFS中央値は6.5ヶ月であったのに対し、PD-L1 >1%の患者ではNRであった。しかし、ERBB2/EGFR変異群では、PD-L1 <1%とPD-L1 >1%の間のDFSに有意な差は認められなかった (Figure 2A)。ERBB2/EGFR変異群ではPD-L1高発現 (>25%) の患者が50%を占めていたにもかかわらずDFSが短く、PD-L1発現がERBB変異NSCLCにおける免疫療法の応答性を予測しない可能性が示唆された。

安全性プロファイル: durvalumab維持療法中の免疫関連有害事象 (irAE) の発生率は、ERBB2/EGFR変異群で43% (6/14例)、wildtype群で59% (13/22例) であった。irAEによるdurvalumab中止は、ERBB2/EGFR変異群で29% (4/14例)、wildtype群で27% (6/22例) であった。両群間でirAEの発生率およびdurvalumab中止率に大きな差は認められず、安全性プロファイルは類似していた。最も頻度の高かったirAEは、甲状腺機能低下症 (ERBB2/EGFR変異群で2例、wildtype群で3例) および肺炎 (ERBB2/EGFR変異群で1例、wildtype群で2例) であった。

考察/結論

本単施設後ろ向き解析は、cCRT後のconsolidation durvalumab維持療法において、ERBB2/EGFR変異陽性切除不能III期NSCLC患者のDFSがwildtype患者と比較して有意に短いことを示した。ERBB2/EGFR変異群のDFS中央値7.5ヶ月は、PACIFIC試験のプラセボ群のPFS中央値5.6ヶ月に近似しており、durvalumabの上乗せ効果がこの患者群では実質的に存在しない可能性を示唆する。

先行研究との違い: 転移性NSCLCにおけるEGFR変異陽性患者でのICIの有効性に関する報告は複数存在するが Borghaei et al. NEnglJMed 2015、III期NSCLCにおけるdurvalumab維持療法に焦点を当て、ERBB2変異とEGFR変異を統合して解析した点は、これまでの報告と異なる。特に、ERBB2/EGFR変異群ではPD-L1高発現 (>25%) が50%に認められたにもかかわらずDFSが短かった点は注目に値する。これは、PD-L1発現がERBB変異NSCLCにおける免疫療法有効性を予測しないという、これまで報告されているEGFR変異における腫瘍免疫逃避がPD-1/PD-L1軸以外のメカニズムによるという知見と一致する。

新規性: 本研究で初めて、III期NSCLCにおいてERBB2/EGFR変異がdurvalumab維持療法の負の予測因子として機能する可能性を新規に示した。この知見は、PACIFIC試験のサブグループ解析で示唆されたEGFR変異患者におけるdurvalumabの限定的な利益を裏付けるものであり、ERBB2変異患者におけるICIの有効性に関するデータが不足していた中で、ERBBファミリー変異全体としての影響を評価した点で新規性がある。

臨床応用: 本研究の結果は、ERBB2/EGFR変異陽性III期NSCLC患者に対するdurvalumab維持療法の適応について、臨床現場での慎重な判断を促す臨床的意義を持つ。この患者群においては、durvalumab以外の代替戦略、例えばEGFR TKIの統合療法や、より個別化された治療アプローチの検討が必要である可能性を示唆する。

残された課題: 本研究は後ろ向き単施設解析であり、サンプルサイズが小さいことがlimitationである。また、durvalumab維持療法が標準治療として導入されて間もないため、追跡期間が比較的短い。これらの限界から、本データから決定的な結論を導き出すことは困難である。今後の検討課題として、これらの知見を前向き研究で検証し、ERBB2/EGFR変異陽性III期NSCLC患者に対する最適な治療レジメン(例:維持化学療法やTKI療法など)を確立するためのさらなる研究が必要である。

方法

本研究は、2018年1月から2020年3月までの期間にStanford Cancer Instituteで実施された単施設後ろ向きコホート解析である。対象患者は、切除不能III期NSCLCと診断され、cCRT後にdurvalumab維持療法を開始した36例であった。このうち、ERBB2/EGFR変異陽性群は14例、wildtype群は22例であった。本研究は、ヘルシンキ宣言の倫理原則に従い、Stanford University Institutional Review Boardによって承認された分子解析研究の同意のもとで実施された。

ERBB2/EGFR変異の内訳は、EGFR変異が11例 (exon 19欠失 n=4、exon 20挿入 n=1、L858R n=6)、ERBB2 exon 20挿入変異が3例であった。腫瘍検体の分子学的解析は、Stanford Solid Tumor Actionable Mutation Panel、FoundationOne、または地域の施設での簡略化されたパネルを用いて行われた。PD-L1発現は、Ventana Ultraプラットフォーム上のPD-L1抗体SP263 (Roche) を用いて評価され、PharmDx 22C3 PD-L1アッセイ (Agilent) と比較検証された。

主要評価項目はDFSであり、durvalumab開始から疾患再発または死亡までの期間と定義された。DFSの比較にはCox比例ハザードモデル (Cox proportional hazards model) を用いてハザード比 (HR) を推定し、Kaplan-Meier曲線を用いて可視化した。統計学的有意水準はp<0.05とした。平均追跡期間は14.5ヶ月であった。本研究は、特定のNCT番号を持たない後ろ向き研究である。