• 著者: Hoang T, Dahlberg SE, Schiller JH, Johnson DH
  • Corresponding author: Tien Hoang, MD (Hematology-Oncology Section, University of Wisconsin, Wisconsin Institutes for Medical Research, Madison, WI, USA)
  • 雑誌: Lung Cancer
  • 発行年: 2013
  • Epub日: N/A
  • Article種別: Original Article (Retrospective post-hoc analysis of a phase III trial)
  • PMID: 23611404

背景

非小細胞肺癌 (NSCLC: non-small cell lung cancer) は全肺癌の約 85% を占め、組織型は主に扁平上皮癌 (SCC: squamous cell carcinoma)、腺癌 (AC: adenocarcinoma)、大細胞癌 (LCC: large cell carcinoma)、その他/詳細不明 (O/NOS: others/not otherwise specified) に分類されてきた。分子標的治療薬や免疫チェックポイント阻害薬が普及する以前の時代において、進行 NSCLC 患者は組織型を問わず同一のプラチナ製剤併用化学療法 (platinum-based chemotherapy doublet) で治療されていた。2002年に報告された第 3 相ランダム化比較試験である ECOG E1594 試験 (Schiller et al. NEnglJMed 2002) では、4 つのプラチナ製剤併用レジメン、すなわちシスプラチン + パクリタキセル (CP)、シスプラチン + ゲムシタビン (CG)、シスプラチン + ドセタキセル (CD)、カルボプラチン + パクリタキセル (CbP) の有効性が等価であることが示された。また、Kelly et al. JClinOncol 2001 による SWOG 試験などの先行研究においても、同様にプラチナダブレット間の生存期間に有意な差がないことが報告されていた。

しかし、2008年に発表された Scagliotti et al. JClinOncol 2008 の第 3 相試験サブグループ解析により、シスプラチン + ペメトレキセド (CPem: cisplatin plus pemetrexed) が非扁平上皮癌においてシスプラチン + ゲムシタビン (CG) よりも生存期間を延長する一方、扁平上皮癌では CG の方が優れるという、組織型と治療効果の相互作用 (histology-treatment interaction) が初めて実証された。このペメトレキセドにおける組織型特異的な有効性の差は、標的酵素であるチミジル酸合成酵素 (TS: thymidylate synthase) の発現量が扁平上皮癌で高く、非扁平上皮癌で低いという生物学的機序によって説明されている。また、ベバシズマブも扁平上皮癌における喀血・腫瘍出血リスクから非扁平上皮癌限定で承認されるなど、組織型に応じた治療選択の重要性が急速に高まった。

このようなパラダイムシフトの一方で、パクリタキセル、ドセタキセル、ゲムシタビンといった非ペメトレキセド系薬剤を含む従来のプラチナダブレットにおいて、組織型と治療効果の相互作用が体系的に検証されたことはなかった。扁平上皮癌や腺癌のそれぞれにおいて、どの第 3 世代抗がん剤を組み合わせるべきかという最適なレジメン選択基準は未確立であり、臨床的な課題として残されていた。特に、生検組織が極めて少量である場合や細胞診検体しか得られない場合など、詳細な組織型分類が困難な臨床状況において、組織型情報が不十分なまま治療を開始せざるを得ない場合の治療選択基準に関するエビデンスが不足していた。したがって、これら 4 つの代表的なプラチナダブレットの治療効果が本当に組織型に依存しないのかを、大規模な個別患者データを用いて厳密に再検証する必要があった。

目的

本研究の目的は、進行 NSCLC 患者を対象とした大規模第 3 相臨床試験である ECOG E1594 試験の個別患者データを後方視的に再解析し、以下の 2 点を明らかにすることである。

  1. シスプラチン + パクリタキセル (CP)、シスプラチン + ゲムシタビン (CG)、シスプラチン + ドセタキセル (CD)、カルボプラチン + パクリタキセル (CbP) の 4 つのプラチナ製剤併用レジメンにおいて、組織型サブタイプ (扁平上皮癌、腺癌、大細胞癌、O/NOS) が全生存期間 (OS: overall survival) および無増悪生存期間 (PFS: progression-free survival) の予測因子となるか否かを検証する。
  2. 組織型サブタイプと治療レジメンの間に、生存ベネフィットに関する有意な交互作用 (histology-treatment interaction) が存在するかどうかを統計学的に評価する。

結果

患者背景と組織型分布: 解析対象となった 1139 例における組織型の分布は、腺癌 (AC) が 647 例 (56.8%) と最も多く、次いで扁平上皮癌 (SCC) が 224 例 (19.7%)、O/NOS が 194 例 (17.0%)、大細胞癌 (LCC) が 74 例 (6.5%) であった。全体として、非扁平上皮癌 (non-SCC) が 80.3% (n=915) を占めていた。治療レジメン別の割り当ては、CP 群 287 例、CG 群 280 例、CD 群 286 例、CbP 群 286 例と均等であった (Table 1)。患者背景を Table 1 に示す。組織型群間において、性別分布に統計学的な有意差を認めた (p=0.002)。男性の割合は SCC 群で 72.8% (163/224 例) と高かったのに対し、AC 群では 59.0% (382/647 例) であった。また、病期分布においても有意差を認め (p=0.03)、AC 群では悪性胸水等を伴う wet IIIB の割合が 15.6% (101/647 例) であり、他の組織型 (7.7-12.1%) と比較して高かった。一方で、年齢 (中央値 61 歳)、人種 (白人 85.7%)、PS (PS 0-1 が 94.4%)、脳転移の有無 (12.2%)、5% 以上の体重減少の有無 (33.2%)、および治療レジメンの割り当てについては、組織型群間で偏り (imbalance) はなく、均一であった。

組織型単独による生存期間の比較: 全集団における組織型別の生存成績を Table 2 に示す。全生存期間 (OS) の中央値は、SCC 群で 8.1 ヶ月 (95% CI 7.1-9.5)、AC 群で 8.3 ヶ月 (95% CI 7.5-9.0)、LCC 群で 7.4 ヶ月 (95% CI 6.1-9.7)、O/NOS 群で 7.2 ヶ月 (95% CI 6.1-8.6) であり、4 群間に統計学的な有意差は認められなかった (log-rank p=0.36)。また、無増悪生存期間 (PFS) の中央値は、SCC 群で 3.6 ヶ月 (95% CI 3.0-4.1)、AC 群で 3.8 ヶ月 (95% CI 3.5-4.2)、LCC 群で 4.2 ヶ月 (95% CI 2.7-5.6)、O/NOS 群で 2.9 ヶ月 (95% CI 2.6-3.7) であり、こちらも有意差は認められなかった (log-rank p=0.08)。この結果から、非ペメトレキセド系プラチナダブレット治療下において、組織型単独は予後予測因子として機能しないことが示された。

組織型サブタイプにおける治療レジメン別の生存期間解析: 各組織型サブタイプ内における 4 つの治療レジメン間の OS 比較を Table 3 および Fig 1A, 1B に示す。扁平上皮癌 (SCC) 群 (n=224) において、OS 中央値は CP 群で 6.9 ヶ月 (95% CI 5.3-9.4)、CG 群で 9.4 ヶ月 (95% CI 5.7-15.6)、CD 群で 8.1 ヶ月 (95% CI 5.5-11.2)、CbP 群で 9.3 ヶ月 (95% CI 7.3-12.1) であり、レジメン間で有意差はなかった (p=0.18, Fig 1A)。腺癌 (AC) 群 (n=647) においても、OS 中央値は CP 群で 9.1 ヶ月 (95% CI 7.9-10.9)、CG 群で 8.1 ヶ月 (95% CI 6.8-9.8)、CD 群で 7.7 ヶ月 (95% CI 6.5-9.4)、CbP 群で 7.6 ヶ月 (95% CI 6.6-9.8) であり、有意差は認められなかった (p=0.39)。LCC 群 (n=74) でも同様に、CP 群 6.1 ヶ月、CG 群 9.7 ヶ月、CD 群 6.8 ヶ月、CbP 群 8.3 ヶ月と有意差はなかった (p=0.63)。非扁平上皮癌を統合した群 (AC + LCC + O/NOS, n=915) においても、レジメン間の生存曲線は互いに交差し、有意差を認めなかった (Fig 1B)。逆に、同一の治療レジメン内における組織型別の OS 比較においても、例えば CG 群における OS 中央値は SCC で 9.4 ヶ月、AC で 8.1 ヶ月、LCC で 9.7 ヶ月、O/NOS で 7.9 ヶ月と、組織型による差は認められなかった (p=0.63)。

組織型サブタイプにおける治療レジメン別の無増悪生存期間解析: PFS に関する組織型と治療レジメン別の解析結果を Table 4 および Fig 1C, 1D に示す。SCC 群 (n=224) における PFS 中央値は、CP 群で 2.6 ヶ月 (95% CI 1.7-4.2)、CG 群で 4.3 ヶ月 (95% CI 3.3-6.6)、CD 群で 3.1 ヶ月 (95% CI 2.4-5.0)、CbP 群で 3.7 ヶ月 (95% CI 3.0-5.0) であり、レジメン間に有意差はなかった (p=0.20, Fig 1C)。AC 群 (n=647) における PFS 中央値は、CP 群で 3.7 ヶ月 (95% CI 3.1-4.3)、CG 群で 4.4 ヶ月 (95% CI 3.8-5.4)、CD 群で 3.7 ヶ月 (95% CI 2.6-4.6)、CbP 群で 3.5 ヶ月 (95% CI 2.9-4.2) であり、有意差は認められなかった (p=0.19, Fig 1D)。また、同一治療レジメン内での組織型別 PFS 比較においても、例えば CG 群において SCC で 4.3 ヶ月、AC で 4.4 ヶ月、LCC で 4.5 ヶ月、O/NOS で 3.4 ヶ月と、有意な差は検出されなかった (p=0.43)。OS と同様に、PFS 解析においても組織型と治療レジメンの相互作用は認められなかった。

ペメトレキセド含有レジメンとの対比: 本解析結果と、既報のペメトレキセド含有レジメンの成績との対比を Table 5 に示す。先行研究である Scagliotti et al. (2008) の第 3 相試験では、非扁平上皮癌においてシスプラチン + ペメトレキセド (CPem) 群がシスプラチン + ゲムシタビン (CG) 群に対して OS を有意に延長し [11.8 vs 10.4 ヶ月、HR 0.81 (95% CI 0.70-0.94, p=0.005)]、逆に扁平上皮癌においては CG 群が CPem 群に対して OS で優る傾向を示した [10.8 vs 9.4 ヶ月、HR 1.23 (95% CI 1.00-1.51, p=0.05)]。また、維持療法における Ciuleanu et al. Lancet 2009 試験でも、非扁平上皮癌においてのみペメトレキセドによる生存期間延長効果が証明されている [15.5 vs 10.3 ヶ月、HR 0.70 (95% CI 0.56-0.88, p=0.002)]。これらペメトレキセド含有レジメンで見られる顕著な組織型特異的効果とは対照的に、本 E1594 解析におけるパクリタキセル、ドセタキセル、ゲムシタビンを用いたプラチナダブレットでは、組織型による治療効果の差が全く存在しないという明確な二分法 (dichotomy) が示された。

考察/結論

先行研究との違い: 本研究は、進行 NSCLC に対する 1 次治療プラチナダブレットの有効性を検証した最大規模の臨床試験である ECOG E1594 試験 (n=1139) の個別患者データを用いて、組織型別の治療効果を詳細に再解析したものである。単一のレジメンや小規模なコホートのみを対象とした従来の報告と異なり、本研究は 4 つの代表的なプラチナダブレット (CP, CG, CD, CbP) と 4 つの主要な組織型 (SCC, AC, LCC, O/NOS) のすべての組み合わせ (16 セル) において、OS および PFS を網羅的かつ十分な統計学的検出力をもって比較した。その結果、非ペメトレキセド系レジメンにおいては、組織型による治療効果の差や組織型 × 治療レジメンの相互作用が一切存在しないことを強固に実証した。この結論は、Kelly et al. JClinOncol 2001 などの先行研究や、SEER データベースを用いた大規模後方視的解析の結果とも極めて良く一致している。また、GLOB3 (Global Lung Oncology Branch Trial 3) 試験などの他剤比較研究とも整合する結果であった。

新規性: 本研究の新規性として、ペメトレキセド含有レジメンで見られる組織型特異的な治療効果 (Scagliotti et al. 2008) と、従来の第 3 世代抗がん剤 (パクリタキセル、ドセタキセル、ゲムシタビン) 含有レジメンにおける組織型中立性 (histology-neutrality) との間に存在する明確な dichotomy を、同一の基準データセットを用いて本研究で初めて浮き彫りにした。チミジル酸合成酵素 (TS) の発現差がペメトレキセドの組織型選択性を駆動する一方で、微小管阻害薬 (タキサン系) や DNA 合成阻害薬 (ゲムシタビン) の作用機序は組織型を問わず均一に作用するという生物学的仮説を、臨床データによって裏付けた。

臨床応用: 本知見の臨床的意義は極めて大きい。実際の臨床現場において、肺生検で得られる組織量が極めて少量である場合や、細胞診検体しか得られない場合など、詳細な組織型 (扁平上皮癌か非扁平上皮癌か) の確定が困難な症例が約 15-20% 存在する。このような状況において、本研究データは、組織型の確定を待つことなくパクリタキセル、ドセタキセル、またはゲムシタビンを含むプラチナダブレットをファーストライン治療として安心して選択できる科学的根拠を提供する。また、扁平上皮癌患者においてベバシズマブが禁忌であり、ペメトレキセドの治療効果が期待できない状況下において、CG 療法や CbP 療法などのバックアップレジメンを組織型中立的に選択する際の重要な判断材料となる。これは、現在の NCCN や ESMO などの国際的ガイドラインにおける治療推奨を直接的に支持するエビデンスである。

残された課題: 今後の検討課題および本研究の limitation として、以下の点が挙げられる。第一に、本研究は前向きに計画された解析ではなく、後方視的な post-hoc 解析であるため、選択バイアスを完全に排除することはできない。第二に、大細胞癌 (n=74) や O/NOS (n=194) のサブグループは症例数が比較的少なく、特にレジメン別に層別化した際には統計学的検出力が低下する。第三に、本試験の組織型分類は 1999 年当時の WHO 分類に基づいており、現代の免疫染色 (TTF-1, p63 等) を用いた厳密な再分類を行った場合、一部の症例で組織型が再分類される可能性がある。第四に、EGFR 遺伝子変異や ALK 融合遺伝子、PD-L1 発現量などの現代の重要なバイオマーカー情報が当時の試験設計上含まれていない。最後に、本試験は 1996-1999 年に登録された患者を対象としており、現代の優れた支持療法 (制吐薬や G-CSF) の進歩が反映されていない。今後は、これらの分子標的バイオマーカーや免疫微小環境のデータを統合した、より精密な前向き検証が期待される。

方法

試験設計とデータソース: 本研究は、Eastern Cooperative Oncology Group (ECOG) が実施した第 3 相ランダム化比較試験 (RCT: randomized controlled trial) である E1594 試験の個別患者データを用いた後方視的追加解析 (retrospective post-hoc analysis) である。E1594 試験は ClinicalTrials.gov 登録制度の開始前に実施されたため、個別の NCT 番号 (NCT ID) は持たない。

患者集団と適格基準: 解析対象は、E1594 試験に登録され、組織型情報が利用可能であった進行 NSCLC 患者 1139 例 (男性 716 例、女性 423 例) である。元の E1594 試験の主な適格基準は、組織型を問わない stage IIIB (悪性胸水または悪性心嚢液貯留あり) または stage IV、あるいは再発の NSCLC、化学療法歴なし、測定可能病変または評価可能病変あり、適切な骨髄・肝・腎機能、および ECOG performance status (PS) 0-2 であった。なお、PS 2 の患者は試験初期に 66 例が登録された時点で安全性の観点から登録中止となり、以降は PS 0-1 のみが登録された。安定した脳転移を有する患者の登録は許容された。

治療レジメン: 患者は以下の 4 つのプラチナ製剤併用レジメンに 1:1:1:1 の割合でランダム化され、3 週間を 1 サイクルとして投与された。

  • CP 療法 (対照群): シスプラチン 75 mg/m² (Day 1) + パクリタキセル 135 mg/m² (24時間持続点滴、Day 1)
  • CG 療法: シスプラチン 100 mg/m² (Day 1) + ゲムシタビン 1000 mg/m² (Day 1, 8, 15)
  • CD 療法: シスプラチン 75 mg/m² (Day 1) + ドセタキセル 75 mg/m² (Day 1)
  • CbP 療法: カルボプラチン AUC 6 (Day 1) + パクリタキセル 225 mg/m² (3時間点滴、Day 1)

評価項目と定義: 主要評価項目 (primary endpoint) は全生存期間 (OS) であり、ランダム化からあらゆる原因による死亡までの期間と定義された。副次評価項目 (secondary endpoint) である無増悪生存期間 (PFS) は、ランダム化から客観的な腫瘍進行 (PD) またはあらゆる原因による死亡のいずれか早い方までの期間と定義された。イベントが発生していない患者は、最終生存確認日にてセンサー (censored) 扱いとした。

統計解析: 組織型サブタイプとカテゴリ変数との関連性の比較には chi-square test (カイ二乗検定) を用い、連続変数の比較には Kruskal-Wallis test を用いた。OS および PFS の生存曲線は Kaplan-Meier 法を用いて描出し、組織型群間および治療レジメン群間の生存期間分布の比較には log-rank test (ログランク検定) を用いた。また、ハザード比 (HR) の算出には Cox proportional hazards model (コックス比例ハザードモデル) を用いた。すべての統計学的検定は両側検定 (two-sided) とし、p < 0.05 をもって有意差ありと判定した。多重比較における p 値の調整は行わなかった。なお、本解析は登録患者の個別データを用いた retrospective cohort スタイルでの追加解析であり、新たな sample size calculation (サンプルサイズ設計) は行わず、登録された全適格例を解析対象とした。